第4話、二日目は現実逃避しながらの畑作り、そして猪肉の実食
こ〜こ〜は〜夢の中〜
今ごろ〜お店で〜熟睡中〜
だから〜起きるんだ〜
よ〜し〜落ちれば目が覚める〜
そんな歌詞を口遊みながら、崖から飛び降りる。
──いえ、そんな勇気ありませんでした…
猪に襲われて痛かった。その時点で夢じゃないと分かっている。
だが死ねばどうなる?
もしかしたら元の世界に戻れるんじゃないか?
その考えが脳裏に浮かび、つい身体が動いてしまっていた。
意気地なしで勇気がなかったから、結果止めてしまったけど…
崖から離れ、本拠地に帰る。
本拠地と言っても、『特殊サバイバルキャンプコーナー』だ。
敷かれた人工芝に、売り物で飾られた棚々が並ぶ場所。
そこに設置した組み立て椅子に座り、晴れた青空を見た。
この森に来てから丸一日。
飛行機はおろか、知っている星座も見られなかった。
そう、知っている星座がなかったのだ。
それはつまり……
…………。
よし!畑でも作るか!
現実逃避を決め込んで、俺は長期間を生き抜くための努力を始めた。
コーナーにあった畑作りセット。
農具、肥料、種、種芋と、一通りの物が揃っている。
それを説明書通りに習いながら、畑を作ろうと決めた。
『木の少ない土地を見つける』
『土を柔らかくする』
『順番通りに各種の肥料を蒔く』
『水と合わせながら、土を馴染ませる』
『指示通りに種、種芋を植える』
簡単な方法ではこれが一番だった。
木の少ない場所は、まさに自分がいる場所である。
あまり木は生えてなく、低い草木が生い茂っているくらいだ。
俺は中斧を手に取って、まずは伐採から始める。
根っこはスコップで掘り返し、固い土は鍬で耕した。
本を見ながら肥料と土を混ぜ合わせ、水を軽く撒く。
じゃがいも、人参、玉ねぎと、各野菜の種と種芋を植えて、目印を立てる。
『じゃがいも』
『人参』
『玉ねぎ』
自然と選んだ野菜だったが、目印に書いた名前を見て、ふと納得してしまう。
あ、これカレーの材料だったわ。
俺はカレーが食べたかったんだな。と、
コーナーにはレトルトカレーは勿論、カレーのルーもある。
だが一度食べてしまったら、もう補充は効かない。
俺はそれを大事に取っておくと決めた。
何かの記念日だけに食べよう。
そう心に誓って、野生動物に備えるように、コーナーにあった保管ケースに入れる。
────。
────。
俺は昨日から何も食べていない。
夕食と朝食を抜いた状態で、今の俺は立っている。
だから限界だった。
故に挑戦しなければならない。
自然の恵みを口に入れる挑戦を。
『猪の生肉500g』
干し肉とは別に、すぐに食べる用と分けておいた猪肉だ。
火の準備は整っている。
鉄串もあれば、皿もあった。
あと必要なのは、それを焼いて頬張る覚悟だけだ。
昨夜は決め切れず断念したが、もう腹の虫が限界までに鳴り響いている。
コーナーにある食料は長期賞味期限で、食べるのがとても惜しい。
非常時を除いては、現地で手に入った食べ物を食べなければと思っていた。
覚悟を決め、俺は猪肉を鉄串に通す。
作った肉焼き場に鉄串を刺して、焼き上がるのをじっくりと観察した。
ジュ〜〜
肉から漏れた肉汁に、僅かながら食欲が湧く。
黒く焦げついた辺りで、鉄串を火から離し、その匂いを嗅いだ。
生臭さはなく、普通に肉の焼けた匂い。
これなら食べられる。そう気持ちを軽くして、一口噛み付いた。
「…………」
知っていた。味が薄い。そして獣臭い。
何も調味料をつけていないんだ。
そりゃあ肉の味しかしないだろう。
塩はあるが取っておきたい。別に食べられない訳じゃないんだ。貴重な塩は保管しておく。
そうして俺は肉の味しかしない焼肉を、腹一杯に食べた。
『猪の生肉500gを使用した』
『獣臭い焼肉が完成した』
『体力が回復した』