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3 バイク乗りの赤ずきん 前編

 次の日。

 いい天気なので、外に洗濯物を干していると、グランお兄様が話しかけてきた。

 振り向くと、お兄様は切り株の上に座っている。

 

 「白雪、本当にあれでよかったのか??」

 「ええ。あの人、本当に困っていた感じがしましたし。それに……………………」

 「それに??」

 「あの人は社交界や、学校にも顔を出さない私はひどい目に合いづらいと知って、婚約を申し込んできたのでしょう。そこまで考えたとなると、きっとあの方はお優しい人ですわ」

 

 うわさを簡単に信じちゃダメだわ。私はあの王子様のこと何にも知らないし。

 

 「そうだけどな……………………」

 

 グランお兄様はいつになく心配そうな声を出す。

 私とあの王子との婚約は昨日のことではあるが、街では大ニュースになっているようだった。

 私の家は森の中にあるので、あまり記者などはやってくることはなく、特にこれといって生活の変化はない。


 すると、遠くからブルルぅンとエンジン音が聞こえてきた。

 

 「アイツらがやってきたみたいだな」

 「そうですね。こんな森の中で運転するとは大したものですよ」

 

 数秒後、派手なエンジン音を鳴らしてくるバイクがやってきた。

 乗っているのは2人。運転している人は赤いヘルメット被っていた。もう1人は黒いヘルメット。

 そして、その勢いのあるバイクは家の前で大胆に止まる。

 

 「やっほ!! 白雪ちゃん!!」

 

 ヘルメットを被ったままの2人はこちらに手を振ってきていた。

 本当に突然だわ、この2人。

 赤いヘルメットを被っていた女の子はヘルメットを外す。ふわりとなびく赤髪が現れた。


 彼女の名前はレッド(・・・)ローズ・ターバン(・・・・)。私は赤ずきんちゃんと呼んでいる、数少ない私の友人だ。

 彼女の耳には金色の大きなイヤリング。赤いエナメルジャケットに赤チェックのミニスカートとかなりファンクな格好だった。

 それもそう。彼女は学校で人気のバンドマン。実際に歌っているところは見たことがないけど、

 

 そして、彼女の後ろに乗っていた人もヘルメットを外し、挨拶をしてきた。

 

 「お邪魔するね」

 

 優しい声を持つ彼の頭には獣の耳。

 彼は狼に変身できる動物人間。名前はシュヴァル・グレイウルフ(・・・)だから、()さんと呼ばせてもらっている。


 彼は赤ずきんちゃんと幼なじみで、昔から仲がいいらしい。だから、今日もこうして2人で現れ、赤ずきんちゃんは赤の、狼さんは黒のエナメルジャケットを着ている。本当に仲がいい。

 2人はバイクから降り、こちらに歩いてくる。

 

 「赤ずきんちゃん、突然どうしたのですか??」

 「いやぁ、あの白雪ちゃんが婚約したって聞いたからとんでやってきたのさ」

 「ああ、それね」

 

 私は途中にしていた残り少ない洗濯物を干していく。

 

 「あの女たらしで有名な王子さんと婚約したと聞いてね……………………賢い白雪ちゃんがまさかと思ったけど、その感じだと婚約の話は本当なんだね」

 「僕も予想外のことで今も困惑してます」

 「狼、俺もだ。昨日のことを夢だと思ってる」

 

 グランお兄様は切り株を下り、鮮やかな緑の地面に寝転がる。

 うつろな目でお兄様を見つめる。

 —————あまりお兄様は私の婚約のこと、納得いっていないようね。

 

 パンっ。

 

 手を叩く音が聞こえたので、横を見ると、赤ずきんちゃんが両手を合わせていた。

 

 「婚約したんだしさ、お祝いしようよ!!」

 「お祝いですか??」

 「うん!!」

 

 赤ずきんちゃんはニッコニコの笑みをこちらに向ける。

 そして、背後からパッとワインボトルを出してきた。

 

 「!?」

 「白雪ちゃん!! 飲もっ!!」

 

 赤ずきんちゃんが持っているのは赤ワインのボトル。彼女は無類のワイン好きだ。

 しかし、彼女は私と同じ15歳。当然、お酒は飲んではいけない歳である。

 

 「赤ずきんちゃん。それ、どこから持ってきたのですか??」

 「おばあちゃんち」

 

 ——————————つまり、おばあ様の家からパクって来た。

 私は重い溜息をついてしまう。

 

 赤ずきんちゃんと狼さんが出会ったのは赤ワインがきっかけという話を彼女から聞いたことがある。

 小さい頃、母にお使いを頼まれ、赤ワインと干し肉をおばあ様のところに運んでいた赤ずきんちゃん。


 途中までは真っすぐおばあ様の家に行っていたそうなのだけど、好奇心に負けて赤ワインを飲んでしまう。幼いのももちろんあったのだが、赤ずきんちゃんの家系上、お酒には弱いらしく、すぐに酔いが回ってしまい、座り込んでしまった。


 そんな酔っ払いの赤ずきんちゃんを見つけたのが、狼さん。散歩で歩いていたところを、ばったり会ったとか。

 心優しい狼さんはその赤ずきんちゃんに持っていたお水を飲ませ、さらに自分の家まで運んで目が覚めるまで看病したとか。


 そういうのがあって、2人は一緒にいるんだと、赤ずきんちゃんから聞いた。

 

 「いくら大切な赤ワインとはいえ、赤ずきんちゃんはお酒に弱いですし、大体未成年です。そのワインは料理に使わせてもらうので、私にください」

 「えぇ~~~~。やだよぉ、料理にしたらアルコールが吹っ飛ぶじゃーん」

 

 それが目的なんです。赤ずきんちゃんはアルコール厳禁なんですから。

 私は狼さんの方に目を向けた。そのとたん、彼は冷や汗をかいている。

 

 「狼さん、赤ずきんちゃんには赤ワインはダメだと言ったはずですよ」

 「で、でも、赤ずきんのおばあさんもいいって言ってたし、飲んでたら強くなるからって言ってたし」

 

 狼さんはいい人なんですが、ところどころ赤ずきんちゃんに甘い。

 私はふぅーと息を吐いて、赤ずきんちゃんの赤ワインを取り上げた。

 

 「お祝いは私の家でしましょう?? お兄様たちもいらっしゃいますし、大勢で祝った方が楽しいでしょう??もちろん、ご飯は赤ワイン料理でね」

 

 笑ってそう言うと、赤ずきんちゃんは諦めたように肩を下ろし、息をつく。

そして、顔を上げ、苦笑い。降参しましたと言わんばかりに両手を上げ、振っていた。


 「分かったよぉ。でも、成人したら私と一緒に飲んでよ??」

 「もちろんですよ」

 

 ファンクでとんでもないことをなさる赤ずきんちゃんですが、彼女と出会ったのは4年前のこと。

 初めて顔合わせしたのは私が街の中で男たちに襲われそうになった時だった。

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