第12話、広樹VSフレイムボア、絶賛火災発生中
ここは異世界だ。
俺の常識が通じない事なんて当たり前。
文化も違えば常識も食い違う。
でもっ、それでもっ、許せない事の一つくらいはあるんだっ…!
詩織が俺をどう見てると言っていた?
何と同レベルと判断していた?
…………プッチン(心の何かが切れた音)
俺をヒヨコと一緒にするなぁああ!
だってあのヒヨコだぞ!
あのピヨピヨ鳴いている可愛い小動物!
それと同レベルに扱われるのは、俺の男としてのプライドが許さない!
ヨチヨチ歩きの雛鳥として永遠に見られるなんて侮辱もいいところだ。そんな赤ちゃんプレイは御免被る。
ノーマルボアには勝てた。
でも信じてくれなかった。
じゃあフレイムボアはどうなる?
それを目の前で倒したら、俺の価値は大きく跳ね上がるんじゃないか?
だったらやってやるよ。
疑いようのない結果を作り上げてやる。
『ブモォォオオオオオオオオオオオオッ!』
木が生えていない草地、茂みのない見回しが効く位置、そこでフレイムボアが猛々しく吠える。
火の玉を吐き出せるフレイムボア。
それを相手に、障害物がない場所で戦うのは不利だ。
自分が隠れている木も、いつまで攻撃に耐えられるか分からない。
だったら、
『ブモォオ!?』
俺は石を拾い、木を盾にしながら投げた。
当たらなくてもいい。
元から俺の投石で倒せるとは思ってない。
俺の狙いは、
『ブモォォオオオオ!!』
フレイムボアの突進だ。
癇に障ったのか、挑発が効いたのか、
知性の薄い猛獣である様に、狙い通りに突っ込んで来てくれた。
ドシンッッ!!
その頭部を木にぶつけ、大きな振動が空気を揺らす。
これを待っていた。
俺は右手に中斧、そして左手には、
『ブモォ!?』
命がけなのだ。
だから卑怯とは言わせない。
砂投げによる目潰しで、フレイムボアの視界を奪った。
『ブモォオ!?ブモォオ!!』
自分の顔に手が届かない動物の弱点を突き、俺は中斧を両手で握りしめる。
これで──!?
俺は咄嗟に背後に飛び込んだ。
地面に伏せ、身体を限りなく低くする。
ブシューー!
ブシューー!
ブシューー!
火の玉の連発で、無差別に周囲が燃やし尽くされる。
普通なら手立てはない。相手の視界が治りきるまで、時間稼ぎをされるだけだ。
だが、時間稼ぎ上等。
俺は燃える木の位置を再確認し、時間の経過を待った。
十秒、十五秒、二十秒…今!
俺は中斧を握り締めて走り出した。
ズシャシャシャサャッ!!
『ブモォォオオオオ!?』
俺が誘い込んだのは、木々が立ち並ぶ森林地帯。
そんな所で火の玉を連発したら、案の定──
『ブモォオ!?ブモォォオオオオ!!』
倒れた木に挟まれ、必死にもがくフレイムボア。
地形を見て咄嗟に考えついた戦法。思いつきでやった賭けだ。
火の玉によってボロボロに燃えていく木々。
フレイムボアの目が治るまでの時間と天秤に掛けたのは、燃える木が脆くなるまでの時間だ。
一振りで倒れる燃え木が出来上がるまでの瞬間を、俺は淡々と待っていた。
その待ち望んだ時が訪れ、俺はフレイムボアの方に倒れる木に中斧を振り下ろした。
不甲斐なく、男らしくない、泥だらけの勝ち方。
視界を奪えた時点で有利に進められた卑怯な勝負だ。
でも、
「勝ちは勝ちだ」
俺が猪に真っ向勝負で勝てる筈がない。
端から常人が勝てる相手じゃないんだ。
詩織みたいな超人級の身体能力があれば、正々堂々と真っ直ぐに戦えただろう。
だが俺にあるのは中斧ただ一本。
だったら持てるものを全て注ぎ込んで、目潰しでも挑発でもやるしかない。
どんなに汚く不甲斐ない戦いでも、今回は猪に一人で勝った事が重要だ。
『荻野広樹は一人でフレイムボアを倒せる』
それを詩織に証明する事が、今回の目的なのだから。
……よし。
勝てた。勝てたから良いよね。もう我慢できないんだ。
しっかり見てくれたよね詩織さん。
もうね…もうね……ほんとヤバイの──
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いっっ〜〜!!
『フレイムボアを倒した』
『周辺が一部炎上』
『火の粉によって、広樹は小ダメージを負った』