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質疑応答その二

 1

「さすがに疲れたな」

 今日は出発の日になるため早めに起きたが、そのせいで、昨日で累積した疲労がまだ取れていないようだ。

 リアルで寝るという手もあったが、理論上GDEを使うの方が睡眠の質が高いはずだ。

(2時間多く寝るくらいで取れる疲れでもあるまい)

 仕方ないと割り切って今日を生きよう。

「徒労ではないと……いや、徒労であると祈ろう」

 我ながら矛盾しているなと軽く苦笑し、品を背負って宿を出た。

 有終の美を飾るまでやると決めたのだ。最後までやり遂げよう。

(あれか)

 宿から出た直ぐ、セイカラ予備軍のシンボルを掲げている人間を発見した。

 交通管理局で待ち合わせをするのが普通だが、ある程度の融通が効いてくれるらしい。

 これ幸いと借りていた宿を待ち合わせの場所に指定した。50キロを超える荷物を背負って交通管理局まで赴くのような重労働は御免被りだ。馬車を借りるという手もあるが、無駄な出費が少ないに越したことはない。

 改めて待ち合わせの相手を見る

(彼は確か、ウォッカというキャラ名を使っているな)

 なにを隠そう、そのセイカラ予備軍から派遣された護衛という名の監視は、このラティスで初めて出会った自分と同じ立場にいる人間だ。

 四日前、セニス村の郊外を走る馬車の中に、彼は確実に居た。

 この間で彼がなにをやっていたかは知らないが、どうやらまだこの世界に未練があるらしい。

(やめるを前提としているな)

 さもありなん、姉のような事前に持っているテクニックが偶然に通用する特例を除いて、この世界は平和な文明社会から来た外来者に優しくない。

 まず、身分を証明できないかつ元金がゼロの状態でスタートするため、都市部でリアル世界以上の生活環境を手に入れることは極めて困難で、例えできたとしても途轍もない時間がかかる。

 あとで残された道は、郊外でサバイバル生活をするか、あるいは、強盗の類いになるにせよ、セイカラ予備軍に入るにせよ、武力を生かして生きていくかの二択しか残っていないない。

 リアルなサバイバル生活プレイに一定な需要がありそうだが、それも一部の極めてコアな利用者に限られるだろう。

 次に武力を生かすことだが、あの聖職者に言われた通り、まず外来者はストッカーになれない。つまり、ゲーマーにとってもっとも魅力的な(あくまで邪推)魔法が使えないということだ。

 また、武器を使って何らかの手順を辿れば強い技を出せるような便利なシステムはもちろんこの世界に存在しない。武力の多寡は完全に個人の身体能力と技術に依存する。外来者であれば身体能力の方はある程度都合できるが、それもあくまで常人の範囲。比較的に平和なリアル社会とはいえ、武力に優れる人間もいるが、彼らが持つ技術はもっぱらもっとも対人に優れている射撃技術で、この世界では何の役も立たない。

 このような状況で、外来者が武力を生かしてこの世界を生きていけるのは一部の例外しかないだろう。

(この男がその例外に当たるというわけか)

 どこにでもいるような普通の男性に見えるが、その身に一体どうな技術を秘めているやら。

 それともなにも考えておらず、ただ無鉄砲にこの世界に留まっているのか。

(その場合、少し教会に苦情を入れた方がいいな)

 誰にでも初仕事というものが存在するが、実力のほども確認せず、ただ一人で初仕事に行かせるのはその人と仕事対象の利益を蔑ろにする無責任な行為に等しい。

 とはいえ、それもあくまで可能性に過ぎない。彼に声をかけないと何も始まらない。

【名前は確かウォッカだった?私はウートゥルという】

【ああ。ロシア語が喋れるということは、お前もこのゲームのプレーヤーということか】

【否定はない】

 あまり好ましい表現ではないが、それはともかくとして……

【君は、あれからなにしてきた?喋れる範囲でいい】

 はっきり覚えていないが、確かあの時、彼の強制ログアウトをこの目で見たはずだ。例え見間違いだったとしても、彼があの絶望的な状態で生き残ったと思えない。

【俺は一回死んだ。その後はここで再びログインした。次は、そうだな、簡単に言うとセイカラ予備軍とやらに入って腕を磨いていこうと決めた】

 短い文で、自分の状況、行動、これからの行動指針を全部伝えてくれた。

 姉と全く違い、交流しやすくて実にありがたい。

【私も一回目の時は死んだ。再びログインした地点もここで、知り合いが死体漁りで手に入れた金を使って商売をしている。このシンボルと明細書に見覚えは?】

【そうか、つまり今回の仕事相手はお前と言うわけか】

 提示したものを検査し、ウォッカは微かに頷いた。

 これなら話が早い。

【早速だが、この荷物を背負ってくれないか。乳酸の累積による痛みを感じる】

 疲れている一言で済むことだが、男としての最低限のプライドがそれを言うのを拒んでいる。

 全くくだらないプライドとしか言いようがないが……

【了解だ。馬車はこっちだ。ついてこい】

 文句を言わず、ウォッカは荷物を引き取ってくれた。

 この人と仲良くなれそうだ。

【今回の護衛任務を受けてくれたのは君一人だけなのか】

【任務を受けたのは俺一人だが、研修中に任務を実行するとき、監督が必要らしい。今回は二人の女性の卒業生が監督を務めてくれるようだ。彼女らは馬車のところで待っている】

 この世界に入ってから、質問一つでこちらが欲している情報を全て提供してくれる人間はウォッカで二人目だ。

 実にありがたい。

 一人目少々度が過ぎる節もあるが、そこはご愛嬌。そこは自分の学識が足りないさを恨むしかない。

【英語の方は?】

【まだ怪しい、第三者がない時はロシア語で頼む】

 見栄えも張らないと。

 中身の人間の年齢について知らないが、もし外見通りであれば彼を姉に紹介しよう。安心感抜群の男で、これならあの破天荒な姉とでも何とかやって行けるだろう。

 諧謔はともかくとして……

(あれか)

 人が入り混ざっている街に入った後、ウォッカが無口になった。

 口数が多い人ではないが、先のやりとりから見ればコミュニケーション障害を抱いているというわけではない。むしろ、彼の言葉に余計な情報が一切入っておらず、要点だけまとめてくれて極めて分かりやすい。

 英語がよっぽど苦手なのだろう。

 最近こそ鳴りを潜めたが、現代史は西側と東側の闘争の歴史と言っても過言ではない。両方とも国際貿易の有益性を認めたことで、ロシア語圏内でも英語がカリキュラムの中に組まれるようになったが、敵性言語というイメージは未だに少なからず残っている。

