#8 ズィルバアイ
シルバーフレームのメガネは力を封じるアイテム。その名は『ズィルバアイ』といいます。
それを外して力を解放したダンはエネルギーフィールドの中で真の姿に変身します。
まず、着ている服ごと全身がGN28星人にとっての血液である翡翠色の結晶体と化しました。
次に周囲を囲むエネルギーフィールドから出てきたのは大量の銀色のパチンコ玉です。
四方から飛び出し、翡翠の結晶体となったダンの全身を覆い尽くしていきます。
パチンコ玉の正体は、細胞よりも小さい無数の増殖型液体金属の集合体でした。
皮膚のように柔軟で鎧のように強靭なそれは、装着した者のリームエネルギーを吸収する事で、ダンの意のままに変化増殖させる事ができるのです。
エネルギーフィールドが解き放たれ、中から現れたのは鋼の皮膚を纏う金属生命体でした。
身長は一八〇センチ程。肩幅広く、大胸筋や上腕三頭筋、大腿部等は美しく鍛え上げられ、神話に出てくる神々の彫像のように太く逞しい姿をしています。
頭部はお椀をひっくり返して頰当てをつけた古代ローマ兵の兜ガレアに似ていて、頭頂部には赤い三日月型の飾りが垂直に付いていました。
その地球の守護者であり鋼の戦士の姿から、人々からはこう呼ばれています。
『 揺るぐことのない正義 』と。
鈍角三角形を上下ひっくり返し、斜め四十五度に傾けたような黄色い瞳でアンヌの方を見ました。
彼女の、漣を立てているであろう心を鎮める為に深く頷きます。
するとアンヌもわかってくれたのか頷き返してくれました。
背中に装備されたU字状の飛行機関、反重力発生装置が緑色に発光し、地面に土煙を上げながら瞬時に地上を離れます。
一瞬だけ地上を見ると、最愛の人は避難を促されてもまだ空を見上げていました。
必ず帰ってくるから待っていてくれ。
そうスティール・オブ・ジャスティスが心の中で語りかけると、それが通じたのかアンヌはメイド達に先導されて避難所がある方へ歩いて行きます。
これで思い悩む事はなくなりました。
スティール・オブ・ジャスティスは更に加速して、大空の戦場へ向かいます。
午後の空に、戦闘の証である光が星空のように瞬いていました。
赤い線が走る度に星が一つ生まれます。
事情が知らぬ者が見たら、さぞ美しいと思うでしょうが、実際には星が生まれる度に尊い命が消えていたのです。
十秒足らずで高度一万メートルに達すると、そこでは防衛空軍のF-15Jが、イレイド星人の金色の円盤と空中戦を繰り広げていました。
F-15Jと円盤の機動力の差は絶望的で、機関砲を撃っても当たらず、何とかロックオンして発射したミサイルも軽々と避けられ、そのまま後ろに回られてしまいます。
左右に回避行動を取っても引き離せず、全長二十メートルの機械仕掛けの鷲が、十メートルの金のパンケーキに追い立てられていました。
円盤の上部に付いた二つの触覚から赤い光が放たれて一つに合わさり、稲妻のような形の赤色光線が放たれます。
地球製の戦闘機に光線を回避する装備などなく、後部のエンジンに被弾、爆発して黒煙を放ちます。
まだ飛ぶ事はできるようですが明らかに虫の息でした。
被弾したF-15はなんとか逃げようと機首を巡らせるが、円盤は手心を加える気はないようで、追撃の手を緩めません。
エンジンの推力がどんどん落ちていき、速度が失われていきます。
後ろから追いかける円盤は、確実を期すためか、それともいたぶっているのか、なかなか攻撃しようとしませんでした。
F-15Jの機体が左の主翼を下にして斜めに傾きます。
あと少しで揚力を失い墜落しそうです。その弱り切った姿を見て、円盤の触覚が光り始めました。
その円盤が光線を撃つ前に爆発しました。絶体絶命のF-15Jを操る二人のパイロットが見たのは、爆風の中から現れた人型の鋼の生命体でした。
