第1話、ファスナーの先にサバイバル
サバイバル生活をしてみたい。
そう思った事が、誰しも小さい頃に一度が二度あった筈だ。
ああ、でも、だからって……
『ブモォォオオ!!』
「やられるかぁああ!!」
普通に学生をしていた筈の俺が、どうして猪と戦いを繰り広げる事になったんだろうか。
────。
────。
それは夏休みに入る直前の頃。
旅行に使えそうな道具を見てみようと、俺は大型百貨店に訪れていた。
そして一つのコーナーに目移りし、そこに敷かれた芝生を踏んだ。
「特殊サバイバルキャンプ……?」
とある風景をその場に再現したのか、室内にも関わらず芝生が敷かれ、テントが立ち、様々な道具が用意されたコーナーがあった。
『特殊サバイバルキャンプ入門書』と書かれた本をテーブルから手に取って、パラパラと中を覗き見る。
「この本一冊に、無人島で生きる全てが詰まっている……?」
軽く読み、特殊サバイバルキャンプの意味が簡単に理解できた。
まずサバイバルキャンプとは、『長期滞在型のキャンプ』であり、普通のキャンプと違って、食料を生産し、環境に適応し、誰の力にも頼らずに生き残らなければならない。
つまり、超ハードなキャンプであると言う事だった。
そして『特殊』と付け加えられている理由は、開拓キッドも含まれているからだと書かれている。
「俺の知っているキャンプと違う…」
サバイバルにまとめて仕舞えと思った。
だがキャンプ用品と開拓キッドを活用しながらと言う事もあって、その名前に着地したのだろう。
「でも、無人島か…」
小さな頃に、友達とサバイバルごっこをしたのを思い出す。
その時の感情が再び芽生え、軽い好奇心でテントを見た。
「ちょっとだけ…」
制服にシワを作ってしまうが、それは後に考えようと決めて、建てられた迷彩緑のテントに手をかける。
入口はファスナー仕様になっていて、軽い力で簡単に開けた。
「ん?……特殊サバイバルキャンプ初級書?」
そこに置かれていた本の表紙を見て、さっきの本の種類本だと分かった。
入門書の次は初級書か…
俺は入り口を閉めて、薄く明るいテント内で、そのページをめくる。
「槍の作り方……罠の作り方……」
狩猟生活を想わせる絵と説明に、キャンプよりもサバイバル成分を多く含んだ本だと思えた。
だが槍に罠か。
子供の頃に、それっぽいのを作った事があったな。
本当に懐かしい思い出だ。
「そろそろ出るか」
本をあった場所に置いて、締め切っていた入口のファスナーに触れる。
軽い力で簡単に開き切り、再び芝生を踏みしめた。
「さて、家に帰る……か」
俺は固まった。
ちょっと待て?これはなんだ?
『ピギャピギャピギャピギャヤヤヤ!』
アマゾンなどの深い森に響き渡りそうな、大鳥の鳴き声が聞こえた。
視界に映るのは、まごう事なき大自然。
森であり森林であり大自然。
そんな光景を前に俺は──
「…………」
スタスタ、ジィ〜〜と、
テントに入りファスナーを閉め、現実から逃げるしかなかった。
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30話まで連続投稿する予定です。
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