第7話、川発見、そして少女が目覚めた
川が見つかった。
朝起きて干し肉で腹を満たし、中斧片手に森へと入ったのだが、
太陽が高く登った頃に水のせせらぐ音が聞こえ、いざ走ってみると、
ザザザザザザ〜〜と。
透明度のある透き通った川を発見。
一口含んでその川の水が飲めそうか確認する。
泥っぽくもなければ変な味もしない。
言うなれば自然が生んだ綺麗な水である。
持ってきた空ペットボトルに水を汲み、場所を忘れないように目印を付け、ようやくと安心感に浸れた。
────。
────。
「んっ……んんっ……」
っ!?
初めて少女の声を聞いた。
発見してから丸一日。そろそろ栄養や水分補給が心配だと思っていたが、これは……
「ん…ここは?」
「目覚めたか!?」
「え?……ええ」
俺は興奮した。
少女が目覚めたのもそうだが、言葉が日本語だったのだ。
つまりここは地球のどこかにある。
それを知れて俺の中にあった不安が全開に晴れた。
「大丈夫か?お前は海に浮かんでいたんだぞ」
「海に?……そう、やられたのね」
少女は上半身を起こして、微笑みながら身体を俺に向けてきた。
「ありがとう。貴方が助けてくれたのでしょう」
「いや、偶然見つけたんだ。礼を言われるほどじゃ」
「それでも救ってくれたのは事実よ。本当にありがとう」
少女は深く頭を下げてきた。
その姿に少しむず痒い気持ちになる。
「ところで貴方は」
グゥ〜〜
「っ!?」
カァと顔を赤らめる少女。
いや、仕方ないから。
「俺が見つけてから丸一日なんだ。そりゃあお腹だって鳴るよ」
「え、ええ……そうね……その、何か貰ってもいいかしら…」
「ああ!じゃあ今日は奮発しよう!久しぶりに豪華メニューだ!」
と言ってもレトルト食品なのだが。
「い、いえ、奮発しなくても……そこに干された肉は?」
少女が指差したのは、ロープで吊るした猪肉である。
「あれは干し肉なんだがとにかく固い。これから食べやすい物を」
「あれで十分よ。固くても食べられる物だったら不満はないわ」
「いや、でもアレは」
「あれで満足よ。気遣ってくれてありがとう」
そう言って少女は立ち上がり、吊された干し肉を一枚取った。
「食べても良いのよね」
「あ、ああ、でも」
俺が何かを言う前に、少女は干し肉に噛み付いた。
ガリっ!ガリっ!
「うん、美味しいわ」
「…………」
「どうしたの?」
「い、いや…少し豪快だな〜って」
「あ、ごめんなさい。遠慮もしないで」
「いやいや!そっちじゃない!」
野生さ溢れる食べる方に、少女に男らしさを感じたのだ。
その干し肉はとても固い。
少女の力では噛み千切れないと思っていたが、それを容易く食べている。
一周回って俺は少女が健康そうで良かったと安心した。
「ちゃんと食べられるみたいで安心した」
「……ええ、これも貴方のお陰よ」
「偶然拾っただけなんだがな」
「それでもよ」
少女は笑顔で言う。
「このお礼はちゃんとするわ。今は難しいけど、国に戻れば必ず」
国?……国!?
「そうだ!国だ!」
「え?」
「なあ君は!…………すまん、その前に名前を聞いても?」
「あ、そう言えば、自己紹介がまだだったわね」
少女は手に持った干し肉を下げて、姿勢を真っ直ぐに正した。
「私の名前は姫路詩織。気軽に詩織と呼んで。ちなみに日本出身よ」
「っっ!!ああっ本当にっ…!」
「えぇ!?ちょっと!どうしたの!」
膝をついて涙ぐむ俺に、詩織が肩に手を置いて心配してくれた。
「すまん、日本って聞けて安心したんだ」
「安心した?それって…」
「事情を話すと長くなる。信じられない事も起きてる訳だからな」
俺は詩織の手を借りながら立ち上がった。
「詩織に会えて良かった。次は俺の自己紹介だな」
俺も姿勢を正して、涙を拭いた顔で言う。
「俺は荻野広樹だ。広樹って呼んでほしい。同じ出身だ」
「ん?広樹?」
「どうした?」
俺の名前を聞いて詩織が考え込み始めた。
「いえ、広樹って名前だから、ちょっとね」
そう言いながら、詩織は俺の肩を触り始める。
「さっきも触ったけど、広い肩幅でゴツゴツもしている。手も大きいし身長も高い……同じ日本人なのに、私と段違い……」
「そ、そりゃあそうだろ。だって」
何か勘違いしているみたいだから、俺は率直に言った。
「俺は男だぞ」
「…………え」
大きく見開かれた。
え?何かマズイ事でも言ったのか?
もしかして、今まで女の子として勘違いされていた?
いや!どこからどう見ても男だよ!
オカマでもなければ美少年でもない筈!
俺は普通の男子高校生!
間違われる理由がない!
「貴方が……男?……私を助けたのよね?」
「あ、ああ。……もしかして、身体を触ったのが気に障ったのか?だったら謝る」
「い、いえ、そうじゃないの。いえ!それも問題の一部なんだけど…」
詩織は俺に手を差し出して、
「私は女よ。それでも私に触れるの?」
「ん?そりゃあ…」
詩織の手を握った。
「普通だろう」
「っ!?」
詩織は心底驚いたようで一歩後ろに身を引いた。
「そ、そう、じゃあもう一つ」
顔を赤らめながら詩織は言う。
「貴方の管理者はどこにいるの?挨拶をしたいのだけど」
「……え?」
「管理者よ。男だったらいる筈よね」
「いや、言葉の意味が……」
分からない。管理者とはなんだ?
詩織は何を言っているんだ?
「管理者を知らない?……貴方!もしかして一人なの!?」
「あ、ああ。ずっと一人だ」
「っ!?」
ガクンガクンと詩織の頭が揺れた。
話の意図が全く掴めない。
詩織は何に驚いているんだ?
「…………右手首」
「え」
「袖に隠れた右手首を見せて」
詩織の言葉に従って俺は袖をめくる。
「これでどうだ?」
「……腕輪が…痕跡も…」
「腕輪?」
「男だったら必ずあるのよ。発信機付きの腕輪が」
「は!?いや、そんなの」
「だから信じられないのよ。貴方が私を恐れずに触れるのもそう」
詩織は頭を痛くした顔で焚き火の近くに座り込んだ。
そして真剣な顔で言う。
「貴方の事を聞かせて。悪いようにはしないわ」
『川を発見した』
『水源の確保により、水の供給が可能になった』
『少女が目覚めた』