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ヴォオス戦記  作者: 南波 四十一
ヴォオス戦記・乱
58/152

<フローリンゲン城塞攻防戦>

 レフィスレクスがケルネルスと刃を交えていたとき、その父親であるクリストフェルンは、エストバ軍本陣へと襲撃をかけていた。

 攻め込んでいるはずの状況で背後からの襲撃を受けたエストバ軍は混乱した。

 エストバ軍のケルネルスたちの軍勢に対する勝利に偽りはなく、敗走もエストバ軍を引きずり出すために偽装されたものではなく、ケルネルスたちが生き残るために必死で走ったものだった。

 これを囮と看破しろと言われては、さすがのバルワントも手の打ちようがない。


 裏切り者を生餌に使ったクリストフェルンは、背後からだけでなく、エストバ軍とケルネルスたちを欺くために使った陽動部隊を、エストバ軍の右側面にぶつけ、一気に攻め立てた。

 体勢を立て直す前にさらに揺さぶられたエストバ軍は統率を失い、バルワントの指揮能力も麻痺してしまったため、暗闇の中一方的に狩りたてられる結果となってしまった。


 不幸中の幸いは、一気に混乱が広がったことでエストバ兵が無秩序に逃げ惑い、これを討つためドルトスタット兵も追跡のために広がらざるを得ず、結果として指揮官であるバルワントがエストバへと逃げ延びることが出来たことであった。


 一万のエストバ軍のなかで無事エストバへと逃げ延びることが出来たのは千にも満たず、全体の九割もの兵士がゼルクローの山中に取り残された。

 ベルンハルトが吊り橋に細工を施しており、大人数が一気に渡ろうとした瞬間ロープが切れ、その上にいたエストバ兵諸共落下し、脱出の手立てが断たれてしまったのだ。


 この時の死傷者は六千ほどで、残りは捕虜となった。そして、その捕虜の処分は、ドルトスタット軍に代わってゼルクロー軍にゆだねられ、最終的な死者数は九千となった。

 これはエストバ軍によって故郷を荒らされたゼルクロー軍の復讐という側面もあったが、捕虜を抱え込めるほどの食糧的ゆとりがなかったためだ。


 事後をゼルクロー軍に託すと、クリストフェルンは小休止を挟み、フローリンゲン城塞に向けて出立しようとした。

 だがそこに、突如鷹が舞い降り、クリストフェルンに緊急の伝言(、、)を届ける。

 しばしの後、鷹は再び空の住人となり、あっという間に空の彼方へと飛び去って行った。

 クリストフェルンは一瞬だけ迷った末、レフィスレクスに騎兵千を託し、再び山中へと姿を消した。


 後に残ったレフィスレクスと千の騎兵は、フローリンゲン目指してゼルクローの地を後にした――。









 フローリンゲン城塞への援軍としてクライツベルヘンを発していたヴァウレル率いるクライツベルヘン軍は、強行軍の末、フローリンゲン城塞まであと一日の距離まで迫っていた。

 そのヴァウレルのもとに、鷹からの伝言が届く。

 内容を聞いたヴァウレルとヴァールーフは、二重の意味で唸らされた。


 一つはレイナウド将軍の死と、裏切り。

 もう一つは鷹の送り主であるベルンハルトからの要請内容だった。

「父上。ベルンハルトからの要請、どう思われますか?」

 問いかけるヴァールーフの表情は苦い。その表情だけでベルンハルトの要請に対し、反対であることが見て取れる。


「まあ、無茶だな」

「無茶ではなく、無茶苦茶ですっ! カーシュでもここまでの無茶はしませんっ!」

 ヴァウレルの言葉に、ヴァールーフがむきになって言い返す。


「あれはいくつだった?」

「確か十九です」

「若気の至りというやつだな。だが、狙いは悪くない」

「若いからですむ話ではありませんっ! ベルンハルトは子が生まれたばかりなのです。このような無茶をせずとも、我らが駆けつけるまでフローリンゲン城塞をもたせればすむ話です。いくらなんでも危険過ぎますっ!」


「なにっ! あれはもう子持ちなのかっ!」

 ヴァールーフの話の要点とはまったく違う部分にヴァウレルが喰いつく。

「ということは、クリストフェルンはもう孫持ちということになるではないかっ!」

 そしてついにはまったく関係ないことに驚きの声を上げる。


「父上。祝いの品を贈ったではありませんか」

「その辺りのことはラライアに任せきりでな。正直どの家の話かもわからん。ドルトスタット家の祝い事であったか」

「とにかく。そういう事情ですから、無理に己の命を危険にさらしてまで採るような策ではないと言っているのですっ!」

 ヴァールーフの苛立ちは、ベルンハルトの身を案じてのものであった。


「いいのう。羨ましいのう。わしも孫、ほしいのう」

 そんなヴァールーフの心情を思い切り無視して、ヴァウレルがヴァールーフにちらりと視線を向ける。

「そういうことはアイン兄さんに言ってください」

 話の方向が面倒くさい方に流れ始めたので、ヴァールーフはこの場にいない兄のアインノルトを生贄に差し出した。


「確かにアインの方が先であるべきだろうが、お前ももう三十三だろうがっ!」

 話の流れはアインノルトを生贄に差し出した程度では変えられなかった。

 クライツベルヘン家に政略結婚はない。

 五大家筆頭というヴォオス貴族の頂点にありながら、その存在はもっとも異端であり、貴族としての常識が通用しないことでも有名だった。


 クライツベルヘンに限らず、五大家は他の貴族との間に姻族関係を結ばない。

 それは五大家のこれ以上の勢力拡大が、他の貴族や王族にとって脅威以外の何ものでもないことからくる配慮であるが、クライツベルヘン家の場合、血筋や家柄にこだわる貴族連中に対する当てこすりの一環として、自由な恋愛から、身分、家柄に関係なく、その人柄で結婚相手を選んでいた。


 クライツベルヘン家のこの行動を、<六聖血ろくせいけつ>の血を穢す蛮行とそしる者もいるが、五大家の中でも特に多くの傑物を輩出するのがクライツベルヘン家であるため、どんな言葉も事実の前にはむなしく響くだけであった。

 特に現当主ヴァウレルに始まり、嫡男であるアインノルト、次男であるヴァールーフ、三男であるセインデルト、四男であるカーシュナーと、生まれる男児すべてが傑出した才能に恵まれているため、無能愚昧の息子にしか恵まれない貴族たちからは、羨望と、それをはるかに上回る激しい嫉妬によって妬まれていた。

 

 そんな家風もあって、嫡男のアインノルトを筆頭に、クライツベルヘン家の四人の成人男性たちはまだ一人も結婚していないのであった。

 これまでヴァウレルもそんなことはまったく気にしていなかったが、齢六十を過ぎてようやく、

「あれ? なんかちょっとうちの息子ら遅くね?」

 と思うようなったのである。


「あまりにも気がつくのが遅過ぎます」

 そう言って嘆いたのは、ヴァウレルに長年仕えるダーンの父、テオドールであった。


「そんな話は今回の侵攻を阻止し、ヴォオスに平安を取り戻してからです!」

「そう言ってはぐらかそうとしておらぬか?」

「兄上や私に限りません。先行き不安なヴォオスの未来を、これから生まれ来る子らに残して、どうして親となったときに我が子に胸を張れましょうか。リードリット陛下の御許、多くの可能性に満ちた輝けるヴォオスを築いたうえで、私は父になりたいと思います」


