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ヴォオス戦記  作者: 南波 四十一
ヴォオス戦記・乱
88/152

決着! (その3)

 日曜日に投稿するつもりでいましたが、結局誤字脱字の修正や、文章的にリズムの悪い場所などの修正も含め、水曜日のギリギリまでずれ込んでしまいました。

 遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


 その2を投稿した時点では、おそらく1万2~3千文字、行っても1万5千文字くらいで収まるだろうという計算だったのですが、書き終わってみて、その計算が超いい加減であったことがよくわかりました。


 その3は、結局2万8千文字超えの、なかなか長いお話となってしまいました。

 正直長いのでさらに二話に分けようかとも思ったのですが、物語の区切り的にかなりバランスの悪い分け方になってしまうので、長いままお届けすることにいたしました。


 正直読むのがしんどいとは思いますが、どうかお付き合いください。

 それではカーシュナーの過去編とも言えるお話の最終話をどうぞっ!

「聞いてくれ。ハウデンを守る兵士たちよっ!」

 カーシュナーの幼い声が夜の港に反響する。


「ええいっ! 黙れ、黙れっ! 貴様ら聞くなっ! 何も聞くなっ!」

 その言葉を遮るために、エルモントが唾を飛ばして喚き散らす。普段身につけている品位は見事にどこかに置き忘れてきたようで、醜いことこの上ない。


「エルモント様。俺たちは聞きました。あなたがハウデン市民をさらい、外国に奴隷として売ろうとしていると。本当ですか?」

 兵士の一人が一歩進み出て、真っ向からエルモントを見据えて問いかける。

 普段ならその無礼極まりない態度に怒鳴り散らしているところだが、わずかな火明りに照らされた兵士の相貌が、渡来人の血を引いているという事実伝え、エルモントから怒気を奪う。


「な、何を言っておるのだっ! 先程も説明したであろうっ! 私は疫病に感染した者たちを隔離しようとしているだけだっ!」

 この返答に、ハウデン治安部隊の疑惑と拒絶で固まっていた心に迷いが生じる。


「そのための移送を先程から邪魔し、このハウデンに再び疫病を蔓延させようとしているのがそ奴らだっ! どこでどんな世迷言を吹き込まれたかは知らんが、さっさとそ奴らを殺せっ!」

 生じた迷いに被せるように続けられた命令に、迷いが動揺へと変わり始める。


「これはハウデンの危機だっ! こやつらを見事討伐した者には褒美を出そうっ! なんなら階級も二階級上げてやるぞっ!」

 この言葉に対し、目の色を変える者が出始める。

 

「ずいぶんと必死だな、エルモント。都督の職もそれくらいの情熱を持って取り組んでいれば、こんな愚かな真似はせずに済んだものを」

 対してカーシュナーはエルモントにしゃべるだけしゃべらせてから言葉を挟んだ。

 その子供とは思えない落ち着きぶりに、兵士たちも戸惑う。

 子供の嘘などではないことは、その纏う空気が証明している。


「黙れ、黙れ、黙れえぇぇっ!!」 

 その空気をエルモントが必死ではぎ取ろうと声を荒げる。

主筋しゅうすじに対して黙れとは、自慢の貴族の礼節はどこへ行ったのだ? ああ、そうか。もう貴族ではなかったのだな。であれば地が出る(、、、、)のは止むを得ん話か」

 そんなエルモントをカーシュナーが鼻で笑ったことで、二人の格の違いが明確になる。

 そして治安兵たちの間に新たな疑念が生まれる。


「我が名はカーシュナー。クライツベルヘン家の末息子だ」

 カーシュナーの言葉に兵士たちの間に大きなどよめきが起こる。

 それと同時に何故クライツベルヘン家の者がこんなところにいるのかという疑問が生まれ、その疑問が当初エルモントに対して抱いていた疑念に答えを与える。


 カーシュナーが口を開こうとした次の瞬間、夜の闇を切り裂いて、一本の矢が飛来した。

 風切り音から察知したカーシュナーは、即座に反応。自身も弓に矢をつがえ、一気に引き絞る。

 飛来する矢を回避する気配は微塵もない。

 闇の奥。わずかな星明りに薄っすらと浮かび上がる巨大船の舷側に、常人の目では捉えることの出来ない人の輪郭を見つけ出したカーシュナーは、その輪郭目掛け、限界まで弓を引き絞る。


 直後、飛来した矢がカーシュナーに襲い掛かる。

 だが、その矢は直前でカルラによって叩き落とされ、港の石畳の上を滑って消える。

 そして、カルラの剣が振り下ろされると同時に弓弦が鋭い音を奏で、矢を虚空へと送り出す。

 カーシュナーを狙った射手は、射放った直後に反撃を受けるとは思っていなかったのだろう。

 飛来した矢によって、手にしていた弓を弾き飛ばされ、さらにこめかみから側頭部にかけて強い衝撃を受け、叩きつけられるように甲板に引っくり返されてしまった。


 驚愕の声が響き、続いて罵声が響いたことで、相手が死ななかったことを悟ったカーシュナーは忌々しそうに鼻を鳴らす。

「さすがにこれだけのことをしただけのことはある。悪運は強いようだ」

 

 カーシュナーに不意打ちを仕掛けたのはエクレムであった。

 今は商人として活動しているが、元はゾンとヴォオスを行き来して情報工作を行う密偵として鍛え上げられた男だ。

 戦闘訓練も十分積み、その中でも弓はゾンの弓兵と比較しても劣らない程の腕前を誇っていた。

 現状を打破するため、ハウデン治安部隊を何としても説得しなくてはならない状況にあるカーシュナーが、兵士たちに語り掛けるために小さくなりかけているランタンの残り火の中に出てくることを読み、その瞬間を待って狙撃したのだ。


 どこからどう情報が漏れたのか、ハウデン治安部隊はエクレムが予測していたようには動かなかった。

 兵士に対して人望があるとは言えないエルモントでは手に負えないだろうと考えたエクレムは、このすべての元凶とも言えるクソガキを、自分の手で殺してやろうと考えたのだが、その目論見は逆にカーシュナーという少年の恐ろしさを思い知らされる結果になっただけであった。


 こめかみから一直線で抉られた傷口から血を流しつつ、エクレムは決断する。

 さっさと商品共(、、、)を運び込み、とっととハウデンを後にしようと考えていたが、この因縁を引きずってはいけないと、エクレムの商人としての勘が告げた。

 

 ここで確実に消さなければならない――。


 そうしないと、今回の計画はけして成功しないとエクレムは判断した。


 素早く船室に飛び込むと、中身の詰まった袋を手に取り、再び舷側へと戻る。

 そしてカーシュナーの狙撃を警戒しつつ声を張り上げる。


「おい、貴様らっ! 褒美や階級なんてせこいことは言わんっ! そいつらを倒せば金貨一万枚くれてやるぞっ!」

 エクレムはそう叫ぶと、手にしていた袋を手近なランタンの残り火目掛けて放り投げた。

 放物線を描いて石畳に叩きつけられた袋は、落下と同時に小気味良い音色を奏でながら中身をぶちまけた。

 火明りに黄金色に輝く大量の金貨が兵士たちの視界に飛び込む。 

 そのきらめきに、兵士たちは無意識に生唾を飲み込んだ。


「ゴーム、オーレ。出番だぞっ!」

 狙い通りに場の空気が変化するのを確認したエクレムは、カーシュナーにこれ以上余計な発言させないため、一気に全戦力を投入する。

 エクレムに呼ばれて姿を現したのは、ラズをもはるかに上回る巨人のような二人の大男だった。

 手には他の水夫たちと違い舶刀カトラスではなく戦斧を両手に装備している。


「お前たちも条件は同じだっ! 倒した者には金貨一万枚くれてやるぞっ! 早い者勝ちだっ!」

 エクレムは配下の水夫たちにも声を掛ける。

「褒美と昇進の件も早い者勝ちだっ! 加えて金貨一万枚だっ! 全員奮起しろっ!」

 エクレムが作り出した流れにエルモントもすかさず乗る。

 戸惑っていたハウデン治安兵たちの中にも剣を抜く者が現れ始める。

 場の流れは、人の欲望を巧みに刺激したエクレム側に傾いた。 

 焦りと共に大きく息を吸い込んだカーシュナーが言葉を発するよりも早く、カルラが吼える。


「それがお前たちの決断かっ! それがハウデン治安部隊の矜持かっ!」

 カルラは欲に負けて抜剣した治安兵を睨みつけ、今も巨大船に移送され続けている人々を剣で指し示す。「彼らは疫病患者などではない。ここハウデンで平和に暮らしていた渡来人とその子孫たちだ。お前たち自身が問うてみよ。お前たちが守らなければならない人々に問うてみよ。助けが必要かとっ!」


「助けてくれっ!」

 その時、カルラの言葉に応えるように、調教を受け、従順に従うだけの人々の間から救いを求める声が上がった。


 一瞬の沈黙――。


 そしてその一言がきっかけとなり、まだ調教が十分ではない人々が声を上げ始めた。

「……助けて」

「た、助けて…くれ…」     

「助けてくれぇぇぇっ!!」

 その声の切実さは、病に苦しむ者とは明らかに異なる怨嗟に満ち溢れていた。

 