 東欧系の外見を選び、ロシア語の名前を使い、ロシア語を流暢に話せる彼は東側の人間で間違いないだろう。

 英語が不得意のもわからない話でもない。

 そんな彼だが、口数こそ減ったが、コミュニケーションを取る意思まで無くしたというわけではない。

 伝いたいことがあれば、その都度ジェスチャーを使い、こちらと意思の疎通を図ろうとしている。

 現に、彼は道端で泊まっている馬車を指差した後、自分が持っているセイカラ予備軍のシンボルをかざした。

 理解の齟齬を避けるため馬車を指差しをすることにとどまらないところもまた好ましい。

 彼に合わせ、私も言葉ではなく頷きと行動で返事をした。

 英語についてどう思っているかは知らないが、少なくとも好意的に捉えていないはずだ。

 それだとこの世界に留まる原因がますますわからなくなってきたが、この段階でそれを邪推するのはよそう。

 ウォッカの姿を見たか、馬車の御者席に座っている陽気な少女がこちらに向いて手を振った。

 彼と予め面会を済ませたようだ。

「こっち!」

 少々大袈裟な仕草と口調から彼女の元気な性格がうかがえる。

 良くも悪くも表裏がない女性のようだ。

 ウォッカが最初に言った通り、監督者は二人らしく、元気な彼女の隣にもう一人の女性が座っている。

 その彼女というと……

(奇遇だな)

 なにを隠そう、一昨日私の懺悔を聞いていただいたあの聖職者の方だ。

 あちらも私の姿を確認できたか、微かに目を見張った。驚きの度合いは結構大きいはずだが、相変わらず聖職者の彼女は感情表現が乏しく、隣の人との対比も相まってそれが一層際立つ。

 しかし、よく考えてみれば、彼女がここに出現するのもそうおかしいことではない。教会の階級について詳しくないが、告解を担う彼女がセイカラ予備軍の卒業者ないし在籍者であるのも不思議な話ではない。

 ウォッカが私を担当し、彼女がウォッカの監督に選ばれたのはただ偶然だろう。

 ウォッカの次は聖職者か、今日はよく再会をする日だな。

 良きかな、良きかな。

「二人ともおはよう。私はウートゥルという。話はもう聞いたと思うが、これからの短い間、世話になる。よろしく頼む」

 適切な位置で足を止まって姿勢を正し、先んじて丁寧に自己紹介と挨拶を済ませる。

 心証の向上につながる簡単な作業だ。費用対効果が非常に優れており、それをやらないと損をする。

 しかし……

(ふむ、手応えなしか)

 元気なの方は「あたし、ニーサというんだ。よろしく!」といかにも元気一杯な返事をしてくれたが、このニーサという少女は誰に対してもこのような態度を崩さずに接しているだろう。

 もともと彼女の心証に関心がない。この手の人間を適切に対応さえしておけば、よっぽどの事が起こらない限りトラブルところか、いざこざ一つも生じないだろう。

 問題は「……メーディスと申します」と辛うじて聞き取れた声で応ええてくれた件の聖職者の方だ。

 原因について全く心当たりはないが、こちらが自己紹介をした途端、表情こそ変わらないが、瞳の動きを見る限り、彼女は警戒レベルを最上限にまで引き上げたようだ。

(瞳に微かな収縮が見受けられる。副交感神経系による鎮静作用のあらわしだな。表情は相変わらず変わらないが、生理現象はちゃんと表に出てくるな)

 GDEの仕様のおかげでこういう半分人間離れの芸当ができる。感覚の電気信号は補助脳により直接に伝達されるため、今の私の感覚はリアルの自分より少し鋭い。普通ならその変化を気付くには、相手の50センチ以内に近づかなければならない。しかし、GDEの恩恵を受けていれば、二人の距離が2メートル以上離れている今でもそれをなんとか観測できる。

 精度は極めて低いが、方法さえ把握しておけば、無感情のように見えるメーティスという女性の心理をある程度推測するのも可能だ。

 しかし、その心の動きに至る理由となると、やはり全く見当が付かないが……

「……見知り置きを」

「ああ、その節はお世話になったな」

「過分なお言葉です」

「え?どういうこと?その節ってなに?」

 社交辞令の感じで行われた深い意味のないやりとりだったが、ニーサはそこに噛み付いた。

 面倒だが、こちらから説明するのは筋か。

「彼が一昨日で言ったあの懺悔者です」

「えっ!ウソ、このイケメンが?へー」

 どうやら、その必要はないようだ。

 二人は親密な関係を築いており、あの件についてはある程度の情報交換を済ませたようだ。

 確かに、客観的に見ればあの日の自分の振る舞いは世辞でも自然なものととても言えない。それが世間話の肴に選ばれてしまったのも仕方ないことだ。どのように言われたのかについて全く気にならないといえばウソになるが、それはともかくとして……

(ようやく、この世界で自分の外見を批評してくれる人間が出てきたか)

 これでひとまず安心だ。

 もちろん、外見を褒めてくれるのは悪い気がしないが、そこは重要ではない。

 身体特徴から見れば、自分はモンゴロイド、俗に言えば黄色人種に分類されるはずだ。

 しかし、やはり海洋性気候や亜寒帯気候の原因か、外見を見る限りこの国の人間はコーカソイドに分類されるはずだ。

 つまり、セイカラ王国の国民は西洋人の外見をしている。

 内陸に行けば行くほど、モンゴロイドに近付くだろうと思うが、やはりセイカラ王国の国土面積では明確な気候の変化が生じると考えられず、その微かな気候の変化が人種にまで影響を及ぼすと思えない。

 人種は重要な集団アイデンティティの一つであり、コミュニケーションにおいて強い影響力を発揮している。

 人種の違いによる悪影響を危惧したが、今までそれらしきものが感じられず、ついさっきようやく自分の外見の正常性を証明してくれる発言を得た。

(ハイリザードという明らかな異種が存在するのも一因であると思うが、やはり自分の外見に西洋人寄りのところがあるのは主因か)

 両親とも純粋な日本人のはずだったが、自分の表現形の中にいくつコーカソイドらしきものがある。遺伝学に詳しくないから上手く説明できないが、その珍しい現象は少なくとも異常なことというわけではないらしい。

 そのせいというかおかげというか、初対面の時自分が西洋人であるという先入観を持って接すれば、アジア人ぽい西洋人に見えなくもないと他の人に言われたことがある。

 どうやらそれはこの世界でも通用するようだ。

 実にありがたい。

「んじゃ、そろそろ出発しようか。アバルスだよね?」

「はい、御者は?」

 女性が御者を務めるのはいかがなものかと思ったが、よく考えてみれば、ウォッカに馬車を運転する経験がある可能性は極めて低い。

 私にもその経験がないため、ここにいる男性陣は全滅だ。

 この世界にそういう常識がないと祈るしかない。

「メイちゃんがやるよ。ストッカーがやる方がスピードが早いから。あたしは御者台でいいよ」

 なるほど、異変電子絡みか。

 それなら納得だ。

「では、よろしく頼む」と言い終わった後、私もウォッカの後を追い馬車の中に入ろうとしたが、

(……!)