「ふむ。なかなか良いことを言う。確かにわしも孫の代にエストバやゾンあたりが我が物顔で練り歩くようなヴォオスは残したくない。だがな、まず仕込まねば子などぽんぽん産まれてきたりはせんのだ。子の話の前に、まずは妻となるべき女性を真面目に探さんかっ!」

 上手く丸めこまれるかと思われたが、ヴァウレルはそれほど甘くなかった。


「その点に気づかれましたか」

 やれやれとばかりにヴァールーフが肩をすくめる。

「ふふっ。気づかぬとでも思うたか?」

 そう言って視線で牽制し合う二人に、テオドールが咳払いを一つしてから口を挟む。


「そろそろ真面目にお願いいたします」

「はい」

 ヴァウレルとヴァールーフは同時に答えた。


「ベルンハルトの策に乗る。時間がすべての鍵だ。ヴァル、兵を急がせよっ!」

「本当によろしいのですね? 我らがフローリンゲン城塞に駆けつけねば、ベルンハルトは命を落とすかもしれないのですよ?」

 ヴァールーフも、これが最後ともう一度だけ確認する。


「ヴァル、よく考えてみろ。何故ベルンハルトがこんな危険な賭けに出たかを。ベルンハルトは確かに若い。この策を決断出来たのも、若さゆえだろう。だがその無茶は、若さゆえの視野の狭さからもたらされたのではなく、むしろ現在のヴォオスの状況を広く見渡した結果だ。ベルンハルトは降りかかる火の粉を払うのではなく、火の粉を振りまくその大元を消し去ろうと考えたのだ」

 ヴァウレルにもエストバの動きから、今回の三国同時攻撃と、国内貴族の一斉蜂起を画策した黒幕の正体が見えていた。


「……ヴォオスの国内貴族だけならまだしも、イェ・ソン、エストバの二国を動かし、ヴォオス国内に事前に三万もの傭兵を潜伏させることが出来るような奴は、一人しかおりませんな」

 ヴァールーフも現在明らかになった情報から推測し、ベルンハルトやヴァウレルと同じ答えに達する。


「クロクスは今、エストバにいる」

 ヴァウレルは断言する。

 ケルクラーデンの野において、その行方をくらませていたヴォオスの元宰相だ。

 その行方は現在もヴォオス軍の諜報部によって捜索されているが、ようやくその尻尾を掴むことが出来たようだ。


「では行きましょう。ダル・マクタースタを火の海に沈めてやれば、バーユイシャもフローリンゲン城塞どころではなくなるでしょう」

 先程まではこの作戦に否定的であったヴァールーフだが、身を危険にさらしてでも、すべての元凶であるクロクスの排除を決意したベルンハルトの心意気に打たれ、意を決していた。


 クライツベルヘン軍は強行軍を重ねつつも、明日と予想されていたフローリンゲン城塞での戦いのために残しておいて力を使い、さらなる強行軍を敢行する。

 クライツベルヘン軍がエストバの王都ダル・マクタースタに迫るのが少しでも早まれば、バーユイシャも兵を返さざるを得なくなる。

 ヴォオス軍が五万もの兵力を無視してエストバに侵攻するなど、国王であるバーユイシャはおろか、影で糸を引くクロクスでさえも予期してはいないからだ――。









 ドルトスタット軍とクライツベルヘン軍にエストバ侵攻の策を献じたベルンハルトは、フローリンゲン城塞の指揮官代行の地位に収まっていた。

 本来であれば、レイナウドの幕僚の内の誰かが代行するべきなのだが、ベルンハルトが提案したフローリンゲン城塞を囮とし、ドルトスタット軍とクライツベルヘン軍によりエストバを強襲するという策に乗ったレイナウドの幕僚たちは、奪われたレイナウドの首だけでなく、打ち捨てられたままとなっていたレイナウドの身体まで持ち帰り、レイナウドを完全な状態で弔うことが出来るようにしてくれたベルンハルトに感謝を捧げると同時に、返しきれない恩義に報いるため、この戦の全権と、自分たちの命をも捧げたのだ。


 ドルトスタット軍からの情報でケルネルスたちの裏切りが明るみになったことで、フローリンゲン城塞兵たちの間には、動揺ではなく噴き上がるような怒りが生まれ、怒りは抑えようのない復讐心へと変わっていた。

 ケルネルスたちを操り、レイナウドを謀殺したその黒幕を自らの手で八つ裂きにしてやりたかったが、現実問題として五万ものエストバ軍に包囲されてしまっている自分たちは手も足も出せない状況にある。

 だが、逆に自分たちがここで五万ものエストバ軍を引きつけておくことが出来れば、自由に動けるドルトスタット軍とクライツベルヘン軍が、自分たちに代わってレイナウドの仇を討つことが出来る。


 レイナウドの首を取り返すために打って出た騎兵部隊はほぼ壊滅状態だ。生き残った者たちで無傷の者は一人もいない。

 戦えるのは歩兵のみ五千。

 五万対五千の包囲戦に、フローリンゲン城塞兵たちは怯えるどころか、その士気はむしろ燃え上がっていた。


 対するエストバ軍も、まんまとレイナウドの首を取り戻されてしまい、フローリンゲン城塞の騎兵戦力に壊滅的な打撃を与えた功も吹き飛び、屈辱と怒りに満たされていた。

 もっとも、恥をかかされたのはあくまでエストバ正規軍だけであり、この戦場における主力である傭兵三万は未だに無傷で本格的な攻城戦に備えていた。


 バーユイシャの怒りを恐れていたサダーカ将軍であったが、バーユイシャは自分に対して反旗をひるがえしかけたエストバ正規軍が大いに恥をかいたことでこれまでの溜飲が下がったらしく、レイナウド将軍の首を取り返されたことに対して、これといった処罰は下さず、サダーカを一安心させた。

 だが、その分当然のようにフローリンゲン城塞騎兵に対して奮戦したこともなかったことにされてしまった。


 エストバ軍は現在、攻城兵器が組み上がるのを待っていた。

 バーユイシャとしては、レイナウドの首ではなく、こちらを狙われなくてよかったと考えていた。

 いったいどこから紛れ込んで来たのかはわからないが、フローリンゲン城塞騎兵を援護した部隊が攻城兵器の組み立て現場に襲撃をかけていれば、エストバ軍のフローリンゲン城塞攻略は、大幅な遅れを強いられていたはずだ。


