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エリオに付けてもらったリボンと鈴。無くさないように気を付けなきゃね!動く度にチリンチリンと小さな可愛らしい音を立てている。鳴るだけで心地いい気分になれる。
現在エリオは部屋にいない。外が暗くなってきたから、下で夕食を食べてくるそうだ。だからわたしは自由にぴょんぴょんと部屋を探索していた。でも途中で飽きちゃって、ベッドの近くにある窓の淵によいしょと座った。
赤紫から紫、青、深い青に変わる空の色は見ていて楽しい。そして、もう夜かぁと同時に思った。
兎生1日目、無事終了って所かな。
わたしは運がいい、と思う。昼間は色んなことがあって大変だったけど、結果論的にエリオが助けてくれたし、わたしはそのお礼に一緒にいてあげることにした。
良かったのかな。もう兎鍋にはならないと思うけど、こんな頭脳は人間身体は兎っていうヘンな兎を飼っちゃって。やっぱり何も考えてない普通の兎の方が良かったのかな。ごめんねぇ、エリオ。でもわたしはずっとエリオを見守ってるからねっ!
そんなことを考えていると、トントントンと階段を登ってくる音が聞こえた。この耳便利ね!
「ましろ」
扉を開いた途端わたしの名前を呼ぶエリオ。んん?少しのひとときでも離れるのが寂しかったの?なーんちゃって。
エリオはわたしが窓の淵にいることに気がつき近付いてきた。え、本当に寂しかったの。顔に似合わず可愛いのね? その瞬間エリオはわたしの口にオレンジ色のモノをグイッと押し込めた。ちょっと待って。
「野菜の端切れ、貰ってきたんだ。食べろ。」
押し込められたものを不審に思いながらももしゃもしゃと食べる。こっ…これは!にんじんだ!わたしこれ好きなの!むしゃむしゃ!あっ、ほうれん草もあるの!?むしゃむしゃ…大根も?!大好きよ!むしゃむしゃ
ふぅ満腹満腹!満足気にふぅと息を吐いたら、目の前でジーッと見てくるエリオの姿があった。あらやだ。こんな近くでむしゃむしゃバリバリ食べてたのを観察してたの?!淑女に有るまじき行動だったわっ!
そんなことを考えているわたしをつゆ知らずか、まじまじとわたしのことを見る。え、なに。なにか付いてる? 人参の食べカス付いてたりする?!
あまりにもエリオがぼーっとわたしを見つめるもんで、わたしも負けずに見つめ返してみた。昼間に見たおっかない顔じゃない。どこか優しい瞳でわたしを見ている。て言うか、エリオ…しかめっ面してなければすんごく美形じゃない?!
焼けてる肌に、程よい筋肉が付いていて、目の瞳は翡翠色、短い金髪髪は程よくお手入れをされている。目が少し釣り上がってるからキツく見られちゃったりするのかもしれない。しかめっ面してなければ結構モテると思うのになぁ。なーんて。
そんなこと思ってたらまた怖い顔になった。もう!そのしかめっ面辞めなさいよお!急に怖い顔しないでよ!
エリオはわたしを驚かせないようにそおっと手を目の前に差し出してきたので、ぴょんっと飛んでエリオの掌に収まった。エリオの手は暖かくて気持ちいい。
「撫ででもいいのか?」
…え? そりゃ撫でてもいいよ。わたしから乗ったんだし。撫でたいから手を差し出してきたんじゃないの? 頭の中にハテナを浮かべながら撫でられるのを静かに待った。
「ふわふわだな」
お、旦那ァ良い撫で方しますねぇ。そう、そこ!そこ痒かったの!ああ、気持ちいい〜。わたしも目を細めて極楽気分。いまだ触ってるエリオを盗み見しようと目を開けたら、何だかとても幸せそうに撫でていた。えーと、もっと言うなら怖い顔が溶けてると言うか、なんと言うか。
…ま、幸せそうならいいか。わたしも満腹だし、撫でられ満足だし。
エリオは満足したらしい。わたしをそおっとベッドの上に置いて、どこかへ行ってしまった。どうしたんだろう?
すると続いてお湯を持ってきた。汲み湯ね!冒険者だから汗をかくものね!そう思ってわたしはその様子を観察していたら。エリオはおもむろに上着を脱ぎ始めた。
ええーーー!ちょっと待ってよ!わたしにも準備ってものが!やだ、腹筋割れてるじゃない!きっとわたしは兎の姿をしているも、挙動不審になっているだろう。けれどエリオは気が付かず背中を布巾でゴシゴシ拭いていた。
目が幸せ!こんな邪なことを考えてるけどわたしは立派なか弱い子兎だからね。これは仕方がない。そうでしょう? 役得、ってやつね!えへへ
身体を拭き終わったエリオはベッドの方にやってきた。
あれそういえば、わたしってどこで寝ればいいんだろう?布団をぐるぐる回ってみるけど、エリオの身体は大きい。だからあまり空間がないと思う。うーん。困ったなぁ。仕方ない、床で寝るか。
ぴょんと床に降りて絨毯がある所へ移動しようとした。
「ましろ? どこ行くんだこっちおいで」
ん? なあに? と振り返ると、まだ裸のエリオが!きゃー!服着なさいよ!鼻血出ちゃうよ!刺激が強いよ!鼻をヒクヒクさせてみるも何も出ていないし、エリオには伝わらない。
エリオは怖がらせず優しく包み込むようにわたしを捕まえて一緒にベッドに入った。
ん? え? 一緒に寝るの? いいの? 頭の中はパニックだったけど、程よい心地よさと暖かさでウトウトし始めた。
「おやすみ、ましろ。」
軽く目に触れるか触れないかの距離で軽くキスをしてエリオとましろは夢の中へ入っていった。