#12 正義、起ち上がる
スティール・オブ・ジャスティスは左手の指が食い込むほど強く尻尾を掴み、思いっきり身体を後ろに逸らして怪獣の動きを止めます。
メカキョウボラスは、前進しようとしているのに|何故進めないのか分からないようで、その原因を見つけようと、首を左右に降りました。
そして尻尾を引っぱる邪魔者を見つけると、ゴーグルの中の光が一層強く輝きます。
後ろから引っぱられていることに気づいたメカキョウボラスがその長大な尾を振り上げました。
スティール・オブ・ジャスティスは両足を大地に、深く打ち付けていましたが、尻尾と一緒に上空に放り上げられてしまいます。
振り下ろされた尻尾が頭上から迫ってきました。
直撃すれば無事では済まないその一撃を避ける為に、アンチグラビティブースターを発動させ、間一髪のところで避けることが出来ました。
しかし、アンチグラビティブースターは空中で停止してしまい、地面に真っ逆さまに落ちてしまいます。
何とか着地すると、目の前に落ちてきた尻尾が大地を叩き、爆風のような衝撃で吹き飛ばされてしまいました。
スティール・オブ・ジャスティスは左腕と両足を使い、地面を削るようなブレーキで何とか耐え抜きます。
追撃がこちらに迫る寸前、後ろからの砲弾が左右の耳を掠め、直撃した尻尾の表面が爆発し動きが止まりました。
直後、無線から男性の声が聞こえてきます。
『援護します』
恐らく先ほど助けてくれた戦車隊の兵士でしょう。
地上からの援護に続いて、空からもミサイルが飛来して、メカキョウボラスが閃光と轟音に包まれました。
爆煙が晴れると同時に放たれた火球がF-15Jの主翼を掠めていきます。
その光景を見て、ダンはすかさず叫びました。
「みんな離れろ。僕に任せて逃げるんだ。君達の攻撃では倒せない!」
アンヌが無線に割り込んできます。
『ダン。一人では無理よ』
「兵達を後退させるんだ。このままじゃ死んでしまう」
『みんな分かってるわ』
「なら何故⁈」
焦るばかりに、ダンは自分でも気づかずに声が大きくなっていました。
対照的に、アンヌの声は落ち着いていて、スティール・オブ・ジャスティスの心も雨降って地固まるように鎮まっていきます。
『少しでも貴方の力になりたいからよ』
「僕の力に?」
二人が会話している間も、防衛軍の部隊は懸命に攻撃を続け、怪獣の反撃を辛くも避けていました。
『彼等らだって自分が非力なのは分かっているわ。でも、貴方の為に少しでも何かの役に立ちたいと思っているの。貴方が勝つと信じて戦っているのよ』
無線の他のチャンネルにも耳を傾けると、兵士達が命を賭けて戦っている事が伝わってきました。
彼等らだって、死にたくはないはずだ。それでも僕を助けるために、この場に留まってくれているのか。
なのに、その気持ちを理解もせずに……僕はみんなの希望だ。その希望が絶望に染まってる場合じゃないんだ!
『ダン。兵士達や避難している人たち、沢山の人達が貴方の勝利を願っているわ……もちろん私もよ』
「ありがとう、みんな。ありがとう、アンヌ」
スティール・オブ・ジャスティスは応援してくれる|人々の声に応えるために全身に力を込めていきます。
すると、無事な左手だけでなく、骨も肉も食い千切られ、動かなくなった右手にも力が入るようになりました。
身体に力がみなぎる。これならいける!
皆の声援のおかげでしょうか、いつのまにか目眩も収まり、コップに水が注がれるように、身体中に力が溢れていきます。
顔の前で手を交差させ、勢いよく振り下ろして巨大化したスティール・オブ・ジャスティスは、再びメカキョウボラスと同じリングに立ちました。
防衛軍に気を取られているメカキョウボラスに、走って近づくと、こちらに気づく前に右拳で顔を殴り、左で腹部を打ち、両肩を掴んで押し込み、踏み潰されそうになっていた戦車隊から引き離します。
「距離をとって援護してくれ。巻き添えを食くうぞ。そして絶対死ぬな!」
『『了解』』
防衛軍の部隊は二体の巨大生物の戦いを見守るように距離を取ります。
充分に離れたことを確認し、スティール・オブ・ジャスティスは再度攻撃をしかけます。
右、左と鉤爪のようなフックを交互に放つと、鈍い音が響きます。
その度にメカキョウボラスの乱杭歯が根元から折れて、地面に突き刺さりました。
槍のように鋭い右のストレートを繰り出しますが、これはメカキョウボラスの左手に掴まれてしまいました。
反撃の右の爪が顔に迫ってきます。
その右手を左肘で弾くように防ぎ、手刀の形にした左手でメカキョウボラスの左腕を叩いて、自分の右腕を脱出させました。
メカキョウボラスが歯が欠けた顎で噛みついてきたので、それを身を縮ませるように避けます。
お返しとばかりに、全身をバネのように跳ね上げ、渾身の右アッパーカットをカウンターで叩き込みました。
下から顎を打ち抜かれたメカキョウボラスは真上を|向いたまま、たたらを踏んで後退します。
頭部の機械には乾いた地面のようにヒビが入っていました。
距離が離れた隙に、スティール・オブ・ジャスティスは透視して相手の弱点を確認し、防衛軍の部隊に無線を送ります。
「敵の弱点は頭部だ。そこを集中攻撃してくれ」
無線から返事が聞こえ、待ってましたとばかりに部隊が一斉に攻撃を開始しました。
十六の砲弾と七つのミサイルが全て命中し、メカキョウボラスの頭部が爆煙に隠れてしまいます。
煙に紛れたそこから破片と肉片が音を立てて落ち、怪獣は両手を力なく垂らしたまま動かなくなりました。
倒したか?
そのスティール・オブ・ジャスティスの心の声は戦場にいる兵士達だけでなく、この戦いを見守る者全ての思いを代弁していました。
黒煙が晴れた時、メカキョウボラスの頭が露わになります。
ヘルメット形の機械はもちろん、目を覆っていたゴーグルも壊れ、跡形もなく消滅した頭部から現れたのはマッチによく似た赤い球体状の物体でした。
それが光った途端、様子を伺っていたF-15Jの一機が火を噴くのでした。