「うるせえっ! 騒ぐなっ!」

 水夫の一人が騒ぎ出した者たちを容赦なく殴りつける。

 この時殴りつけられたのが黒髪の少年であったこと、一番初めに救いを求める声を上げた者であることに気が付いたのはカーシュナーだけであった。


 この行動は決定的だった。にもかかわらず、治安兵たちはカルラとカーシュナーに向け殺到する。

 エクレム配下の水夫たちが、二人に懸かった金貨一万枚という途方もない懸賞金に目の色変えて殺到して来たからだ。

 一人の動きに、なし崩し的にその他の者たちも続いてしまう。

 その流れを、エクレムは意図的に作り出し、ハウデン治安兵たちを操ってみせたのだ。


 治安兵の一人がカルラに襲い掛かる。

 だが、その背中を別の治安兵が斬りつける。

「みんな騙されるなっ! 噂は本当だったんだっ! ゾンの人狩りだっ! 言いなりになるなっ!」

 始めにエルモントを問い質した兵士が声を上げる。

 濃い茶色の髪に、同じ色の瞳をしている。

 暗闇の中ではわかりにくいが、陽の光の下であれば、彼が渡来人の血を引いていることは一目でわかっただろう。


「一人はまともな兵士がいたようだな」

 その行動にカルラが笑みを浮かべる。

「一人ではありませんっ!」

 カルラの言葉に、別の兵士が声を上げる。

 その兵士は薄い茶色の髪に灰色の瞳をしている。

 どうやら渡来人の血を引く兵士たちは先祖の苦難を知るだけに、ことの真相を理解出来たようだ。


 だが、欲に目がくらんでしまった兵士たちの方がまだはるかに多い。

 職務に忠実な者の数は四割弱といったところだ。

 現状これ以上の心変わりはないと判断したカーシュナーが腹を括る。

 利益優先で行動していたエクレムがこの場での決着を選択した以上、カーシュナーも判断を迷っているわけにはいかない。

 エクレムは油断のならない男だ。

 判断が遅れれば、それはいきなり致命傷になりかねない。


「これが最後の警告だ。貴様ら、クライツベルヘンを敵に回すということでいいのだな?」

 すでに白刃が舞い、血が流れているという状況にあって、カーシュナーの声と態度は、まだ何も始まっていないかのような落ち着きと冷たさを持って響いた。


 クライツベルヘンを敵に回す――。


 それはヴォオス国内貴族のみならず、周辺国が抱える暗部でも、暗黙の裡に禁忌とされている最大の愚行。

 ハウデンはヴォオス国内で群を抜いて特異な地位にあるクライツベルヘンにおいて特殊な立場にある。

 ある意味、今ハウデンに存在するものすべてが、クライツベルヘン家の手の平に載っていると言っても過言ではない。

 地位や名誉のみならず、価値観さえもクライツベルヘン家が手の平を返せば変わってしまうほどだ。

 その恐ろしさは、おそらくクライツベルヘンによって今日の平和を与えられたハウデン人こそが最もよく理解しているに違いない。

 

 欲に負けた兵士たちも、人生の土台に染みこむクライツベルヘン家に対する敬意と同量の恐怖を忘れたわけではない。

 抜剣し、カーシュナーに斬りかかろうとしていた兵士が一瞬だけ迷い、破れかぶれになって振り上げた剣を振り下ろす。

 だが、その一瞬の遅滞がカーシュナーを剣の間合いから脱出させ、その決断に対する報いを受けさせる。

 至近距離から放たれたカーシュナーの矢は、兵士の額の真ん中を射抜き、後頭部を突き破って血と脳漿にまみれた矢じりを飛び出させた。

 そして次の獲物を求めてぐるりと周囲にその狙いを向ける。


 ハウデンはクライツベルヘン領ということもあって、治安は極めて良い。

 ここ危険区域ですら、根城としている各裏組織がクライツベルヘン家を恐れ、殺人はご法度となっている。

 エルモントの私兵部隊と比較すれば実働がある分兵士としての経験は上だが、訓練中に死者が出ることなど珍しくもないクライツベルヘン騎士とは精神力そのものの桁が違う。


 父や兄たちから死ぬ一歩手前まで常に追い込まれ、心身ともに徹底的に鍛え上げられたカーシュナーが放つ殺気は、たとえそれがまだ十歳の少年のものであっても、本当の戦闘を知らない彼らに対抗出来るものではなかった。


 この蛇のひと睨みにも似た一瞬が、カーシュナーが提供する最後の選択の機会であった。

 敵となるのであれば殺す。

 その事実は、今は冷たい石畳に横たわるただの肉塊と化したかつての同僚の哀れな姿が強烈に物語っている。

 この最後の機会を逃さなかった者たちがいた。

 クライツベルヘンの恐怖を思い出した者の数は、意外にも多かった。

 数の比率が覆り、六対四ほどに傾きを変える。


 だが、ここにエクレム配下の水夫が加わるため、劣勢であることに変わりはない。

 カーシュナーは弓を納めると、ラズ配下のならず者たちから回収した短剣に装備を持ち替え、闇の中へと滑り込んだ。

 矢の数には限りがある。

 エクレムが予想外に腕のいい射手であったことを考えると、ここで矢を使い果たすのは得策ではないと考えたのだ。


 ここでも獅子奮迅の活躍で敵の注意を引きつけてくれているカルラに内心で詫びを入れると、カーシュナーは敵首領であるエクレムを目指した。

 光源の少ない闇の中、カーシュナーは滑るように移動していく。

 身体の小ささもあり、欲に負けた治安兵も水夫もカーシュナーを見失い、苛立ちの声を上げている。


 そこにいきなり、耳に心地よい音色が再び響き渡った。

 エクレムが投げ込んだ金貨が、再び戦いの真ん中へと投げ込まれたのだ。

「俺の金貨だっ! 誰にも渡さねえぞっ!」

 注意力のある者なら聞き覚えのある声が、欲望むき出しの叫びをあげる。

 金貨一万枚はとてつもなく魅力的ではあるが、その欲望を刺激するためにこの場に投げ込まれた金貨の数も十分魅力的であった。


 この叫びと、自分たちの足元に広がる金貨の輝きが戦いの流れを変える。

 欲望に目がくらんだ者同士という共通項は、けして仲間意識など育てはしない。

 途端に治安兵の一部と水夫たちの間で争いが起こり、同士討ちですらない敵同士の醜い潰し合いが始まった。

 叫び声を上げた人物は、闇の奥でニヤリと笑う。


 凄いな、ブルーノッ!


 闇の奥でただ一人、すべてを見通していたカーシュナーが素直に感嘆する。

 悪知恵が働くと言ってしまえばそれまでだが、その知恵の使いどころで状況を二転三転とさせている。

 この追い込まれた状況の中で、常に冷静に、何よりけして諦めずに考え続けていなければ出来ることではない。

 これまでの苦難に満ちた生活の中で、一度として自分と仲間を諦めなかったブルーノだからこそ出来ることだ。


 カーシュナーは音もなく渡し板を渡ると、甲板に降り立った。

 甲板上に人の姿はない。

 先程その姿を捉えたエクレムも、カーシュナーの狙撃を恐れたのか身を潜めている。

 船舶に関する教育も受けているカーシュナーではあるが、そもそも造船技術は一つではない。

 ましてやクライツベルヘン製ではなくゾン製であろう巨大船の構造は、さすがのカーシュナーでも把握していない。

 極端に違うわけではないが、どこに人が身を伏せられる場所があるのかわからないため非常に危険だ。


 慎重に足を運ぼうとした次の瞬間、まったくの偶然で身を潜めていた水夫と出会ってしまう。

 お互い存在を察知出来ていなかったため、驚きが全身を支配する。

 水夫が一瞬硬直したのに対し、カーシュナーは驚きつつも意識の別の部分がしっかりと身体を動かし、水夫の首筋目掛けて短剣を振るわせた。

 

 致命傷となる一撃を受けた水夫は、最後に意地を見せ、派手に倒れて大きな物音を立てた。

 侵入者の存在が一瞬にして知れ渡る。

 カーシュナーとしては内部に潜入し、カルラたちがやったように船に火をつけエクレムの足を奪うつもりでいたのだが、いきなりその計画は不可能となってしまった。


 物音を聞きつけ飛び出してきた予備戦力は多くはなかったが、それらを率いる男たちが厄介だった。

 ゴームとオーレ。

 エクレムの海上戦力を統率する元海賊の兄弟だ。


 割れ鐘の様な声で的確な指示を出す。

 素早く物陰に移動し、その行方をくらませることに成功したカーシュナーであったが、見つかるのは時間の問題だった。


 二人の男に注意を払っていたカーシュナーの頭上に、不意に影が落ちる。

 本来であれば星明りしかないこの状況ではとても気づけるような差ではないのだが、カーシュナーの翠玉色の瞳は夜の闇の中で僅かな光の差を捉えた。

 

 咄嗟に回避出来たのは奇跡に等しかった。

 それまでカーシュナーが身を潜めていた場所を頭上から水夫が襲撃し、手にした舶刀が空を切って甲板に食い込んだ。


 直撃こそ回避出来たが、不意打ちを察知出来たのが寸前であったため、完全に回避することは出来なかった。

 カーシュナーはよけきれなかった水夫の身体と接触し、弾き飛ばされる。

 身体能力は子供の常識をはるかに超えて高いが、体格差はどうにもならない。

 体重の軽いカーシュナーはどうすることも出来ず、勢いのまま甲板の上を転がるしかなかった。

 

 体勢が整う前に、別の水夫がカーシュナーに襲い掛かる。

 焦るが力の入らない体勢で転がってしまっているカーシュナーには、どうすることも出来ない。


 ここで終わるのかっ!


