表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/69

その3

「得意げな様子で君が研究室見学に訪れた時はどうしたものかと思ったね」

「別におかしな話でもないでしょ。研究分野に興味があったんだから」


 そんな未知との遭遇から一年後、当時学部三年生だった藤沢さんは転科をしてまで我が栄光なるゼミへと進学してきた。そこそこ人気な研究室であるウチに転科して入れたということは、相当成績が良かったのだろう。

 まあ我がラボに入ってきたのは良い。熱心に新しいことを学ぼうとする姿勢は評価できるし、明るい性格のおかげで学生室の雰囲気も何となく明るくなったような気もする。見た目のおかげで敬遠されるのではないかと心配もしたが、そもそも新入生以外は僕の見た目に慣れていたため髪の毛がメタリックな外人風の彼女に対して壁を作ることはなかった。そんな彼女に対して、僕は一つだけ不満を抱えている。


「しかしマンガン娘よ、そろそろ僕に敬語を使い始めても良い頃じゃないかな」

「研究室じゃ敬語を使っているじゃない。それとマンガン言うな」


 一応、本当に一応だが彼女はゼミ内では僕に対して敬語を使っている。しかし他の人に聞かれていないことが分かるや否や敬語を即投げ捨てるし、更には我が同期は僕と彼女が普段敬語を使った会話をしていないのを多分察知しているのだろう。藤沢さんが敬語で僕に話しかけている脇で口元を押さえてニヨニヨと笑う同期を僕は幾度か目撃している。


「問題です。僕は博士3年、君は学部4年。先輩はどっちでしょう」

「ところであなたは16歳らしいわね。私は20の大台が見えてきたんだけど」


 フンこの年増がッと漏らせば彼女が手に持つフォークが飛んでくる恐れがあるため、危機回避能力に長けた僕はぐっとこらえる。

 20に満たない歳で学部4年というチート臭い頭脳を持った彼女と、多分17歳で博士号を取得予定の胡散臭いを超えた何かを持つ僕。彼女の言い分としては、学年的には下であっても実年齢が上回っているからイーブンという事なのだろう。精神的な年齢で言ったら僕は研究室ナンバー2と同じ歳なのだが、彼女はそれをスルーしているようだ。


「僕は実のところ平塚先生と同年齢だけど、果たして藤沢さんは先生にもタメ語でいけるのかな」

「うっ、それは出来ないけど……でもアンタだって先生に対しては人目が無ければ敬語無しでしょ?」

「流石に自分自身と話す際は特殊事情だからノーカンで」


 丼ぶりの下の方には、たれと融合して新たな存在へと転生を果たした米粒が待ち構えている。ここから丼を引っ掴んで一気にタレ付き米粒を頬張るのがマイトレンドだ。

 もぐもぐと口を動かす僕の前では、不満げな藤沢さんがまだ何かを言いたそうに此方を見ている。こんな押し問答をしたのは一度や二度の話じゃない。結局折り合いが付けられないまま会話が自然に終わるのが常だ。


「別に今更気にすることでもないでしょ? それに、わざわざ隔たりも作りたくないし……」

「あ、デレた」

「い、いちいち茶化すなバカ!!」


 彼女が少々恥ずかしそうにした瞬間を逃さずに茶々を入れると、面白いくらいに顔を真っ赤にして怒り出してしまった。そして目立つ見た目のザ・メタリックヘアーな藤沢さんが大きな声を上げるものだからさあ大変、僕らの会話を見物していた不届き者共の視線が一段と増したのが何となく分かる。


 藤沢さんはどうやら目立つということに慣れてるようで、周囲からチラチラと見られても特に気にするようなことは少ない。多分王女という生まれのせいで幼いころから目立つことに関しては抵抗が少ないのだろう。だが小市民な僕は視線に晒されるとどうにも背中の辺りがむず痒くなる。今の状況は僕としてはマズイから早急に場の空気を収めねばならない。