 フローリンゲン城塞の城壁は堅牢だ。城門の守りも固く、ありきたりな力攻めでは五万の兵力でも足りないかもしれない。

 ある意味敵の伏兵を、首一つで釣り出せたのだから、バーユイシャにとっては安い買い物であったいえる。 

 本格的な攻勢をかけるのは攻城兵器が組み上がってからになるが、それまでの間、フローリンゲン城塞兵を休ませてやる義理はない。

 バーユイシャはサダーカ将軍に命じて矢戦を仕掛けることにした。


 山岳戦を得意としているエストバ軍であるが、山で鍛え上げられたその能力は攻城戦でも発揮される。

 猟師を生業とする者も多く、エストバ軍の弓兵の実力は侮りがたいものがあった。

 通常のヴォオス軍であればおおいに苦戦させられただろうが、現在のフローリンゲン城塞にはベルンハルトを筆頭としたドルトスタット兵がいる。

 技量で勝る上に城壁上から射かけることの出来るドルトスタット兵が相手では、さすがのエストバ軍の弓兵も本領を発揮出来ず、無駄を悟ったバーユイシャは早々に手を引いた。


 代わりに大声自慢の兵士たちを集め、矢の射程外から罵詈雑言を浴びせかけ、フローリンゲン城塞兵を挑発するという、レイナウドの首を使ってしたことと大差のない行動に出た。

 エストバ国王バーユイシャは、高い教養と完璧な礼儀作法を身に着けた一流の人間であったが、その本質は品位に欠けているようだった。


 もしこの場にカーシュナーなりシヴァがいれば、嬉々としてエストバ国王をこき下ろして報復を謀っただろうが、現在のフローリンゲン城塞を指揮下に置くのはベルンハルトだ。

 口汚く吠えるエストバ兵などまったく相手にせず、ベルンハルトは身体を休ませることに集中していたが、挑発の内容がレイナウド将軍のことに及ぶと、おもむろに大弓を手にして矢をつがえると引き絞り、大口を開けて罵っていた兵士の口を狙って射放った。

 矢は通常の射程をはるかに超えて兵士の口へと飛び込み、その鋭い矢じりは喉を貫き先端を首の後ろに飛び出させてエストバ軍兵士を射殺した。

 ベルンハルトは文字通りエストバ兵を黙らせたのだ。


 慌てて距離を取り直し、同じことを繰り返したが、今度は距離が開き過ぎてしまったため挑発の言葉はフローリンゲン城塞とエストバ軍の間を吹き渡る風に流され、フローリンゲン城塞兵の鼓膜を、意味のある言葉で打つことはなかった。

 それでもエストバ軍にとっては次の攻撃までの間繋ぎとなり、攻城兵器完成まで、その士気が落ちることはなかった。


「来るか」

 ベルンハルトが兵士に押されて城壁へと近づいてくる攻城梯子の群れに目をやりながら呟く。

 従うドルトスタット兵のみならず、フローリンゲン城塞兵も、その遅々とした動きを緊張の中見つめていた。


「フローリンゲン城塞兵は攻城兵器を動かしている兵士を狙えっ! ドルトスタット兵は火矢でもって攻城兵器を狙えっ!」

 ベルンハルトの号令に、気合のこもった返事が返る。

「長期戦が予想されるが、だからといって攻撃の手をひかえるなよ。矢の一本を惜しんでフローリンゲン城塞を陥とされたとあれば、あの世でレイナウド将軍に御叱りを受けるぞ。明日のことは考えるな。レイナウド将軍の名に恥じぬ戦いをすることだけを考えろっ!」

「おおっ!!」

 ベルンハルトの言葉に応えたフローリンゲン城塞兵の声は、堅固な城壁が揺れるほど大きかった。


 両軍の距離が縮まり、フローリンゲン城塞兵の矢が死の雨となって降り注いだことでいよいよ城壁を巡る本格的な攻防戦が始まる。

 盾を頭上に構えて必死で身を守るエストバ兵は、仲間が射倒されても即座に次の者が補い、数的優位を発揮してフローリンゲン城塞からの反撃を押し返していく。


 また、一度はドルトスタット兵によって後退させられた弓兵が援護として再び前線に戻ったため、フローリンゲン城塞の迎撃は攻城梯子だけに集中することが出来ず、半日かけての攻防の末、ついに最初の梯子がフローリンゲン城塞の城壁に掛けられた。


 ここで梯子を駆けあがって来たのが、これまで後方に控え、フローリンゲン城塞兵とエストバ兵の攻防を見物していた傭兵たちだった。

 統制という意味では正規兵であるエストバ兵には及ばないが、大陸を剣の腕一本だけで渡り歩く傭兵たちは、個々の実力に優れているうえに、多くの戦場を経験している。

 特に使い捨ての駒扱いされることの多い傭兵たちは、攻城戦で先陣を切る経験は豊富だった。


 命知らずの馬鹿たちが我先にと梯子に群がり、盾を構えつつ、片手だけで猿のようにするすると梯子を上っていく。 

 これを黙って見ているフローリンゲン城塞兵はおらず、盾が邪魔で射落としにくい真上からではなく、胴体を狙える斜め上から矢を放っていく。

 だが、そのためには城壁上から上体を乗り出さなくてはならず、今度はそこをエストバの弓兵から狙われ、射落とされてしまう。

 

 掛けられた梯子を落とそうとする兵士もいるのだが、先端が鉤爪上に金属で補強された梯子は一度城壁に食い込むと自重でさらに深く食い込み、人力では容易に取り外すことが出来ない。

 そこで斧を手に梯子の木製部分を切り落とそうとするのだが、そうするとほぼ全身を城壁上にさらすことになり、一人の例外もなく射落とされてしまった。


 ドルトスタット兵は弓の腕前でエストバ兵を凌駕していたが、エストバ兵はその実力差を数の差で覆していた。

 エストバの弓兵を抑えきれないフローリンゲン城塞側は、徐々にではあるが兵数を確実に削られ、すべての局面に対応出来なくなっていった。


 この事態を始めから想定していたベルンハルトは、攻城梯子に対する迎撃もすべてに対して均等に行うのではなく、守備的に弱い部分を重点的に守り、それ以外は梯子を掛けられる前提で迎撃を進めていた。

 その結果、火矢によって集中的に攻撃された梯子のみが焼け落ち、それ以外はすべてフローリンゲン城塞へと辿り着いていた。


 ここまでは想定通りであったが、傭兵の働きは予想外であった。

 ベルンハルトも城塞の防衛戦自体が初めてだ。

 訓練は十分に積んでいたが、やはり実践は勝手が違う。

 今日一日は矢戦のみでエストバ軍を抑えきれると考えていたのだが、早くも守りの一部を突破され、城壁の上に敵兵の始めの一歩を許してしまった。


 もっとも、その一歩が二歩目につながることはなく、梯子を上りきった傭兵は、エトの剣によって一太刀で首を斬り飛ばされ、身体の方もその衝撃で城壁の縁を超え、先に城壁を超えた頭部を追いかけるように落下していった。

 だがこの一歩を皮切りに、各梯子を次々と傭兵たちが登りきり、城壁上に攻撃拠点を築こうと暴れはじめた。


 城壁の上は一気に白兵戦の場と化し、戦いはその激しさを増していく。エストバ軍の弓兵も、城壁の上へと達した傭兵たちを援護しようと矢の雨を城壁上に降らせ、フローリンゲン城塞兵の動きを阻む。

