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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第0話 《光臨 地球を救う者》 〜略奪宇宙人イレイド星人、改造怪獣メカキョウボラス 登場〜
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#7 無事を祈るおまじない

  太陽が西に傾き始めても、二人の話は尽きる事がなく、庭園には幸せそうな笑い声がこだましていました。


 そんな幸せな時を過ごしているのに、ダンはどこか上の空です。


 理由はアンヌにどうしても渡したいものがあったからでした。


  この平穏で穏やかな時間が続いている内に渡そうと決めていたのです。


 けれどもタイミングがなかなか掴めず、更にアンヌとの会話はしていると心が弾み、中断するなど以ての外。


 ずっとこのまま心地良い時間に浸っていと思っていしまいます。


  それに自分の懐に抱く()()を渡そうと思っただけで、顔から火が出そうになってくるのでした。


 その顔を見られたのか、会話を中断してアンヌが尋ねます。


「顔が赤いけど、熱でもあるの?」


「違う。いや違うんだ」


  ダンは言い訳を考えたが、逆にこれが良いきっかけだと気づきました。


「アンヌ聞いてくれ――」


  意を決してダンが懐に手を伸ばした時です。


 今まで二人を静かに見守っていた小鳥――冷凍保存された遺伝子から蘇ったもの――達が突然一斉に羽ばたきました。


 ダンは会話を途中で止め、飛び立った鳥達を目で追います。


 アンヌは、その様子を不審そうに見ていました。


「……ダン? どうしたの?」


「ん? いや、何でもないよ」

 

 見上げた視界には大空を優雅に泳ぐ雲と、高度一万メートルで飛行機雲を引く鋼鉄の鳥の姿が見えました。


  どうやら戦闘機のようです。


 ダンは記憶の引き出しを開けて、上空を飛ぶ戦闘機が連合防衛日本空軍の主力戦闘機F-15Jだと見当をつけました。


 平和な空を戦闘機が飛ぶ。これは異常事態が起きた事を知らせていました。


 ダンは、蜂蜜のように甘い時間に終わりが来た事を悟ります。


  まろやかな温もりに包まれて解れた(ほぐれた)気持ちを、今一度引き締め直しました。


  アンヌはその気配を感じ取ったのか、ダンの指に自らの指を絡めてきます。


「何か起きたのね」


 ダンは何でもないと言いたかったが、アンヌに嘘をついてもすぐ見抜かれてしまう事に気づきます。


「うん。どうやら地球に、新たな脅威が迫っているようだ。それもすぐそこまで来てる」


  その言葉を待っていたかのように、二人だけの庭園に向かって、紅葉のトンネルを歩く集団がいた。


 日本は勿論、アメリカ、フランス、イギリスなど様々な国籍の女性達で、全員に共通しているのは、宝石のように見目麗しいだけでなく白と黒のメイド服を着ています。


  キビキビと無駄のない動きは、全員が軍人という証拠でした。


  十人のメイド達はアンヌの身の回りの世話をするだけでなく、その身を呈して彼女を守る役目を受け持っていました。


  ダンはメイドの一人に渡されたノートPCを開く。画面に表示されたのは三日前に打ち上げた人工衛星が映したと思われる宇宙空間の映像です。


  時間は今から三十分前の出来事のようでした。

 