「ま、まあ敬語云々は一旦良いや。カツ半切れあげるから機嫌を直そうか」

「別に要らないわよ……そういえばレイは進路決めたの? 小田原さんは企業の内定を取ってるって話だけど」


 小田原さんというのは最初に僕をちゃん付けで呼び始めたあの不届き者の同期である。僕と同じく来年で卒業できる見込みのついた彼は既に一般企業の内定を受け取っており、昨日も見学会やら内定者懇親会があるとかでゼミを休んでいたはずだ。


「そういえば君にはまだ話してなかったか。僕は今のところ内定の申請中さ。企業じゃないけどね」

「アンタみたいな未成年でも応募出来るところがあったのね。それでどこ?」

「未成年で博士号なんてもの凄いレアキャラなんだぞ、馬鹿にすんな。応募先は君もご存じココだよ」


 指で机をチョンチョンと指し示すと、一瞬困惑したような表情を浮かべた彼女は、徐々に本気で憐れむような目線を向けてきた。


「レイ……いくら取ってくれるところが無いからって博士号持ちで学食勤務はどうかと思うわ」

「馬鹿だろう君は。流石にそこまで才能の無駄遣いをする気はない。学生食堂じゃなくて、ここの大学ってことだよ」


 おばちゃん達に混ざってカレーの盛り付けをするドクター卒の未成年碧眼外人ボーイなんて無駄に濃いキャラにはなりたくはない。数学科を卒業してソムリエとなった人間も居るらしいが、それは専攻として異常過ぎるだけだから参考外だ。


「ここの助教に応募をしているのさ。特別募集ということもあって募集人員がかなり少なかったけど、何分"こっち"に戻った理由が研究活動をもう一度やりたいってことだから夢は捨てないよ」

「じゃあもしかして勤務先は、今の研究室のままだったりするの?」

「いや、助教になろうが内定漏れでポスドクになろうが今んとこ平塚先生の下に就くことにはなっている。来年度以降あのオッサンは今の研究室から独立するから、僕も来年はおさらばだね」


 そこそこの規模を誇る我が大学は、どうやら大月の方に新しいキャンパスを作ることに決めたらしい。着工状況は知らないが、色々な研究室から人員を引き抜いて来年度から本格的に新キャンパスを運用するとかしないとか。その引き抜かれた人員の中には僕のカタワレこと平塚准教授も含まれており、彼に師事することが確定している僕も来年度から自動的に山梨の僻地に流刑予定だ。そんな僻地で十分に経験を積み、更なる新天地への栄転が現状の夢である。


 勿論今暮らしているアパートは引き払わなければならない。大学近くに構えた今の住まいから大月へ向かおうとなると、どんなにうまく列車をやり繰りしても二時間はかかるのではないか。必要な時間が三十分足らずで済んでいる今の状況と比べると信じられない増加幅だし、僕はそんな通勤時間を連日味わいたくはない。


「え……せっかく大学に残るのに、離ればなれになるんだ……」

「別に確定したわけじゃないよ。先生は手持ちの学生たちの中で希望者は連れて行くらしいし、今度一斉に聞くらしいから君も希望すれば未知のキャンパスに来れるんじゃないかな」


 未知のキャンパスなんて洒落たことを言ってみたが、本当に未知なのだから始末に負えない。見学の申請でもしてみようかなと本キャンの窓口を訪れたら見事に突っ返されるし、ネットで検索を掛けてみてもうちの大学が新キャンパスを作るなんて話は全く出てこない。

 実は壮大な釣りなんじゃねと思ってみても、現に平塚先生が上から聞かされているなどと話しているため、どういう目的があるのかは知らないが秘密裏にことを進めているのだろう。


「未知ってアンタ……でも良いことを聞けた。来年から私も新キャンパスに行くわ」

「ゆっくり考えた方が良いと思うけどね。情報がそんなに無いんだし、青春最後のひと時を大月で終えるというとんでもないリスクもあるんだしさ」


 大月とはまた遠い所にキャンパスを作ったものである。八王子程度なら東京の中心街に行くのにさほど苦労はしないだろうが、県境を通り越した更なる奥地である大月ともなれば難儀するだろう。いっそ甲府に作ったほうが、生活の利便性ははるかにマシだろうに。そもそも頭に東都と記した大学が都の外側にキャンパスを作るというのは矛盾している気がしてならない。