 だが、ベルンハルトが事前に配置しておいたドルトスタットの精兵の働きにより、傭兵たちは拠点ではなく自らの肉体で死体の山を築いていった。

 ことにベルンハルト、ベン、エトの三人が守る城壁三面は強く、残る一面も、兵数を厚くすることで同等の防御力でエストバ軍の苛烈な攻撃の手を跳ね退け続けた。


 日が落ちて夜となってもエストバ軍の攻撃の手が止むことはなかった。

 戦力を投入出来る場所が限られているため、交代で休息を取りつつ戦っても攻め手には余裕がある。

 だが、対するフローリンゲン城塞側には数的余裕はなく、ほとんど休むことなく一昼夜を戦い続けた。


 そして日の出とともに、西から怒涛の勢いで土煙を巻き上げながら、クライツベルヘン軍が戦場へと駆けつけた。

 予想を二日半ほども上回って登場したクライツベルヘン軍に、エストバ軍のみならず、フローリンゲン城塞兵たちも驚愕した。

 特に焦りを覚えたのはベルンハルトであった。

 クライツベルヘン軍は自分が献じた策を容れてくてたはずであった。

 このままこの戦場での戦いに合流されては、先にエストバに侵攻しているドルトスタット軍がエストバ領内で孤立することになる。


 だが、ベルンハルトの心配は杞憂に終わった。

 クライツベルヘン軍はエストバに侵攻するため東の大陸隊商路に入るついでに、フローリンゲン城塞兵を鼓舞するために一時立ち寄っただけのことだったのだ。

 

 もっとも、エストバ軍からすればそんな簡単な話では済まなかった。

 クライツベルヘン軍はただ立ち寄っただけではなく、駆けつけた勢いそのままに、凄まじい横撃をエストバ軍に加えて行ったのだ。

 エストバ軍にとっては運悪く、そこでは追加の攻城兵器が組み上げられていたのだが、技術者共々破壊されてしまい、バーユイシャは虎の子の攻城兵器を失うことになってしまった。


 散々暴れた最後に、

「エストバの山羊泥棒どもが、たまごハゲごときにそそのかされてヴォオスの大地を踏み荒らした代償を支払わせてやるぞっ! 帰る家を失くして再び彷徨うがいいわっ!」

 とヴァウレルがエストバ軍の中でひるがえる王旗に向かって挑発すると、クライツベルヘン軍は勢いを落とさずそのままエストバ目掛けて駆け去って行った。


 この混乱によりフローリンゲン城塞は一時ではあるが休息を取ることが叶い、体力を回復することが出来た。

 また、クライツベルヘン軍の露骨過ぎる行動は、その真意をバーユイシャに見抜かせたが、見抜いてしまったが故に、その心に不安と焦りと抱えることになった。

 エストバは神が造りし天然要塞だ。五大家の一角、クライツベルヘン軍であろうと、おいそれと攻め落とせるほど甘くはない。


 甘くはないが、それはエストバが正常に機能していればの話だ。

 バーユイシャは搾り出せるだけの兵力を集めてヴォオスへと侵攻してきた。

 終わらない冬の爪痕が深々と残る今のエストバに、まともな兵力など残っていない。

 いかにエストバの地形が守りに強くとも、そこを守るべき兵士がいなくては、ただ険しいだけの道に成り下がってしまう。

 バーユイシャは頭の中でエストバの国内地図と国内情勢を同時に広げると、背中に冷たい汗をかいた。


 おそらく王都ダル・マクタースタまで、まともに遮られることなく辿り着けてしまうだろう。


 もっとも、辿り着けたからと言ってそう簡単に陥落するようなダル・マクタースタではない。

 バーユイシャも、ヴォオスの逆襲自体はまったくの想定外であったが、国内貴族が自分の留守の間に謀反を起こさないとも限らないため、守備兵力は残して来てあった。


 退くべきか、退かざるべきか。


 バーユイシャは二つの選択の間で揺れたが、最終的に手にした選択は、「退かざる」であった。

 欲が選択の後押しをした結果だ。

 エストバはこれまで幾度かヴォオスを侵攻してきたが、そのことごとくを強力なヴォオス騎兵によって撃退されてきた。

 その手がフローリンゲン城塞の城壁に触れることさえなかったのだ。

 バーユイシャのエストバ拡大の夢は、南のラトゥへと向けられているが、歴代の国王の誰一人として成し得なかったフローリンゲン城塞陥落という刺激的過ぎる武功が、バーユイシャに欲をかかせたのであった。


「まあ、そうなるわな」

 そう言って鼻で笑ったのは、傭兵<海王>シルヴァであった。

 存在を伏せられているシルヴァは、好き勝手に動き回ってはいるが、今回の戦いには一切手を出してはいない。

 クロクスからの命令により、裏切り者レイナウド抹殺の見届けと、エストバ軍の戦果の調整(、、、、、)がシルヴァの仕事であった。

 万が一にもバーユイシャがヴォオスの東部を取るようなことになれば、クロクスといえども簡単には操れなくなる。

 

 家畜に餌を与えるのは、肥え太らせてから食うためだ。

 大きく育ち過ぎた家畜に、逆に噛みつかれたのでは意味がない。

 クロクスにとって、バーユイシャを含めたエストバという国は、あくまで使い勝手の良い道具でなくては意味がないのだ。


 シルヴァの目から見て、一番バーユイシャにとって得となる落としどころは、ここで「退く」ことだった。

 クロクスがバーユイシャにというより、エストバ軍に対して課したのは、あくまでヴォオス軍の勢力の引きつけであり、ヴォオス軍に流血を強いる役目は北のイェ・ソンの仕事だった。

 バーユイシャの本来の目的であるラトゥ攻略の足枷であるヴォオス軍の戦力を削ぐのに、エストバが血を流す必要はなかったのだ。 


 シルヴァはしばしの間思案したが、仮にフローリンゲン城塞を陥落させることが出来たとしても、王都が襲撃を受ける以上占領してフローリンゲン地方を統治下に治めることは不可能だろう。

 全軍でもって取って返さなくては、クライツベルヘン軍の返り討ちに遭うのがオチだ。

 であれば、ここの結果がどうなろうとシルヴァには同じ事である。

「好きにしな」

 この場に存在する誰よりも不遜な態度でシルヴァは呟いたのであった。





 それから三日――。

 エストバ軍は昼夜途切れず攻め続けた。

 戦況は変わらず、ベルンハルトたちが城壁上を死守し続け、数で勝るエストバ軍にも消耗と疲労の色が見え始めていた。

 だが、それ以上に激しく消耗し、疲弊しきっていたのはフローリンゲン城塞の方だった。

 結果は変わらない。

 だが状況は大きく変わろうとしていた。


 フローリンゲン城塞の消耗は限界に達しつつあった。

 水や食料は十分にある。

 だが、それを補給している間がない。

 三日三晩不眠不休で戦い続けた彼らの体力はすでに尽き、今は気力で武器を振るっているような状態であった。


 この三日間、声を嗄らして指示を下し、兵士たちの士気を鼓舞しながら戦い続けて来たベルンハルトの言葉が、ついに兵士たちの頭に染みこまなくなってくる。

 限界を超えた疲労が、理解力を石のように硬くし、頭を働かなくさせはじめたのだ。

 指示が上手く届かないことで守りに穴が生じ、そこを突かれて次第に押し込まれる場面が増えてくる。

 その穴をベルンハルトが、ベンが、エトが、個人の武勇で穴埋めを行うが、四面城壁の残りの一枚を守るフローリンゲン城塞兵の中に、ベルンハルトたちのように個の力で状況を覆せるほどの武人は存在しなかった。


