第29話、島の裏ボス、『番外魔法─暗黒髑髏』
「広樹が足を竦ませたのは知っているわ。本当にごめんなさい」
本拠地に帰って、詩織が頭を下げて謝罪した。
「広樹の淡い心を計算に入れ忘れていた私の責任ね」
淡いって…………はい、淡かったです。否定できない。
アーマードベアに恐れて足を止めてしまったので、まさにその通りだ。
詩織に改めて言われると、男として凄く恥ずかしい。
「精神エネルギーは操れるようになった。武器への付与も、そして魔法も最低限は覚えられてる……あと残されているのは──」
この流れは知っている。
修行編再突入だ。
本当の事を言えば、あの熊には勝てなくていいと思う。
だが、詩織がその気だ。
…………。
ああっ!もう!やってやるよ!
あの日を思い出すと、ここで逃げる俺はガキみたいじゃないか!
詩織に魔法の習得をお願いしたあの日!
あそこまでの覚悟を口にしておいて、詩織がこんなにも頑張ってくれているんだ。
男として逃げられない。
よし!次の修行はなんだ!来い!
「──私との戦闘ね」
…………ほえ?
「本気の私と戦ってもらうわ」
本気?
え?今そうおっしゃりましたか?
ちょっと待って!前言撤回!それは無理!
あのアーマードベアよりも強そうな詩織と戦えって言うのか!?
絶対に勝てない勝負をしろと!?
無理!絶対に無理!
「広樹には、自分よりも大きな存在を目にし、それと対峙して、その恐怖を魂に刻んでもらうわよ」
そう言いながら、詩織が俺から離れる。
そして、
「肉体強化をして。十秒以内よ」
「し、詩織!ちょっと待っ─」
「『暗黒髑髏』」
その瞬間、俺は言葉を止めた。
詩織の背後に現れたモノに、心を奪われたからだ。
「私の番外魔法。『暗黒髑髏』よ」
それは巨人の上半身らしき怪物。
胴体、頭部、右腕だけが揃った黒色の骸骨。
ただ一つ不可解なのは、その怪物には左腕が無かった事だ。
「場所を移すわ」
その言葉に俺は反応が出遅れる。
その暗黒髑髏の唯一ある右手が、俺の身体を掴んだ。
「強化していれば着地は簡単よ」
簡単よ──じゃない!
ストップ!詩織!投げないで!まだ心の準備が!
ぎゃああああああああああああ!?
『詩織は『暗黒髑髏』を発動した』