ハロウィンの夜に……
この番外編はパラレルワールドの物語で本編とは独立しています。
十月三十一日。満月が覗き込む深夜。日本ではあるイベントが行われていた。
それはハロウィン。渋谷の街を老若男女が思い思いの仮装をして練り歩いている。
コスプレした人間が騒ぎ、警察が落ち着かせるために叫び、住民達が苦情を大声で叫ぶその日。いつもと違う叫びが起きていた。
「わぁぁぁ! 逃げろー!」
それは悲鳴だ。ホラー映画のような仮装を見たからじゃない。変質者がいたからでもない。
「怪獣だ。逃げろ食われるぞ早く逃げろ」
全長五十メートルの怪獣が現れたからだ。
その怪獣の姿は沢山の納豆の集合体だ。茶色くて丸く、粘液に覆われたその身体は納豆そのもの。唯一の救いはあの独特の匂いがないことか。
ゾンビが、ドラキュラが、どこかのアニメやゲームのキャラ、怪獣も倒せそうな特撮ヒーロー達が一目散に逃げ惑う。
「早く逃げてください! 地下鉄なら安全です。さあ早く!」
一番勇敢なのは、警官達だ。彼らは逃げずに小さな拳銃を構えながら人々を逃していた。
唯一の救いは怪獣の歩みが亀のように遅いことだ。
巨体ではあるが、動きは鈍く、遠距離攻撃の手段も持っていないようだ。
「なんだあの怪獣。見掛け倒しかよ」
「お巡りさんも早く逃げろよ!」
自分たちが襲われないと安心したのか、コスプレ姿の人達が地下鉄の入り口で囃し立てる。
「君たち早く避難しないか!」
「おい、あれを見ろ」
警官の一人が指を指す。怪獣の丸い物体が横一文字に裂けて、気味の悪い叫びをあげる。
「グパァアアアァァァ」
口だ。赤く真っ赤な口内から、車も噛み砕けそうな鋭い牙。納豆の集合体一つ一つが口を一斉に開いたのだ。
「早く避難するぞ!」
「分かってる。だがあいつの動きは遅い。口開けたからって……」
「おい何か出てくるぞ!」
怪獣が喉の奥から何かを吐き出す。それは糸だ。一本一本が粘つくその糸が触手のように車もビルのガラスもデスクさえも捕らえて口の中に引きずり込み咀嚼し飲み込んでいく。
警官達も銃を撃つが鳩に豆鉄砲。全く効果なし。
後方から悲鳴が聞こえた。振り向くと、逃げ遅れたコスプレヒーローが糸に捕まっていた。
周りのものをつかんで抵抗しているが口の中に飲み込まれるのも時間の問題だ。
警官達もなんとかしようとするも自分たちの無力を痛感するばかり。
「防衛軍は、CEFはどうした? 彼らは怪獣退治の専門家だろう?」
「無線から連絡が来た。他の街でも暴れてる奴がいるらしい」
「くそくそ。怪獣がこっち向いてる。俺たちも食われちまうぞ!」
「あいつは? ヒーローは、ガーディマンは来ないのかよ!」
納豆怪獣は警官達に向けて大きく口を開いた。
喉の奥から飛び出そうとする糸が見える。
警官達が「もうだめだ」と諦めたその時だった。
「たああああああっ!」
空から飛んで来た巨大な金属に包まれた足が、怪獣を蹴り飛ばす。
怪獣は道路を潰しながら倒れて土煙が上がる。
その土煙を吹き飛ばしながら着地したのは全長六十メートルの白銀の巨人だ。
勇気と優しさを宿した三角形の黄色い瞳で倒れた怪獣を睨め付ける。
まだ怪獣は力尽きていない。粘液で滑る体を起こし、威嚇するかのように全ての口を一斉に開く
「グパアァァァァァァ」
「姿も叫び声も気持ち悪いな!」
白銀の巨人は、怪獣の滑る体を両手で掴み、夜空に放り投げる。
「初っ端から必殺技使うのは勝てないフラグだけど……」
空に投げた怪獣を見上げながら、白銀の巨人は腰のところで拳を固めて力を溜めると、左腕が肩から光る。
それが拳に移動したところで、両拳を頭上で打ち合わせる。
頭の上に現れたのは、緑に輝く高密度に凝縮されたエネルギーの塊だ。それを怪獣目掛けて両の拳で殴りつける。
「時間がないから使わせてもらうよ。ミドラル……ビィィィィム!!」
放たれた光線は納豆怪獣を一瞬にして消滅させた。
同時刻、東京 希望市
渋谷を含め複数の場所に納豆のような怪獣が出現している頃、世界の中心であるここ希望市の各所で黒煙が上がっていた。
原因を作ったのは一体の異星人だ。
そいつは宇宙軍の包囲網を抜け、空軍の戦闘機を叩き落とし、陸軍の戦車隊と歩兵を蹴散らした。
街に配置された迎撃兵器内蔵ビルも全て破壊されてしまった。
身長百八十センチ。鍛え上げられた筋肉から、身体はまるでボディビルダーのようだが、緑の皮膚と顔にある大きな一つ目が、人間とは違う異質な存在であることを強調する。
「フハハハハ! 地球人の戦力とはこんなものか!」
緑の異星人は街の中心にある全長千メートルのCEF本部を襲撃していた。
手から無数の光弾を連射し、CEF本部のバリヤーを削り、トドメとばかりに、頭上で両手を合わせて大きくエネルギーを溜めて極太のビームを放つ。
その一撃で無残にバリヤーが砕け散った。
「フン。脆いな。こんな簡単に世界の源が手に入るとは……三つ子の情報もあてにならん」
緑の異星人は無防備になった本部に右手を向け、その掌にエネルギーを溜める。
「終わりだ」
ビームが放たれた。
「シルドウォール!」
だがそのビームはビルの手前に現れた穴から出て来た長方形のバリヤーによって食い止められる。
「何?」
その穴は空間の裂け目であった。中から現れたのは納豆怪獣を倒した白銀の巨人だ。
「危ない。危ない。テレポート間に合ってよかった……いや間に合ってないか」
街は地獄絵図だ。ビルは崩壊、道路は陥没し、車がそこに呑み込まれている。
ガーディマンは、街を破壊した張本人怒りの眼差しを向ける
緑の異星人はビームを塞いだ相手を大きな一つ目で睨みつける。その目には強敵と出会えた喜びの色が覗く。
「貴様、何者だ?」
「僕はガーディマン。この世界を守るヒーローだ!」
白銀の巨人は穴から出て、道路に着地し、いつでも動けるように両拳を顔の前に出して身構える。
「ヒーロー。面白い! やっと歯ごたえのあるやつが現れた!