 もともと数の上では圧倒的に不利な状況であった。

 それでも堅固な城壁と士気の高さのおかげでなんとかこれまで持ちこたえて来たが、一度均衡が崩れると、圧倒的数の差の前に一気に呑み込まれてしまう。

 城壁の一角が崩され、傭兵とエストバ兵たちが一気に城壁へと上がり、必死に押し止めようとするフローリンゲン城塞兵たちを蹴散らしていく。


「それ以上押されるなっ! 降り階段を死守するんだっ!」

 届かないとわかっていつつも、ベルンハルトは叫ばずにはいられなかった。

 叫びつつ、何とか守りが崩された城壁へと向かおうとするが、そうすると今度は今いる城壁上が押し込まれてしまう。

 この場所はもうベルンハルト一人の武勇でもっているようなものなのだ。


「エトっ! 行けるかっ!」

 同じく危機的状況に何とか対応しようと、ベンが弟に声を掛ける。

「無理だっ! ベンっ!」

 その声に任せろと叫び返せないエトの悔しげな答えが返ってくる。


 その時、悲鳴と歓声が同時に起こり、荒々しく階段を駆け下りる音が響いた。

 守りを突破されてしまったのだ。

 ベルンハルトは反射的にエストバの山へと視線を向ける。

 だがそこには、緊急を知らせる狼煙の類は見つからなかった。


 下には負傷兵しかいない。

 城門を開けられてしまえば打つ手はない。

 降り階段を死守出来なかった時点で、フローリンゲン城塞の敗北は決定していた。


 五日――。


 ベルンハルトは最低でも五日は持ちこたえる算段だった。

 地形の関係でヴォオス東部国境から、エストバの王都ダル・マクタースタまでの距離は近い。もっとも、それは東の隊商路が整備されて以降の話で、整備後はヴォオスとエストバの国家間の緊張が高まる都度、ヴォオス国境からダル・マクタースタまでの間に砦が増えていった。

 本来であればいくつもの砦を攻略しなくては辿り着けないエストバの王都であるが、現在のエストバの戦力であれば、ほぼ戦いらしい戦いもなく通過出来るとベルンハルトは見込んでいた。


 五日あればドルトスタット軍とクライツベルヘン軍でダル・マクタースタの最下層都市に当たる第四都市を陥落させられたはずだ。

 だが、自分の見立ての甘さと実力不足から、フローリンゲン城塞は失われることになる。

 バーユイシャは陥としても維持出来ないフローリンゲン城塞を破壊するだろう。

 そして東の守りの要を失うヴォオスは、その再建のために財政に大きな負担を追うことになる。


 たった三日しか守れなかった――。


 不甲斐ない思いが押し寄せてくるが、目の前の敵はそんなベルンハルトの心の傷などにかまってはくれない。この場を攻めるエストバ兵は、ここを突破することにすべてを賭けているのだ。

 敵兵と激しく剣を交わしながら、敗北を受け入れたベルンハルトはいかにして一人でも多くのフローリンゲン城塞兵を逃がすかを考え始める。

 ここで全滅するまで戦うのは、ベルンハルトの子供じみた自己満足にすぎない。

 一度全体の指揮を受けた以上、ベルンハルトには負け方にも責任があるのだ。


 ベルンハルトの思考が城壁の守りから離れたように、ベンとエトの思考も持ち場の死守から、いかにしてベルンハルトを無事脱出させるかに切り替わっていた。

 ベルンハルトはこの場の責任者として死ぬ覚悟でいるが、ドルトスタット家の嫡男をここで死なせるなど、ベンやエトだけでなく、ドルトスタット兵の誰一人考えてはいなかった。


 全員の意識が突破された城壁上から離れた直後、その城壁から凄まじい怒号が湧き上がった。

 梯子から上がって来た増援部隊が、味方であるはずのエストバ兵や傭兵に襲い掛かったからだ。

「気でも狂ったかっ!!」

「相手を間違えるなっ!!」

 様々な怒号が飛び交うが、混乱は収まるどころかさらに拡大していった。


 梯子には火が放たれ、それ以上の増援が不可能となり、城壁上を支配したはずのエストバ兵たちは逆に取り残され、次々と討たれ始める。

 いったい何が起きたのか、それは攻撃を受けているエストバ軍だけでなく、結果助けられているフローリンゲン城塞兵にもわからない。

 だが、ベルンハルトは絶望的状況がまだ覆されてはいないということだけはわかっていた。


「城門を開かせるなっ! 城門を死守だっ!」

 とうに嗄れてしまっている喉で、ベルンハルトは必死に叫んだ。

 そう、下り階段はすでに制圧され、エストバ兵と傭兵がフローリンゲン城塞内に侵入してしまっている。

 いくら城壁上の守りを取り戻しても、城門を開け放たれては意味はないのだ。


 城門前は負傷兵たちが身を盾にして城門を守っているが、それはもはや戦いなどではなく、一方的な殺戮となっている。

 敵兵が城門に取り付き、開け放たれるのは時間の問題だった。

 二転三転する状況に、ベルンハルトの集中は乱れ、指揮官としての立場が目の前の戦いからベルンハルトの注意を逸らした。

 

 隙と呼ぶには刹那の時間。

 だが、あの男(、、、)にとっては十分な時間であった。

 ベルンハルトの目の前の城壁に、大きな手がかかる。

 そして次の瞬間、2メートル近い巨体が軽々と城壁の縁を超え、ベルンハルトの目の前に立った。


 <海王>シルヴァである――。


 この時ベルンハルトは指示を下すために、意識だけでなく、視線までも前を向いていなかった。

 ベルンハルトが不意に襲い掛かって来た圧倒的な重圧に、本能的に意識を前に向けた時にはすでにシルヴァの刃は振り下ろされていた。

 咄嗟に剣を上げるが、不十分な態勢での受けで止められるような剣圧ではない。

 袈裟切りに斬り捨てられるのは何とか防いだが、剣は根元から砕け、左肩をざっくりと斬られた上にベルンハルト自身は剣圧に押され、城壁を形成する石畳に叩きつけられてしまった。