 私は、最大限の警戒を顔に表し、ウォッカが背負っている荷物と私を一回交互に睨んだメーティスの視線に気づいた。



 2

(なるほど、そういうことか)

 進行中の馬車の中で、メーティスの態度を思い返す。

(表情をコミュニケーションの手段として使っているのか、達人芸としか言いようがないな)

 表情などの感情表現を手段として使うのはそう難しくないが、彼女ほど感情表現に言葉同様、いや言葉以上の指向性を持たせる人間はあまりいない。

 相手が怒っていれば宥め、戸惑っていれば説明を加え、疑っていれば弁解し、落ち込んでいれば励む。

 普通の人間であれば、コミュニケーションを円滑に進めるため、それらの行為をある程度意図的に行う傾向がある。

 当たり前に聞こえるかもしれないが、それらのメカニズムは意外と複雑だが、シンボリック相互作用論を用いてそれを説明できる。

 その例を用いて、シンボリック相互作用論の要点だけを簡単におさらいしよう。

 人間であれば、誰も相手の感情表現を最初から理解しているというわけではない。子供の頃、相手の堪忍袋の緒が切れたとしても、それに気づかず、謝罪もせずに平然とした態度を取り続けた結果、相手をさらに怒らせたという経験は、多かれ少なかれ、誰でもあっただろう。

 しかし、普通であれば、成長につれ、そのような状況は段々と減る。なぜなら、社会に接触する事で、人間は「相手が怒る」という事柄が持つ意味と対処方法を知ることになる。

 そして、怒っている人間を見る回数が増えるに伴い、

「相手がどんなシンボルを見せれば、その人が怒っていることになるのか」

「相手が怒れば何が起こるのか」

「相手が怒る時なにをすればいいのか」

「どんな相手ならどんなことで怒るのか」

「どんな相手ならどの程度まで怒れるのか」

 と自分の中にある「相手が怒る」という事柄が持つ意味を細かく修正していく。

 この過程を外部の刺激への解釈と呼ぶ。そして、解釈よりもたらした結果が、人間の行動の判断基準となる。

 つまり、人間はただ「相手が怒る」という刺激を受けて反応するというわけではない。社会経験から、刺激を解釈し、解釈した結果に基づいて行動しているというわけだ。

 したがって、違う社会経験により導き出された解釈もまた異なり、それに基づいて起こす行動も自ずと人によってそれぞれだ。

 簡単な例を挙げると、街を歩いて他の通行人とぶつかり、そのせいで相手が怒る時、普通の人間ならその事態を重く考えないが、学校でいじめを受けた経験が数多くある学生は事の深刻さを過剰に判断し、オーバーリアクションをし、発生する可能性が極めて低い相手による折檻に怯える。

 このように、同じ人間が同じ感情を見せても、その刺激を受けた相手の社会経験により得られる反応が異なると言うわけだ。

 このシンボリック相互作用論は現代社会心理学において極めて重要な学説であり、数多くの学説に発展したそれが社会学の礎石と言っても過言ではない。

 しかし、確かにそのメカニズムが存在するが、すべての相手から同じ反応を確実に得る手段もある。

 異なる解釈により生じうる行動の誤差を、刺激の激しさで埋めればいい。

 極端な話だが、人の前で凶器を携えて道を阻めば誰でも事の深刻さを認識できるだろう。同じ「相手が怒る」という分類に入る刺激だが、その激しさはただの罵倒と比ぶべくもない。

  では、常識的な範囲で、その激しさを増やすにはどうすればいいのか。

  簡単にいうと、普段から相手に感情を見せなければ良い。

  常にポーカーフェースしている人間が突然激しい感情を見せれば、誰でも否応なくそれに反応するだろう。

 コミュニケーション行為的の理論が体系化された現代においても結構誤解しやすい事だが、ポーカーフェースの主な効果は相手に自分の心理を悟らせないことにあるというわけではない。実際、その効果を得たいなら心の動きと全く逆の感情を表象化する方がより効果的である。

 その真の作用は……

(彼女は、感情に効力を持たせるため、普段は無表情を保っているのか?)

 いざの時、感情表現による意思伝達の精度を増やすところだ。

 それなら言葉で直接に伝えた方がいいなのではという疑問が出てくるかもしれないが、意志を言語化することに一つ大きなデメリットがある。

 その拘束力が強すぎるのだ。

 例を挙げると、

「答えてなくともいい」「言いたくないなら言わなくとも大丈夫」「試しに聞いただけ」

 質問の後にそれらを言い添える場合は現実において少なからずある。しかし、残念ながら、その効果はいたって軽微だ。

 質問に限らず、なんらかの言葉を口に出せば、それを「言った」ことが事実に残る。それがコミュニケーションに影響を及ぼすメカニズムは本題と関係が薄いため割愛するが結果を言うと、相手に返答する義務が生じる。相手が返答に抵抗感がある場合、虚偽の返答をする可能性が高く、これからも「言った」相手を警戒し続ける傾向がある。

 しかし、感情による意思伝達の拘束力は言葉よりはるかに弱い。つまり、それが「強制はしない」という意思を表明するに適している。

 かれこれも、20世紀後半で理論化したばかりの社会学体系だが、

(彼女は、10年にも満たない時間で自力でそれらにたどり着いたのか?それとも理論を知らずに無自覚的にやっているのか?)

 この世界に入った後、この世界で行われてきた自分の専攻と同じ分野の先行研究を血眼で探していたが、その結果は芳しくない。

 一瞬、彼女もリアルから来た人間ではないだろうかと思ったが、

(それこそありえないな。それほどの覚悟を見せた人間が外来者であるはずがない)

 邪推はよそう。

 まずは目下のことだ。

(彼女は乾燥カンナビスをアルバムに運ぶことについて強く疑問に思っているというわけか)

 荷物に関するほとんどの説明ならセイカラ予備軍から受けたはずだ。でなければ監視と監督を務めるに支障をきたす。

 確かに、セニス村の事故を知らない彼女からみれば、その行為はさぞ不可解に映しているだろう。

 しかし、それにこだわる原因はなんだ?

 不可解と言っても教会に所属する普通の職員にとってそのことがそれほど重要なのか?

 セイカラ予備軍はどのような方針をしているのかについて詳しくないが、少なくとも依頼人についての詮索は推奨されていないはずだ。 

 聡明な彼女が、思った疑問をすべて解かないと気がすまないような非効率的な性格をしているというのか?

 それとも……?

(思えば、自分は随分と彼女を評価しているな)

 共有した時間はまだ2時間も経っていないのだ。その評価の根拠は一体どこから来たものだろうか。

 目下の状況に関する情報なら昨日である程度整えた。しかし、もちろんだが、目の前彼女に関わるものはなかった。

 彼女が私を不審に思っているように、私も彼女のことについても教会に所属しているとしか知らない。

(今考えても詮無いか)

 人間関係が崩れないため、彼女が折角気を配ってくれたのだ、それに乗るとしよう。

 例えそれが内心の不安と私への不信の表しだとしても、だ。



 2

「あなたは貴金属をあまり好まないですね」

「ああ、性分じゃないでな。そういう華々しい物は」

 改めて目の前の男を見る。

 先日もそうだったが、彼の身だしなみから一切の隙が見受けられない。しっかり整えられた服と清潔感のある顔から彼の几帳面さが感じられ、礼儀にも弁えている。そして、何より彼の人柄を表しているのは彼が発した言葉から滲み出す知性だ。