 己の不甲斐なさに怒りすら覚えたその瞬間、運と仲間はカーシュナーを見離さなかった。

 カーシュナーに遅れて甲板に乗り込んだブルーノが、間一髪のところで背後から水夫に斬りつけたのだ。


「こんなんばっかだな、俺」

 そう言ってブルーノは、倒れる水夫の背後から苦笑をのぞかせた。

 即座にカーシュナーを引きずり起こし、立ち上がらせる。

「今のは危なかった。ありがとう、ブルーノ」

 体勢を立て直したカーシュナーが礼を言う。

 ブルーノもそれに答えようとしたが、ゴームとオーレに襲い掛かられ、それどころではなくなってしまう。


 この巨大船は彼らの領域だ。

 素早さで勝る二人であったが、ゴームとオーレにそれぞれ追い込まれ、残りの水夫たちは退路をふさぐように立ち回る。

 もはやどれほど周囲に闇があろうと、まぎれることは出来ない。

 カーシュナーとブルーノが逃げ続けていると、隠れていたエクレムが姿を現す。


「船を出せっ! 海上に出てしまえば袋の鼠だっ!」

 エクレムの指示に水夫たちが即座に従う。

 下船させた水夫たちから離れることにもなるが、いくら腕が立とうと、子供二人に怯えるエクレムではない。

 港からある程度離れてしまえば、たとえ海に逃げ込まれても、息継ぎで出した頭を射抜く自信がエクレムにはある。

 あとはじっくりと確実に追い詰め、仕留めればいい。


 櫂によって押された巨大船が、港からゆっくりと離れていく。

 もはや無秩序な戦いの場と化した港に立つ者で、巨大船の動きを気にする余裕のある者はいない。

 静かに波の上を滑り、巨大船が港を離れる。

 遅れてそのことに気づいた者が声を上げた時には、巨大船は渡し板を回収もせずに海に落としながら、手の届かない場所まで漂い出していた。


 声に振り向きようやく気づいたカルラは、船上に戦いの気配を見つけると、瞬時に状況を把握し青ざめる。

 だが、時すでに遅しで、巨大船は人間の跳躍力では届かない位置まで移動していた。

 他の船は動かせないかとカルラは周囲を見回したが、もともと停泊所から離れた倉庫街近くの場所である。そう都合よく船はなかった。

 だが、その代わりにある物がカルラの目に留まる。

 カルラは一か八かでそれに飛びついた。


「まずいぞ、カーシュッ!!」

 必死でオーレの戦斧から逃げ回りながら、船の動きに気づいたブルーノが叫ぶ。

 カーシュナーもエクレムの所在が知れたはいいが、その指示により敵に余裕が生まれ、冷静に追い詰められ始め、エクレムに攻撃の矛先を向ける余裕がない。それどころかカーシュナーでさえ逃げ回るので精一杯だった。


 せめてブルーノだけでも何とか逃がそうと考えた時、再び状況が一変する。

「ブルーノ、カーシュ、逃げてっ!」

 幼い声が頭上から響いたと思った直後、巨大船の主要帆柱から、長大な帆桁とともに帆布が甲板に落下して来たのである。


 甲板を叩き、釣り上げられた巨大魚のように暴れる帆桁が運の悪い水夫たちを巻き込みなぎ倒す。

 巻き込まれかけたエクレムだったが、ここでも悪運強く暴れる帆桁の軌道から外れ難を逃れる。

 ゴームとオーレも巻き込まれたが、ある程度勢いが弱まった後だったおかげで、弾き飛ばされただけで済み、戦闘不能に陥るような傷を負うことはなかった。

 敵主要人物が難を逃れたことを考えると残念な結果と言える。だが、カーシュナーはこの予想外の出来事に破顔した。

 主要な帆を落としたという事実は、全体的な観点から見ると、決定的な仕事だったからだ。


「これでもう逃げ切れんぞっ! エクレムッ!」

 カーシュナーは帆桁をかわすために身を縮めていたエクレムに対し、声を張り上げた。

 同時に心の中ではチェルソーに最大級の賛辞を贈る。

 言葉にしなかったのは、戦闘力のないチェルソーに無用な注意を向けさせないためだ。


 甲板に叩きつけられ暴れ回った帆桁は最終的にへし折れ、使いものにならなくなっている。

 帆を失った帆船の最大速度はたかが知れている。

 たとえ今すぐこの場から離脱したとしても、クライツベルヘン海軍に追われれば逃げ切るのは不可能だ。

 船足と水夫の技量に絶対的な自信があってこそのエクレムの計画は、ここで完全に潰えたと言える。


 だが、エクレムはまだ諦めなかった。

 諦めないというより、商人としてのさがが、自身の計画が失敗したという事実を受け入れようとしなかった。

 カーシュナーが見抜いた通り、精神とは別に、エクレムの優秀な頭脳は計画の失敗を受け入れていた。

 そして、その優秀な頭脳はこの状況からどうすれば自身が望む結果を得ることが出来るのかを検討し始める。


「交渉をしないか、クライツベルヘン?」


 次の瞬間導き出されたのは、クライツベルヘン家との取引という答えであった。

 数舜前まで自分を殺そうと躍起になっていた男のこの言葉に、さすがのカーシュナーも虚を突かれる。


「悪い話じゃない。共同事業の提案だ」

 エクレムは身を伏せていた場所から進み出ると、言葉を重ねた。

 普段のエクレムであれば、こんな交渉はしない。

 クライツベルヘンを説き伏せるなどということが不可能であると理解しているからだ。

 だが、計画の破綻がその優秀な頭脳をわずかだが狂わせ、その狂いが精神の均衡を歪め始めていることに、エクレム自身は気づいていない。


「奴隷市場において、渡来人及びその子孫たちの需要がどれ程高いか理解出来ているか? 大陸中の好事家が、新たな色違い(、、、)の奴隷の出品を求めて大陸中にその情報網を広げているほどだ。その価格は品薄の状況もあり、もはや天井知らずで、老いて使い物にならないようなジジィやババァですら目が飛び出るような高額で取引きされているっ!」

 エクレムの話は事実であった。

 そしてエクレムが生きる社会の中では、もっともその利益率が高い商取引きでもあった。

 エクレムに限らず、奴隷商人であれば誰もが夢見る一攫千金の儲け話。


 エクレムは夢中でその魅力を語りだした。

 そんな自分をカーシュナーがどんな目で見ているか気づきもしないで、自分が信じる価値観を理解させようと必死で舌を回転させる。


(なんて醜い眼をするのだろう……)


 貨幣の誕生は人類の文明を引き上げる偉大な発明ではあったが、同時に人の中に強欲を生み出し、良心を捨てさせる言い訳にもなった。

 欲とは決して潤うことのない飢えだ。

 どれほど多くのものを手に入れたとしても、満たされることはない。


 一が二を欲するとき、必要なものは一だ。

 だが、一を得て二となった者は、次に再び一を欲することはない。

 次は二を求め、二は四となり、求めるものの量は際限なく膨れ上がて行く。

 富める者ほどその強欲は大きく、そして底がない。


 百あるものを百人で分ければ、そこには小さくはあるが平等な幸福が生まれる。

 だが、百あるものを一人が独占すれば、大きくはあるがたった一つの幸福と、九十九の不幸が生まれる。

 そして、他の九十九人の不幸の上で幸福を独占した者は、痛みを知らないが故に、さらなる富を求め、より多くの不幸を生み出していく。

 

 奴隷商人とは、多くの不幸を材料に、金貨を生み出す負の錬金術師であった。


 人の痛みを理解しない。


 人の心を理解しない。


 人の尊厳を理解しない。


 どこまでも独善的であり、利己的な生き物。


「クライツベルヘンは唯一無二の牧場だっ! これほど多くの色違い(、、、)共を生産している地はこの大陸のどこを探しても他では見つからないっ! 俺と組め、クライツベルヘン。俺と組めばあのクロクスすらも上回る富を得て、ヴォオスの玉座を買い取らせてやるぞっ!」

 まるでこれから生み出されるであろう莫大な富を幻視したのか、エクレムは呪文でも唱えるかのように言葉を吐き出した。


 エクレムにとってこの世のすべての渡来人とその子孫は、あくまで色違い(、、、)の奴隷に過ぎず、この世で最も価値ある家畜に過ぎない。

 そんな彼らが、自分の意思を持ち、自分や家族のささやかな幸福のために、日々努力を続ける自分と同じ人間なのだと理解することも、理解するつもりもない。

 いかに金に換えるか。

 ただそれだけを考える存在でしかない。


 それが世界の共通認識であり、自分の言葉が理解され、感謝と共に受け入れられると信じて疑わない。

 莫大な富の分配を約束しているのだ。

 今のエクレムには、この提案が断られるということが想像出来なかった。


 パウリ―ンの両親は、働き者で笑顔が素敵な人たちだった。

 顔を見れば挨拶をし、笑みを交換する。

 利益など銅貨一枚たりとも生み出さない交流が、小さな喜びを与えてくれる、そんな素敵は夫婦だ。


 その二人を利益のためにさらい、心を破壊しようと徹底的に傷つけ、さらにパウリ―ンまでも連れ去ろうとした。

 エクレムの頭脳はその事実を認識している。

 その上で、何の罪の意識も持たず、己の価値基準ですべてを計り、共に二人を売りさばき、利益を分け合おうと誘いをかけてくる。


 理解出来なかった。

 エクレムがクライツベルヘンの在り方を理解出来ないのと同じように、カーシュナーにもエクレムの根源は理解出来なかった。

 