「私の名前のある戦場は避けるんじゃなかったか?」

 左肩の傷は致命傷は避けたものの、もはやベルンハルトにこれまで通りの戦闘能力はない。おまけに武器も失い、出来ることと言えば強がりを口にすることだけだった。


 完全な敗北である。 

 状況を言い訳には出来ない。戦にあって平等な条件など存在しない。

 この男の存在を知りながら、状況の変化の中で失念した自分が未熟過ぎたのだ。


「悪いな、兄ちゃん。あんたはちょっとばかりヤバすぎる。ここで殺っとかねえと、後で俺が殺されかねねえと思っちまったんでな。ここで死んでくれや」

 そう言ってシルヴァは笑った。

 それは加虐の笑みでもなければ、侮蔑の笑みでもない。

 真の強者だけが持ちうる、不敵な笑みであった。


 シルヴァには余裕があったが、油断はなかった。

 また、猫のように弱った相手を嬲る趣味もない。

 強敵を、倒せるときに倒すのみであった。


 敵であるはずのベルンハルトを、シルヴァは気に入っていた。正直、金で手に入れられるなら、これまでのすべての稼ぎをつぎ込んでもいいと思えるほどに。

 だが、ここで命を助けるほどでもない。

 せめてもの情けに、苦しまずに死なせてやるだけだった。


 一瞬の躊躇もなく剣を振り上げる。

 ベルンハルトが身を反転させてかわす可能性も考慮に入れている。

 負けを受け入れたうえで、この負けが真の敗北ではないと、ベルンハルトが理解していることを、シルヴァは見抜いていた。


 真の敗北とは、死だ――。


 勝負の勝ち負けなど、騎士ではないシルヴァには何の価値もない。そんなものに命を懸けてしまえる騎士たちのことを、シルヴァは狂人扱いしている。

 だが、死を目前にしたベルンハルトは違う。無駄に醜く足掻くのではなく、可能性の一欠けらを、最後の瞬間まで精査し続け、逆転を狙っている。


 それは鳥肌が立つほど恐ろしく、自分に恐怖を与えてくれる相手と、ぎりぎりの戦いを演じている瞬間こそが、シルヴァにとってもっとも精神が高揚させられる瞬間であった。

 この瞬間が生み出す絶頂は、どれほどの美女を抱いても辿り着けない。


 精神世界で目まぐるしい戦いを繰り広げていた両者であったが、それを断ち切ろうとシルヴァは剣を振り下ろした。

 剣はベルンハルトの腹部に吸い込まれるかに見えたが、刹那の差で投げ込まれた剣の腹をすべり、剣先は石畳を削って火花を散らしただけであった。


 シルヴァもベルンハルトも、誰が剣を投げ込んだかなど詮索しない。

 シルヴァは即座に次の一撃を放ち、ベルンハルトは投げ込まれた剣を取り、必死にシルヴァの一撃をしのぐ。

「往生際が悪いぜ、兄ちゃんっ!」

 シルヴァがどこか楽しげに文句を言う。

「悪くもなるさ。救いの手がすぐそこまで来ているんだからなっ!」

 肩の傷の深さに青ざめているが、ベルンハルトは意地で笑い返してやる。


 さらに二合。

 圧倒的に不利な体勢で、それでもなんとかベルンハルトはしのぎ切り、死神の顎から脱出した。

 救いの手が到着したのだ。


「兄上から離れろっ!!」

 そう叫んでシルヴァに斬りかかったのは、ベルンハルトの弟、レフィスレクスであった。

「なんだぁっ! ガキかぁ!」

 恐るべき斬撃の主が、まだ子供であることを知り、シルヴァは頓狂な声を上げた。

「ガキなんざ斬っても欠片も面白くねえんだっ! すっこんでろっ!」

 言葉通り、邪魔をされたことに怒ったのではなく、子供を斬りたくなくて怒鳴りつける。


「レフィ。強いぞ」

 そんなシルヴァを無視して、ベルンハルトはレフィスレクスに対して一言だけ忠告する。

 ベルンハルトは投げ込まれた剣を手にした瞬間、それが誰の剣であるか即座に理解したのだ。

 それは、失われてしまったと考えていたレイナウドの剣だったのだ。


 それが今、自分を守るために自分のもとへと投げ込まれた。

 陥とされたはずの城壁上の守りに、突然援軍が現れたのは父がエストバへ向かう前に自分のために増援の兵を残してくれていたからだ。

 そして父がこの状況下で自分の援軍として送り込んでくる者がいるとしたら、それは一人しかいない。


 レフィスレクスだ――。


「敵の梯子を使うとは考えたな」

 シルヴァと対峙する弟に、ベルンハルトが声を掛ける。

「おい、兄ちゃん。台詞セリフが違うんじゃねえのか? ここは逃げを勧めるべき場面だぜ」

 そう言いつつ、シルヴァは二人の間に得体の知れないものを感じていた。

 どう見ても十五、六歳にしか見えない弟の登場が、ベルンハルトに余裕をもたらしているのだ。


「エストバ軍の包囲が厚過ぎて、突破のしようがなかったのですが、よく観察したところ、主力が傭兵で編成されていましたので、傭兵に化けて梯子を使うことを考えつきました」

 シルヴァを無視して、レフィスレクスはベルンハルトの言葉に答えた。

「やはり兄弟か。似たようなことを考える」

 そう言ってベルンハルトは笑った。

 ベルンハルト自身も、フローリンゲン城塞の騎兵部隊を救うために、傭兵を装ってエストバ軍の包囲をすり抜けたのだ。

 それにしても、同じ手に二度引っかかるとは、エストバ軍も間の抜けた話である。


「エストバの連中、どこまで使えねえんだっ!」

 レフィスレクスの言葉にベルンハルトと同じことを思ったのだろう。シルヴァが怒り込めて吐き捨てる。

 シルヴァはさりげなく全体の状況を見て取ると、陥落寸前だったフローリンゲン城塞が、どうやら持ち直してしまったようだと判断を下した。

 突破したはずの城壁上の守りは再びフローリンゲン城塞兵で固められ、城門も開くまであと一歩というところで増援のドルトスタット兵によって阻止されていた。


「こうなると、兄ちゃんの首くらいはもらって帰らなきゃあ収まりがつかねえな」

 シルヴァのまとう空気が変わる。

 先程まではシルヴァ個人の身勝手に近い理由でベルンハルトの首を狙っていた。

 だが、今は傭兵の顔をしている。

 必要な仕事として処理しようという冷徹さが感じられる。


 対するレフィスレクスの反応は変わらない。

 兄を斬った目の前の傭兵を、斬る気満々でいる。

 シルヴァに時間はなかった。

 城壁上は援軍のドルトスタット兵によってこれまでの均衡が崩され、傭兵とエストバ兵たちは次々と城壁の上から叩き落とされていく。もうじきこの場所も制圧されてしまうだろう。