 ただの見習いや末端ならここまでの貫禄はないだろう。

 いかにもできる社会人というイメージにピッタリ当てはまる姿だが、その身に一つだけ社会人にとって必要な要素が見当たらない。

「出過ぎたことかもしれないけれど、貴金属を最低でも一つ身につけることは最近、社交界で暗黙の了解になっています。相手の心証につながりますから、安物でもその購入を検討した方がよろしいかと」

「……君も、こういう皮肉を言えるんだ。少し意外だ」

「皮肉、ですか?」

 ただ一般論を述べるつもりだったが、その言葉に興味を覚えたか、彼は馬車の外の様子をうかがうのをやめて、こちらに向き直る。

「すまないが、その前に聞きたいことがある。どうしてもウォッカの手助けをしてはならないのか?」

「ええ、わたしたちはあくまで監督ですもの。さすがに彼に命の危険があると判断する場合はニーサが手を出しますけれど、今ならまだ大丈夫かと」

 見れば、外でウォッカというセイカラ予備軍の新入りは偶然に遭遇した五匹のヴェロキラプトルを相手に善戦している。

 ヴェロキラプトルは郊外でよく見られる肉食性の爬虫類で、単体ならそう強くない。素人は歯牙にも掛けないが、軍に志望する心得のある人間なら二匹同時に相手をできないと逆に困る。しかし、五匹はさすがにキツイと思ってニーサは最初共闘を提案したが、意外とその本人に言下で断れられた。

「こんなもの、自分一人で足りる」と。

 素手で馬車から降りたウォッカを見て、「そのわけわかんない自信が折れない限りあたしは絶対手助けしないからね!」とニーサが宣言したが、良くも悪くもその必要はなさそうだ。

(装備さえ整えば、あの男はニーサより強いでしょう)

 ただの新人に抜かれたことを悔しいと思っているのか、自分が馬車の中に入る前に見たニーサの顔が屈辱に塗られた。

 まぁ、非戦闘要員と認定され、強制避難させられた自分にとってどうでもいい話だけれど……

 自分の身を守るくらいの実力を一応持っているが、彼女がそれを認めた試しがない。

(この調子だと、ヴェロキラプトルを全部始末した後、ニーサが彼に決闘を申し込みかねないわね)

「大丈夫だと思いますけれど、予想以上に時間がかかりそうですね」

「ああ、ニーサか。ここはやらせた方がいいと思う。余計な鬱憤を貯めるのはよろしくない」

「ええ」

 ほぼ初対面の相手の性格をここまで察してくれるとは、やはりこの男は鋭い。

「脳筋たちについては一旦ともかくとして……最初の話に戻るが、その言い方だと、まるで私の身だしなみに貴金属が飾っていなければおかしいと聞こえるな」

 聞こえるのも何もそのつもりで言っているだが……

「……それが?」

「ああ、失礼、少し説明不足しているようだ。自画自賛になるが、つまり君は私の個人アイデンティティが貴金属が表す社会地位に相応しいと思っているではないだろうか。私を評価していただくのは嬉しいが……」

 言葉に反して沈んでいく顔を見て、わたしはようやく自分が彼に恥を掛かせたことに気づいた。

「……申し訳ございません」

「君が謝る必要はないと思うが……」

 彼は自身に対する評価を謙虚というより卑屈と思われるくらい厭っているようだ。しかし、だからといって普段の仕草や言葉にその卑屈さが見受けられるかというと、そうではない。

(似ている、かも知りませんね)

 その堂々とした態度は自身への自信ではなく、持っている知識への信頼からきたものではないだろうか。

(まるで……いいえ、邪推はやめましょう……)

「つまり、あなたは、わたしの方こそ貴金属の価値を軽く捉えているではないかと言いたいのですね」

「……ああ、その通りだ。君はその暗黙の了解が存在するにもかかわらず、目の前の人間を先入観なしで評価してくれたのだ。推測になるが、君は対象を批評するとき、外見の特徴をあまり根拠として考慮していないと思う」

「ええ、それらが一致している場合もあるけれど、一致していない可能性がゼロではない限り、外見で人間を判断するのは賢明と言えませんね」

「全くその通りだが、残念ながらこのハロー効果に引っかかる人間の方が多い」

「halo effect?」

 文脈からその意味をなんとなくわかるけれど……

(神性を比喩として使うのは恐れ多いけれど、彼なりの気の利いた諧謔でしょう。そのセンスについてはコメントしかねますが……)

「それはともかくとして……私が貴金属を好まない、そして君がそうである以上、この馬車の中において貴金属の価値は限りなくゼロに近いということになるのだ」

「……え?」

 貴金属の価値が低い?

 確かに、彼が貴金属を厭うなら貴金属は彼にとって飾りにすらならないだろう。そして、わたしの前では、社会的地位を表し、相手の心証を向上させるという貴金属の効能も発揮できない。

 しかし、だからといって……

「ああ、誤解を招く言い方で済まない。例えば、そうだな、この世界に私と君二人しか存在しないであれば、貴金属は無価値であるというのはどうかな」

「……確かに、そうなりますね。けれど、それは……」

 現実的ではないのでは?

 と言い出そうとしたが。

(……!)

 そのシチュレーションを想像し、そうであってほしいと密かに思っている自分がいるせいで、言葉が続かなかった。

 俗事に煩われず、彼と永遠に問答による知識の交換が行えるならそれも悪くないと思ってしまった。

 それが責務の放棄にほかならないだというのに!

「ああ、確かにありえないシチュエーションだ。しかし、その仮設から確実に言えることもある。貴金属の価値を左右するのはシチュエーションとそのシチュレーションに存在する人間の考え方であって、決して市場メカニズムではないのだ」

「需要と供給ではない……?」

「……と、私個人がそう思っている」

 ただの勘違いの可能性もあると彼がほのめかしたが、その理路整然な思考が現実と大きく乖離していると思えない。

 しかし、その結論は歓迎すべきものかというとそうではない。

 わたしにとってそれはむしろ悪い意味で寝耳に水だ。

 ずっとわたしを苦しめてきた漠然とした危機感の形が、ようやくぼんやりに見えるようになった。

 そして、それに伴い、また別の疑念が浮かんだ。

(彼は、一体?)

