第27話、広樹VSアーマードベア(その2)
姿を消す魔法を使って俺は岩陰で身を潜めていた。
『グルゥゥゥゥッ!』
ヤツに見つかれば、悲惨な最期をきっと遂げる。
そう思わせる程に、あの熊は涎をドロドロと流しているのだ。
ムシャムシャ喰われる未来しか浮かばない。
そして詩織は現在行方不明。
たぶん同じ魔法で隠れているのだと思う。
出口は彼女に塞がれ、別の出口は見当たらない。
出口の瓦礫を退かす手もあるが、それをしている最中にアーマードベアが襲ってこないという保証もない。
手詰まりだ。
いや、実際に残された手段はある。
『アーマードベアの討伐』が……
…………いや、絶対に死ぬ。
覚えた魔法の中で攻撃に役立つものは一切ないのだ。
『ステルス』で姿を隠して生き永らえるのがやっとである。
だが、この危機を脱する手立てを見つけなければ、やがては精神エネルギーが尽きてしまう。
ステルスは解け、意識がない状態で寝転がってしまう。
それだけは回避しなければならない。
くっ……考えないとっ……
このまま姿を消しながら攻撃する手は?
駄目だ。
あの分厚い身体を持つモンスターに、隠れながらの攻撃なんて通じるとは思えない。
詩織に助けを求めるのは?
きっと来ない。
あの地獄のようなトレーニングを思い返せ。あの死を隣り合わせにしていた時間の中で、詩織が一度でも俺を助けようとした素振りを見せていたか?
否だ。断じて助けようとはしなかった。
きっと詩織は今回も手を出さないだろう。
『グルゥゥウウッ!』
──音が近づいてる!?
気づけばアーマードベアの鼻がすぐそこにあり、俺はすぐに岩陰を離れた。
『ステルス』の効果は『姿を見えなくする』だけで、自分が発した音までは隠せない。
俺は最新の注意をはらって、足音を立てないように移動した。
だが──
『グルァアアアア!!』
「──っ!?」
アーマードベアが雄叫びをあげた。
そして真っ直ぐこちらに向かってくる。
────。
────。
アーマードベアは鼻がよく効くのよ。
だから足音を隠してもすぐに見つかるわ。
でも、これは良かったのかもしれないわね。
あのままでは精神エネルギーが尽きて、いずれは意識を失っていたでしょう。
その時は私が助けに入ろうと考えていたけど、その必要はなさそうね。
頑張りなさい広樹。
今の貴方なら絶対に勝てる。
────。
────。
ステルスを解いて、広間をひたすらに駆け巡る。
巨拳が、巨足が、巨頭突が、何度も何度も洞窟に轟音を響かせた。
一度でも回避をミスれば確実に死ぬ。
その一発一発がそう思わせるほどの破壊力だった。
「くっ」
武装として持ってきた『中斧』を構える。
今考えられる最善の討伐方法はこれしかない。
──中斧で頭をカチ割る。
鎧のような筋肉を全身に纏ったアーマードベア。
小さな攻撃や急所以外を攻撃しても、こちらの体力が削られるだけなのが目に見えている。
長時間の戦闘は望めない。
短時間での勝負で決める。
限られた精神エネルギーで、最高の一撃を放つんだ。
詩織から教えてもらった事を思い出せ…
『精神エネルギーは武装にも付与できるわ。強度を高めたり、鋭さを増させたりね』
俺は中斧に精神エネルギーを流し込んだ。
強度と鋭さを高め、中斧が金色のオーラで覆われる。
そして肉体強化に精神エネルギーを研ぎ澄ます。
あの巨体の頭上に届くだけの肉体強化。
決め手の一撃を放つには、五メートルを超える跳躍力が必要だ。
中斧強化─完了
肉体強化─完了
中斧と肉体のダブル強化で、精神エネルギーの残量が僅か。
この一撃で決めないと俺に勝機はない。
「グルァアアアアアアアアッ!」
アーマードベアが右手を振り上げた。
それに俺は動きを合わせる。
呼吸を澄まし、中斧を両手で力一杯に握りしめた。
この一撃で決めるんだ!
そして生き残る!
『広樹は精神エネルギーを中斧に纏わせた』
『広樹は肉体強化をした』