《マイク・リズム》力に溺れた愚かなる結末
マイク・リズムは怒りの形相で廊下を歩いていた。
目的地はマイクにとっての憎悪の対称たるもっとも最悪の存在・・・アルトの私室へだ。
先程自身の主たるキングが捕らえられたという噂の審議を確かめると同時に・・・色々な意味で我慢の限界だったからだ。
ここ最近の想い人であるジェシカへの自分達への接触が少なくなっていたこともそうだし、何より、ジェシカのことをバカにしたアルトをマイクは許せなかった。
ただ、ひとつだけ誤解があるとすれば、ジェシカから言われたのは『アルトが素っ気ない』ということだけで・・・マイクが考えているようにジェシカのことをバカにしたわけではないということだ。
とはいえ、今のマイクにそこのところの些細な問題は気にならず・・・ただ、彼は怒りの捌け口にアルトを選んだだけとも言えた。
アルトの部屋のある別館に着き、入り口に入ろうとしたマイクだが・・・すぐに門番に立っていた警備の兵に止められる。
「ここより先は殿下のお部屋・・・資格なき者はお下がりを」
「あぁん?俺はスリザン王国のキング王子の側近だぞ!許可などいらんだろ!」
いつものこどく、キングの側近という立場を利用して強行突破しようとするが・・・その言葉に門番の兵は失笑した。
「では、資格はありませんね。先程キング・スリザン様は王家から名を消されました・・・ゆえにあなたには何の資格もありません」
「なんだと!出鱈目を言うな!そんな馬鹿な話が・・・」
「あるんだよね、これが」
門番に食って掛かろうとするマイクに、しかしそれより前に割って入る声の主がいた。
「アルト様」
門番はすぐに敬礼を取り、後ろから表れた人物・・・アルトをみた。
アルトはそんな門番に「ご苦労」と、一言言ってからチラリとマイクを一瞥して・・・興味を無くしたように視線を反らした。
そんな反応に、沸点の低いマイクが耐えられるはずもなく・・・怒りの形相でアルトを睨み付けた。
「おいおい!無視かよ、クソ王子様!」
「無礼者!アルト様に・・・」
「よせ」
マイクの不敬な態度を咎めようとした門番を制してからアルトはマイクに視線を向けた。
「それで?何の用だ?手短に頼む」
明らかに興味がなさそうにそう告げたアルトに対してマイクは更に怒りを強くする。
「そんなの決まってるだろ!テメェのせいでジェシカが悲しんでる!テメェのせいでな!」
「ジェシカ?誰だそれは?」
「惚けんじゃねぇ!」
「それで?用はそれだけか?」
「なに!?」
怒りの形相のマイクに対して、アルトは極めて冷静に・・・わざとらしい程に興味を無くしたようにくるりとマイクに背中を向けて室内に戻ろうとーーー
「テメェ!!」
ーーーしたところで、後ろからマイクが我慢の限界を向かえてアルトに殴りかかる。
それをアルトはわざと避けずに・・・しかし半歩後ろに下りダメージを減らすように殴り飛ばされた。
「アルト様!」
「へん!思い知ったか!」
門番がアルトに駆け寄ったのを見て、マイクは清々しい気分で帰ろうとーーー
「おいおい。どこにいくんだ?」
ーーーした、ところで後ろから肩をガッシリと捕まれてしまう。
振り返るとそこには殴って倒れていたはずのアルトの姿が。
「正当防衛成立だな」
「は?何を言って・・・」
マイクがそう言い切る前にアルトが思いっきりマイクの顔面に拳を叩き込み、その場に倒れる。
さっきとは逆に地に這うようになったマイクを冷ややかに見詰めてアルトは言った。
「お前は他国の王子に手をあげた。これは本来なら国際問題だが・・・幸運なことにお前も主と同じように家を追い出される運命にある。だからこれはあくまで『平民』のお前が『王子』の俺に手を出しただけのこと。不敬な振舞いをしたことを悔いながら主人と共に牢に行くといい。」
「な・・・そんな馬鹿な・・・」
家を追い出されるなんて話は聞いた覚えがなく、また、信じられずにそう呟くが・・・そんなマイクにアルトは静かに懐から手紙を出すとそれをマイクに放り投げた。
「これでも信じられないか?」
震える手で手紙を明けると・・・そこには確かにリズム家の刻印と、父親の筆跡での「離縁」の文字が・・・
「そ、そんな・・・」
「最後にひとつだけ」
絶望的な気持ちのマイクにアルトは腰を低くして視線を合わせると・・・さっきまでとは比べ物にならないほどに冷たい瞳でマイクを見詰めて言った。
「もし、俺のエミリーに手を出したら・・・次こそはお前を殺す。わかったか脳筋が」
絶対的に冷たい瞳・・・それを見てマイクは凍り付く。
「連れていけ」
「「は!!」」
兵士に縛られながらマイクは悟る。
圧倒的な力の差を・・・決して相手にしてはいけないものを相手にしたのだと。




