黎明
【この国を憂う若者に捧ぐ】
ーーーーー【1990年6月1日】ーーーーー
関東・関西を統治する日本共和国と北海道東北を統治する東日本人民共和国との間で「日本国家統一基本条約」が締結された。日本は「日本」へとの道を歩み出す第一段階に立ったのである。
世界中に重くのしかかった「雪」は溶けかけ、上面ではなく確かな水分を含んだ平和...という甘美なる言葉が現世界を闊歩し始めていた時分、日本にもその影響は及び、大きなうなりが起こった。
日本統一国家の樹立である。
日本が『日本』になるこの激動の時代のなかで、この国を憂い、そしてこの国を導いた3人の男達がいた。一人目は旧日本共和国首相''嶋田晟''。二人目は陸軍青年将校''漆田信雄''三人目は東北農業企画課課長''石橋太一''である。彼等をピックアップしたのは完全に私の主観であり、彼等をピックアップした理由は彼等がいわゆる決して善人であったからではなく、この国への憂いとその実積によってである。陸軍青年将校の漆田信雄に関して言えば彼は独断の極秘作戦で民間人を21人を殺害し、石橋太一は自らの振る舞いのせいで反対派に理由なき拷問の末に殺害されている。彼らは確かに残酷な側面を持っていた、独善さを持っていた。だが彼等はただ一つの目的..意図せずとも共通の目的を持っていたのである。それは「日本国」への熱い情念であったのはいうまでもないかもしれない。これから私は彼らが何を想い、何を信じ、何を憂いたか..狭隘なる知識のなかで語っていきたい。