 その明晰な頭脳をもってすれば、精神の在り方の根源を解き明かし、エクレムという人間を読み解き理解することは出来ただろう。

 だが、カーシュナーはたとえ目の前の男を倒すためであったとしても、その在り様を理解しようとすること、触れることを拒絶した。


 嫌悪から、底なしの怒りから、たった一滴たりとも混じり合うことを拒否したのだ。


「くだらん」


 長々と語ったエクレムに対するカーシュナーの回答は、たった一言の拒絶であった。


 一瞬エクレムの顔に穴が開いたかのような空白の時間が訪れる。

 そして次の瞬間、怒りと憎悪が噴き上がる。


「貴様のようなガキに話すだけ時間の無駄であったわっ! 親父を、ヴァウレルを呼んで来いっ! 金の価値もわからん愚かなガキは消え失せろっ!」

 怒鳴り散らすエクレムの目の焦点はすでにどことも合ってはいなかった。

 己の信じる世界にのみ目を向け、この世の現実が映ってはいない。


「お前のような三流商人を、クライツベルヘンが相手にすると本気で思っているのか? 身の程を知れ」

 吠えるエクレムに対し、カーシュナーは無価値なものを見る目で見下しながら告げた。

 その商才で大陸全土を支配する器であると自己を評価していたエクレムにとって、カーシュナーの熱のない侮蔑は、激しく罵られるよりはるかに大きな傷を与えた。


「……やれっ! ゴームッ! オーレッ! そのクソガキを細切れにして魚の餌にしてやれっ!」

 精神の均衡を完全に崩したエクレムが狂ったように喚き散らしながら命令する。

 ゴームとオーレは、帆桁に打たれた傷などないかのような勢いでカーシュナーに襲い掛かった。

 慌てて回避するカーシュナーを見て、エクレムが狂笑をあげる。


 水夫が帆桁によって一掃されたおかげで逃げやすくはなったが、二人同時に追われては手の打ちようがない。

 投げナイフを投じるも、顔や喉などの急所はしっかりと防御され、それ以外の場所では、刺さってもなんの効果もなかった。

 弓矢は手に取る隙すら与えてもらえず、その両手に構えられた合計四本の戦斧から逃れるので手いっぱいの状況に追い込まれてしまう。

 ブルーノも何とかしようと躍起になるが、飛び道具を持たないブルーノでは、下手に二人の大男の間合いに入ったが最後、真っ二つにされてしまう。


 船首に追い込まれたカーシュナーが活路を見出そうと必死で目を凝らしていると、焦りつつも見守ることしか出来ないブルーノの目が、カーシュナーに代わって大きく見開かれる。

 いつからそこに掛けられていたのか、舳先に飾られた海竜の船首像に漁網が絡まり、今まさに、その漁網を伝って一本の腕が現れたのである。

 そして次の瞬間、腕は一人の騎士を船首に運び上げ、その身を宙に躍り上がらせた。


「姐さんっ!」

 ブルーノの歓声が船上に響く。

 巨大船に乗り遅れてしまったカルラは、さらわれた人々に被せた漁網を縄梯子代わりに使い、巨大船によじ登って来たのである。

 突然現れたカルラの奇襲に、カーシュナーを追い詰めたゴームとオーレの包囲が崩れ、カーシュナーが二人の間合いから脱出する。 


「ええいっ! どいつもこいつも役立たずばかりかっ!」

 エクレムは苛立ちを吐き出すと、自らの手でカーシュナーを始末するべく再び弓を取る。

 これに対し、カーシュナーも望むところだと弓を構える。


「カーシュッ! そのイカれたクソ野郎任せていいかっ!」

 ブルーノが吼える。

「俺はちょっと手が離せなくなりそうなんだ」

 オーレを睨みつつ、ブルーノはガイオの剣を構える。

「問題ない。カルラを頼む」

 カーシュナーはニヤリと笑うと友に後を託した。


「馬鹿者っ! お前は下がっていろっ! 敵う相手ではないことくらいわかるだろうっ!」

 ブルーノの決意に水を差すつもりはないが、相手のただならぬ実力を前に、カルラはブルーノに退くよう怒鳴りつける。

 だが、ブルーノは小刻みに震えつつも、カーシュナーの様にニヤリと笑って見せた。


「わかってるって、姐さんっ! まともにやり合うつもりなんざねえよ。俺だって命が惜しいからなっ! 逃げて逃げて逃げまっくてこのデカぶつ引き付けておくから、その間に片方何とかしてくれっ!」

 その言葉にカルラがうなずくと同時に、ゴームとオーレが吼える。

「なめるなっ!」


 重量武器であるはずの戦斧を、まるで小枝でも振るうかのように恐ろしい勢いで振り回し、ゴームとオーレはカルラとブルーノに襲い掛かった。

 宣言通り、ブルーノはオーレに向き合わず、挑発するように逃げ回った。

 オーレも向きになってその後を追いかける。


「遊んでんじゃねえっ!」

 ゴームの怒号が船上に轟く。

 身体の大きさに見合う割れ鐘のような大声だ。


「うるせえっ! って言うか、いつまでもちょろちょろと逃げ回ってんじゃねえぞ、このドブネズミがっ!」

 苛立ちのこもった怒声と共に振るわれた戦斧がブルーノの代わりに舷側を破壊し、木っ端を甲板上に撒き散らす。

 

「はっ! うすのろに鼠は捕まえられないぜっ!」

 オーレはその巨体を考えればけして遅くはない。だが、もともと体格的にはるかに小回りが利き、貧困によって限界まで絞られているブルーノの素早さはオーレをはるかに上回っていた。


 ブルーノは言葉通りオーレを引き付けるだけでなく、逃げるふりをしながらゴームへと近づき、不意打ちを放っていく。

 オーレと同じく速さで勝るカルラを捉えきれないでいるゴームは、ブルーノに意識を割かれ、カルラに集中することが出来ない。

 そんな不安定な状況では、捉えるどころか逆にカルラの鋭い剣技によって切り刻まれ、追い込まれることになる。


 即席ではあるが息の合った連携を駆使し、カルラとブルーノは体格で勝るゴームとオーレを追い込んでいく。

 いけるっ! 

 ブルーノが確かな手ごたえを感じ、再びゴームをかく乱すべく踏み込んだ瞬間、想定外のことが起こった。

 帆桁の落下に巻き込まれ、重傷を負って倒れていた水夫の一人が、最後の力を振り絞り、ブルーノの足を掴んだのだ。


 出そうとしていた足を掴まれたため、ブルーノは踏み止まることも体勢を整えることも出来ず、その場に倒れ込む。

 ゴームに向けて踏み込んだ位置だ。

「調子に乗って足元をすくわれたな。ドブネズミの最後には似合いの死にざまだっ!」

 倒れるブルーノを嘲笑い、ゴームがブルーノの脳天目掛けて戦斧を振り下ろす。


「させるかっ!」

 そこにカルラが裂帛の気合いと共に踏み込むが、ブルーノを追いかけていたオーレがゴームと入れ替わってカルラを迎え撃つ。

「それはこっちの台詞セリフだっ!」

 その巨体でカルラの進路を塞ぎつつ、オーレが戦斧を振り上げる。


 間に合わないっ!


 カルラの瞳が絶望に見開かれたその瞬間、カーシュナーが投じた投げナイフの一撃が、振り上げたオーレの鍛えようがない脇に突き刺さった。

 オーレにとって不幸なことに、丁度振り下ろそうとした瞬間を衝かれたため、腕は戦斧の重みも手伝って、振り下ろされてしまう。

 その結果、カーシュナーによって撃ち込まれたナイフを、自身の剛力でさらに深く刺し込むことになった。


 オーレは慌てて戦斧を投げ捨て、腕を横に流し、それ以上ナイフが深く食い込むのを阻止する。

 その隙を逃すカルラではない。

 踏み込みの一歩でオーレの巨体を押し退けつつ、ゴームの背後に斬りつける。

 ゴームもここでむざむざ斬り殺されるような男ではない。

 片方の戦斧をブルーノに振り下ろしつつ、もう一方の戦斧でカルラを迎え撃つ。


 カルラの剣とゴームの戦斧が、振り下ろされるもう一方の戦斧よりも早く火花を散らし合う。

 技の剣士であるカルラであったが、ここで戦斧をいなし、返す刀でゴームを斬るという選択肢はなかった。それでは、ゴームを倒すことは出来ても、ブルーノを救うには間に合わないからだ。

 ぶつかり合った自分の剣を、渾身の力で振り抜き、ゴームの脇腹にそのまま叩き込む。

 カルラの剣は嫌な軋みを発しながらゴームの脇腹を斬り裂き、内臓にまでその剣先を届ける。

 致命傷を受けたゴームの戦斧はその軌道を逸らし、ブルーノの額の薄皮一枚を削ぎ落しただけで甲板に食い込んだ。


 ブルーノが自分の足首を掴む水夫の手に斬りつけ、何とか脱出するその目の前で、止まらない戦いが渦を巻く。

 脇を抜けられたオーレが無理な体勢のまま強引に振り向き、カルラへと向き直る。

 対するカルラも、強敵ゴームを倒したことなどすでに過去に捨て置き、ゴームに体当たりする形で無理矢理踏み込んだ勢いを殺して振り向く。


 オーレが今度こそ誰にも邪魔されずに戦斧を振り下ろし、カルラも迎撃の剣を振るう。

 だが、ゴームの脇腹から剣を引き抜くために一拍遅れたカルラの剣は、その力が乗る前にオーレの戦斧と激突することになった。

 

 再び起こる剣と戦斧のぶつかり合いは、今度は戦斧にその軍配が上がる。

 無理をさせ過ぎたカルラの剣は鍔元近くでへし折られ、砕け散る。

 それでも、強引に残った鍔で戦斧の横腹を叩き、カルラはなんとか致命傷を回避しようとする。

 軌道は逸れたが、それでもオーレの戦斧はカルラの左肩を大きく斬り裂き、剣同様、左腕も使い物にならなくする。


 苦鳴を呑み込み、痛みを意志の力でねじ伏せて、カルラはもう一度身体を返し、三度オーレに向き直る。

 身体が大きい分小回りが利かないオーレは、一拍遅れる振り向きの動作をそのまま攻撃につなげ、横殴りの一撃をカルラに見舞う。

 剣を失ったカルラには受け止めようがない攻撃だ。

 一度カルラを間合いの外に出し、体勢を立て直してからじっくりとケリをつけようと考えたオーレのその攻撃は、剣を破壊し、深手も負わせ、優位を取ったという油断もあり、必殺の意思がこもらない、ただ振り回しただけの雑な一撃となっていた。

