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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第0話 《光臨 地球を救う者》 〜略奪宇宙人イレイド星人、改造怪獣メカキョウボラス 登場〜
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#5 エレベーターで地下へ

「その防護服から出ている音はなんだ?」


  兵士達はパニックに陥り誰も答えてくれません。


  銀の生命体は側にいたゲンブの肩を揺さぶってもう一度訪ねます。


「一体何が起きているんだ⁈」


  ゲンブは灰色の赤鉄鉱の瞳を絶望の色に染またまま答えました。


「もう、俺達は助からないんです」


 ゲンブは、その一言を口に出した事で、現実を受け入れたのか静かに話し出します。


「俺達が着ている防護服は、旧式の宇宙服を改造した物で活動時間は三十分が限界なんです。この音は、後五分で生命維持装置が停止する事を知らせているんです」


「どうすれば助かる?」


「地下直通のエレベーターがこのビルの一階にあります。そこまで行ければ……」


  ゲンブは自分達が通った階段への出入り口を見て首を振りました。


「でも無理だ。後五分じゃどんなに早く走っても間に合わない……」


  屋上から一階までは十四階分降りなければなりません。高さにすると約四十二メートル。人間の足ではどれだけ急いでも到底間に合いそうにありませんでした。


  彼らの足では間に合いそうにありませんが、二人の力を使えば助ける事ができるでしょう。しかしこのパニック状態のままでは助ける事はできません。


 あるものはへたり込み、あるものは人目を憚らず泣いている兵士達に姫がゆっくりと歩み寄ります。


「皆さん。泣いていては駄目。立つんです。一緒にここから脱出しましょう」


 九人の兵士は、姫の言葉に微かな希望の光を見出したかのように一斉に顔を上げます。けれどゲンブが現実に引き戻してしまいます。


「無理ですよ。そんな事出来るわけないじゃないですか!」


  姫は、ゲンブのガスマスクに覆われた頭に手を置いて、ぐずる子供をあやすような口調で語りかけます。


「やる前から無理と言っては何にもできなくなってしまいますよ」


「けど、じゃあどうすればいいんですか」


「私達が力を貸しましょう。出来ますよね?」


  姫が銀の生命体の方に視線を向けると、涙目の兵士達も一斉にそちらを見ました。


 銀の生命体は、兵達の視線から発せられるプレッシャーに臆することなく頷きます。


「僕達なら、君達をここから脱出させることが出来る」


 その力強い言葉に、兵士達が希望という活力を得たかのように拳に力を込めます。それを確かめながら銀の生命体は続けました。


「みんな立つんだ。そこで座り込んでいても死を待つだけだぞ。まずは階段まで行こう。さあ立って」


「皆さん。さあ立ちましょう。私達が無事に貴方達を帰してあげます」


 銀の生命体は隊長を背負い、兵士達を引き連れて階段まで歩くと手摺から身を乗り出して下を覗き込み、邪魔な障害がないことを確認します。


  問題ないことを確認して、後ろに集まった兵士達を見渡しました。


「手順はこうだ。僕達で分担して君達を下に降ろす」


  ゲンブが銀の生命体の方を見て反論します。


「一人ずつ下ろしていたら間に合わないんじゃ」


「一人ずつとは言っていない。ここにいる全員を一度に一階まで降ろすんだ。五人は僕に掴まって。姫、四人お願いできますか?」


「もちろん。さあ、こちらへ来てください。大丈夫です。何も怖くありませんから」


  四人が姫の身体にしがみついたのを確認すると、心臓の鼓動が早鐘を打っている音を捉えます。彼らはまだ十代、思春期を迎えた少年達、恐らく恐怖の所為だけではないのでしょう。


 銀の生命体は自分が受け持つ五人がしっかり掴まったことを確かめます。


  今もアラームは鳴り続け、時間は既に一分を切ろうとしていました。


「じゃあ降りるぞ。絶対手を離すなよ」


  銀の生命体は手摺に足をかけると、背負った隊長を入れた六人と共に躊躇なく飛び降りました。


  周囲から一斉に悲鳴が上がる中、胃が飛び出していきそうな勢いで落ちて行きます。その中で冷静だったのは銀の生命体だけでした。


  周りの兵士達はもう助からないと諦めたのか、ずうっと悲鳴を上げ続けていました。


  そんな彼らの予想に反して、衝撃を吸収する為に膝を軽く曲げた着地は、とても十四階から降りたとは思えないほどスムーズです。


  銀の生命体に掴まっていた五人の兵士達は惚けた様子で自分の身体を見回しています。


「よし着いたぞ。エレベーターはあそこか?」


  銀の生命体が指差したところを見て、ゲンブがフラフラしながらも頷きました。


「はい。俺たちが乗って来たのはアレです」


 エレベーターはビルにあったものを改良したもので、土偶のような防護服を着た彼らが二十人入っても余裕がありそうです。


「よし。じゃあ早く乗るんだ。急げ!」


 銀の生命体は、五人がエレベーターに乗り込んだのを確認してから上を見ると、姫が四人と共に降りて来ます。


  残りの四人を押し込み、全員が乗ったのを確認してドアを閉めるとエレベーターは下降を始めます。


  その時には生命維持装置の寿命はあと三十秒しかありませんでした。

 