 何者で、どんな意図でそれをわたしに言っているだろうか。

「……セアルノ商会についてはご存知でしょうか」

 途方もない恐怖を覚えさせるほどの危機感に突かれ、予想以上に弱まったわたしが、目の前に居る彼に助力を求めようとしている。

 しかし、彼を信用してもいいだろうか。

 得体の知らない彼を。

 怪しい行動をしている彼を。

 情報の開示を拒んだ彼を。

 しかし、それでもわたしを真摯に接してくれた彼を。

 果たして……

「答える前にあらかじめ断っておく。私は君に隠し事をしている。その理由は言えない。私は、その隠し事を公にすることは事態の改善につながらないと思っている。しかし、だからといって今まで君に言った言葉に偽りが混ざっているというわけではない。これからも君に嘘を言わないと誓う。不誠実な人間であるに変わりはないが、これが今の私の精一杯だ。申し訳ない」

「……あなたに謝る必要がありません」

 決して顔にあらわしたというわけではないが、わたしの疑念をなんらかの手段で感じ取った彼は、信用してくれとも、信用しなくともいいとも言わなかった。ただ愚直に自分の立場を述べ、判断をわたしに委ねてくれた。

 なんとなくだが、彼なら、わたしの思考をある程度誘導できるではないだろうかと思う。

 しかし、彼は虚言を弄することなく、真っ正面からわたしに答えてくれた。

 決して信頼を博すための言葉ではないが、だからこそわたしにしっかり伝わった。

 主観的に信用できるかどうかについて考えるではなく、状況証拠と照り合わせて客観的に信用すべきかどうかことを判断しろ、と。



 3

「話を続けましょう」

 原因は計り知れないが、まるで憑き物が落ちたような彼女を見て、つい先まで自分の中に蟠っている言葉で表せない焦燥感もまた消えた。

 彼女は、私への疑念以外にも色々と抱え込んでいるように見える。

 その心当たりはなくもないが、それらを詳らかに知っているというわけではない。

 しかし、その負の思考だが、何事かによって程度解消された……らしい。

 ……瞳の動きと呼吸リズムだけで心情を推察するのはさすがに限界がある。

 むしろそれら全部は私の勝手な思い込みでしかない方の可能性が高い。

 それはともかくとして……

「セアルノ商会か。主な営業内容は融資で、少々独特なビジネスモデルをしている商業団体のことだな……」

 リアルに存在する概念を使って平たくに言えば、他の商業団体から融資を受け、一般人に融資サービスを提供し、その債権を対象にCDS(Credit default swap)を買う投資銀行だ。

 最初はこの国にもCDSを発行している商業団体がいるのかと驚いたが、どうやら自発的に売っているというわけではなく、セアルノ商会が国内最大手のアダラエス商会に自分が買うからそれを売ってくれないかと頼んだらしい。

 一口でCDSと言っても、もしCDSを生み出した人間が、金融商品取引法が存在しないこの国で取引されたCDSの杜撰さを見たら、汗顔の至りになるのは必至であろうと思うくらいその内容が酷い。

 強いて言えば、その内容は、もしソビエト連邦が解体し、ライバルを失ったアメリカに保護主義が台頭しなかったら、世界は天国となるという陰謀論の中に登場した資本主義にさらなる繁栄をもたらした仮想的なCDSという存在に似ている。

(さらなる繁栄、か)

 クレジット・デフォルト・スワップ(Credit default swap)

 簡単に言えば、それは債権者向けの保険みたいなものだ。期限まで債権者が持っている債務が無事に完済できれば、CDSの売り手は債権者が払ってくれる保険賠償金をただで貰えるが、その代わりに、なんらかの理由で債務不履行ないし不渡りとなる時、また自己破産や個人再生により債務が消滅する場合、その売り手は債権者にその保険賠償金をはるかに上回る賠償をしなければならない。

 保険賠償金と賠償額はその債務の評価を基づいて複雑な手順を踏んで算出するものだが、それについては一旦さておき……

 入手した情報によれば、セイカラ王国の商業団体群は最初からセアルノ商会に協力的な姿勢を見せたというわけではない。

リスクを恐れているからではない。

債務人の手に毎年値段が高騰し続けている貴金属が存在する限り、という但し書きが付くが、よっぽどのことが起こらない限り債務不履行にはならないだろうと彼らが高を括っているだろう。

しかし、損になる可能性が低いと知っていても、貸し渋りになった商業団体も沢山あった。

 さもありなん、商業団体の財産を無担保で貸しだす例外を作りたい存在はいまい。

今のセイカラ王国にでも、いわゆる投資を専門とする商業団体が存在しない。それぞれの団体は農業なり、製造業なりを主な業務対象としている。万が一債権の回収が困難となる場合、団体のこれから経営に支障をきたしかねない。

 そんな彼らにとって、CDSというリスクそのものを無くせる保険サービスはまさに渡り船だった。

セアルノ商会からローンを組んでいる個人から債権を回収できればそれでよし。その個人が自己破産を申し込み、債権の回収が不可能になったとしても、セアルノ商会はアダラエス商会から多額の保険賠償金を補償としてもらえる。

これならセアルノ商会から債権を回収できない可能性はまずないだろう。

 かくして、

「……セイカラ王国の最大手であるアダラエス商会が、セアルノ商会にが持つ全ての債権を対象に保険サービスを提供した、と教会の議事録に書いてあるな」

「議事録を全部読みましたか?」

「ああ、図書館に普通に置いてあるからな」

「普通の人間ならそれを読みたいと思わないけれど……続きをどうぞ」

 後もいくつの事柄についておさらいしたが、その融資システムから逸脱した取引のような特筆すべきものはなかった。

 しかし、話の進行に伴い、話題は話の核心に迫りつつある。

「……そして、そのセアルノ商会のお陰で、教会が莫大な利益を手に入れた、と」

 そう、何を隠そう、セアルノ商会の商業活動によってもっとも大きな利益を取得したのは他でもない徴税人である教会だ。

「……それについては否定しません」

 あらゆる経済活動に税金が発生する。(ここは寄付金というややこしい呼び方をしているが)

 貴金属を売りたければ、まずその貴金属をセイカラ王国の国内まで運ばなければならない。その時点で、27パーセントの重い奢侈税が取られることになる。その後、貴金属を卸すセアルノ商業連合はそれらを各地に拠点を構えている他の商業団体に売り捌く必要があるが、さすがに入国前に取引すれば奢侈税が二回取られることを回避できる。しかし、残念ながら、推奨寄付金の方はそう上手く行かない。セアルノ商業連合と小売業者の最低二つの商業団体がこの一回の貴金属販売により生じる推奨寄付金を負担するということになる。

 それを前提として物事についてもう一度考えよう。

 セアルノ商会の融資サービスにより、セアルノ商会に融資した商業団体の資金が国民に渡された。

 国民は貴金属市場の景気を見込み、セアルノ商会から借りたローンで古くから崇拝されてきた貴金属を買い求めた。

 その貴金属の売買より生じた利益の一部は教会に納めた。

 貴金属市場の景気により利益を得た商業団体が利子を欲するため、その利益をまたセアルノ商会に融資した。

 このサークルによりもっとも多額の財産を保有することになるのは誰なのかは言うまでもないだろう。

 企業が手元にある財産を惜しみなく市場に投入することで、政府の金庫が潤うという原理はどうやら世界をまたがって共通しているようだ。

 この環境を景気循環のピークと呼ぶが、バブル経済とも呼べる。

 それについてもっと踏み込んで考察しよう。

 銀行に定期預金しないことは罪であるという暴論がある。

 銀行に定期貯金しない企業に握られている富は硬直しており、一切の税金が発生する余地がない。しかし、それらの財産は市場に存在する貨幣総量、つまりマネーストックから除外されたかというとそうではない。マネーストックに記入される限り、それらは物価に影響を及ぼす。企業が民から富を吸い取り、それらを市場に流通させなければ、政府の歳入は段々と弱っていく。それはまさにガンの増殖と呼ぶにふさわしいではないかという論説だ。