 そしてカルラは、オーレがそう来るであろうことを読んでいた。


 ギリギリの見切りでその一撃をくぐり、オーレの懐に飛び込む。

 だが、あまりにもギリギリであったため戦斧はカルラのこめかみを掠め、傷口から血をしぶかせる。

 掠めただけとはいえ重量武器の一撃である。

 カルラの脳は揺らさせ、平衡感覚も危うくなる。

 オーレの懐に入り、その巨体に取り付くも、それは攻撃のためというより、転倒を免れるためにしがみついたようなものであった。


「往生際が悪いんだよっ!!」

 振り抜いた戦斧を引き戻しながら、オーレが怒鳴る。

 触れるカルラの身体からは、もはや攻撃の意思は感じられない。

 一か八かのカルラの踏み込みは、オーレの戦斧の一振りの方が上回ったと言えた。


「ブルーノッ!!!」

 力が抜けかけるカルラが、必殺の意思を込めて吼える。

 それだけでブルーノはカルラが何を求めているか本能的に察する。


「足掻いてんじゃねえっ!!」

 崩れた体勢のまま、オーレが戦斧をカルラの背に振り下ろすのと同時に、カルラは崩れているオーレの身体を、残る力のすべてを絞り出すように前へと押し込んだ。

 そこには咄嗟に剣を構えたブルーノがいる。


 オーレとカルラ二人分の体重が剣先に掛かる。

 ブルーノも渾身の力を振り絞り、真っ直ぐ前へと剣を押し出す。

 剣先がオーレの大きな背中を貫き、その腹を割り、大量の鮮血と共に切っ先を飛び出させる。

 カルラは顔面を噴き出した鮮血で真っ赤に染めながら、オーレの身体がびくんと一度痙攣するのを感じた。

 そしてそのまま膝の力が失われ、ブルーノの手から剣をもぎ取りつつ、オーレの巨体は甲板に派手な音を立てて倒れ込んだ。


 ゴームとオーレの最後であった――。


 この時、カーシュナーは何の援護も行えない状態にあった。

 ブルーノの危機に、ナイフを投じた一瞬の隙をエクレムに衝かれ、右腕を射抜かれていたのだ。

 幸い仕込んでいた投げナイフに初めに当たり、軌道がずれ、勢いが弱まってくれたため、腕の皮膚の下を縫うように抜けていったおかげで重傷は避けられた。だが、それでも衝撃に腕は麻痺してしまい、この戦いの間はもう使い物にならないだろう。


 祈るような思いでカルラたちの一瞬の戦いを見つめていたカーシュナーは、二人の勝利に安堵の息を吐いた。

 気を抜いていい状況ではないことはよくわかっている。

 それでも二人の勝利は大きかった。

 これで残るはエクレム一人となったのだ。


 この場に立つすべての人間が、エクレムも含めてそう思った。


 その瞬間――。


 誰も予想だにしていなかった人物がこの場に飛び込んで来た。


 デボラである――。


 カルラが使った漁網を伝い、この最悪の時期を計ったかのように現れたのだ。

 ブルーノによって受けた傷は深かった。

 本来助かるような傷ではない。

 失血から意識も失い、今も流れる鮮血は止まってはいない。


「死ねえええぇっっっ!! 小僧おおぉぉっっっ!!!!」

 その目はもはやブルーノしか見ていなかった。

 下手をすれば意識もないのかもしれない。

 ただ、自分を背後から死の淵へと斬り落としてくれたブルーノを道連れにするためだけに蘇ってきたのかもしれない。

 その手には短剣が握られ、あまりに予想外過ぎる出来事に反応出来ないでいるブルーノの上に振り下ろされる。


 あっ、死んだ――。


 あまりにも劇的過ぎる最後に、ブルーノが抱いた感想は、ただそれだけであった。

 ろくでもない人生だったブルーノの過去は、走馬灯などと言う上品なものは用意してはくれず、現実をただゆっくりと見つめさせるだけだった。


 ゆっくりと迫る剣先が不意に視界から消える。

 自分の前にカルラが滑り込んで来たのだ。


 やめてくれっ!


 ゆっくりと流れる時間の中で、反応出来ない自分自身を残し、魂が血を吐くような叫びをあげる。

 だが、その意思がカルラに届くことはない。

 振り下ろされる短剣に対してカルラの左腕が上がり、短剣と触れた肉が斬り裂かれる。そして、骨を断たれながら、それでもカルラは必死で受け流そうと腕を捻った。

 だが軌道はわずかしか逸れず、カルラの左腕を押し退けながら額を割り、そのまま左目までも奪っていく。

 カルラから夥しい量の鮮血が舞い上がった。


「カルラァァアアァァッッッッ!!!!」


 ブルーノの絶叫とカーシュナーの絶叫が同時に喉を震わせる。

 一瞬沈みかけたカルラの身体が、まるで爆発するかのように伸びあがり、勢いのままその右手がべボラの喉を鷲掴みにする。

 そして一歩踏み出すと、べボラの長い脚を自分の右脚で刈り、共に倒れ込むようにべボラの頭部を甲板に叩きつけた。

 分厚いはずの甲板が叩き割られ、そこにめり込んだべボラの首はありえない角度に折れ曲がっていた。


 魔性の女デボラの、本当の最後であった――。


 直後、一瞬の間も置かず、すでに限界を超えてボロボロになっているカルラの背中に、一本の矢が突き刺さる。

 隠れていたエクレムが、カーシュナーではなくカルラを狙ったのだ。


「てめえぇぇっっっ!!!」

 怒りのままオーレの身体からガイオの剣を引き抜いたブルーノがエクレムに襲い掛かるが、ブルーノの脚にも矢が突き立ち、ブルーノを甲板に這いつくばらせる。

 先ほど受けた矢の一撃で最後の投げナイフを破壊されてしまったカーシュナーは飛び道具を失っており、今いる位置からではエクレムの攻撃を阻むことが出来ない。

 とどめとばかりに引き絞られたエクレムの矢は、だが、ブルーノの身体を捉えることは出来なかった。

 再びカルラが身を挺してブルーノを庇ったからだ。


「あ、姐さんっ! やめてくれっ! 死んじまうっ! 俺なんかのために、死なねえでくれっ!!」

 もはや抑えることの出来ない涙と共に、ブルーノが必死に懇願する。

「……馬鹿なことを言うな。騎士が守るべき領民を守らなくてどうするのだ」

 そう言ってカルラは小さく笑った。


「領民なんかじゃねえっ! 俺は親もいねえ孤児で、汚い物乞いで、ずる賢い盗人だっ! あんたみたいな人が守るような価値のある人間なんかじゃねえんだよぉっ!」

 まるで懺悔でもするかのように、ブルーノは自分を否定する言葉を吐き続けた。


「守る価値ならあるさ。お前は騎士になれ。他の誰が認めなくても、私はお前の勇気を知っている。お前のやさしさを知っている。私はお前の未来に期待しているのだ、ブルーノ」

 その間にも、カルラの身体には針鼠に姿を変えたかの様に矢を突き立てられていく。

 守られるだけのブルーノは、ただ泣くことしか出来なかった。


「愚か過ぎて理解出来んな。その小僧本人が言っていた通り、その小僧に救う価値などありはせん。奴隷にしてもろくな価値が付かない単なる屑に過ぎんものを、身を挺して庇うとは、やはり女だな。ものを考える能力が、男に比べてはるかに劣る」

 心底侮蔑のこもった目で見下しながら、エクレムは唾を吐くように言葉を吐き出した。


 ゾンでは女性の地位がひどく低い。

 男たちは女性にはものを考えるような脳はないと本気で思っている。

 女は黙って男の言葉に従い、子を産めばいいというのがゾンの男の考えだ。

 大陸各地を回るエクレムは、多様な価値観に触れているためさすがにそこまで歪んだ女性観を持ち合わせていないが、それでも女性を対等な人間などとは思わない程度にはゾンの男であった。


 十本以上もの矢を撃ち込んでやったカルラの身体を、エクレムは汚物でも見るような目で見下ろしていた。

 その目が不意に驚愕に見開かれる。

 死んだものとばかり思っていたカルラがゆっくりと立ち上がったからだ。


「な、なんなのだ、貴様はっ! 何をどうすればまだ立ち上がることが出来るのだっ!」

 見下していたその目は、理解不能な存在を前に恐怖に見開かれていた。

「たかが百人程度の渡来人ごときのことで、どうしてそこまで自分を犠牲に出来るのだっ! あんな連中は頭のイカれた変態共の慰み者になるのがせいぜいの価値しかない連中なのだぞっ! 何をムキになっているっ! さっさと見捨てていれば、そんな身体になることもなかったのだぞっ!」


「黙れぇっ!!」


 半死半生の身体のカルラから、とてつもない怒気があふれる。


「貴様のような畜生が、人の価値を語るなっ! 貴様によって人生を汚された人々も、共にここまで戦ったこの少年も、私のとっては等しく守るべき命だっ! 命に人の手で測れるような価値など存在しない。そもそも比べていいようなものでもない。この世に生まれてきたということが、すでに尊いことなのだっ! 命を踏みにじる貴様こそ、生きる価値のない畜生だっ!」


 カルラの大喝に、エクレムの顔色が突き抜けた怒りのため、青ざめる。

 この世で最も尊い命は自分自身だと考えている男には、自分の価値を否定されることは何ものにも代えがたい屈辱であった。

 それも、利用する以外何の価値も認めていない平民で、なおかつものを考える能力など虫ほども持ち合わせていない女に否定されるなど、断じて認めるわけにも、許すわけにもいかない所業であった。


