第15話、風呂製作と野菜収穫
「風呂をどうにかしたい」
「同意ね」
「じゃあ」
「六時間で作るわ」
ド○えもんだ。
もう俺の瞳には、詩織の姿があの伝説のロボットに見えてしょうがない。
男の立つ瀬?何それ美味しいの?
そりゃあ最初は力になろうと頑張ったよ。
でも手伝おうとするたびに、どうしても足を引っ張っちゃうんです。
もうの○太くんなんです。0点なんです。隣に立つことすら出来ないんです。
詩織さん凄いから。本当にパネェーから。
大樹を両肩に担いで歩いたり、釘を素手で打ち込んでいたりしたからね。
その上で失敗した俺には怒らないから、逆にプライドがズタボロになる。
もう精神的に辛い。男泣き寸前だ。
たまにこの世界の女が怖くなる日がある。
強い女が全員、詩織と同じ優しさを持っている事を祈りたい。
うん、本当にそう祈りたいよ……
六時間後〜。
風呂だ。紛うことなき、家族サイズのヒノキ風呂だ。
ログハウスに隣接するように建てられた小屋の中にあり、桶の製作までは予想していた……だが。
まさかだよ。
「森で見つけた花からシャンプーを作ってみたの」
これです。
これが詩織クォリティーなんです。
製作方法は知らないが、何でも用意するのが詩織です。もうド○えもんです。
ずっと川洗いだったから気になっていたんだ。もしかして自分、臭いんじゃないか?って。
凄く良い香りだ。
これで不安が解消される。
この感謝をどう表現すればいいのか。
決まってる。
男は黙って跪け。
「ありが」
「もうやめて。分かったから。感謝してるのは分かったから本当にやめて」
やはり男がこういう姿を見せるのは、詩織的にアウトなのだろう。
感謝を精一杯に伝えられないのが悲しい。
「じゃあ、まずは詩織が」
「いいえ!広樹が先に入りなさい!一番風呂は広樹よ!ええ大丈夫!もし敵が現れたなら八つ裂きにしてフレイムボアの餌よ!大丈夫だから!ささ!存分に楽しんでちょうだい!」
「あ、ああ…」
なんでこんなにも必死なんだろう?
ん?ちょっと待て、
「ハァハァハァ……二番風呂は……ハァハァハァ」
…………。
俺は何も見てないし、聞かなかった。
────。
────。
また数日が過ぎて、
「これはそろそろ」
「いけそうね」
俺と詩織はワクワクしながら、シャベルで土を掘った。
そして見えてきたのは、
「でかい!」
「ようやく山菜生活から解放ね」
初めての収穫で胸が踊る。
自分で育てた野菜の収穫が、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
ありがとう育ってくれて。
大事に料理してやるからな!
「今日はカレーにしよう」
「え、…カレー?」
「ん?詩織はカレー苦手なのか?」
「い、いえ、そうじゃないの……ただ、このレトルト?というのを使うのよね?」
「いや、レトルトじゃなくて、固形の方を使うが」
「どっちも似たような物よ…」
詩織は重苦しい表情を作って、口元に手を置きながら言う。
「富豪が用意した物を口に入れるなんて…」
あ…。
よくよく思い出してみれば、売り場の食料に手を出した記憶が全くない。
狩猟と山菜採りで事足りていて、非常時に備えて淡々と保管されていたのだ。
ようするに詩織は、誰が用意したのかも分からない物を口に入れるのが怖い。つまりはそう言う事なのだろう。
「カレー……ねえ……」
「安心しろ。詩織が漂流してくる前にも、俺が食べてるから」
「えっ、大丈夫だったの?」
「この通りピンピンしてる。だから心配しなくても良いと思うぞ」
まあ、嘘ですけど。
実際は節約のために食べていなかった。
俺のいた世界で作られた物って説明しても、きっと受け入れてくれないだろう。
だったら適当に話を進めて、記念すべき初の収穫物ディナーを始めたい。
それに詩織には美味い料理を食べさせたいとずっと思っていた。
いつも頑張ってくれているのだから、その分の恩返しはちゃんとしたい。
よし、カレーに決定!
さっそく沸騰式レトルトライスも準備だ!
二時間後〜。
バクバクバクバクッ!!
「……」
詩織さん、マジパネェーっす。
「お代わりいるか?」
「お願いするわ!」
何杯目だろうか。
詩織が凄い食べっぷりを見せている。
もう鍋が底をつきそうだ。
でも、喜んでくれて良かった。
いつも色々と頑張ってくれているのは詩織だ。
だからいくら食べても、悪い気持ちは感じない。
でもね……
沸騰式レトルトライスの空の山……がね……
もう白飯がなくなっちゃう。
日本人のご飯が。
ちょっと詩織さん、やっぱりそろそろ、
バクバクバクバクっ!
その食べっぷりと満足の顔を見たら、
俺には止められません。
だからたくさんお食べ。
詩織が今まで働いた分を考えれば、こんなの安い安い。
『お風呂が完成した』
『野菜を収穫した』