守りたかったもの
とある可能性
翌日、今日は問題の夜会の日だ。
今日のジェシカの出方しだいで、このあとの展開は大きく変わってくる。
本来なら、この夜会の後からエミリーとマリーナのジェシカいじめがひどくなり、それをみたアルトとサンデーがジェシカを守るというのが本来の流れだ。
ちなみに、アルトのジェシカへの好感度もこのあたりから一気に上がる。
しかし、俺はこれまでジェシカとのイベントをなるべく避けてきて、なおかつエミリーとの好感度を徐々に上げてきた。
出きる限りの手は打ったし、あとはなんとか夜会を乗りきれば・・・
しかし、まだ油断は出来ない。
昨日の、キングとマイクの接触。
どうにも、俺はそれが引っ掛かっていた。
それに、キングのあの反応・・・
キングは怒るマイクを冷静に止めていた。
それは、理性的なだけかと思ったが、どうにも変だ。
あいつも、俺がジェシカに嫌味をいって傷つけたと思ってきたはずなのに、あそこまでの冷静な対応。
そこで、キングのキャラ設定を思い出す。
キングは他国の留学生という設定だが、実は正体はスリザン王国の第三王子。
そして、彼は普段はクールだが、確かジェシカに惚れてからはジェシカに物凄く献身的になり、それこそ盲目的ともいえるほどの固執をみせる。
そして、ジェシカの悪口やジェシカのことを傷つけたものには恐ろしく狡猾な報復をする。
まさか・・・
考えられる可能性は3つ。
1つ目は、我慢していた。俺を罠に嵌めるためにあえてそういう演技をした。
2つ目は、まだ、ジェシカに落ちていない。要するにジェシカへの好感度が低い状態。
そして、3つ目・・・
「本当の狙いが俺じゃなく、別にあった・・・」
俺への接触は、マイクを使った牽制で、俺に意識が行ってると思いこませるため。
そして、本当の目的は俺ではなく・・・
「くそ・・・!」
俺はそこまで考えて、一気に部屋を出た。
間に合え・・・!
一心不乱に走る。
目指すのは俺の大切なエミリーの部屋。
昨日の今日で何かあるとは思いたくない。
でも、もし仮に俺が油断しているタイミングを狙うなら・・・
答えは夜会の前。
仕掛けるなら夜会だろうという俺の思惑を知っていたのか?
俺が夜会に意識を向けていることを知っていたのか?
いや、気づいていたからか!
「頼む・・・!間に合ってくれ・・・!」
懸命に足を動かす。
途中ですれ違う人から驚いた視線を向けられるが構うものか!
「エミリー・・・!」
愛しい人を思い急ぐ。
部屋の前にいくと、急いでドアをたたく。
「エミリー!いるか!」
しばらくして扉が開いた。
「アルト様?朝早くからどうしました?・・・ってすごく汗かいてますが、大丈夫ですか?」
エミリーはいきなり来た俺にものすごく驚いた表情をしていたが、すぐに汗だくの俺に心配そうな表情を向けた。
「エミリー!無事か!?」
「・・・?えっと、特に異常はありませんが・・・」
そう言うエミリーは確かにいたって健康そうだ。
特になにかされたようには見えなかった。
それに少し安心しながらも、慎重に確認していく。
「なあ、エミリー。今朝、何か変わったことあった?例えば誰かから何かされたとか、何かを貰ったとか」
「いえ、特には・・・。あ、でも確か私の朝食を作ってくれる侍女さんが倒れてしまったので、別の人が今作ってくれてるみたいですけど・・・」
「・・・!それか!エミリー!」
「は、はい!」
驚くエミリーの肩に手を乗せて俺はエミリーの目をみて言った。
「ちょっと、調理場に入っても大丈夫か?」
「えっ・・・?は、はい・・・」
こくりと頷いてくれるエミリー。
調理場に足を運ぶと、今まさに料理が出来上がって盛り付けをしていた。
「仕事中、すまい。ちょっといいか?」
「えっ?あ、アルト王子?」
俺は盛り付けをしていた侍女さんに声をかける。
俺の声に驚いた侍女さんは咄嗟に持っていたお玉をおくと膝まづいた。
「いや、そのままでいい。今日の料理を作ったのは君か?」
「い、いえ。そちらの侍女でございます。」
ちらっと侍女が指す方をむくと、もう一人侍女がいて、盛り付けを手伝っていた。
こいつか・・・?
「失礼。名前を聞いても?」
「・・・キュールと申します」
そう言ってぺこりと頭を下げるキュール。
俺は油断せずにキュールに質問をする。
「今日の朝食は君が?」
「はい。そうです。」
「味見をさせて貰ってもいいかな?」
そう言うとキュールは「はい。」と返事をして小皿にスープをとる。
その時に一瞬にやりと笑うように見えた。
間違いないか・・・
「どうぞ」
「ああ。ありがとう」
「あの?どうしたんですか?アルト様?急に味見なんて?」
心底不思議そうに首をかしげるエミリー。
俺は笑いかけてあげてからスープを一口飲む。
今朝はコンソメのスープでしっかりとした味が口のなかに広がる。
そして、それとは別の仄かにまじる風味は・・・
「ビンゴか・・・。エミリー。今日は朝食は俺の部屋で食べて」
「えっ?でも、もう準備できてますよ?」
「えっと・・・今日の朝食。これ毒が入ってる。だから食べないで欲しい」
「えっ・・・?ど、毒?」
「うん。そう」
俺がそう言うとエミリーはぽかんとした後にさっと顔を青くしてこちらにつめよってきた。
「あ、アルト様!さっきスープを飲みましたよね?だ、大丈夫ですか!」
俺の言葉を疑いもせずに、一瞬で信じてくれて、なおかつ俺を心配してくれるエミリー。
俺は内心でほっこりしそうになるのを押さえて微笑んだ。
「大丈夫だよ。摂取したのは微量だしね。それよりも・・・」
俺はエミリーに優しく微笑んだあとに、さっきの盛り付けの侍女・・・キュールを睨み付けた。
「これは、どういうことだ?キュール?」
そう言うとキュールは「ふふふ・・・」と薄く微笑んだあとに後ろからナイフを取り出して襲いかかってきた。
「なるほど。実力行使か」
俺はそれをみて、慌てず騒がずにエミリーを抱き寄せた。
きん!と金属音がなり、こちらに向かっていたナイフはとまる。
「遅いぞ。ジークフリード」
目の前に現れたのは俺の執事のジークフリード。
執事服が似合う眼鏡をかけた優男はこちらを一瞬みると微笑んだ。
「申し訳ありません。少々手間取りまして・・・お怪我は?」
「ない。早くそいつを拘束して連れてけ」
「御意。」
そう言うとジークフリードはキュールの背後に回り一瞬で絞めおとすとそのまま連れていった。
まさに一瞬の出来事だ。
本当、人間なのかな?
そう思っていると不意に俺の体が重くなってきた。
毒がまわりだしたか・・・
一応、王家の特訓で毒物の耐性をつくる訓練は受けてたけど、少しきつい・・・
思わず座りこんだ俺は心配そうにこちらに手を伸ばすエミリーをみて思う。
守れてよかった・・・
そこで、俺の意識は途切れた。