「命の価値にはしっかりと値札が付いているんだよっ! その夢見がちな腐った目で現実を見てみろっ! この世は奴隷であふれかえっているではないかっ! それこそがこの世の真理であり、俺の言葉の正しさの証明だっ!」

 吠えつつ最後の矢を引き絞る。

 だが、すぐにはその矢を放たない。

 知能が高いエクレムは、相手を言い負かさすにはおれないのだ。


「今ある現実が正しいなどと誰が決めたっ! 貴様が正しいと喚き、しがみついている現実そのものが間違っているのだっ! 間違いは正せるっ! いや、この間違いは絶対に正さねばならない間違いだっ! そして現実は少しずつではあるが、正しい在り様へと変わり始めている。クライツベルヘンに奴隷はいない。クライツベルヘンには、髪の色や瞳の色が違うからなどという理由で差別を受ける者もいない。ここクライツベルヘンに存在する現実は、いずれこの世の隅々にまで広がる現実だ。このクライツベルヘンの姿こそが、人の世の真理なのだっ!」


 切断寸前の状態にある左腕から血を流しながら、カルラは微塵も揺らぐことなく立ち、言い放った。

 揺らぐことのない真っ直ぐ伸びたその背中を、ブルーノは流す意味を変えた新たな涙を通して見上げていた。

 その言葉に耳を傾けていたカーシュナーも、カルラの言葉を胸に刻む。

 そして、言い負かそうとして返す言葉を失ってしまったエクレムは、その言葉を否定するために、言葉ではなく暴力を解き放った。


「くたばれえっ!!」

 あまりにも陳腐な言葉と共に放たれた矢は、だが、何ものをも貫くことはなかった。

 矢は弦を放れた直後にカーシュナーによって掴み取られ、その左手の中に収まってしまったからだ。


「その矢を返せ、小僧っ! そして貴様もその愚かな女の隣りに並べっ! 女を射殺した後に、手足全部を撃ち抜いて、俺の靴の裏を舐めさせてやるっ! 俺以外の人間は、俺の言うことに従ってればいいんだよっ! 誰も俺に逆らうなっ! 誰も俺の邪魔をするんじゃねえっ!!」

 エクレムは狂気に目を剥きながら、どこまでも身勝手な言葉を吐き散らした。


 カーシュナーはエクレムの叫びをあっさり聞き流し、その言葉と向き合うことを拒否した。

 だが、その濁りきった真っ暗な目だけは、嫌悪感が勝り、無視することが出来なかった。

 その目は言葉以上にエクレムという人間を表現していた。

 見つめるカーシュナーの美しい翠玉の瞳の奥に、激しい怒りの炎を燃え上がらせるほどに――。


 掴み取った矢を、カーシュナーは怒りの赴くまま、エクレムのももに突き刺した。

 そして、痛みで反射的に屈み込んだエクレムの肩に、肩車の要領で飛び乗る。

 頭上に陣取ったカーシュナーは、エクレムに対して何の言葉も浴びせない。

 怒りも、侮蔑も、否定の言葉すらもかけない。

 そこにあるのは、ただ拒絶だけ――。


 カーシュナーは一度背を逸らすと反動をつけ、今度はエクレムの首を軸に振り子のように身体を前方に投げ出した。

 鍛え上げられた両の脚が、しっかりとエクレムの首を捉えたままカーシュナーの身体が百八十度以上回転する。


 ボゴッ!!


 最後は言葉ではなく、滑稽な骨折音を一つ残し、エクレムは死んだ。


 甲板に投げ出されたエクレムの亡骸を、カーシュナーは一瞥すらしない。


 敬愛する小さな主の戦いを見届けたカルラの身体が、力を失いゆっくり崩れ落ちる。

 その顔には安堵の笑みが広がっている。

 カーシュナーは咄嗟に飛び込み、自分の身体でカルラの身体を支えた。


「カルラ。あなたという騎士に出会えたことを、私は生涯誇りとする」


 その言葉に、カルラは嬉しそうに笑い、意識を失った――。









「期待以上だったな」

 治安兵たちによって引き戻された巨大船から降りて来たカーシュナーを見つめながら、男はニヤリと笑って見せる。

「笑っている場合か」

 男と共に事の結末を見届けていた別の男が、呆れと苛立ちを等分に混ぜ合わせたため息を吐く。


 二人の足元には、エクレムの部下だけでなく、カーシュナーたちに不利に働きそうな動きを見せていた他の裏組織の人間の死体も転がっている。

 これまでハウデンで諜報活動を行うための隠れ蓑に使っていたが、事態がここまで大きくなってしまった時点でクライツベルヘン家の介入が確実になったため、もう用はないとばかりに容赦なく殺して回っていたのだ。

 それでいて返り血一滴浴びていないその姿が、男たちの力量をうかがわせていた。


「おい、早く俺たちも脱出しようぜっ!」

 いつまでも飽きることなくカーシュナーを眺めている男に業を煮やした男が、苛立った声を投げる。

 他の密偵たちはすでにハウデンからの脱出を果たしている。

 エクレムがいくらクライツベルヘンの密偵の目を欺くことに成功したからといって、ここまで騒ぎが大きくなればどんな馬鹿でも気が付く。

 相手が馬鹿ではないクライツベルヘンの密偵とくれば、すでに各所に検問を敷いている可能性すらある。     

 これ以上もたつくのは命取りになりかねない。


「わかったよ。そうくなって」

 言いつつ男は名残惜しそうにしながら男に向き直った。

 そして最後に、もう一度だけカーシュナーに振り向く。

 いい加減にしろっ! と、もう一人の男が言いかけた瞬間、男の手が、まるで手自体が独自の意思を持っているかのように動き、もう一人の男の胸を刺し貫いた。

 暗闇の中、その一撃は胸骨の隙間を通り抜け、見事に心臓を一突きにしている。


「……なん、で?」

 血の泡を吹きつつ、驚愕に目をむいた男が問いかける。

「ファフリ。お前さんクライツベルヘンに情報売ってただろ。駄目だぜ。そういうおイタをしちゃ」

 男の答えに、ファフリの見開かれた目が動揺に揺れる。


「いつからって聞きたいんだろ? 冥途の土産に教えてやるよ。俺ってけっこう仲間想いだろ?」

 もはや命の尽きかけている男に、男は自分勝手に語りかける。

「俺がお前を二重密偵に引き抜くように、クライツベルヘン側に提案したのさ」

 死にかけながら、ファフリはそれでも驚きに身じろぎした。

 その反応に男は気を良くする。


「お前さんはよく働いてくれたよ。おかげで本国は俺とクライツベルヘンの密偵に都合のいい解釈をしてくれた。本当に助かったぜ。マジ感謝」

 そういうと男は手にした短刀を捻り、一気に引き抜く。

「あんま苦しまないようにってのが、俺からのお礼だから。感謝の言葉はいらないぜ」

 そう言って息絶えた元同僚の肩を、男は気安く叩いた。

 ファフリはドシャッと音を立てて石畳の上に倒れ込む。 


「何が感謝の言葉はいらないぜだ。どの口が言ってんだ。ジェウデト」

 新たに現れた男のツッコミに、ジェウデトは声を立てずにゲラゲラと笑う。

「クレールマン。あんたこそよく言うぜ。さんざん利用したファフリが殺されるってのに、最後までじっくりとご鑑賞とは、褒められた趣味じゃないぜ」

 目に涙まで浮かべて笑いながら、ジェウデトがクレールマンに言い返す。

「ふんっ。お互いろくな死に方はしないだろうさ」

「俺は構わないぜ。死に方を選ぶために今を生きてるわけじゃないからな。ろくな死に方をしないってことが決まっているなら、余計に今を楽しまなきゃ損ってもんだ」

 ジェウデトの言葉に、クレールマンは肩をすくめただけで何も言い返さなかった。


「それより、そろそろ行かないとまずいんじゃないか? いくら出し抜かれたとはいえ、ハウデンを管轄するクライツベルヘンの密偵のかしらが、いつまでも知らん顔していると、さすがにあの坊ちゃんに勘繰られかねないぜ?」