 安直な極論だが、全く理にかなっていないというわけではない。

 そのために生まれたのは銀行というシステムでありであり、銀行による信用創造である。

 信用創造というのは、平たくに言えば貨幣の分身術である。

 貨幣を銀行に預けたところで、その金がなくなるというわけではない。しかし、銀行に預けた金がずっと銀行の金庫に眠っているかというとそうではない。貯金者の知らずの間に、銀行はその金を他の人に貸しているのだ。貯金が消えることなく、貯金の額とほぼ相当な貨幣が突然市場に出現したというわけだ。

 リアルなら貯金の一部を貯金準備率を基づいて中央銀行に預ける必要がある。マネーストックの肥大化、つまり今セイカラ王国が陥っている状況を防止するため生まれたその制度だが、当然この国の法律にもセアルノ商会の方針にも存在しない。

 その結果は、

(貨幣乗数がどんどん大きくなっていく)

 市場に存在する貨幣総量(マネーストック)が、実体を持つ貨幣の量(マネタリーベースと呼ぶ。日本の場合は紙幣と硬貨と中央銀行に預けた貯金準備金。このセイカラ王国の場合は布製の貨幣と硬貨のようなセントだけ)とイコールしているというわけではない。

 信用創造というシステムによりマネタリーベースが分身するからだ。

 貯金準備率を考慮しなければ、マネタリーベースの一部を一回預金するだけで、その一部に当たるマネーストックが二倍となる。二回なら三倍、三回なら四倍という寸法だ。

 マネタリーベースと貨幣乗数の積がマネーストックとなると経済学において証明されている。

 景気を呼び、政府の金庫を豊かにするため流通しているマネーストックを増やす必要がある。しかし、だからと言って金をどんどん刷ってマネタリーベースを増やせればいいというとそういうわけにはいかない。

 それをやれば来週でもハイパーインフレーションになるだろう。

 その仕組みも一言で済ませるものではないが、今と関係ない話だから割愛する。

 そこで、残った手段は貨幣乗数を増やすしかない。

 貨幣乗数の計算方法は複雑だが、簡単に言えば国民からの貯金が多ければ多いほど、貯金準備金が少なければ少ないほど貨幣乗数が大きい。

 ここでもう一度、セアルノ商会の行動を見直そう。

「……現在、セアルノ商会はセイカラ王国全体の7割弱の商業団体から融資を受けていると思われます。融資した金額に関して、流通資産の70パーセント以上をセアルノ商会に融資した団体はすべての6割強を占めると言われます。そして、教会による審査の結果によれば、セアルノ商会は利子を除き、ほぼ全ての借金を個人を相手にに融資しているようです」

「国民がその借金を使って貴金属を買い、その利得を得た貴金属の販売企業がまたセアルノ商会に融資すると言ったところか」

 改めて見ると、やはり凄まじいな。

 このシステムを簡単にまとめると、

「サークル一回分で、全国民が持つ財産の3割くらいが教会に行ってしまったというわけか」

 市場経済的な計画経済、それが市場経済の進化の終末点であると考えている人間がいるようだ。

 皮肉この上ない話だ。

 それを成し遂げたのは、貸し渋りを解消したCDSと金融経済の役割を担う貴金属市場と言ったところか。

 しかし、改めて考えてみれば、セアルノ商会の本質は銀行というより慈善団体に見える。

 普通なら、このようなまるで教科書の内容を説明するため作られた仮想的な例みたいな安直なシステムがそもそも出現するはずはない。

 誰かが自ら進んで犠牲にならなければ、という但し書きが付くが。

 セアルノ商会が他のコミュニティから融資を受け、その財産を一般人と小規模商業団体に貸すというサークルに似ているシステムは、現実世界にもある。

 資産担保証券(ABS:Asset Backed Securities)の一種で、かの有名な債務担保証券(CDO:Collateralized Debt Obligation)だ

 CDOというのは、平たく言うと債権者が債権を担保として発行する債券の一種で、元々関係のない債務者と債券の買い手の間で連係を築く橋という役割を担っている。

 国、銀行などの債券発行体が、一般企業や大衆から融資を受ける場合、一般企業や大衆が買い手となり借りた資金を使って国や銀行が発行した債券を買う形になっている。買うと言っても、それに使った資金は最終的に債券の売り手から買い手に返却される。細部にいくつ相違点があるが、その本質はローンとあまり変わらない。

 CDOが普通の債券と違うところは、CDOに通常の利子が存在しない。その代わりに担保となった債権の信託受益権、つまり債務者がCDOの発行者に払う利子が債券の買い手に渡される。そして、もし債務者が債務不履行となる場合、CDOが破綻し債券を買うに使った金も債券の買い手の元に戻れなくなる。

 しかし、利子をそのまま全部債券の買い手に渡したら、CDOの発行者である債権者が利益を得られない。

 そこで出現したのは、CDOの格付けというものである。

 債務者が債務不履行となる確率に基づいて、CDOがいくつのグループに分けられる。確率の低いグループのCDOが破綻する可能性はほぼゼロであるが、利子の配当が低い。逆に確率の高いグループのCDOを買う場合、大きなリスクを負うことになるがその分利子は高い。

 CDOの格付けにより、債券の利子がより合理的に調整された。そして、その調整によってもし発行した全てのグループのCDOが売り切れば、CDOの発行者の手元にも一部の利子が残れる。

 セアルノ商会がCDOを発行せず、直接に融資してくれた財産を一般人に貸す場合、二つの問題が発生する。

 まず一つ目はセアルノ商会が利得を得られないことだ。

 個人からもらった利子が融資してくれた商業団体に払う利子と相殺し、黒字が見込めないどころか、セアルノ商会が人事費による赤字を甘んじて受け入れることになる。

 二つ目は債務不履行になった場合のリスクが転移されていないところだ。

 一般人や小規模商業団体が債務不履行となったところで、融資してくれた商業団体への債務が消滅するわけではない。もし債権を回収できなかったら、今回債務不履行、企業の場合は不渡りと呼ぶが、になる番がセアルノ商会に回ってしまう。そのせいで、ハナから儲からないセアルノ商会がさらにCDSにかかる金額、つまり保険料を負担する羽目になった

 セアルノ商会に融資している商業団体も、CDSを発行しているアダラエス商会も、セアルノ商会から借金を借りる個人もこのシステムから少なからず利益を得ているはずだが、セアルノ商会はどう見ても赤字で、債権を回収できなかった場合は保険賠償金をもらえるが、それも自分が負っている借金と相殺しただろう。

 このシステムでもっとも重要な役割を担っている存在は一番損をしており、その存在もそれを承認している。

 まるで景気のために貢がれた生贄だ。

 だからセアルノ商会が母体から切り離されたというわけか。

 現実世界の経済学者がこの状況を見れば卒倒することになるだろう。

 そして、セアルノ商会以上に無欲な存在は他にもある。

「税金と寄付金の還元についてをお聞きとしても?」

「結果から言いますと、調査によれば、この5年間で、国民の平均寿命が3年ほど伸び、識字率は7パーセントくらい上がりました。その他にも犯罪と失業は……」

 沈んだ顔が一転し、心の底から誇らしげに教会の功績を述べているメーティスを見て、私は認識を改めた。

(バブルが崩壊しない限り、それをバブルと呼べない、か)