 表情がストンと抜け落ちてしまったように無表情になったシルヴァは、立ちふさがるレフィスレクスに対し、容赦なく斬りかかった。

 レフィスレクスは大抵の大人よりもすでに体格で勝り、身体もしっかりと作り込まれているが、それでもシルヴァの前では文字通り大人と子供ほどにその体格には差があった。


 シルヴァの鋭い斬撃は、たとえ受けることが出来たとしても、身体ごと持って行かれてしまうだろう。

 事実ベルンハルトでさえ石畳に叩きつけられている。

 兄よりも小柄なレフィスレクスでは、下手に受けたらそれだけで城壁の上から飛ばされかねない。


 シルヴァに対する怒りで頭の中がいっぱいになっているレフィスレクスであったが、戦いに対する判断力が鈍ることはなかった。

 レフィスレクスはシルヴァの斬撃に対し、その剣の腹を打って軌道を変えると同時に体捌きで安全圏へと抜けた。

 だが、そこで手を休めるほどシルヴァも甘くない。剣を受け流されたくらいでは態勢は微塵も崩れず、即座にかわしたレフィスレクスに追撃する。

 それでもレフィスレクスは嵐のように襲い掛かる連撃を、まるで舞でも踊るかのようにすべてかわしてみせた。


 目まぐるしく立ち位置を変えながら死の演武を舞った二人は再び元の位置で止まると一呼吸間を置く。

 シルヴァを睨みつけるレフィスレクスの視線の温度は変わらないが、レフィスレクスを見下していたシルヴァの視線はそうはいかなかった。

 冷たかった視線が熱を帯び、仕事と割り切っていた表情に、再び不敵な笑みが戻ってくる。


「化け物兄弟め」

 呟いた声が弾んでいることに気がついたシルヴァは、思わず苦笑を漏らした。

「坊ちゃん。歳はいくつだ?」

「十五だ。おじさん」

 坊ちゃん呼ばわりされたレフィスレクスが皮肉を返す。


 三十二歳のシルヴァは、十五歳のレフィスレクスからおじさん呼ばわりされてもおかしくない年齢ではあるのだが、その生命力に満ち溢れた姿には、老いを感じさせる「おじさん」という言葉はあまりに似つかわしくなかった。

 そう思って皮肉ったつもりのレフィスレクスであったが、それはただ単に事実を言い表したに過ぎなかった。

 なので言われたシルヴァも、すぐにはそれが皮肉だったのだと気がつかなかった。

 一拍遅れて大笑いするシルヴァに、レフィスレクスはムッとした顔を向ける。


 なんとも正直な坊ちゃんだな。

 その素直な反応に、シルヴァは呆れた。

 普通ここまで腹の内が簡単に透けて見えてしまうような人間は強くなれない。どれほど才能があったとしても、その才能が開花する前に死ぬ。

 だが目の前の少年は、純粋なまま大陸最強の傭兵などと大袈裟に謳われる自分に対し、一歩も引けを取らずに渡り合っている。


「……天才って奴か」

 それはこれまでの人生で、自分が言われ続けて来た言葉であった。

 まさかその言葉を、自分が他人に対して使う日が来るとは思いもよらなかった。


 シルヴァは残り少なくなってきた時間を使ってレフィスレクスを観察する。

 兄を斬られて頭に血がのぼっていることがはっきりとわかる。

 にもかかわらず、けして自分から斬り掛かっては来ない。

 力の勝負ではシルヴァには敵わないと理解し、自分を抑えているのだ。

 しかも、周囲の状況の変化を正確に読み取り、味方が援護に来てくれるまでの時間稼ぎまでしている。


 そして、おそらくそのすべてを考えずに本能的に行っている。

 同じことを兄ちゃんの方は計算の上でやるだろう。

 顔はそっくりだが、恐ろしく高い水準で二人は決定的に違っている。


 今この場で斬っておくべきなのは、兄ちゃんの方ではなく、坊ちゃんの方だとシルヴァは結論づけた。

 そして残された時間はほとんどない。

 これまで傍観していて、兄ちゃん意外にヤバそうなのが二入いたが、エストバ軍の優勢を引っくり返してみせた援軍の中には、同じような化け物がゴロゴロしている。

 ここで死ぬつもりのないシルヴァとしては、そんな連中に囲まれるわけにはいかない。


 シルヴァは低く身構えると力を溜め、一気に解き放った。


 それまでの攻撃も恐るべき速さであったが、この一撃はその比ではなかった。

 2メートル近い巨体が霞むほどの踏み込みで、シルヴァはレフィスレクスとの間合いを一瞬で消す。

「レフィっ!!」

 ベルンハルトが悲鳴に近い叫びを上げる。

 

 速かったのは踏み込みだけではない。

 レフィスレクスの胴を狙った横薙ぎは踏み込みの速さに乗り、もはや目では追えない程の速度でレフィスレクスに襲い掛かった。

 

 ベルンハルトの目に、レフィスレクスの胴が真っ二つに切裂かれる光景が映る。

 声にならない絶叫が喉を塞ぎ、ベルンハルトは呼吸も出来なくなってしまう。

 だが、次の瞬間すべてが幻のように消え、ベルンハルトの目に真実を明らかにした。


 レフィスレクスは本能的に後方に飛び退っても間に合わないと悟ると、こちらも恐るべき踏み込みでシルヴァの斬撃の間合いの内側に滑り込み、シルヴァが消した間合いをさらに削り取ることで横薙ぎの一撃を、その刃ではなく、それを振るうシルヴァの腕に自分の身体をぶつけて受け止めたのだ。

 しかも、レフィスレクスの行動はそこで止まらず、シルヴァの腕の振りに逆らわずに乗り、シルヴァに薙ぎ払われるようにしてその背後に回り込んだ。


 二人の攻防は、ベルンハルトの目に残像を残すほどの速さで行われたのであった。


 背後を取られたシルヴァが、即座に斬られず今も立っていられるのは、剣で斬られこそしなかったが、胴にシルヴァの恐るべき豪腕を叩きつけられたレフィスレクスがあばらを痛め、踏み込めなかったからだ。

 

「……信じられねえことしやがる」

 実際にレフィスレクスと対峙したシルヴァ本人が、今起きたことを信じられないでいた。

 いくら他に手段がなかったとはいえ、自身に迫りくる白刃に、レフィスレクスは迷わず踏み込んだのだ。

 あとほんの一瞬でも遅ければ、シルヴァの刃はレフィスレクスの身体を捉えていた。それがたとえ鍔元近くであったとしても、シルヴァの剣速とその膂力であれば、レフィスレクスの身体は真っ二つになっていたはずだ。


 だが、さすがに無傷というわけにはいかなかったようだ。

 表情には出さないでいるが、顔色が悪い。額にふき出した汗の量も尋常ではない。

 間違いなくあばらを二、三本はやっている。

 手応え的に折れたあばらが内臓を傷つけるほどの深手ではないだろうが、もはや先程のような常軌を逸した動きは出来ないだろう。

 背後を取ったにもかかわらず、反撃して来なかったのが何よりの証拠だ。


 もう一回行けるか?