「別に街じゃないからなんて変な理由であきらめたりはしない。研究テーマがアンタと同じ分野なんだから、着いていけるところまで着いていくわ」

「あ、またデレた」

「だからデレてないっての!!」


 今度は鋭いチョップが頭を襲う。丁度味噌汁を飲みきって一息をついていた僕に神速の突きを見切ることは出来ず、ぐえぁと死んだアヒルのような情けない声が口から洩れてしまった。まあ新しいキャンパスに行きたいと本人が真剣に思うのなら止めはしないし、僕に頼って勉強をしたいというなら鼻高々だし悪い気はしない。勿論今は声には出さないけども。


「いきなり暴力に訴えるのはどうかと思うな」

「アンタが変なことを言うから……それに、友達となるべく一緒に居たいっていうのは変な話じゃないでしょ?」

「っ……ま、まあ過度な馴れ合いにならない程度なら、好きにすればいいんじゃないかな」

「……ありがとっ」


 僕は彼女に対して先輩風を吹かしている節があると思う。そりゃあ異世界からやって来たという身の上が共通しているし、前世を含めたら結構な歳になるんだから不思議なことじゃないと思う。だけど今は自分もまだまだ未熟だなあと思い知らされている。精神的な年齢で言ったら二倍近く離れているはずの小娘なのに、不意打ちの素直にはにかんだ顔を目にして僕は歳甲斐なく頬を染めてしまったのだから。


 軽くせき払いをすると、僕は足早に椅子から立ち上がり空になったどんぶりを乗せたトレーを持ち上げた。早く学生実験室に行かなければアシスタント業務に支障が出るからであり、別に場の空気に耐えられなくなった訳じゃない。




*   *   *




「さてと、今日はもう帰るかな」


 学部生の実験手伝いが予想以上に長引いたため、我がラボへ帰ってこれたのは日が落ちてからかなり経ってからだった。研究室内に残っている人間は疎らで、流石にこの時間になってしまったら今から自分の実験を始める訳にもいかず、きりが良いこともあるので帰ることに決めた。


 荷物を適当にポイポイと鞄へ詰め込んでいく。至急読まなければならない論文や資料以外はデジタルデータとしてパソコンに保存しており、住居とラボがそこまで離れていないこともあるため、基本的に行きかえりで運搬する荷物はそこまで多くはない。


「あ、待って。私も帰る準備済ませちゃいます」

「まだ残っているなんて、学部生なんだからあまり無理をしなくてもいいのに」

「別に無理はしてないです。でも知識がどうしても足りないんだから可能な限り詰め込まないと」


 他の学部生が全員帰っている中で、どうやら藤沢さんだけは学生室に残って論文を読んでいたようだ。土日という連休を眼前に控えた金曜の夜遅くまで残っているのは感心だが、無理はしない方が良いとは思う。四苦八苦した様子で中々読みなれていないであろう専門用語が並んだ英文書に目を通していた彼女は、僕が帰る準備をし始めると便乗して荷物を纏めだした。


 部屋には他にまだ学生が残っているためか、感心なことに彼女は忘れずに僕へ敬語を使っている。これをぜひ人に聞かれていない場所でも徹底してほしいものだ。ただしナチュラルに一緒に帰ろうと言い出すのはお兄さんどうかと思うな。同期のニヨニヨな笑顔が最近更に深みを増しているのは気のせいではないだろう。