火を噴く防衛空軍の戦闘機を助ける為に、スティール・オブ・ジャスティスは音速を超える弾丸となって円盤に体当たりし、これを撃破したのです。
事前に円盤は透視して無人機だと分かっているので躊躇う事はありません。
戦闘機のキャノピーに近づいて見ると、二人のパイロットはダンの方を見上げていて、どうやら無事のようでした。
しかし安心したのもつかの間、エンジンが止まったのか、戦闘機が引っ張られるように高度を落とします。
更に被弾した箇所から火の手がどんどんと広がり、二人のパイロットに迫ります。
パイロット達は脱出しようと手を動かしているようですが、脱出装置が故障したのか、キャノピーを手で叩いてるのが見えました。
その間もF-15Jは高度を落とし、炎に包まれていきます。
「今助ける!」
スティール・オブ・ジャスティスはキャノピーの縁に両手を差し込み、そのまま力任せに涙滴形の風防を外しました。
「両手でベルトを掴むんだ!」
二人の座るシートの背もたれを掴み、そのまま引き上げげて座席ごと救い出します。
主人を失ったF-15Jは全身を炎に包まれて大爆発し、辺りに燃えた燃料と破片をまき散らしていきます。
脱出装置が息を吹き返したのか、スティール・オブ・ジャスティスの手の中で座席のロケットモーターが点火。手を離すとそのまま上空に上がり無事にパラシュートが開きました。
同じ高度に上がって様子を見ると、一人のパイロットは右目のあたりを手で押さえているが元気そうで、二人共手を振っていました。
無事を確認したスティール・オブ・ジャスティスは戦いの続く大空に舞い戻ります。
敵の数は二十七、対する防衛軍の戦闘機は十機しかいませんでした。
戦場は敵味方入り乱れ、こんがらがった糸のような乱戦状態になっていて、八十年前から現役の戦闘機にしては善戦していましたが、イレイド星人の円盤相手にはこれが限界のようでした。
スティール・オブ・ジャスティスは、足を閉じて脇を締め、放たれた矢のような姿勢で戦場に飛び込みます。
F-15Jを追い回す円盤の前に飛び出し、射線を遮ってから拳で円盤に大穴を開けて破壊していきます。
他の戦闘機を追っていた円盤二機の内一機を両手で掴み、隣の円盤に投げつけます。
スティール・オブ・ジャスティスが優先していたのは、不利になった味方の戦闘機の救助です。
一機のF-15Jが破壊され、爆発の中から脱出したパイロットの姿が見えた。円盤が抵抗できないパイロットに向けて光線を放とうとしています。
スティール・オブ・ジャスティスはすぐさま接近して、触覚のような光線発射装置を掴み、円盤に向けました。
自ら放った光線を浴びて円盤が爆砕しました。
破片が当たったのか、脱出したパイロットのパラシュートが、大きく裂けています。
そのまま凄いスピードで落下していくのが見えたので、すぐに追いつて救助し、ビルの屋上に着地しました。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう」
「すぐに救助が来るはずです。ここを動かないて」
頷くパイロットを透視して大きな怪我はしていない事を確認すると、スティール・オブ・ジャスティスはすぐさま戦場に戻りました。
首都上空の戦いは防衛軍が有利となっていました。円盤は逃げ惑い、F-15Jが犬の尻尾を追いかけるように追い回しています。
戦場に戻ったスティール・オブ・ジャスティスは近くの円盤を体当たりで破壊し、両手でパンをちぎる様に軽々と半分にし、ナイフでパンケーキを切るかの如く、チョップで最後の一機を真っ二つにしました。
高度一万メートルの空には円盤の姿はなく、防衛軍のF-15J七機が無事な姿を見せていました。
戦闘機に見送られながら、スティール・オブ・ジャスティスは更に高度を上げ成層圏を超えていくのでした。