#13 ミドラルビーム
スティール・オブ・ジャスティスは視界をズームさせて、被弾したF-15Jからパイロットが脱出したのを確認します。
メカキョウボラスは頭部を破壊されても尚、攻撃の手段を持っていたようです。
頭部に組み込まれた光線発射装置が光を反射するミラーボールのように光を放ちました。
まるで花火のように乱射された破壊光線が、空を焼き切り大地を深く切り裂いていきます。
避けきれずに主翼を切り裂かれたF-15Jは次々と煙を上げながら落ち、10式戦車は主砲が切断され履帯を吹き飛ばされて横転していました。
乗員は何とか脱出して無事なようですが依然として光線は辺り構わず放たれ、いつ無防備な彼らに当たるとも分かりません。
脱出した彼らを守る為、スティール・オブ・ジャスティスは前に出ます。
「僕の後ろへ回って逃げるんだ!」
スティール・オブ・ジャスティスは最後の力を温存する為、フォルモントバリアーは出さずに胸の前で組んだ両手を盾にしました。
メカキョウボラスは弁慶の立ち往生のように動かずに頭部の球体から光線を撃ち続けています。
それはどこに狙うわけでもなく、自分の周りにあるもの全てを敵とみなしているように撃ち続けていました。
盾となったスティール・オブ・ジャスティスの身体に百近くの光線が突き刺さります。
光線を防ぎながら後ろを見ると、脱出した乗員達は無事な戦車に搭乗し戦場を離れていきました。
よし。次はこちらの番だ。
スティール・オブ・ジャスティスが距離を詰めていくと、どうしても当たる光線の数が多くなりナノメタルスキンが徐々に削られてしまいますが、その痛みを我慢しながら前進します。
手を伸ばせば届く距離まで近づいてから右手を伸ばし、駄々をこねる子供のように暴れまわる頭部光線装置を鷲掴みにしました。
放たれる光線全てに容赦なく右手を焼かれていく痛みに耐えながら、首の根元から引きちぎります。
怪獣の体から離れた発射装置は、今までの事が嘘のように大人しくなって光線を撃つことをやめました。
スティール・オブ・ジャスティスはマッチ棒のような光線発射装置を落とします。
右掌を見ると、熱せられた鉄のように赤く溶解していました。
見た目は酷い怪我のように見えますが、指を動かすことはできるようです。
無線から割れんばかりの拍手と歓声が聞こえてきました。
見ると無事に脱出した兵士達がこちらに歓声を送っています。
それに応えるように兵達の方を向いて、スティール・オブ・ジャスティスはゆっくりと頷きました。
誰もがが勝利を確信した時、それを引き裂くような現象が起こります。
スティール・オブ・ジャスティスは、背中に静電気のようなエネルギーの放電を感じ取りました。
発生源は、頭部を失いその場で力が抜けて立ち尽くす怪獣からでした。
何が起こっている?
一瞬にして気を引き締め直したスティール・オブ・ジャスティスは、直ぐさま透視してメカキョウボラスの体内を探りました。
これは?
力の出所は胸部に位置する心臓だった。それは人工的に作られた物のようで、円筒形の形をしています。
上下に付けられたボルトのようなものが音を鳴らしながら回転して抜けていきました。
抜けていくボルトの隙間から微かにエネルギーが漏れ出しています。このままだと大量のエネルギーが周辺一帯を覆いつくすでしょう。
これは自爆装置か。
漏れ出すエネルギーから爆破範囲を測定すると、東京の三分の一が範囲に入っていました。地下にも相当の被害が出る可能性があります。
『ダン。この音は何? 怪獣から出ているみたいだけど』
アンヌの心配そうな声が聞こえるものの、スティール・オブジャスティスは対策を考えていて、答えられません。
このままじゃ東京は壊滅だ。何とかしなければ……。
考えている間も自爆装置のボルトは回転しながら抜けていきます。それを見てあることに気づきました。
この上下のボルトは安全装置か? これが解放されれると大爆発が起きる。なら完全に外れる前なら……。
「アンヌ。みんなと一緒に地下へ避難するんだ。この怪獣は自爆しようとしている」
『そんな! 貴方はどうするの?』
「僕はこれから被害が出ないようにコイツを処理する。万が一の為に地下へ避難しているんだ。いいね」
恐らくこのまま怪獣を放置すれば、地下に避難しても無事では済みません。
けれど余計な不安を煽る訳にも行かないので、その事は黙っていました。
『爆弾を処理するって、大丈夫なの?』
「大丈夫。直ぐに終わるからみんなと一緒に避難するんだ」
『……帰ってきてね』
アンヌとの無線を切り、スティール・オブ・ジャスティスはメカキョウボラスを両手で持ち上げて一緒に空へ飛び上がりました。
見立てでは、ボルトが解放されるまで十秒もありません。その間に怪獣を処理しなければなりません。
アンチグラビティブースターを全開にして高度一万メートルに到達します。
そこで停止すると、全身の筋肉を総動員して宇宙にまで届く勢いで投げ飛ばしました。
だが、このままでは成層圏を突破する前に爆発してしまいます。
そうなる前に、最後の最後まで温存していた力を使う為にアンチグラビティブースターの出力をカットしました。
スティール・オブ・ジャスティスは仰向けの姿勢のまま自由落下していきます。
それでも視線は飛んでいく怪獣から目を離しません。
両手を握りしめ力を溜めます。すると右肩が緑色に輝き、その光が二の腕、肘と移動して拳に到達しました。
スティール・オブジャスティスは彗星の如く落ちていきながら、磁石のN極とS極がくっつくような勢いで両拳を胸の前で打ち付けます。
出来上がったのは、体内に蓄積していたエネルギーの塊です。
落ちながらも、その塊を押し出すように両手を思いっきり突き出し、今まで幾多の怪獣を倒してきた最大の必殺技を放ちます。
『ミィドォラァルゥ、ビィィィィィム!!!」
極太のリームエネルギーが、柱となって空を駆け上り、あと二秒で爆発するメカキョウボラスを緑の回廊に包み込みました。
安全装置のボルトが抜け切る直前、怪獣の腕が、足が、長い尻尾が光によって消えていき、胴体も消滅し、夕焼けに染まる空に第二の太陽のような眩しい光が誕生します。
「アンヌ、今帰るよ――」
生命維持に必要な最低限の力しか残っていないスティール・オブ・ジャスティスは重力に捕らわれたまま、迫る光を避けることもできずに呑み込まれてしまうのでした。