 もし、教会もまたすべての税金と寄付金を様々の産業に還元すれば、このモデルは確かに回れるだろう。

 いつか必ず訪れるであろう破局までは。

「おこがましいに聞こえるかもしれないが、教会の廉潔さと有能さに賛辞と感謝を述べさせていただくと存じる」

「……え、ええ。ご理解ありがとうございます」

 藪から棒にどうしたんだとでも考えているのか、彼女が珍しく言葉が詰まった。

 それが当たり前のことなのでは?という彼女思考が簡単に読み取れる。

 しかし、私にとって、行政機関に汚職と非効率性が存在するの方こそ当たり前だ。

(最高なタイミングで最高な指導者が生まれたというわけか)

 完璧な一党制は存在しない。存在するのは優秀な指導者のみ。

(これも神のご加護とやらの力か)

 しかし、そのご加護とやらに、定められる終末を回避させるほどの力があるだろうか。

(それを考えても詮無いか)

 せめてその人の努力が報われるといいな。

 ここの流儀に倣うなら、

(願わくばセイカラ王国に幸あらんことを、か)



 4

 嬉しかった。

 現任枢機卿である父上の働きを認めてくれる人がここにもいることが。

 彼は、一部の人間に忌むべき独裁者とまで呼ばれるほど疎遠された父上の人となりを知らないだろう。それを知ったら、彼は依然として父上の功績を素直に評価してくれるだろうか。

 潔癖なほど汚職などの不正を決して見逃さず、状況によっては自分の手を同胞の血に染めることも憚らない。

 良くも悪くも、それが周りがわたしの父上に下した評価だ。

 正義に則る行動だが、取り締まられる側にとって、その姿は暴君にしか見えないだろう。

 父上がそれについてどれほどの忸怩たる思いをさせられているのかを知っているのは、もしかしするとわたしだけかもしれない。

 その衝撃的な恐怖政治に怯えている人々は、父上が昼夜を問わずにプロジェクトの審査と打診を行う姿を、部屋の中で存在するはずのない死者の霊魂に対して号泣しながらひたすらに謝罪し続ける姿を知らない。

 文字通り血反吐をするほどの激務に耐えられず、病床に伏した父上を見て、父上の思想と同調していたはずの人たちが胸を撫で下ろす姿は今になっても記憶に新しい。

 これでようやく今代の神の使徒とおさらばだ、と。

 悔しかった。

 父上がいなければ、この国はとうにハイリザードどもの奸智に飲まれていただというのに。

 それを知らずか、あるいは知っているなお無視したか、彼らは父上が成し遂げた偉業を蔑ろにした。

 しかし、わたしには、彼らを恨むことができない。

 彼らもまた、父上が守りたいと思っているセイカラ王国の一部であるからだ。

 わたしにできるのは、せめて父上の献身が水の泡に帰さないよう、最善を尽くすことしかない。

「……と言ったところか。今、アダラエス商会は手元にある債権への保険契約そのものを商品化し他の団体に販売している。それについては?」

「リスクの分担と利益の早期回収のための合理的な方針かと。国内最大手とはいえ、アダラエス商会は数多くの債権の担保を全部担う能力がありません。手元にある保険契約を他の商業団体に転売することで、大規模な債務不履行によるリスクをある程度解消できます。また、保険賠償金の決済は数年に渡ります。合計の保険賠償金より安い値段で保険契約を転売すれば、最終的に獲得する利益が減りますが、保険賠償金を早期回収することができます」

「ああ、確かに理にかなっている。アダラエス商会側にとっては、だがな。おかしいと思わないか。それなら、アダラエス商会から保険契約を買う商業団体がどうして自ら保険サービスを提供しないのだ?」

「それは……」

 態度から見て、彼はその答えを知っているだろう。しかし、わたしがわからないとはっきり言って回答を求めない限り、彼は決してそれを教えてくれないことが今までの対話を通じて理解した。

(本当にありがたいですね)

 彼がわたしの思考をなりより尊重している証拠だ。

 今日と全く逆のシチュエーションは先日あったが、今の彼を見て、その時自分の拙さを実感できる。

(全く似ていませんね)

 彼は知識を尊く思っているが、知識を持つ優越感に溺れていない。

 知識を神の恩恵と呼ぶに憚らないわたしたちと違うのだ。

 思考をまとまるために2分くらいかかったが、その間彼はわたしを急がせず、ひたすらに沈黙を保っていた。

 その期待に応えないと、

「そもそも提供できないから?」

「そう、その商業団体に保険賠償金を払う能力の見込みがなければ、そもそも保険サービスが成立しないのだ。次は、彼らがアダラエス商会からその保険契約をに買った原因について考えよう」

「……彼らは債権者ではなく、債権への担保を提供する側だからですか」

「その可能性が最も高いと思われる。債権者が保険サービスを買うのは債務不履行の発生を危惧しているからだ。つまり、債務不履行が発生する可能性が存在することを前提としている」

「しかし、担保を提供する側は債務不履行が発生しない場合で最大限の利益を得る。そのせいで、利益を欲する商業団体群が無意識のうちにリスクを過小評価しているということですね」

「そうだ。貴金属市場が近年拡大しつつあるとはいえ、ただの15%の契約違反率で団体が丸潰れる可能性があるほど危険な保険契約を抱えるのは正気な沙汰と思えない。したがって……」

「保険契約を買う行動はただ実利に走った結果であり、その実利をはるかに上回るリスクがそこに潜んでいると考えられます」

「その推測に一考する価値があると思われる」

 思えば、このような認識の更新は今日で何回目か。

 彼の誘導により、ただの被害妄想ではないかと思っていたほど漠然とした憂慮が段々とクリアになっていく。

「債務不履行に……」

 なる確率は?

(……それを直接に聞いても何の意味もありませんね)

 多分、彼ならわたしに納得できる答えをくれるだろう。

 しかし、それはわたしの判断ではない。

 価値があるのは、あくまで自分の思考で導き出したものだ。

「……まずは、国民の台所事情について考えよう」

「一昨年の内陸、半島、島地域それぞれの世帯当たりの平均年収は6300、7600、5900カンニです。5年前より18パーセント増加しました」

「貴金属市場は?」

「……あ!」

 合わない!

