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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第0話 《光臨 地球を救う者》 〜略奪宇宙人イレイド星人、改造怪獣メカキョウボラス 登場〜
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#6 イレイド星人、地球を狙う

 世界の源(ヴェルトオヴァール)によって救われた地球を宇宙から見ると、弓なりの大陸の中心から緑の光点が見えます。


 数万光年離れた先からでも見えるそれは、宇宙で過酷な環境にある者にとって喉から手が出るほどの希望の光でした。


  太陽から約十四億キロ離れた土星の――無数の氷の粒で作られた――輪に身を隠すように、イレイド星人の住む金色の都市型宇宙船が紛れています。


  十のドームが通路で連結されたその姿は、上から見るとぶどうの房のようでした。


  それぞれのドームの中には東京と同じ面積の都市が収められ、約一千万人が住んでいます。


  一億のイレイド星人は自らの母星の資源を食いつぶし、他の惑星から略奪を繰り返す宇宙の放浪者でした。


  小さな暗い部屋に明かりが灯ると、豪華な宝石が散りばめられた杖を持つイレイド星人がいます。


  白い胸部に黒い二本の手足。シルエットは人間に近い。ですが、最大の違いはその頭部でした。


  身長は一六〇センチほどだが、指サックに似た頭頂部から伸びるのは、ナメクジのような二本の触覚です。

 

  そのせいで約十センチは大きく見えます。


  イレイド星人は、触覚の先にあるガラス玉のような目でスクリーンに映し出された青く輝く直径約十三キロの宝石に、欲望むき出しの視線を送っていました。


  部屋の扉が開いて、副官のイレイド星人が入って来ます。


  杖を持つイレイド星人は、ホームベースのような口を赤く点滅させました。


「スパイからの情報は?」


  副官は僅かに触覚を下げて答えます。


「はい。予想通り、GN28星人は度重なる連戦により、その力を失っているようです」


「ならば今こそ、ヴェルトオヴァールを手に入れるチャンスだ。侵攻の準備は整っているな?」

 

 背中越しに聞こえる副官の返事からは、隠しきれない怯えと恐怖が混じっていました。


「はい。しかし……本当に彼等の指示を無視してよろしいのですか?」


「これ以上、()()()()()()に付き合ってられるか! 我々の資源は二十年以内に底をつく。悠長に待っている時間などないんだ! 行くぞ」


  二人のイレイド星人は暗い部屋から退室しました。直後、都市型宇宙船から百を超えるハゲタカの群れが飛び出します。


  目的地は太陽系第3惑星地球です。


  西暦二〇五二年。食材が旬を迎える秋。


 真上に登った太陽が柔らかな朝日が街を照らす頃、一人の男性が山の上にある五階建ての洋館――元々五つ星のホテルをVIP専用に改装したもの――を背景に赤と黄色の紅葉のトンネルを進んでいました。


 歳の頃は二十代前半でしょうか。


  前髪は額にかからず、サイドとバックを刈り込んだ黒髪は、スッキリとした印象ながらも、詰襟で堅い雰囲気の服と背筋を真っ直ぐ伸ばして歩くその姿から頼りなさを感じさせません。


 四角く細長いシルバーフレームのメガネ奥の黒い瞳が捉えたのは、庭園で遊ぶ複数の人の姿です。


 美しい花々と(かぐわ)しい香りに包まれた庭園にいるのは、数人の子供達と純白の清楚な雰囲気のドレスを着た女性の姿でした。


 女性は二十代くらいに見えるが、子供達と遊ぶその笑顔は純真さに満ちていて、十代の少女そのものでした。


 そんな彼女の姿を見ていると、心の中の汚れが一気に洗い流されていくようで、動かす足も自然と早くなっていきます。


 向けられる視線に気づいたのか、腰まで届く赤茶の髪を持つ女性が、不意に動きを止めて子供達に向けていた顔を上げました。


 凛とした雰囲気を纏うシャープな顔立ちにみるみる笑みが浮かび、黒曜石の瞳を潤ませた表情は、少女から、最愛の者と久しぶりに会えた事に胸をときめかす女性へと変化していきます。


 事態を掴めぬ子供達がポカンとする中、赤毛の女性はヒールを履いたまま走り、両手をめいいっぱい広げて彼の胸の中に飛び込んで行きました。


「お帰りなさい! ダン!」


  体当たりのような衝撃を受け止めたダンは、白い手袋をはめた両手で、彼女の存在と感触と匂いを確かめる為に、強く強く抱きしめます。


「ただいま帰りました。姫」


  姫と呼ばれたアンヌは、ダンの着痩せした逞しい胸から顔を上げ、不機嫌そうに頬を膨らませます。


「もう、私がお姫様だったのは二年前まで。名前で呼んでって言ったじゃない。戦いに明け暮れて忘れてしまったの?」


  ダンは忘れていたことが恥ずかしくなって、自らの後頭部を掻きました。


「ああ、そうだったね。すっかり忘れていたよ」


 頬を膨らませていたアンヌは、再び彼の胸に顔を埋めます。


「もう。でも無事でよかった。怪我とかはしてない? 一週間前に帰るって言ってたのに、帰ってこないから心配してたのよ」


  地球の環境を蘇らせても、それで万事解決とはいきませんでした。人類の長年の脅威であった正体不明の巨大生物《 怪獣 》もまた劣悪な環境を生き延び、活動を再開していたのです。