緑の巨人の全身が光り、次の瞬間巨大化していく。
「私はユウゴウ。ヴェルトオヴァールを頂きに来た」
「そんな事はさせない」
「ならば私を止めてみろ。ガーディマン!」
ユウゴウが右手から光弾を放つ。
ガーディマンはシルドウォールでそれを防いだ。
「防いでばかりで動かないのか!」
ユウゴウは両手から交互に前後に振って連続発射、まるで機関銃のような連射がガーディマンを襲う。
「そらそら、どうしたヒーロー。どうした正義の味方ぁぁぁ!」
ユウゴウは練りに練ったエネルギーの塊をシルドウォールにぶつける。
大爆発が起こり、付近のビルが倒壊しガラスの雨を撒き散らす。
「終わりか? つまらん!……ん?」
爆発が晴れるとそこには誰もいなかった。
「どこだ――ごあっ!」
突然ユウゴウが前に倒れこむ。後ろを見るといつのまにかガーディマンがそこにいた。
「やるじゃないか。それでなくては面白くない!」
ユウゴウが一気に距離を詰めて右ストレートを繰り出す。
ガーディマンは両腕でブロックするが大きく後退し、両足が道路を抉る。車が吹き飛び左右のビルに突っ込む。
距離を詰めたユウゴウの左右の拳のラッシュ。
一撃一撃が砲撃を超える威力で、繰り出すたび夜の街に、金槌で鍵を打ち付けるような音が響き渡る。
ガーディマンは防戦一方で何も出来ない。
突然ガーディマンが仰向けに倒れた。
ユウゴウが足払いしたからだ。
「下半身のガードが甘いぞガーディマン!」
ユウゴウはガーディマンの顔を狙い、エネルギーを溜めた右カカトで踏みつける。
ガーディマンはそれを首を動かして避け、ユウゴウの右足を両手で掴んで投げ飛ばした。
「おっ!」
ユウゴウは一回転して着地するが、その時に硬直して一瞬の隙が、
ガーディマンはそれを見逃さず、左の拳でユウゴウの腹を打つ。
「ガハっ、いいぞもっと来い!」
ユウゴウは強敵と出会えた喜びで、笑顔のまま吐血しながらガーディマンに攻撃を仕掛ける。
ユウゴウの頭部狙いの左拳。
ガーディマンは避けるも、次の右拳が当たってしまい右手側のビルに突っ込む。
瓦礫を落としながら立ち上がると、ユウゴウのドロップキックが胸部に炸裂。
後ろのビルを破壊して土煙上げながら吹き飛ぶ。
ユウゴウは追撃せず、右足に体内のエネルギーを集中させる。
「さあ来い!」
濛々と上がる土煙の中で巨大な人影が動いたことを確認して、右足を水平にまるで空間を切るような蹴りを繰り出した。
右足のエネルギーが刃となってビルを切り裂きながら、ガーディマンに迫る。
ガーディマンは避けることもせず、直撃。周辺数百メートルは消滅。
「終わりか? なんだつまらん奴だ――グオッ!!!」
ユウゴウは突然訪れた股間の激痛に鈍いうめき声をあげて蹲る。
「異星人もそこは弱点なんだ」
声の主はガーディマンだ。先ほどと違い全長六十メートルから百八十センチと縮んでいる。
「ごめん。僕も男だからその痛みは分かるよ。でもこれ以上街を破壊されるわけにはいかない!」
「よくも私に恥を……死ね!」
ユウゴウの不意打ちは空を切りビルに大穴を開けただけだった。
「どこ行った⁈」
「これ以上暴れないでください!」
ガーディマンは目にも留まらぬ速さでミクロ化すると、ユウゴウの右腕のそばで全長六十メートルに巨大化し、腕を掴んで逆に折り曲げて肘を破壊。
「ヌガアッ!」
右腕を破壊されてもユウゴウは諦めず、左腕で殴りつけ来たので、ガーディマンはカウンターの左ストレートを顔面に打ち込む。
地響きがするほどの衝撃で大の字に倒れたユウゴウ。
ガーディマンはそんなユウゴウに跨って馬乗りになると、撫子色の光りを放つ両手でユウゴウの側頭部を両側から鷲掴む。
「これで終わりです。マルシロスゥショッカァァァ!」
ユウゴウの全身が撫子色の光りに覆われ、二、三度痙攣する。光が収まった時には身体は等身大に縮み、ユウゴウの戦意と力は失われていた。
「これでもう貴方は戦えません。刑務所で反省したください」
街を襲っていた納豆怪獣達も駆除され、ガーディマンによってユウゴウも刑務所に送られた。
こうして街は平和を取り戻したのだ。