 真剣身には欠けるが、ジェウデトの忠告は正鵠を射ていた。

 騒ぎの発生からここまでの時間を計算すると、今すぐ出て行っても遅いくらいだ。

 クライツベルヘンの密偵の優秀さは、その一族に名を連ねるカーシュナーも十分承知している。

 あまり遅いと知っていて介入を拒んだと思われかねない。


「いや、どうもとっくに勘繰られているっぽいんだわ。これが」

 クレールマンが心底嫌そうな顔をしてため息をつく。

「マジかっ! こっちには気づいているようだっだが、さすがにそっちにまで気づきゃしないだろ。実際何もしてないんだし、気づかれる要素がないだろ?」

 クレールマンの言葉に、ジェウデトが驚きの声を上げる。

「だといいんだがねえ」

 ジェウデトの言葉に押されるように、クレールマンはぶつぶつと愚痴をこぼしながら港に向かった。


 さて、俺もそろそろずらかるとしますか。などと独り言をつぶやきながらジェウデトがその場に背を向けると、港に出て行ったはずのクレールマンが血相を変えて戻って来た。

「何やってんだよ? 人見知りが激しい子供じゃねえんだ。さっさと行って来いよ」

 戻って来たクレールマンに、ジェウデトが呆れて声をかける。


「やっぱりバレてた。しかもめちゃくちゃ怒ってる」

「なんでそんなことわかるんだよ?」

 ジェウデトの問いに、クレールマンは衣服を引っ張り縦長の穴を見せると、懐から一本のナイフを取り出して見せた。


「戦闘中に使用した投げナイフを回収して回っていたかと思ったら、現場に顔出す前にいきなり投げつけられた」

 衣服を貫いた穴は、大人の胸の高さに空いていた。

「今更のこのこ出てくるな。ことと次第によってはぶっ殺すぞって言ってるのがおもいっきり伝わってくるな」

 これにはさすがのジェウデトも笑みが引きつる。

「俺もそう思う」

 だから急いで逃げて来たとクレールマンは付け足した。


「……まあ、ゾンとクライツベルヘン家が正面からぶつかり合い、結果としてゾンとヴォオスが全面戦争突入するって事態だけは未然に防げたんだし、それで良しとしようぜ」

「ああ、そうする」

「一杯おごろうか?」

「馬鹿言ってないでさっさと国に帰れっ! お前と飲んでいるとこなんて見つかってみろ。それこそ胸の真ん中に穴が開くだろうがっ!」

「はっ! 違いねえ。ついでに俺の胸にも風穴空けられかねないな」

 ジェウデトが渇いた笑いを残しつつ、闇の奥へと消える。

 それとは別の闇の中へ、クレールマンも姿を消す。


 カーシュナーのあずかり知らないところで、事態は全く異なる顔を見せ、カーシュナーに知られることなく収束していた。


 ジェウデトはそれでいいと考える。

 若いうちに妥協することを覚えると、人の器は小さくまとまってしまう。

 今は理想を追い、どこまでも大きくその器を育てていけばいい。

 あの少年はいずれゾンへと来るだろう。

 その時、理想が現実にはならないのだということを教えてやればいい。

 いったいどんな顔をするだろうか?


 怒るだろうか?


 それとも泣くだろうか?


 想像するだけで今から笑えてくる。

 ジェウデトは今日手に入れた新しいおもちゃで遊ぶ日を心待ちにしながら、ハウデンを後にしたのであった――。









 朝日が港の凄惨な光景を照らし出す前に、事態は収束した。

 治療を受けながら被害の状況報告を受けたカーシュナーは、エクレムの組織だけでなく、それ以外の裏組織にも多くの被害が出ていたことを知り、裏組織とはまた違う謎の組織が存在していたことを確信する。


 そんな存在をクライツベルヘンの密偵が見落とすとは考えにくい。

 危険区域がハウデンに出入りする危険人物の溜まり場となっていたのは、危険人物たちが広くハウデンに散ることを避けるうえでの必要悪としての側面もある。

 ハウデン都督府が都市全体の治安維持のために危険区域の現状に目をつむっていたように、クライツベルヘンの密偵も、ヴォオス及びクライツベルヘンを探ろうとする敵国の密偵たちの動きを監視しやすくするために、潜伏先としての危険区域を黙認していた可能性がある。


 理屈は納得出来る。

 他国との情報戦の重要さは、実際に戦場で相まみえ、血を流して戦うことと同等の意味がある。

 戦争はあくまで最終的な手段であって、初めに交わされるのは情報という剣を打ち合わせる外交だ。

 ここで後手に回れば自国に不利益を招き、逆に先手を取れば一兵も損なうことなく大きな利益を上げることが出来る。

 それはそのまま国同士の力関係に直結し、相手を大きく上回ることが出来れば、戦を仕掛けることなく問題を自国に有利に処理することが出来るようなる。

 その積み重ねが国を大きくし、平和を長く維持することにもつながる。


 だが、だからといってブルーノたちのような弱い立場にある者を、見捨てていい理由にはならない。

 人を指揮する立場にある者には、多くを救うために少数の者を切り捨てる非情さが必要だ。

 それはクライツベルヘン家の者として、人の上に立つべく教育を受けて来たカーシュナーも理解している。

 ブルーノたちの犠牲が本当に必要なものであれば、カーシュナーも黙って受け入れた。


 本当に必要であれば(、、、、、、、、、)――。


 この時のカーシュナーの洞察力には、恐ろしいほどのキレがあった。

 ほぼ正確にクライツベルヘンの密偵が下した決断を読み解いてみせる。


 曰く――。


 ブルーノたちはハウデンが、より正確に表現するのであれば、あの危険区域が、クライツベルヘンの監視下にないことを演出するための効果の一つとして捨て置かれたのだということを――。


 ハウデンには多くの船が出入りし、不法入国する者が後を絶たない。

 ブルーノたちのように、それぞれの事情でハウデンに置き去りにされてしまう子供も多くいる。

 そんな者たちのために親身になるような為政者は、大陸中のどこの港を探しても存在しない。

 人生の落後者である彼らはすべてから見放され、誰もが惨めな最期を迎えることになる。


 そんな人間たちの吹き溜まりが危険区域であり、ブルーノたちのような境遇の子供たち流れ着く唯一の場所だ。

 そこに本来いるはずの子供たちだけがいなかったら、危険区域を後ろ暗い目的で訪れる者たちはどう感じるだろうか。

 少なくとも、何の違和感もなく、警戒も持たずに居着くことはないだろう。

 ブルーノたちは危険区域を違和感のない場所にするための舞台装置としてあの場所に置かれたのだ。

 その辛さも、苦しさも、一切顧みられることなく。


 効率を最優先するのであれば、カーシュナーも同じ方法を選択したかも知れない。

 確かに効果的で非常に優れた手段だったと言える。

 だが、唯一の手段であったかと言えば、そうではない。

 他にやりようはいくらでもある。

 自分の力では生き方を選べないような子供たちに犠牲を強いらなくとも、効率を度外視すれば同等の成果を得られる手段が――。


 一週間後、カーシュナーはハウデンを去ることになる。

 半年はここハウデンで市井の暮らしを学ぶはずだったのだが、その正体が知られてしまったため、これ以上ハウデンで過ごすことが不可能になってしまったからだ。


 その道行に、エクレムの計画によってさらわれ、心を壊されてしまった人たちも同行した。

 パウリーンとその両親もその中に含まれている。

 徹底的に心を破壊されはしなかったが、身体と、何より心に受けた傷があまりに深く、今まで通りの日常生活に戻れなかったからだ。


 カーシュナーは改めてパウリーンとその両親、そしてその他の被害者たちに、クライツベルヘン家の子息として詫びた。

 頭を下げるカーシュナーを責める者は一人もいない。

 自分たちの半分もないような小さな身体で、ボロボロになるまで戦い続けてくれたその姿を、彼らは自分たちの目で見ていたからだ。

 全員を代表してパウリーンがカーシュナーの前に出る。


「ありがとう。カーシュ」

 予想外の言葉に、カーシュナーは思わず顔を上げてしまう。

 今回の惨事は、エクレムに出し抜かれたクライツベルヘン家の密偵の失態だ。

 監督する立場にあるクライツベルヘン家の人間として、カーシュナーはどんなそりりも甘んじて受ける覚悟でいた。

 それだけにパウリーンの言葉は予想外だった。


「約束を守ってくれて、ありがとう」

 父と母を探してほしい。

 パウリーンの願いを引き受け、

「待っててね」

 と言ってほほ笑んだ少年のやさしい笑顔を、パウリーンは今でもはっきりと覚えている。


 何があったかは知らない。

 だが、全身傷だらけとなったその身体を見れば、約束を守るためにどれ程の危険を冒したのかは、十一歳の少女でも想像がつく。

 日の光を反射させていたきれいな金髪は丸坊主になり、布で吊られた右腕が痛々しく映る。

 何があったのかと何度聞いても答えてはくれないが、それがひどく惨たらしいことであっただろうことは、変わり果てた両親の姿が雄弁に物語っていた。


 パウリーンは、頭を深々と下げた体勢で顔だけ上げるという器用な真似をしているカーシュナーの手を取り引き寄せた。

「本当に、本当にありがとう。カーシュのおかげで、お父さんとお母さんが帰って来たよっ!」

 そう言ってほほ笑む少女の瞳は、幼くはあるが、それでも一人の女として、真っ直ぐにカーシュナーの翠玉の瞳を見つめた。

 その視線の意味をまだ理解出来ないカーシュナーは、戦場では微塵も揺らがなかったというのに、十歳という年齢に見合った少年らしく、パウリーンの視線にどぎまぎしてしまった。


 カーシュナーはクライツベルヘンに急ぎ戻ると、ことの顛末を父であり当主であるヴァウレルに報告し、同時に痛烈に批判した。

 力のない者が手段を選べないのはやむを得ないかもしれないが、他の手段を選べる者が今回のように当たり前のように弱者を切り捨て、利用することは、あってはならないことだと――。


 己の受けた傷には一切触れず、被害にあった者たちや、ブルーノたちのような生活困窮者たちの痛みと苦しみを切々と説いた。

 カーシュナーが言葉を続ける間、ヴァウレルは一言の言い訳も挟まず、最後まで聞き届けると、当主として己の不明を息子に詫び、対等な目線で今後のハウデン統治を話し合った。


 数々の対応が検討され、早急に実施されていく。

 危険区域は即日クライツベルヘン騎士団により一掃され、これまで捨て置かれていた人々は全員クライツベルヘンの領民の身分と仮住まいをを与えられ、ありとあらゆる人間が危険区域から出された。

 後日、元危険区域はすべての建物が破壊され、ひそかに建設されていた地下施設も暴き出され、完全な更地となった。

 このクライツベルヘン家の徹底振りに、ハウデンに暮らす人々はすべてが変わったのだと思い知った。


 エクレムに加担したエルモントは都市中を引き回されてさらし者にされ、見せしめとして公開処刑された。

 また、エクレムの私兵部隊に所属していた者たちも同罪とされ、全員捕らえられ、処刑された。

 命令されただけだ。相手がクライツベルヘン家の人間だと知らなかったなど、見苦しい言い訳を繰り返したが、そもそもクライツベルヘンでは警備、警護目的以外の武装組織を認めておらず、その規模や活動内容も厳しく管理されている。