「……学部時代の僕よりも君は随分と勉強熱心だね」

「先輩の学部時代って……もしかして」


 言葉を続けそうになった彼女の前で首を振ると、周りにまだ学生が残っていることを思い出してくれたのか慌てて口を閉じてくれた。

 僕が学部生だったのは生まれる前の人生での話なわけで、それこそ二十年近くも前になる。当時はまだこの建物もキャンパス内を見渡した中では比較的新しく、来たるべき二十一世紀がどうたらこうたら言ってた時代だった。別段成績優秀者というわけでもなかった僕は、新設されて間もない今の研究室に進学した当初はそこまで研究に熱心なわけでは無かった。


 一年間研究室の空気に流されるように勉強を続けるうちにようやく自分の研究内容の面白さに気が付き始め、研究生活がやっと軌道に乗り出した修士一年目の中盤辺りに、通り魔に襲われた平塚礼二は"僕"として異世界へと飛ばされたのだ。これじゃあ意地でも帰ってきたくなる。


 一方で平塚礼二という存在は実際のところ通り魔事件では死んでおらず、事件から立ち直り勉学に復帰した行く末が我が義父である。今まで言ってきた学部時代における僕の生活態度は全て平塚准教授にも当てはまるのだ。僕の特殊な事情を知る藤沢さんは、研究に人生を見出したような義父が実は学部生の頃はそこまで勉強熱心ではないことを信じられないのか少々驚いた様子だ。


「僕という人間は、好きになった物事にはのめりこむけどそうじゃない物には最低限の労力しか向けないタイプだからね」

「……信じられないけど、まあそういう事にしておきます」


 気が付けば彼女は帰る準備を既に終わらせており、中々スリープモードになってくれない我が愛機のおかげで逆に僕が彼女を待たせているような構図になってしまっていた。動けよこのポンコツがァ!!とPCに手を這わせれば、異常な熱と共に異音を響かせるファンの振動が手へと伝わり思わずあんぐりと口を開けてしまった。


「どうしたんですか?」

「このアホの子ももう限界かもしれない。悲しいなあ」


 半ば達観した笑顔を浮かべながら、一向に止まる気配のない我が愛機の電源ボタンに指を乗せる。僕だって非情なことはしたくない、でも言う事を素直に聞いてくれない君が悪いんだよ?


「安らかに眠れ、バイオンちゃん」

「……馬鹿やってないで早く行きますよ」


 いくら語尾が敬語だとはいえ、その物言いはどうかと思うんだ。残された最終手段である電源ボタン長押しで異音を強制終了させると、まだ熱の残ったパソコンをカバーに入れてバッグの中へ放り込んだ。こっちだってやりたくて馬鹿をやってるわけじゃない、全ては愛機の造反が招いたことなのだ。


 ようやく帰る準備が終わった僕はまだ部屋に残って作業を続ける面々に軽く会釈をしながら出口を目指した。後ろから着いて来ていた藤沢さんは、ひとたび廊下に出て周囲に人が居ないことを確認するや否や早速敬語を無かったことにするかのごとく話し始めた。


「やっぱりアンタ相手に堅苦しい言葉は慣れないわ」

「……最低限、研究室ではこのまま続けようか。せめて僕の肉体年齢が君よりも上だったら名実共に敬語を使って貰えたかもしれないのに」


 もしかしたら男の癖に線は細いわ背も高くないわといった、女装をすれば普通に女子としてまかり通りそうな見た目が悪いのかもしれない。いつかは自分も来たるべき第二次性徴の荒波にもまれるのだろうと楽観視してここ数年が過ぎたが、一向に肩幅が大きくなったり髭が生えたり声が低くなったりする素振りが見られないのは果たしてどうしたものか。


 下手をすれば藤沢さんに負けかねないほど細く貧弱な腕だけど、これについてだけは鍛えることで何とかできるかもしれない。しかし生活が結構カツカツな身としては、ジムに行ってナイスボディを手に入れる時間を確保するのは難しいし、そもそも飽きっぽい自分じゃあ長続きはしないだろう。