  箱の中で、二十二の目はエレベーターのパネルに表示された深度に集中していました。


 30、40、50メートル。まだアラームは鳴り止まない。兵士達は小声で「頼む頼む」と祈るように手を合わせていました。


 80、90、100の数字が表示されると同時に耳に残るアラームの不快音が止まります。


  残り五秒でした。


  ワァ、と狭いエレベーター内が歓喜の渦に包まれました。


  兵士達は両手を挙げて力強くガッツポーズをし、自分達が灼熱地獄で蒸し焼きにならなかったことを喜び抱擁を交わしています。


 銀の生命体は姫の肩を抱きながら、命の大切さを今一度確かめている彼らを温かい眼差しで見ていました。


  二〇〇メートルを過ぎたところで、周囲の壁が強化ガラス張りになり、周りの風景が見えるようになります。


  飛び込んできたのは様々な高さのビル群。そこは地下を掘り進めて作った人類の住処でした。


  銀の生命体は周囲の状況をよく知るために視界の倍率を上げます。


  天然の岩盤を利用した天井には、沢山の照明が照らしているが、光量が足りないのか街全体は夜のようです。

 

  ビルの高さもマチマチで、慌てて作ったのが一目瞭然でした。道行く人々は皆不潔で痩せている。栄養状態も衛生状態も良くないようです。


 三〇〇メートルを超えたところでエレベーターの壁に小さな穴が開いて、そこから煙が噴射されました。


 銀の生命体がスキャンすると、それは冷却液と消毒液のようです。


 ゲンブが釈明します。


「すいません。防護服の熱を下げるのと、万が一病原菌が入り込まないための処置なんです。先に言えばよかったのですが……」


「気にしないでくれ。僕達は大丈夫だから」


 エレベーターのパネルが深度五〇〇メートルを表示したところで、箱は小さく振動して動きを止め両開きの扉が開き長い通路が現れました。


 通路は真っ直ぐ続き、エレベーターから出るとすぐ右にもう一つの通路がつながっています。案内板には正面が治安部隊司令部、右側は治安部隊基地と書かれていました。


  エレベーターの前で待っていたのは恐らく兵役につく少年達のようです。


  防護服を着た兵士達は気を失った隊長を連れて、命の恩人の二人の異星人にお礼を言いながら、子供のように我先にと扉を出て通路を右に曲がり、治安部隊基地へ向かっていきました。


 エレベーターに残ったのは三人だけでした。


  銀の生命体は、兵士の中で唯一残ったゲンブに声をかけます。


「みんなと行かないのか?」


「貴方達は司令部に用があるですよね。だったら案内人がいないと。案内板はありますけど、アリの巣のようにここは入り組んでいるで絶対迷いますよ。俺も覚えるまで一年かかりましたから」


  次に姫が問いかけました。


「大変な一日でしたのに、お願いしてもいいのですか?」


  ゲンブは自分の胸を勢いよく叩きます。


「ええ。彼らはこの厚くて重くて不快な防護服を早く脱ぎたかったんです。でも俺は貴方達に助けてもらったお礼がしたいんです」


  銀の生命体はその申し出を快く受け入れる事にしました。


「じゃあ、司令部までの道案内、お願いするよ」


「はい!」


  大きく頷いた彼の口調は死と隣り合わせの兵士のそれではなく、どこにでもいる生命力溢れた少年そのものでした。


 ゲンブに案内されて司令部に向かう途中、銀の生命体は姫に肩を叩かれて振り向きます。


「どうしました?」


  姫は小声で囁きました。


「司令部に行けば、沢山の、世界中の人が私達の存在を知ります。その前にこの姿では受け入れてもらうのに時間がかかると思うのです」


  銀の生命体は自ら銀光(ぎんこう)を放つ身体に目を落とします。


  先ほど痛感した通り、地球人は自らの容姿と大きく違う者を激しく忌避する。どの星でも自分と違う存在を受け入れるのはとても難しいものでした。


「なるほど」


  姫の言いたいことは分かります。この姿では先程の隊長のように只の侵略者に思われてもしょうがありません。


「ですから、私達も彼らと同じ姿になりませんか?」


「地球人と同じ姿に?」


  銀の生命体に否定する理由は見当たりませんでした。


  地球の情報は以前から手に入れ調べていたので、地球人類の身体の構造も、それこそ病気や怪我と相対する医者よりも熟知しています。


  例えX線を通しても見分ける事はできません。


「分かりました。では早速、姿を変えることにしましょう」


「はい」


  異星人二人はゲンブに気づかれることなく地球人に受け入れてもらいやすい姿に変わっていきました。


「二人とも着きました……」

 