 たとえエルモントの命令であったとしても、クライツベルヘンによって許可された目的以外の武力行使は厳罰の対象なのだ。

 彼らの訴えは、職務規定をまるで理解していない、自分たちは特別だという特権意識に根ざしたわがままでしかなった。


 この処分によってもともと少なかった旧ハウデン貴族はさらにその数を減らし、エルモントの大失態により、旧ハウデン貴族の人間は、有能無能問わず、ハウデン統治の中枢から遠ざけられこととなった。


 ハウデン都督府も一度解体され、人員を一新して新体制となった。

 そして約一年間、代行という肩書のついた人物がハウデン都督を務め、一年後、代行ではない都督がハウデンへと赴任する。


 その都督は、ハウデンがクライツベルヘン領となって以降初の女性都督であった。

 左腕と左目を持たない彼女は、それまで手にしてきた剣をペンに持ち替え、新たな戦場で守るべき領民たちのために再び戦い始めた。


 新都督の名は、カルラ――。


 瀕死の重傷を負ったもの、奇跡的に一命を取り留めたカルラであったが、デボラによって骨まで断たれた左腕と潰されてしまった左目はどうすることも出来なかった。

 加えてエクレムから受けた多くの矢傷が神経を傷つけてしまい、カルラから騎士として生きる道を奪ってしまった。


 ようやく叶えた一族の悲願を奪われ、日常生活すら危ぶまれたカルラであったが、その心が絶望に囚われることはなかった。

 己の現状を知ったカルラは、その瞬間から新たな戦いを始めた。

 奇しくもカルラが騎士道を歩むきっかけとなった父と同じく、負傷によってその道を閉ざされることとなったが、剣を置いても心はあくまで騎士と、気高く前を向き、新たな人生を懸命に歩み続ける父の後ろ姿を見て育ったカルラには、どのような形になろうとも、その道はカルラにとってどこまでも騎士道だった。


 カーシュナーは始めからカルラをハウデン都督に据えるつもりで代行を置き、カルラの復帰を信じて待ったのだ。

 ちなみにカルラの代行として新たなハウデン都督府の立て直しに従事したのはクレールマンであった。

 カーシュナーの冷たい視線にさらされ続けることになるクレールマンは、額に冷たい汗を浮かべつつ懸命に働き、新都督府の体制作りに尽力した。

 

 ブルーノ以下危険区域に暮らしていた子供たちはカーシュナーの求めによって新設された養護施設に入ることになり、生活を保護されつつ教育を受け、それぞれがこの先に待っている自分たちの人生の選択肢を増やすべく努力を重ねている。


 ブルーノは迷わず騎士の道を目指して日々厳しい修練を積み、チェルソーは予想通りバルトアルトにその才能を見い出され、密偵になる、ならないを別として、徹底的な英才教育を受けている。


 そしてカーシュナーは、事件の後処理の際に押収されたエクレムの私財すべての管理と処分を任されることになった。

 これが後々までのカーシュナーの活動資金の元となる。


 子供が持つにはあまりにも大き過ぎる個人資産に、カーシュナーの人格に悪影響を及ぼすのではないかと危惧する声もあったが、判断を下したヴァウレルはニヤリと笑うだけで欠片の懸念も抱かなかった。

 これまでとは違う形で人としての成長を促すために送り込んだハウデンで、息子はヴァウレルの想像をはるかに超える成長を見せた。

 おかげでめちゃくちゃ怒られたが――。


 ハウデンの状況が落ち着きを見せたころ、ヴァウレルはこの当時のことを思い出し、腹心の部下であり、幼少期からの友人でもあるテオドールと共に苦笑を浮かべた。


「ものすごく怒っておられましたな」

 側近としてカーシュナーの報告の場に居合わせたテオドールは、その当時のことを昨日のことのように鮮明に覚えてる。

 怒鳴り散らすのではなく、淡々とクライツベルヘンの非を糾弾するその姿は、小さな少年の外見とあまりにかけ離れた冷たい怒りを放っていた。

 とても忘れられるような光景ではない。


「きっと、まだ怒っているはずだ」

 テオドールの言葉にうなずくヴァウレルは、言葉とは裏腹にどこか嬉しそうな表情を浮かべている。

「はて? そこまで根に持つ性格だったでしょうか?」

 失敗は反省し、次に同じ失敗を繰り返さないための判断材料にすればいいという考えのカーシュナーは、厳しく指摘はするが、一度口にすればそれ以降繰り返すようなことはしない。

 当時の怒りの深さは相当なものであったが、その後のヴァウレルの対応は完璧だっただけに、いつまでも怒りを持続させているとは考えにくいのだ。


「いや、世の在り様に対してだ」

 そう言うとヴァウレルはニヤリと笑った。

 それはある意味クライツベルヘンの根幹を成す感情と言ってもいい。


 クライツベルヘン家が貴族社会において恐れられるのは、けしてその気配を掴ませない怒りが常に向けられているからだ。

 この怒りの源泉を知る者は、他の五大家の直系しか存在しない。

 そこには五大家も含む六聖血として称えられる王家すらも加わってはいない。


「カーシュには<継承>は必要ないかもしれんな」

 主がこぼす謎の言葉に、テオドールが困惑の表情を浮かべる。

 <継承>に関しては、ヴァウレルを補佐する必要上クライツベルヘンのほぼすべての物事に精通しているテオドールも知識はない。

 ヴァウレル自身は秘する必要性を感じないのだが、血の力を持たない者には理解し難いことは間違いない。

 すべてを共有することが信頼ではない。

 無用な負担にしかならないとわかっていることは、伝えないのが互いのためだ。

 それがわかっていて、敢えて言葉にし、テオドールを困惑させるのは、ヴァウレルの悪癖故だ。

 

 すでに<継承>を済ませているアインノルトと比較しても、むしろまだ幼いカーシュナーの方がクライツベルヘン家のらしさ(、、、)を感じさせる。

 それでいてヴァウレルの記憶にある(、、、、、)初代とはまったく似ていない。

 求めるものは似ていても、求めるものへの向き合い方がまったく違うからかもしれない。


「上手く育てれば、あいつは初代様を超えるかもしれんな」

 この思いが後々カーシュナーにゴドフリートを引き合わせることへとつながり、その後のカーシュナーの人格形成の方向性を決定づけることになる。


 ハウデンにおける小さな出会いと激しい戦いは、この後長く続くカーシュナーの戦いの歴史の原点であった――。









 懐かしくも凄惨で、惨たらしい原点の記憶を、カーシュナーは南方民族の灼熱の大気の中に幻視していた。

 独善的で利己的で、自分の思い通りになることがこの世のすべてと思い込んでいた、暗く濁った嫌な眼を思い出し、新たな怒りが身体の奥から湧き上がる。

 そして、そんな矯正不可能などうしようもないクズ共が、この地上には驚くほど大量に生息していることを、大人となった今のカーシュナーは知っている。 


 思い知らせてやる。


 そして、根絶やしにしてやる。


 人の痛みを、悲しみを、そして苦しみを、嗤いながら食い物にするすべての人間を、この地上から一掃してやる。


 ほぼ危険思想の持ち主と何も変わらないようなことを南方民族の大地に誓うカーシュナーの背に、信頼に満ちた声がかけられる。


「カーシュナー様。準備が整いました」

 振り返るカーシュナーの目の前には、モランを筆頭に、一軍を形成する南方民族の男たちが並んでいた。

 その全員の目が、カーシュナーに対する尊敬と信頼で輝いている。

 己の内にある怒りを、ただ破壊の衝動に変えるだけの者と、新たな創造のために用いる者との差が、今、結果となってカーシュナーの目の前に広がっていた。


「じゃあ、やろうか」

 そう答えると、カーシュナーはニヤリと笑った。

 その悪い笑みにつられ、居並ぶすべての男たちが、全員まるで悪人のような悪い顔でニヤリと笑ったのであった――。

 やっと南方民族の土地に帰ってこれました(苦笑)


 正直この土地での展開は南波好みの展開になるので、今から書くのが楽しみです。

 なるべく早くお届け出来るように頑張りますので、気が向いたらのぞいてやってください。


 今回のカーシュナーの過去編的なお話を書くに際し、かなりエグイ内容になるとお伝えいたしましたが、ほぼすべてカットいたしましたっ!


 なんじゃそりゃあっ!


 というツッコミが聞こえてきそうですが、エグイ部分自体は、実は全部書きました。

 書いたうえで読み返し、内容に納得もいきました。

 カーシュナーが何故ゾンにまで乗り込んで奴隷制度を破壊しようとするのか、その根本を理解していただくためには、カットせず、そのまま掲載した方がよかったと今でも思っているのですが、書ききったことで満足したのでしょう。かなり客観的に読み返すことが出来ました。


 客観的な目で読み返して思ったことは、やっぱりエグ過ぎるということでした。

 

 読んで深まる理解より、読んで覚える不快感の方がはるかに大きいだろうと、我がことながら思ってしまったのです。

 18禁指定されるんじゃないかと不安になるくらい。


 エグイの平気だよっ!


 という方もいらっしゃるでしょうが、一応15歳以上とうたっている手前、これは自主規制がいるなと判断し、カットした次第です。

 いや、今までも十分エグかったよという方がいらっしゃいましたら、せっかく掘り起こしていただいたヴォオス戦記ですが、元の場所に戻し、地中深くに埋めてお忘れください。

 これ以上ライトになることもございませんので(苦笑)


 今回は本編が長めだったので、ここまでお読みくださった方、お疲れさまでした。

 先はまだまだ長いですが、今後もお付き合いいただければ幸いです。

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