#3 二人に突きつけられる銃口
扇状に広がった十人に銃を突きつけられても、銀の生命体は怯まず、姫を守る騎士のように彼女の前に立って自ら盾となりました。
「君たちは地球人だろう。僕達は敵じゃないんだ」
刺激しないように静かに話しかけたが、銃口は降ろされません。
銀の生命体はこうなる事も予想していたので慌てる事はありませんでした。
しかし姫はこういうことには慣れていません。取り乱さない事を祈りながらこちらに銃を向ける彼等に問いかけます。
「ここは地球という星の日本という国で、君たちが喋っているのは日本語、つまり日本人なんだろう」
銃口は動がないが、僅かに変化が起きました。中央の防護服のガスマスクが微かに動き出したのです。
「貴様達こそ何者だ? 光る人間など見たことも聞いたこともない」
銀の生命体は十人の中で中央に立つ人物が、隊長のようだと当たりをつけ話しかけます。
「その通り、僕達は地球から七億万光年離れたGN銀河にあるGN28星からやって来たんだ」
その途方も無い距離に理解が追いつかなくなってしまったのか、十人の誰からも返事が返ってこないので、こちらから質問します。
「君達は地下で暮らしているんだろう。武器を持っているところから見て兵士か何かか?」
「そうだ。宇宙から謎の電波を送って来たお前達の正体を探るために来たんだ。もし我らの星を侵略しに来たというのなら――」
地球に来訪した理由は伝えてあるのに、中々信じてはもらえないようです。
「すでにこちらの来訪目的は伝えた。君たちにだって伝わっているはずだ。僕達は侵略などしない」
「信じられるか!」
大声をあげた隊長が一歩進み、銀の生命体の額に銃口を押し付けます。固い死の感触が額を通して伝わって来ました。
「隊長!」
部下の一人が制止しようと若く張りのある声を出しましたが、銃口を突きつけたままの姿勢で隊長が制します。
「黙ってろゲンブ」
怒鳴られた部下は、それ以上何も言えなくなってしまったのか口をつぐみます。それでも銃口は僅かに下がっていました。
それを見た銀の生命体は額に銃を突きつけられたまま質問します。
「仮に、僕達が敵だとしたらどうする気なんだ」
防護服の奥で隊長の血走った目が見開かれます。瞳の中に隠しきれない恐怖を孕んでいるのが見て取れました。
「我々全員で貴様達を射殺する。そういう命令が出ている。万が一失敗した場合は……」
「失敗したら?」
その一言に、隊長は背中に背負う物を一瞥し、周りの兵士達は一斉に小動物のように震え出しました。
背中に何を背負っている?
銀の生命体は気づかれないように透視能力を発動させます。
兵士達の内部が透けて見えて来ました。
防護服はこの灼熱地獄から身を守るだけでなく防弾繊維が織り込まれています。
更に透視して分かったのは、隊長以外全員十代の少年で、自分に銃を突きつけている男だけが無精髭を生やした三十代くらいの男性でした。
皮膚、筋肉、骨格、循環器系を透視していき、最後に背中の大きな黒い箱の正体が判明して大きな声を上げます。
「隊長、君が背中に背負っているのは……爆弾だな」
図星だったのでしょう。隊長は更に強く銃口を押し付けてると、ガスマスクがなければ唾が飛んでくる勢いでまくし立ててきます。
その慌てぶりが何よりの証拠でした。
「な、何故分かったんだ⁈ 一体何をした⁈」
「そんな事より、その爆弾をどうする気なんだ? まさか……」
隊長が自分の腰のベルトを指差します。
「これが何か分かるか? 俺がスイッチを押せば装置が起動し、背中の爆薬が爆発するんだ!」
その一言を聞いて天を仰ぎたくなったが、相手を刺激しては困るので、それをやめて質問します。
「何故そんな愚かなことを」
「愚かだと? 我々の故郷を貴様らをエイリアンに渡してなるものか!」
隊長は今にも引き金を引こうと、人差し指に力を込めているのが見て取れました。
地球の外からやって来た二人を、完全に侵略者と決めつけているようです。
「お前らエイリアンに地球はやらないぞ。地下に追いやられ、二十年間、土竜のように潜み泥水啜って生きて来たとしても、地球は俺たち人間のものだ!」
隊長の人差し指が引き金に食い込む。ちょっとのきっかけですぐにも弾丸は発射されてしまうでしょう。
銀の生命体は銃を突きつけられているとは思えない静かな口調で語りかけます。
「撃てばいい」
その言葉に一番困惑したのは隊長の方でした。
「何だと?」
「僕達は侵略しにきたんじゃ無い。君たちを助けに来た。それが真実だ。けれど信じられないというなら撃て。ただしそちらが攻撃したら僕も――」
言葉は最後まで続かず、耳をつんざく銃声が轟き、マズルフラッシュが顔を覆い尽くしました。
放たれた直径約六ミリの弾丸が左目辺りに直撃し、衝撃で首が四十五度近く後ろに反れます。
「きゃあ!」
姫はその強行を目の当たりにし、口に手を当て銃声に負けないくらいの大きな悲鳴をあげました。