 貴金属の市場展開がほとんど終わっているにもかかわらず、貴金属販売に関わる商業団体の一昨年の収益がまだ国民収入の6割以上を占めている。

 ということは、

「まだ借金を積み重ねているのですか。正確に言えば、さらなる借金を使って前の借金と利子を返済し、余裕があればまた貴金属を買うと言うことですね」

「ああ、複雑な計算を省き、結論から言うと、貴金属の価格が増長し続ければ、国民が債務不履行となる可能性は全くない」

「担保の額が多ければ、借りられる借金も多くなるからですね。しかし、もしその価格の上昇が落ち着いたら……」

 天変地異。

 それしか言いようがないほど厳酷な事態が、そう遠くない将来で待ち構えている。

「先ほども言ったが、貴金属の価格を決めるのは市場メカニズムではない」

「民衆が、その価格が高騰し続けると盲信する限り、いくら供給を増やしても、その価格が落ちないというわけですね」

「しかし、それでも貴金属の価格に上限が存在する」

「ない袖は振れぬ。貴金属売買以外の経済活動が全部止まったというわけではありません。市場全体の規模は不変であり、食料などの必要不可欠な市場と貴金属などの奢侈品の市場の二つの部分に分けられます。もし、貴金属市場の規模が後者の全体を占めるまで成長し、前者にまで影響を及ぼすことになったら……」

「セアルノ商会とセアルノ商会に融資している商業団体の金庫が先に底を突くことになるだろうな」

(やはり……!)

 今になってわたしがようやく事の全容を見えてきた。

 セアルノ商会の所行を見て、わたしは途轍もない恐怖を覚えたが、父上はそれを杞憂だと一蹴した。

 思えば、それはわたしと父上との最初そして最後の意見の食い違いだった。

 父上の方が正しいであってほしかった。

 しかし、悲しいかな、現実はそう優しくない。

残念ながら、貴金属の価格までにまだ時間が残されているとはいえ、事態がここまで進行した以上、無傷でそれを収束させるのは不可能に等しい。

 (それでも、まだ挽回の余地がある……!)

 状況により取るべき解決策はそれぞれ異なるが、それを実行するための前提条件はほぼ共通している。

 解決策を知らなくとも、いざの時のためにカードを増やすことは可能だ。

 如何なる事態に備えるため、父上はまだ幼いわたしの提案を飲み、セニスを私有化し、準備してきたのだ。

 今の状況を把握でき、将来に発生する事態を収束させるための方法もはっきりした今、その方針が間違っていないことが明らかになった。

 そして、状況の整理に付き合ってくれた彼のおかげで、解決策による反動もある程度予想できた。

「全面戦争……!」

 通貨切下げによってもっとも深刻な悪影響を受けるのは、セイカラ王国ではなく、通商条約が結ばれたハイリザードのセサスシ帝国だ。

 彼らはその不信行為を許すわけにはいかないだろう。

 万全の準備が整っていると言えない。

 しかし、だからといって降伏するわけにはいかない。

 こんな時だからこそ、わたしが、神の使徒と持て囃された存在が身を挺して国を守らなければ。

 父上が、そうしたように。

「……そうか、教会はカンニを製造して保険賠償金を肩代わりすることを決めたのか。準備しているなら心配する必要はないな」

(……!)

 迂闊で口から漏れた独り言を聞くだけで、彼はこちらの事情についても全部把握できたようだ。

 最初、ウートゥルという男は何らかの手段でセアルノ商会の機密を知った下っ端で、その機密とやらを使って一儲けをしようと思っている一般人でしかないと思った。

 近い頃、セアルノ商会がセニスを襲撃する情報を得て、それを利用してカンナビス商売しようという魂胆が透けて見える。

 カンニの原材料である新鮮なカンナビスを確保することについて神経質になっていなければ、わたしもそれに気付かなかっただろう。

 幸い、この男のお陰でセアルノ商会の計画を知ることができた。

 警備の補強はすでに伝令により手配した。

 後はこの男を餌として使い、何らかの大物を釣ることを期待していたが……

(彼自身がその大物とは想像もできませんでした。セアルノ商会の管理階級かそれ以上の職位を務めた経験があるだからこそ、彼がこれほどの情報を持ち、知恵にも優れているでしょう)

 彼の外見は20代しか見えないが、その雰囲気は老成しており、実際の年齢は30を超えていると言われても不思議と思わない。

 その彼が、この敏感な時期で呑気にカンナビス商売をしているということは、

(仲違いをしましたか)

 愛国心か、はたまた別の理由か、彼はこの事から降りたようだ。

 幸運に思おう。敵に回したら彼以上恐ろしい人間はいないだろう。

 そして、情報の開示に応じたのに、それだけを頑なに打ち明けしてくれない理由は、

(仲違いしたけれど、古巣への最低限の義理は立つと言ったところですね。律儀な人)

 もうここまでの答え合わせをしてくれたのだ。これ以上の協力を求めるのは無粋でしょう。

 最初からその責務を背負うと決めたのだ。今更他人の助力の有無でその心構えが揺らぐはずがない。

 揺らいではならないのだ。

「最初の話に戻るが、シチュエーションと考え方一つで価値が変わるのは何も貴金属だけではない」

(……?)

 もちろん、今ならそのことをよく理解しているつもりだが、彼が今更それを蒸し返す理由がわからない。

 まだ何か自分が見落とたものがあるだろうか。

「メーティスという人間への思いもまた、人それぞれだ。自身の価値を過小評価するのはよくないと言わない。しかし、あえて言おう、君と多くの時間を共有し、君を大切に思うあのニーサという少女のためにも、それと君と出会うのはつい最近で、しかし君を尊く思う私のためにも、もう少しご自愛をなさっていただきたい」

「……!」

 そう言いながら、彼はポケットからハンカチを取り出し、いつのまにか血が滲むほど握り締めたわたしの拳を軽くほぐした後、浅い傷跡をなぞるように血痕を拭き取った。

 自分の精神状態の管理を疎かにしたことについて恥ずかしく思うが、それをはるかに上回るほど、その言葉と動作がわたしに与えた安らぎが大きかった。

 戒めに聞こえるほど厳しい言葉も、聞いた人間に怯えさせるほど威圧感がある普段で使わない上品な口調も、柄のない真っ白なハンカチを握る手の無骨な動きも、

(まるで父上のようです……)

 その言動がわたしに莫大な安心感をもたらした。

 けれど、

(……全く、女性の扱いを分かっていませんね)

 普通の女性なら、言葉の意味を考え、彼の深い悲しみに気づく前で手を引いて反抗したに違いない。

(そもそも自分は彼に女性として扱われてないかもしれない。いいえ、きっとそうです)

 最後のプライドを絞り出して気持ちを奮い立たせる。

 普段なら自然に維持しているポーカーフェイスを装着し直す。

 よし、今回こそ、諧謔の効いた皮肉を返してやりましょうか。

 と意気込んだところ、

「思い詰める必要はない。君なら大丈夫だ。信じている」

 今まで彼が見せてくれた完璧な作り笑いと全く違う本心から来たぎこちない微笑みが目の前にあった。

「……善処します」

 残念ながら、これが今のわたしの精一杯のようでした。


 PS.ちなみに二人が全く気づかない外野の状況といえば、

「メイちゃんもうサービスエリアに到着したよ。なんか二人の話がなかなか終わらなくてそのまま出発しっておおおぃ、これどういう状況?血?血だよね?メイちゃうを傷付いたよね?殺しもいい?よし、ここにて宣告する、ウートゥルは以下省略極刑に処する。いざ!痛っ」

「やかましい」

 馬車の前で真剣を取り出したニーサに鉄拳制裁を下したウォッカの姿がいた。

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