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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第0話 《光臨 地球を救う者》 〜略奪宇宙人イレイド星人、改造怪獣メカキョウボラス 登場〜
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#1 光臨

 美しき故郷が朽ち果て、人々から希望が失われていく時、宇宙(そら)から勇気と優しさが光臨しました。


 二〇五〇年、秋。


 宇宙から二つの流星が、草木一本見当たらない赤く焼け爛れた高尾山に落ちてきます。


 雄大に広がり、人々の目を楽しませていた紅葉の木はすでに燃え尽き、霊峰と呼ばれていた頃の威厳は影も形も見当たりません、


  二つの流星は激突する前に減速し、変わり果てた高尾山から移動します。山肌も大地も、どこを見ても醜く焼け爛れていました。


 赤い太陽に照らされた大地からは水分が消滅し、アスファルトには細かいひび割れが縦横無尽に走っています。


 流星は高尾山近くにある鉄筋コンクリートの集合体に到着しました。


  正体は沢山のビルです。どれも朽ち果てくたびれ、ガラスは水飴のように溶けて窓枠にへばりつき、無数の虫食い穴のようになっていました。


 さらによく見るとビルの墓場の一角に、()()()()()()()()はありそうなトカゲの化け物が骸を晒しています。


 カサカサに乾き真っ黒に焼けた骨が、赤レンガが特徴的な東京駅を下敷きにし、横向きに倒れていました。


 その近くに建つ斜めに傾いた建物の中に、二足歩行の生命体がいます。


 逞しい上腕三頭筋や大胸筋に覆われ胴体に、二本の腕と二つの足からは人間の男性にとても近いです。


  その背筋を伸ばした姿は騎士のようで、高潔な雰囲気を感じさせました。


 しかし、明らかに地球人と違う特徴があります。それは全身から銀色の光を放っていたのでした。


 銀色の生命体は、目も口も鼻も見当たらない頭部を下に向け、手に取った一冊の日誌を開きます。


 そこには、ある家族の事が書かれています。ページをめくると、最愛の女性との出会いと結婚、二人の子供に恵まれた事。四人の幸せな生活が行の隙間なく綴られていました。


 読み進めていくと、突然ページの一部が下に引っ張られるように落ちます。


 無事なページから現れたのは狂ったような文字の羅列。幸せから一転、この世界で一体何が起きたのか書きなぐるような筆致で描かれていました。


 二〇一〇年 五月。気温二十六度


 今日ニュースで、対怪獣駆除専門とする米軍の第7艦隊が巨大生物に襲われ壊滅したらしい。


 最近怪獣の活動が活発になっているような気がする。先日も東京タワーに卵を生みつけようとした飛行怪獣ファウダーが駆除されたばかりだ。


 何か恐ろしい事が起きないといいのだが。


  銀の生命体はページをめくって読めるところに目を通していきます。


 二〇一二年 三月。気温二十七度。


 今日、惑星探査ロケットが消息不明になった。


 これで四度目、世間では事故なのかそれともテロなのかと議論を繰り広げているが、早く原因を突き止めてほしい。


 軍に入った息子も宇宙飛行士の一人だ。これじゃ死なせに行かせるようなものじゃないか。


 二〇一五年 九月。気温二十九度。


 息子が死んだ。地球を飛び立ち火星に向かったロケットは消息を絶った。生存は絶望的と聞かされた。


 今も信じられない。昨日の電話では何の問題もない大丈夫だと言っていたのに……。抗議に行っても政府は謝罪するだけ、生活の保障を約束されても何の意味もない。もう息子は帰ってこない……。


 二〇一五年 十月。気温二十九度。


 今日一つの奇跡が起きた! 息子の遺体が帰ってきたのだ。


 詳細は教えてもらえなかったが、脱出カプセルが地球に戻ってきたらしい。


 乗っていたのは息子と、もう一人の宇宙飛行士だけだった。生き延びた彼は僕たち家族にずっと謝っていた。


  全身に包帯を巻かれベッドから起き上がれない痛々しい姿を見て、彼を責めることなどできなかった。


 銀の生命体はそこで思い当たることがあって一瞬手を止めました。


 脱出した宇宙飛行士に思い当たるところがあったのです。


 自分の記憶と日記に書かれたことを照らし合わせようとしましたが、詳細な内容が見つからず、次のページを読んでいきます。


 二〇一五年 十二月。 気温三〇度。


 政府は遂に惑星探査ロケットの発射を全て中止すると発表した。


 これにより、僕達が宇宙に脱出し、他の惑星に移住する可能性は完全に潰えた。


 結婚記念日の今日、妻はずっと泣いていた。僕と娘は彼女に寄り添い背中をさすることしかできない。


 二〇一八年 二月 気温四〇度。


 世界がどんどんおかしくなっていく。


  各地で暴動が起き、神の怒りだど盛んに唱える武装勢力は次々と市民を虐殺し、貧困地帯では救援物資が届かず子供達が次々と餓死している。


 気温は上がり続け、毎日のように山火事が起き、海面は水温が上がって死んだ魚に埋め尽くされ、鳥たちは頭がおかしくなったのか、勢いよく家の窓にぶつかりガラスを赤く染めていく。


  早く何とかしてくれないと、僕もおかしくなりそうだ。


 二〇二〇年。十二月 気温五十五度。


 やっと東京の地下に避難するための地下都市が完成した。待っている間に日本から四季は消えてしまった。


  平均気温は五〇度を越え、南極と北極の氷は溶け、大津波が近くの街を飲み込んでしまった。


 準備が完了次第、地下都市への入り口に向かうとしよう。でもニュースの映像では入り口に長蛇の列が出来ていた。炎天下で待たされたら先にこちらが参ってしまうだろうが、それでも行かなければ!


  最後の日記には月日、気温は書かれていません。


 間に合わなかった。突然鳴り響いた怪獣接近警報によって僕達は中に入れなかったのだ。


 目の前で分厚い扉が閉まっていき沢山の人が無理やり入ろうと殺到していた。今も、閉まる扉によって肉と骨が潰されていく音と、悲鳴が耳から離れない。


 僕達の未来は閉ざされた。電気も止まり部屋の温度もどんどん上がって、大分前から妻も娘も動かなくなった。


  僕の身体からも汗が流れなくなった。ここまでだろう。


  お願いだ。神でも悪魔でも誰でも構わない。妻と娘だけは助けてくれ!


 日記はそこで終わり、後のページは何も書かれていませんでした。


  銀の生命体は丁寧にそれを閉じると、傍で寄り添って永眠する持ち主とその家族に日記を返しました。

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