異世界転生物や中世逆行物におけるリヤカーやシイタケについて
異世界転生やタイムスリップ架空戦記によく登場する現代知識sugeeもの。
よくあるのが椎茸栽培、正条植え、そしてリヤカーだ。
だが魔法があるような異世界ならともかくガチ中世にタイムスリップして
これらを本当に実現することは可能だろうか。それぞれ検証してみたいと思う。
まずは椎茸栽培を見てみよう。
椎茸栽培は現代のホダ木とタネ駒を使った原木栽培を想定しているのだろうが
タネ駒の作成はまずシイタケの胞子を純粋培養しなければならない。これに雑菌がコンタミすると
使い物にならなくなってしまう。さらにこれを圧縮成形しなければならないのだ。
これを中世に用意できるか。
いきなり雲行きが怪しくなってきた。
結論から言うと現代行われているような形の椎茸栽培は不可能だ。
この時代に椎茸の原木栽培を行うにはもっと古い方法になる。
明治初期に行われていた天然のシイタケの胞子を水に溶かし
ホダ木に傷をつけ胞子の水溶液を塗り込む方法がある。
これなら収量や安定性は現代の栽培と比べ物にならないがなんとか中世でも可能だ。
次に正条植えを見てみよう。
実は正条植えとは労力対効果の観点から見ると色々と条件がきびしいのだ。
正条植え以前の日本の米作りでは田に種籾をそのまま撒いていた。
それを当時の技術で正条植えにする為には
0、田起こしをし田に水を入れる。
1、田植えの1ヶ月程度前に田の一部を区切りかまぼこ状の畝を泥で作る。
2、その上に塩水選をした種籾を均等に薄く撒く
3、温度管理、並びに鳥害防止のため藁を掛ける
これだけの手間がかかる。作者の実体験だと2反の田植えに必要な量の苗を作る作業だと
機械力なしで数日で終わらせるためには10人以上の人手がかかる。
ちなみに現代の普通の農家では機械植えをするためハウスで育苗箱に苗代を作るからここまで手間はかからない。
ではなぜ現代日本ではこれだけ手間がかかるのにほぼ全ての米農家が正条植えを行っているのか。
それは正条植えをすることにより田の草取りや収穫の際機械力の使用が可能になるからである。
この内、コンバインについてはどう考えても中世や中世風異世界での
実現は不可能であるから除外するとして草取りについて見てみよう。
田の草抜きと撹拌の為に代掻きと言われる作業をするのだがこの際正条植えをしていないと
これが出来ないのである。代掻きのための道具を田打ち機と言うが
(作者は代掻きマシーンと呼んでいた)
逆行者や転生者がこれを作製することが出来るかどうかで正条植えをする意味があるかどうか決まる。
この道具は仕組みさえ知っていればなんとか中世でも作製可能である。
つまり結論としては「逆行者や転生者がガチの農家だったらやる意味はある」である
最後にリヤカーを見てみたいと思う。
リヤカーを中世の技術で作成可能かどうか。答えは不可能である。
多くの作者はリヤカーを「大八車があるんだからリヤカーだってすぐ出来る」という感覚で登場させるがそもそもリヤカーと大八車の差は一体なにかというところから立ち返る必要がある。
その一番の差は車軸がつながっているか、独立しているかである。
大八車は車輪がつながった車軸の上に台を載せその上に積載物を積む形で物を輸送する道具だ。
リヤカーは左右の輪がそれぞれ独立して籠状の積荷台に取り付けてありそこに積載物を積み輸送する道具だ。
この利点は左右の輪がそれぞれ独立して動くことにより少ない力で曲がることが可能になり
さらに車軸がないため重心を下げることが出来、安定性も上がることになる。
つまり車軸がなくスムーズに左右が独立して動かなければいけないのである。
これに必須の部品がボールベアリングという部品だ。
これが作れなければリヤカーのメリットの大半が消えてしまう。
ちなみに現代のボールベアリングを発明したのはかのレオナルド・ダ・ヴィンチなのであるが
工業製品として使用出来るようになったのは産業革命以降、鉄鋼の大量生産が実現してからである。
中世にこれを工業製品として作製することはまず不可能である。
数々の転生者や逆行者が作ってきたこれらの道具や技術。
真面目に検討すると中世に実現するには条件が厳しかったりそもそも不可能だったりする。
現代知識無双を楽しみたい方には無粋だったかもしれないが道具や技術とは
前提となる技術や発明がなければどんなに簡単そうに見えても実現することは非常に難しいのだ。
我々現代に生きる人間にとっては当たり前にあるモノもそういったものの結晶なのである。