  後ろを振り返ったゲンブは目の前の光景が信じられないのか、灰色の瞳を何度か瞬かせます。


  先程まで後ろを歩いていたのは銀色の光と撫子色の光を放つ二体の生命体だったのですが、


 振り向いてみると、そこにいたのはどう見ても地球人の男女だったのです。


「えっと、貴方達は……僕たちを助けてくれた人達ですよね?」


  二人の男女は一度顔を見合わせてから同時に頷く。

 

  男性は身長百七十五センチ。


 白の学ランのような服を着ていて、詰襟が堅い雰囲気を抱かせる。身体つきは細いが、背筋をまっすぐ伸ばした姿はまるで軍人か騎士のようです。


 彼の背後から前に出てきたのは箱を両手で抱えた女性です。


 身長は百六十三センチ。その身にまとうのは清楚な雰囲気のドレスで、何処と無くウエディングドレスに似ていました。


「驚かせてしまってごめんなさい」


  ゲンブは軋む音が聞こえそうな程、ぎこちなく首を左右に振りました。


 アンヌは続けます。


「自己紹介をさせてください。私の名前はANNU74。GN28星からやって来ました。アンヌと呼んでください」


「アンヌさん……」

 

  姫と呼ばれていた撫子の生命体アンヌは、優しい笑顔で頷くと後ろにいる男性を紹介します。


「そして彼が私の護衛を務めてくれている」


「僕の名前はDAN357。ダンと呼んでくれ」


  細く四角いシルバーフレームのメガネを掛けた銀の生命体ことダンは柔らかな笑みを浮かべて、ゲンブに手を伸ばしました。


「君のお陰でここまで無事にこれた。姫共々お礼を言うよ」


「いや、そんな俺なんて、特に何もしてないですよ」


  しどろもどろのゲンブを見てアンヌは口元に手を添えて微笑んでいます。


「いいえ。貴方のした事はとても立派な事です」


  ゲンブは、ダンが伸ばした手をしっかりと握りました。


「ありがとうございます。二人の力になれて俺も誇らしいです」


  ダンは握手をしたまま尋ねました。


「ゲンブ。改めて君の名前を教えてもらっていいかな?」


  ゲンブは、芸能人に名前を覚えられる事に興奮するファンのように、自分の名前を言う声が上ずっています。


「はい。俺の名前は岩根玄武(イワガネゲンブ)っていいます!」


  イワガネゲンブ。それが二人が地球に来て初めて覚えた名前でした。



 司令部の扉の前でゲンブと別れたダンとアンヌを待っていたのは、沢山の人の視線です。


  そこにいた人達は、皆一様に堅い表情をしています。


 部屋には六つの巨大なモニターがあり、様々な人種の壮年の男性がこちらを見ています。 その内の二つは何も映っておらず真っ暗なままでした。


  ダークスーツを上品に纏う女性が近づいて来ました。彼女は自らを日本の首相だと自己紹介します。ダンとアンヌも名乗り、改めてこの星に来た目的を語り始めました。


 アンヌは、両手で我が子のように大事に抱く箱の封を開けます。厳重に封じられた箱を解放した途端、柔らかな緑の光が司令部を包み込みました。


  大きさはダチョウの卵型程の円形で、アンヌはそれを自らの赤子のように恭しく両手で抱いています。


「これが貴方達の星を救う希望です。その名は世界の源(ヴェルトオヴァール)


 アンヌとダンは、これを使う事で起こるメリットとデメリットを包み隠さず全て話しました。


 世界各国の指導者達はそれを全て知った上で宇宙から来た彼らに援助を求めるのでした。


  日本の首都があった地下五〇〇メートルに安置されたヴェルトオヴァールは秘められた力を発揮します。


 エメラルドグリーンの光が地面を透過し、天に伸びて薄い膜を作り地球全土を覆っていきました。


 全ての人類の故郷はこうして蘇りました。


 人類は三十年ぶりに生身で地上の大地に戻り、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで涙を流し、そして荒んだ世界の惨状に心を痛めて涙を流すのでした。

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