5:図鑑についてー1
「ふう……なるほどなー」
ギシッと軋む木の椅子に腰かけながら、俺は一人静かに呟く。
自分の状況についてある程度は理解できた。
前の世界、日本にいた頃では味わえなかった解放感が俺を包む。
生きるも死ぬも自由。
この世界の住人と交流を持つも持たないもよし。
どんな結果になろうとも。
全て己の責任となる。
だからこそ自分に正直に生きよう。
前世ではできなかったことをやる。
そんな決意を胸に、俺は先ほど得た情報を思い起こしていたーー。
ーーーー
フォレストクロウベアの追尾を撒いた後、俺は廃小屋を発見した。
廃とは言っても、植物が生えまくってるぐらいで外装内装はそこまで荒れていない。
キャンプ場などで見かける小さなロッジのような山小屋だ。
近くに湧き水も流れており、そこで喉を潤してから、俺は一旦この小屋に身を置いたのだった。
部屋の中には、前の住人が手ずから作ったであろう木製の机や椅子などがある。
この小屋自体も切り出した木材で作ってあることから、中々のDIYマンだったに違いない。
とにかく落ち着こう。
そう思い、俺は部屋にまで生えてきている植物を片っ端から片付け始めた。
綺麗になった所で机の前にある椅子に座った。
色々と確かめたいことが山盛りだ。
(たしか……こんな感じか?)
意識を集中。
俺は目をつむり、俺を追いかけ回したクマ公ーーフォレストクロウベアの姿を思い浮かべる。
すると次第に、頭の中にあるイメージが浮かび上がってきた。
《フォレストクロウベア:ランク★★》
《主にエシュタルの山岳や森林に生息する魔物。特徴的な爪で獲物を狩りとる。足は俊敏だ》
うるさっ!
想像通り、また音声が流れたが、頭に直接なので変なカンジだ。
そもそも説明文は音声と一緒に頭の中にイメージされて読むことができる。
ぶっちゃけ声いらねえ。
《自動音声サポートのシステムをオフにしますか?》
俺の不満が伝わったのだろう。
とりあえずこのシステムはオフにしておいた。
だってうるさかったもん!
しかしこの能力、どうやらいろんな機能があるようだな……。
俺の意思に反応するようだ。
ーーそもそもお前はなんなんだ?
《エシュタルワールドに生息している”魔物”に分類される生物についての図鑑機能です》
音声が消えたので、文章だけが頭に流れてくる。
エシュタルというのはこの世界の名前なのだろう。
エシュタルモンスター図鑑。それがこいつの正体らしい。
目指せ、エシュモンマスター!
違うか。
気になったのは、魔物に分類される、という言葉だ。
魔物に分類されるってことは、そうじゃない動物や虫なども存在しているってことなのかな。
たしかにこの山の中には前世で見たままの昆虫や小動物の姿を確認した。
つまりそういうことなんだろう。
棲み分けとかどうなってるんだろうな。
ーー俺にこの機能をつけたのはなんでだ?
《…………》
反応は無い。
さりげなく転生の思惑を探ろうとしたが駄目みたいだ。
そっちはもう諦めよう。神のみぞ知るってやつだチクショウ。
モヤモヤするが仕方ない。
ーーメニュー画面とか、目次みたいなのは無いか?
《メインメニューを開きます》
《 ーエシュタルモンスター図鑑ー 》
《 》
《 *全国図鑑 》
《 》
《 *モンスター分布 》
《 》
《 *メニュー新規作成 》
《 》
《 *オプション 》
おおっ! メニューあるんだ。
いいぞ、っぽくなってきた!
まずは……オプションからだな。
これは基本だろ。
《*オプション》
《自動音声サポートーーーー[ ]》
《自動検索システムーーーー[√ ]》
《翻訳機能ーーーー[√ ]》
自動音声サポートの項目はチェックが外れていた。
さきほどオフにしたからだろう。
自動検索システムは……なんだろう?
いや、あれか?
最初もさっきもそうだった。
魔物が視界に入った時や頭に思い浮かべた時に勝手に該当ページが検索されるのだ。
これは便利な機能なのでこのままにしておこう。
翻訳機能……これは言語や文字か?
俺は日本語を話す感覚で言葉を発しているが、この世界の住人には翻訳されて聞こえるのかもしれない。
もしそうであるならば、逆も然りだろう。
オフにして試してみるのも悪くないが、今やっても意味は無い。
そうでなくとも割と重要そうな機能、下手に触らないほうがいいだろう。
あれ? すっげー高性能じゃね? この図鑑。