「……最悪坊主頭にすれば男っぽくなるんじゃね」

「急にどうしたのかは知らないけれど馬鹿なことだけは止めなさい」


 考え直してみれば坊主頭というのは頭部が均整の取れている形の人間しか得をしない博打ともいえるカットだ。じゃあもう少しマイルドなスポーツ刈りならどうなるかと考えると、妹と同じサラサラと柔らかめの髪の毛じゃスポーツ刈りにしたところで全部頭皮にへばり付いた悲惨な見た目になるかもしれない。


「男らしいっていうのはかくも難しきかな」

「別にわざわざ男らしく振る舞おうとしなくても良いじゃない。見てくれだって悪くないんだし……」

「あ、デレ」

「言わせないわよ!?」


 言い終える前に頬をむにゅりと抓られたために気の抜けた声しか出すことが出来なかった。最近君からの扱いがどうにも先輩に対する物ではない気がしてならないよ。


 そんなこんなで生産性の無い会話に乗じている内に、とうとう建物の玄関口へと辿りついた。自動ドアが開いた向こう側からは梅雨の到来を予感させる温かくジメッとした空気が漂っており、草や土由来のすえた匂いが辺りに充満している。街灯の光の中では細かい雨粒が霧のように掛かっており、どうやら研究室で一息吐いている内に雨が降り始めたようだ。


 幸い折り畳み傘をいつも鞄の中に忍ばせている僕は、こんな雨にも動じずに荷物をごそごそ漁って傘を取り出した。一応携帯用の折り畳みの傘であるが、そこらのコンビニで売っているような安い物ではなく少々大き目のサイズを誇り、無骨な見た目に違わず強風の中でも骨が折れることは今まで無かった優れものだ。さてこれで一安心と思った僕は、絶望した眼差しで夜空を眺めるマンガンヘアーを目に入れた。


「うぅ……今日は天気予報じゃ降らないって言ってたのに」

「せっかくラボに自分用の机を手に入れたんだから置き傘の一本や二本置いてりゃいいのに。それに最近は曇りが続いたからね、こういう時に雨が降らないと予想する天気予報は曲者だよ」

「……しょうがないわね。ちょっとラボに戻って共用のビニール傘借りてくる!!」


 走って階段の方へ向かおうとする彼女だったが、それよりも先に僕は藤沢さんの手を掴んでいた。


「れ、レイ? いきなりどうしたの?」

「別に走って戻ることもないでしょ。どうせそんな大した雨じゃないし、一緒に使おうよ」

「え……」


 もう一度階段を三階分も往復するのもアホらしいし、さした傘を回しながら何の気なしにそんなことを提案した僕は、少し間を置いた後顔を赤くして立ち尽くしてしまった彼女の顔を見て、ふと自分が実はもの凄い軟派な発言をしているのではないかと思い立った。


「じゃ、じゃあ失礼するわ……」


 既にさしてしまった傘をわざわざ畳んで彼女をラボまで追い返すなんて外道臭いし、ややぎこちなく僕のすぐ隣に歩み寄ってくる藤沢さんの姿を見ていると何だか自分までこっ恥ずかしい気分にさせられる。いわゆるアンブレラ=シェアというやつであり相合傘ともいうこのスタイルは、お話で見るよりもよっぽど両者の距離は近いのか

 綺麗な艶を放つ彼女の髪の毛が僕の肩口に触れ、普段はマンガンを水に溶かしたようだとからかいもするその髪色がひどく魅惑的に見えてしまってならない。ちょっぴりの甘酸っぱさと少々の気まずさ、そして勢いに任せての行動に対するリスクアセスメントを怠ったことへの反省が心の中に巻き起こる。


「ハァ、若いなぁ。ホント青春時代が懐かしいよ。いやそもそも前世じゃあ女子とあまり話をしたことがなかったっけか。あー枯れてんなぁ平塚先生は」

「……バカ」


 いくら親しい間柄とは言えども、静かな雨の夜道をほとんど密着も同然な状態で歩くというのは間が持たない。歩きながらなんとか空気を元に戻す為に思いつく限りのトークを披露してみるが、隣の王女様はお気に召さない様子で小さく罵倒をしてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