第16話、魔法と魚
「それにしても凄いわね。この容器」
「ん?」
「お湯で茹でるだけで、白飯が炊けるなんて。固有魔法の応用で作られてるのかしら」
「……んん!?」
ちょっと待て。今聞き捨てならない事を言ったぞ。
「し、詩織、今魔法って言わなかったか?」
「言ったわよ。それが何か?」
ふぁ!?
ファンタジーキタァァ!!
魔法です!
この世界には魔法があるみたいです!
そりゃあフレイムボアとか生息する異世界だ!
怪力あり!魔法あり!ファンタジーじゃん!
ヤバイ!じゃあ俺にも魔法が!
「詩織!俺に魔法を教えてくれないか?」
「無理よ」
…………へ?
理由もなく拒否された。
こんなにドライな詩織さん初めて。
「男は魔法が覚えられないのよ。万が一覚えられたとしても、一回出したら絶対死ぬわ」
え、何それ。
魔法怖い。
「魔法の発動に必要なのは、まず『精神エネルギー』なのよ。その保有量が男は著しく極低で、魔法の発動に足りてないの」
「それって、つまり」
「精神エネルギーを使い果たすくらいなら、まだ入院程度で済むわ。でも」
その先は嫌な予感しかしなかった。
「もし絞り出してマイナス値になってしまったら、身体中の細胞が崩壊して、ドロドロのジェル状になって死ぬわ」
うん、魔法を覚えるのはやめよう。
俺はこの世界の男とは違う。
もしかしたら素質があるかもしれない。
だが、そんな話を聞かされれば、
ドロドロのジェル状か……
魔法の事はいったん忘れよう。
俺の好奇心は、心の深くにしまった。
────。
────。
「詩織、ちょっと気になったんだけど」
「何かしら?」
「今食べてるこの魚さ、どうやって獲ってきたんだ?」
俺は焚き火で焼いた焼き魚を見ながら言う。
釣竿や銛は確かにあるが、使われた形跡がない。
魚の調達は詩織に任せていたが、道具を使っていないのなら、どうやって獲っているんだろうか…
「魔法よ」
「……」
「簡単よ」
「……」
納得だ。
魔法があれば、道具なしで魚くらい獲れそうだ。
だが待ってほしい。
ちょっと考えてみよう。
この島に詩織が暮らし始めてから、ずっと魚を食べてきた。
それはつまり、
「詩織……いつも魚ありがとう」
「え?ええ、どういたしまして…?」
俺は知らずのうちに、魔法に助けてもらっていたんだな…
『広樹は魔法の存在を知った』