 人類にとっては天災に次ぐ悩みの種であった――それでも現用兵器で何とか対処可能であった――が、それを取り除く為にダンは日本を始め世界中に蔓延る怪獣達を、連合防衛軍と共に駆除していたのでした。


「ああ、大丈夫。先日最後の一匹を倒した。それで全てさ。もう地球に、人類にとっての脅威は残ってない」


 一週間前、ハワイ諸島周辺の古代帝国の守り神と噂されていたウツボ怪獣ムネークを倒し、()()を済ませてから、文字通り音速を超える速さで愛する女性(ひと)の元へ帰ってきたのだです。


「久しぶりにゆっくりできるよ。君にはたくさん話したいことがあるんだ。宇宙から見ただけでは知り得ないこの世界の色々な事をね」


「それは是非聴きたいわ。でもゆっくりしていて大丈夫なの? もし新たな()()が現れたりしたら」


  アンヌの言う脅威とは地球の外にいる者達のことです。


  ダンは、アンヌの絹糸よりも滑らかな赤茶の髪に指を絡めながら答えました。


「大丈夫。その為に彼らには備えをしてもらってる。何かあったらすぐに知らせてくれる手筈になってる」


 世界が復興すると同時に、散り散りになった人々は一つにまとまって連合政府を樹立し、GN28星の技術供与によって軍備も増強され、各国の軍が一つにまとまった連合防衛軍を設立していました。


 つい三日前には、地球軌道上に偵察衛星を打ち上げたばかりです。


  その目的は、愚かな同族争いのためではなく、いずれ宇宙からやってくるであろう新たな脅威に備えてのことでした。


  アンヌはダンの胸から脱すると、彼の右手を引いていきます。


「じゃあ、ここでお話を聞かせて」


  アンヌに手を引かれて近くのベンチに座りました。


 先程まで遊んでいた子供達は、洋館に住み込みのメイドに連れられて、その場を離れており、公園にはダンとアンヌの二人しかいません。


「いいよ。ところで、さっきの子達は児童養護施設の子達かい」


「ええ。近くに施設があってね。時間がある時には一緒に遊んでいるの。みんな、とっても可愛いのよ」


 第三次ベビーブームによって出生率は飛躍的に高まっていたが、全ての子供が幸せになれたわけではありません。


  三十年ぶりに行われた調査によって分かったのは、劣悪な環境のせいで多数の地下シェルターが崩壊し、大国を含むいくつもの国が滅んでいました。


  そして親を亡くして、飢えた子供達が数多く保護されたのです。


 アンヌはそんな身寄りのない子供達を庭園に招待し、ひと時の安らぎを与えていたのでした。


「あの子達にも聞かせてあげたほうがよかったかしら? とくに男の子達は貴方のこと大好きなのよ!」


  アンヌは、ダンの人気の大きさを表すように両手で大きく円を作ります。


 ダンは自分の行動に誇りを感じながらも首を小さく横に振りました。


「うん。でもそれは後日でいいかな」


  そう言って熱を込めた視線を送る。今はアンヌと二人っきりでいたかった。彼女を独り占めしかったのです。


 マグマのような熱い願いが通じたのか、アンヌは頰を淡く染めてダンの手に自分の手を重ねます。


「もうダンったら。じゃあ、今度みんなを呼んでヒーローショーやりましょう。もちろん貴方は主役で出るの」


「分かった。その時は()()して出るよ」


「約束よ」


  アンヌは小指を伸ばした右手をダンの前に持っていきます。


「これは?」


「子供達が教えてくれたの。約束を必ず守る儀式。さあ小指を出して」


  アンヌは半ば無理やりダンの小指に自分の小指を絡めてから歌いだします。


「♪ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼんの〜ます ゆびきった♪」


  アンヌは凛とした優しい声で歌い上げました。


「ダン。嘘ついたら針を千本飲んでもらいますからね?」


  その一言でダンの心臓に千本の針で貫かれたような衝撃が走ります。


「ええ!」


  アンヌはそんな彼の驚く姿がよほど面白かったのか、涙を浮かべながら大笑いしました。


「うふふ。冗談、冗談よ。でも約束守ってね?」


  ダンはその一言に心底救われた気がした。同時に絶対約束を守ろうと頭の中のノートにしっかりとメモします。


「冗談きついよ。全く」


  木漏れ日に佇むベンチに寄り添って座る二人を祝福するように優しい風が吹きます。


それに混じった花の香りが、彼等二人だけの隔絶した世界へ誘っていくのでした。

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