第34話、島からの脱出
大変お待たせして致しました!
第34話!生存ルート投稿します!
「このテント、本当にこのままにするのか?」
「ええ、問題ないわ」
詩織の提案から数日が過ぎて、遂に脱出の日が訪れた。
船の建造。食糧の量産。持っていく品物の選別など。
それらを全て済ませて、俺と詩織は空っぽになったキャンプ地の前に立っていた。
「その杖は?」
俺は詩織の手に握られている杖を見て質問をする。
「ちょっと友人にね」
大きな枝をそのまま杖にした見た目だが、その頭部には大きな時計が嵌められていた。
詩織は杖を地面に突き刺して、時計の針に力を注ぐ。すると、
『────────』
突如と音が止んだ。まるで時間が止まったように全てが聞こえなくなったのだ。
「こ、これは?」
「この島の時間を停止させたわ。この杖には対象の時間を止める能力が備わっているのよ」
「……」
丁寧に説明してくれたが、驚愕し過ぎて言葉が出ない。
「広樹は前触れもなくこの島にやって来た。なら現場を保存しておいて損はないわ」
つまり保険。この島に元の世界に帰れるヒントがあれば大変だと、詩織はその杖を使ったらしい。
凄くありがたいが、そんな事よりも気になる事がある。
「……そ、その杖。もしかして普通に売ってるのか?」
そんな最強の武器が売ってる世界だったら、島から出るのが怖くなる。
恐る恐る詩織に聞いてみると、呆気ない顔で答えてくれた。
「売ってないわよ。これは世界に一つしかない貴重な武器だから」
そんな貴重な武器をどうして詩織が持っているんだろうか。そう思っている最中にも、詩織は次の行動に移っていた。
「その水晶は?」
ボーリング玉の大きさをした透明な水晶。それを詩織は頭上を掲げると、それはゆっくり宙に浮かんだ。
「発動開始を三十分後に設定したわ。それまでに島から出るわよ」
「お、おう」
詳しい説明もなく、俺と詩織は海岸に向かう。
────。
────。
それは木材で建造した大型船。映画で登場しそうな海賊船を、詩織監修の元で作ったのだ。
岩造りの錨を海から引き上げ、植物の蔓で編んだ帆が風を捕まえると、木造船は大海原へと動き出した。
そして数分後。
詩織に誘われて島を見た。その瞬間、
『────ッッ!』
島から突如と白い霧が発生し、島と海岸を丸々と飲み込んだ。
その光景を見て、さっきの水晶を思い出す。
「あの水晶には霧を発生させる能力があるのよ。あの島の大きさなら、十年くらいは余裕で覆い続けられるわ」
「ま、まじですか…」
もう質問する気力がない。驚き過ぎて疲れるのはまさにこの事だ。
「これで島が荒らされる心配もないし、思い残すことなく国に行けるわ」
「お、おう。本当に、そうだな」
詩織の心遣いが大き過ぎてヤバい。でも聞きたい。
「ちなみにあの武器も売ってない部類?」
「世界にたった一つよ」
心が痛い。え?あの二つを島に置いてきたけどいいの?
「武器の事を気にしてるみたいだけど、心配しなくていいわ」
「い、いいのか?」
「まあちょっと怒られるけど、その分働いて償うわよ」
やっぱり悪い事をしていたみたいだ。償うって言葉を聞いて胸が苦しくなる。だから、
「……俺も働くのは」
「駄目に決まっているでしょう」
本当に胸が苦しい。
────。
────。
出航から三日。特に何もなく、詩織の舵を回す姿を淡々と見る毎日。
詩織の動きに迷いはなく、順調に目的地に進んでいるらしい。
「……なぁ詩織」
「何?」
「俺に何か手伝える事は無いか?」
「何もないわよ」
これである。仕事が何もないんです。胸が苦しい毎日だ。
「お、俺が舵を取るのは?」
「免許は持ってるの?」
免許なんてあるの?
詩織は免許を持っていると?
「無免許運転は三年以下の懲役または五十万円以下の罰金よ。それをさせた私にも、管理責任に問われるわ」
凄くリアルなんだけど。冗談とかではなく本当みたいだ。でもこの瞬間にそれを言うか?
「い、今は非常事態だし」
「何事もなく船は目的地に進んでいるわよ」
「いや、脱出している最中だよな!?」
「はぁ…」
その溜息はやめてくれ。詩織は笑みのない表情で、俺に言ってくる。
「ごめんなさい」
「え?」
「そうよね。やっぱり広樹も何かしないとね」
俺の気持ちを察したのか、詩織は舵の隣に移動した。
「握ってみて。方向は私が指示するわ」
「お、おう」
ちょっと不気味だ。詩織が素直すぎる。
読みに来てくれてありがとうございます。