第10話、トイレ問題と寝床問題
「トイレをどうにかしたい」
「どうにか、って何よ?」
一人であれば羞恥心にも耐えられた。だが今は二人だ。
恥ずかしいし、間違いがあってからでは遅い。
そう説明すると、
「そうね……工具は一通りあるみたいだし」
詩織は斧と鋸、釘と金槌を見て、軽くストレッチを始めた。
「防腐剤もあるみたいだし…ええ、三時間で何とかするわ」
「さ、三時間?それは何でも」
三時間後〜。
「こんな物かしら」
トイレだ。紛うことなき、木材で製作された個室トイレだ。
扉を開ければ木で作られた洋式トイレがお出迎え。
天井は屋根になっているが、外に空気が流れるように隙間が作られている。
そして清潔感ある香りを放つ花束が飾られて、悪臭対策も完璧だった。
「水はタンクに入れないと流れないけど、量で考えれば四日に一回入れれば問題ないわ」
水まで流れるのか!?
三時間のクオリティーじゃないぞ!
「紙の代わりに、フキノトウとヨモギの葉を用意したから、これなら肌に悪影響はない筈よ」
いつ集めたの!?
てか紙問題も解決した!?
ポケットティッシュさん、今までありがとうございました!
「汚物は下から木箱で取り出せるから、そっちは五日に一回で十分ね。満足してくれたかしら?」
「詩織…」
俺は膝をつき、完璧な服従姿勢を決め込む。
「本当にありがとう。詩織の凄さに感動した」
「ちょ、ちょっとやめなさい!?男の貴方が私に膝をつくなんて!こんな事が知られれば私は捕まってしまうわ!」
「いや、こんな事で捕まるわけが」
「記憶喪失も大概にしなさいよ!」
詩織に本気で怒られてしまった。
────。
────。
「詩織の寝床をどうにかしたい」
「別に今のままでも」
「じゃあ交代してくれ。詩織がテントの中で、俺は外に」
「それだけはやめて。男を外に放置して寝るなんて、常識以前に女として失格よ」
それは男である俺の台詞だ。
今は詩織が野外で、俺はテントで眠っている。
それは男のプライドが耐えられない。
ついに我慢の限界だと、俺は詩織にお願いした。
「どうか一緒に考えてくれ」
「……じゃあ」
あれ?また工具を見ているけど……
まさかね?
「六時間で何とかするわ」
詩織がド○えもんに見えてきた。
え?一緒に解決策を考えようと話していたのに、詩織が一人で解決する流れなの?
ここまでされたら、男としての立つ瀬がない。
よし。手が足りないところを見つけて、俺の漢気を──
六時間後〜。
詩織が怪力だったのを忘れていた。
つまり、俺なんてゴミだったんだ。
そして詩織の作ったモノを見てみよう。
ログハウスだ。紛うことなき、一階建てで建築されたログハウスだ。
扉を開ければ広いワンルームがお出迎え。
そのワンルームから小さなハシゴ階段で上に登ると、小さな寝床スペースが完備されている。
もうド○えもんとして詩織を尊敬したい。
だから俺は、
「詩織…本当にありが」
「土下座はやめて!私が殺されるわ!」
殺されるって何だ?
この世界の常識がいまだ分からないよ。
「じゃあ詩織がこのログハウスで」
「何言ってるのよ。広樹がここで寝るのよ」
「え?いやいや、それはおかしい」
「大丈夫よ!私がテントで寝るわ!いえむしろテントがいいの!心からお願いするわ!私をあのテントで寝かせて!」
あれ?ちょっとムキになり過ぎてないか?
「お願いよハァハァ、私をあそこでハァハァ、寝かせてハァハァ」
息を切らしてるけど、それは喋るのに疲れたのが原因だよね?
え、ちょっと怖い。
俺の使っていたテントに特別な理由なんてないよね?
『トイレが完成した』
『ログハウスが完成した』