 最大望遠で撮られた粒子の荒い映像に、こちらに迫る金色の飛行物体の姿が映ります。


 数は画面に映っているだけでも、軽く五十を超えていました。


 よく見ると同じ形の円盤に混じって一際大きな姿を見つけます。


 画像が荒くて詳細は分からないが、円盤の数倍の大きさがあるようです。


 時間が経つにつれて数はどんどんと増え、突然金色の飛行物体の一機が近づいてきました。


  形は金色のパンケーキのような円盤で上部にはナメクジの触覚のようなものが二つ付いています。


 目のあたる部分、触覚の先端にある赤い発光体が光った瞬間、映像が途切れてしまいました。


 一緒に画面を見ていたアンヌが口に手を当て、息を呑みます。


 ダンは彼女を安心させる為に、その手をしっかりと握りました。


「遂に来てしまったようだ。もう少し時間があるかと思っていたけれど」


  ダン達の予測だと、後一年はヴェルトオヴァールの存在は見つからないと思っていたのですが、甘い予測など当てにならないと痛感するだけでした。


「金色で触覚の生えた円盤、恐らくイレイド星人の戦闘兵器だ。ヴェルトオヴァールの力を嗅ぎつけたか」


  ダンはメイドの一人に質問します。


「防衛軍の対応は?」


  ノートPCを持ってきたメイドが緊張を微塵も感じさせない固い口調で答えました。


「はい。すでに各国の防衛軍は防衛体制を整えていますが、円盤は世界各地に向かい、ここ日本には、三十機ほどが東京(こちら)に向かって来ています」


  人工衛星を配置したことが功を制したようです。


 たった三日間の活躍だったが、宇宙を監視する目がなければもっと対応は遅れたでしょう。


「確実に奴らはヴェルトオヴァールを狙ってくるぞ。そちらの方はどうなっている?」


「はい。陸軍が街に展開し、空軍が都市上空で迎撃態勢を敷いています」


「分かった。僕もすぐに行く。彼女の事を頼みます」


  十人のメイド達は、一糸乱れずに深々と頭を下げた。


「「お任せください」」


  その返事に確かな自信を感じたダンは、振り返ってアンヌと目を合わせます。


「行くのですね」


  ダンはアンヌの黒曜石の瞳に浮かぶ雫をそっと拭いました。


「ああ。行かなければ。今の人類の戦力ではイレイド星人には敵わない。奴らは他の種族をなんとも思っちゃいない。このままではヴェルトオヴァールを奪われ、人類は地球は滅んでしまう」


「私に力があれば一緒に行けたのに……」


「アンヌ。君にはとても大事な役目があるだろう。目の前の脅威を退けるのは僕の役目だ。だから君は戦いが終わるのを待っていてくれ」


「……はい。はい」


  アンヌは納得しようと努力しているが、それでも溢れる涙は止まりそうにありませんでした。


「ごめんなさい。戦いから帰って来た貴方と無事に再会できたのに、もう帰ってこないんじゃないかと思ってしまって、ごめんなさい」


  そんな彼女を見てダンの中で愛しさがこみ上げ、メイド達がいるのも構わず、アンヌを落ち着かせる為に抱きしめました。


「安心してくれ。君を置いて死んだりしないよ」


「本当に?」


「ああ、本当だとも。さあ泣かないで。僕達は『みんなの希望』なんだ。そんな顔でいいのかい? 」


「そう、そうよね。みんなの希望の私が泣いてちゃ駄目よね」


  アンヌは目を擦る。強くこすりすぎて少し目の周りが赤くなっていたが、その笑顔に涙の跡は見えませんでした。


  ダンはアンヌの肩に両手を置きます。


「その笑顔を忘れないでくれ。みんなを守る者は悲しい顔はしては駄目だからね。そうだ。一つお願いしても?」


「何?」

 

  ダンはアンヌの耳に顔を寄せて囁きます。


「無事を祈るおまじないを頼みます」


  途端にアンヌの顔が一瞬にしてリンゴのように赤くなった。


「こ、ここでですか?」


「はい。駄目ですか?」


  アンヌはこちらを見守るメイド達の方を見て、益々顔を赤くしました。


「い、いえ。そんな事はありませんが……その人の目が」


「じゃあ、仕方ないですね」


  わざとらしくため息をついて立ち去ろうとすると、アンヌが慌てて呼び止めます。


「ま、待って。分かりました。しますから」


「ありがとう。では、お願いします」


  二人の会話を聞いて十人のメイド達はさりげなく背中を向けていました。


  アンヌはそっと近づいて、その場に跪いたダンの顔に両手を添えます。


  そのままゆっくりと顔を近づけて、ダンの額に軽く口づけしました。


 これがGN28星に伝わる無事を願うおまじないです。


 顔を戻す前にアンヌが小声で囁きました。


「無事に帰ってきてください……あとイジワルしないで」


「ごめんごめん。それと、帰ってきたら君に伝えたいことがあるんだ」


「伝えたい事?」


「うん。とっても大事な事なんだ。帰ってきたら伝えるから覚えていてくれ」


  アンヌが「分かったわ」と返事すると、背中を向けていたメイド達が振り向いてこちらに歩いてきます。


「じゃあ行ってくる。危ないから離れていて。彼女のことを頼みます」


  メイド達に守られながらその場を離れるアンヌが見守る中、ダンは庭園の中央に立ちました。


  そして、いつもかけているシルバーフレームのメガネ《 ズィルバアイ 》を外します。


  すると、その忌まわしき威力のせいで封印された核兵器の直撃にも耐えるエネルギーフィールドがダンを包み込むのでした。

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