第9話、同棲生活開始
姫路詩織。
銅色の長髪。茶色の瞳。
自分と同い年で、身長と体型は平均だろうか…
流れ着いた時には白シャツ黒スカートを着ていたが、今では売り場にあった作業着と交互に着用している。
女の子に作業着は似合わないと思ったが、詩織のキリッとした顔があると、何を着せても似合うと実感した。
側から見れば美少女かもしれない……が、ちょっと待ってほしい。
「こんのぉお!!」
『ブモォォオオオオ!?』
WHY?
詩織の右拳が猪の頭部にめり込んでますけど?
え?俺は一体何を見せられてるの?
「ノーマルボアね。これなら素手でなんとかなるわ」
ノーマルボア?
その猪の名前ってそんな英語系なの?
てか、ノーマルボアなんて聞いた事がないよ。
そしてその怪力は一体?
「血抜きをするわ」
「あ、はい」
俺は畏まって、その作業を眺める。
何故だか詩織は、俺の本拠地に住み着くと決めたらしい。
帰る手段がない以上、ここに残るしかないとの事だ。
どうして帰る手段がないのか、
それは昨夜、詩織に教えられた事実にあった。
『ここは無人島みたいね。人工物もなかったし、人が踏み入れた痕跡もない。高い場所から見れば、周囲が海だったもの』
散策して帰った詩織からそう告げられ、俺は再び膝をついた。
予感はしていたが、まさかの無人島。
元の世界に帰るどころか、生存率の方が心配になる。
そんな落ち込む俺に、詩織は優しく励ましてくれた。
その流れで詩織は、今の生活をより良いものにしようと切磋琢磨に、
『ピギャァ!?』
「ノーマルダック!鶏肉が手に入ったわ!」
うん、切磋琢磨に狩猟してくれています。
素手で。血に染まった生の手で。
詩織への見方が、女の子から別の強い何かに変わりそうです。
────。
────。
「まだ信じられないのか?」
「どうせ富豪層が用意した偽装品よ」
俺は詩織にレトルト食品のパッケージを見せて、自分の世界の事情を話した。
だが一向に詩織は否定を続けている。
「監視者は見つからなかったんだろ?」
「ええ。でもだからって、絶対じゃないわ」
「詩織がこの島に流れつけたのは?見張られた島なら、監視くらい徹底されているだろ?」
「なんらかの障害が発生して、私の侵入を許したのね」
「どうして今も詩織の滞在を許しているんだ?」
「尻尾を出したくないのよ。私に何かするなら、直接的な手段が必要だもの」
是が非でも認めない気だ。
そう考えさせられる最中にも、詩織はおたま片手に、スープを茶碗に注いでくれた。
「山菜と鶏肉の煮汁よ」
優しい香りのするスープを手渡され、俺は唾を飲み込む。
「気に入ってくれるとありがたいのだけど…」
まず一口味わった。
っっ!?美味い!
干し肉と比べるまでもなく、山菜の甘みが溶け込んだ美味しいスープだ!
「美味しいよ。いや、本当に」
「そう!良かったわ」
詩織も満足そうな顔を作って、自分の茶碗にスープを注いだ。
『詩織が仲間になった』
『詩織がノーマルボアを倒した』
『詩織がノーマルダックを倒した』
『詩織がスープを作った』
『詩織は広樹の胃袋を掴む事に成功した』