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1:プロローグ

 上空から照りつける強い日差しが、季節の変わりを実感させる。

 もう夏か、なんて感傷に浸るーーそんな余裕は毛頭なかった。


「ええーい、寝過ごした! このままじゃ遅刻だ遅刻!」


 自転車のペダルを力一杯漕ぎながら、ひたすら道を爆進していく。

 初夏の暑い直射日光も相まって、全身汗だくで気持ち悪いことこの上ない。

 会社の始業時刻は8:30。腕時計に目をやると針は8:25を指していた。

 

「やばっ……」


 このままいくと入社してから無遅刻無欠席という輝かしい経歴にキズがつくことになる。

 それは嫌だった。


 昔から飽きっぽい性格で、何かに対して長く執着することができない。

 そんな俺の性分は社会に出てからも変わらず、転職したのは三度にも及ぶ。

 営業、経理、土方など色々な業種を経験したものだが、やはりというかなんというか、俺にしっくりと馴染むものは無かった。

 

 だが今の勤め先はどうか。

 数年前に転職し入社した、俺にとってはまだ体験したことのなかった新しい世界。

 それは製造業だ。

 金属などを加工する板金工場なのだが、これがなかなかどうして面白い。

 ものづくりの奥深さが妙にフィットしたようで俺の心は躍った。

 飽きっぽく何事も続かなかった俺が、この仕事で頑張っていこうと思ったのだ。


 しかしまあ、俺とてただ飽きっぽいだけの男では無い。

 各シーズン毎のアニメを全てチェックしたりとか、長くプレイしている数々のソーシャルゲームのログインを欠かしたことがないとか、他にもそーゆうマメな一面は持ち合わせている。

 とはいえ以前の会社では事務のお姉さんに趣味を聞かれて自慢気にそのことを話したら『ただのオタクじゃん』と笑われた苦い記憶もあるが……。

 やめよう思い出したくない。

 

「あっと5分ッ! あっと5分ッ!」


 焦ってるときってなんで変な歌を口ずさんじゃうんだろうかね。

 ってああもう残り4分か! 本当にヤバい!!

 あまりの焦燥感に冷静さを失いつつも俺は、いつもの通勤路とは違う裏道に入っていき足止めを喰らう可能性がある信号を避けて進んでいく。

 道幅が狭く見通しも悪いので、普段は滅多に使うことのないルート。

 そんな道を一般自転車の最高速度(自己ベスト)で走るというのだから、端から見たらかなり無茶な行為だろう。というか単純に危険極まりないし周りにとっても迷惑な話である。

 だが時間短縮の効率はバツグンなのだ。仕方ないのだ。

 今日だけ、今日だけ見逃してくれ。

 

 「ぶはぁ……よっし、これなら間に合う、か!?」


 肺に溜め込んだ二酸化炭素を思いっきり吐き出し、見えてきた建物を確認した俺はしだいに口元を緩めた。

 どうだ、何事も為せばなるのだ。

 我ながら上出来ィ!


 だがしかし、案の定ともいうべきか。

 調子に乗った俺が愚かにもトップスピードで裏道を抜け、大通りに出た瞬間だった。

 かつてない衝撃。

 真横から来た何かとぶつかって、思いきりその場から吹き飛ばされた。

 そしてそのまま、あっという間に意識を失ったのだった。

 

 簡単に説明すると、走行中の車に横合いから高速度で轢かれたというわけである。

(どう考えても自業自得だろう。轢かされてしまった運転手に同情する)

 

 当然ながら、この日、俺は交通事故によって命を落とした。


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