 そう思った直後、足元で剣が石畳を打つ音が響いた。

 一瞬兄ちゃんが弟を助けるために剣を投げつけて来たのかと思ったが、つい先程その命を救った剣は、今もまるでガラス製の剣であるかのように大事に抱えられている。

 勝負につまらない水を差されたと、シルヴァの中で怒りが膨れ上がる。

 だが、その怒りは無意識に握りしめられた拳が、手の平に生暖かいぬめりを感じたことで一気に冷却される。


 シルヴァの足元に転がる剣は、シルヴァ自身の剣であった。

 反射的に手を見る。

 いったいいつ受けた傷なのかわからないが、シルヴァの腕はすっぱりと切り裂かれていた。

 おそらく腱まで届いているだろう。

 その切り傷はあまりにもきれいに斬られていたため、すぐには口を開かず、シルヴァに痛みをもたらさなかったのだ。


 今度顔色を変えなくてはいけないのはシルヴァの方であった。

 全身から冷や汗がふき出し、燃えるように熱かったはずの身体が、終わらない冬に逆戻りしたかのように冷たくなる。


 攻めていたのは自分だけではなかったのだ。

 必殺の気迫でもって放った一撃に、勝手に自分を優位な位置に置いていた。

 自分だけが一方的に攻め、相手は為す術なく受けるしかないと驕っていた。

 おそらく斬撃を振り抜き、シルヴァの腕からレフィスレクスの身体が離れた直後に斬られたのだろう。


 死中に生きる道を求めて踏み込んだとばかり思っていた。それだけでも見事であり、賞賛に値する。

 だが、レフィスレクスの目には、生きる道ではなく、勝利への道筋が見えていたのだ。

 シルヴァは最後に感じたのがいったいいつなのか、思い出すことも出来ないほどの古い感覚を思い出していた。

 

 けして精神を高揚させることのない恐怖。


 死と敗北を内包した、真の恐怖だ――。


 直後にシルヴァは城壁の上から身をひるがえしていた。

 無駄な捨て台詞一つ残しては行かない。

 それは引き際を誤らない、実に見事な逃げ足だった。


 喉の奥に詰まってしまっていた空気を吐き出し、ベルンハルトが弟のもとへと歩み寄る。

 城壁上の戦いはすでに終わりにさしかかっていた。

 ほとんどのエストバ兵と傭兵が追い落とされ、フローリンゲン城塞の城壁は、再びフローリンゲン城塞兵だけのものと化している。


「よく来てくれた。お前が来てくれなければ、私の命もフローリンゲン城塞も、共に陥ちていただろう」

「父上のご判断ですっ!」

 兄からの感謝の言葉に、レフィスレクスはあばらの痛みも忘れて頬を上気させた。

 それでいて自分の功などと誇らず、即座に本当のことを言ってしまうあたり、人としてはまことに正直で良いが、化かし合いが基本の貴族社会でやっていけるのか、少し不安になる。


「兄上、早く傷の手当てをいたしませんとっ!」

 平気な顔をして立っているが、ベルンハルトの肩の傷は、普通の人間であれば痛みと出血のせいで倒れていても何の不思議もないほどの重傷だ。

「わかっている」

 ベルンハルトはそれだけ言うと城壁の上に立ち、勝鬨を上げた。

 今日まで三日間、不眠不休で戦い続けてきた者たちが、声を合わせて勝鬨を上げる。


 実際は何の決着も見てはいない。

 だが、戦の流れを読むことの出来る者たちの目には、この時点で<フローリンゲン城塞攻防戦>の終わりが見えていた。


 まだ登ってこようとしていたエストバ兵を階段代わりにして下まで駆け下りたシルヴァは、しれっと自分の傭兵団へと戻っていた。

 まだ矢の雨が降る中、深手を負いつつ指揮官としての最後の務めを果たすベルンハルトを、シルヴァは少しだけ眩しそうに見上げた。


「……いらんことしたな」

 ベルンハルトを見上げつつ、シルヴァはボソッと呟いた。

「えっ!! なんか言いましたか、お頭っ!!」

 腕の傷の手当てをしていた耳の良過ぎる部下が、大声で聞き返す。

「うるせえよ、馬鹿っ!」

 そう言ってシルヴァは部下の後頭部にいささか強めのツッコミを入れる。

「さ~せんっ!」

 再び大声で謝る部下は、もう一撃を覚悟したが、ツッコミの平手打ちは来なかった。


 若者の成長は速い。

 シルヴァと出会ったことで、ベルンハルトとレフィスレクスはさらなる成長を遂げるだろう。

 まるでその成長をシルヴァが促したかのように――。


 皮肉な結果を自ら招いてしまったシルヴァであったが、その口元は変わらず不敵な笑みを湛えている。

 いつもならもう一撃が来るはずなのに、今回はやけに引っ張るなと思った部下がこっそりシルヴァの顔を盗み見ると、その瞳にはどこか迷いの色がちらついていた。


「あいたっ!!」

 そんな部下の頭に、シルヴァはかなり強めの手刀叩き込んだのであった――。





 この後さらに二日間、態勢を立て直したエストバ軍が猛攻を仕掛けたが、フローリンゲン城塞は見事にもちこたえてみせた。

 そしてエストバ軍は、王都からの救援要請を受け、ついにそのフローリンゲン城塞の包囲を解き、撤退を開始する。

 本来であればここで追撃の兵を出し、これまでの借りを返したいところであったが、フローリンゲン城塞にはその余力は一滴もなく、全兵士が城壁の縁にもたれかかり、エストバ軍の背中を見送ったのであった。


 また、エストバ王都ダル・マクタースタを襲撃したドルトスタット軍とクライツベルヘン軍は、クロクスまであと一歩というところまで迫ったが、この戦に本腰を入れていたわけではなかったクロクスは、あっさりとエストバを見限り、再び雲隠れしてしまった。

 軍勢での追跡を諦めたドルトスタット軍とクライツベルヘン軍は、民衆に対して逆らわない限りは手出しはしないという約束のもと、エストバ軍の軍事拠点を破壊して回った。

 この際、悪知恵を働かせたヴァウレルが民衆をそそのかし、軍事施設のエストバ兵を追い散らすと、略奪と施設の破壊を民衆に丸投げした。

 略奪と破壊の罪は自分たちが被り、飢えに苦しんでいた民衆たちは食糧を得て、命を繋ぐことが出来る。

 

 こういった素直ではない人助けは、いかにもカーシュナーの父親らしかった。

 エストバの民衆のあまりの困窮ぶりに胸を痛めていたクリストフェルンは、ヴァウレルの提案に喜んで乗り、最後にはもはや民衆を率いる反乱の英雄のような状況になっていた。


 エストバ軍撤退の知らせを受けた両軍は、散々荒らしまくった王都を後にすることにしたが、去り際の彼らを見送る民衆たちは、皆無言で手を合わせたという。

 権力者によって取り上げられた食料を、侵略者であるはずのヴォオスの軍によって取り返してもらったのだ。

 その事実が、生死の境にあった民衆たちに、エストバの王族と貴族に対し、大いに疑問を抱かせたであろうことは間違いなかった。


 帰還に際し、ドルトスタット軍とクライツベルヘン軍は、堂々と大陸隊商路をヴォオスへ向け進軍した。

 対するエストバ軍は、自国の領内であるにもかかわらず、山間部へと大きく迂回し、両軍との衝突を回避した。

 それは、当てにしていた傭兵たちが、フローリンゲン城塞からの撤退と同時にエストバ軍を離れ、それぞれの目的地へと向かってしまったからだ。

 こうなるとバーユイシャは丸裸も同然で、王都を荒らしまわった両軍に対し、復讐するどころではなくなってしまったのだ。


 無事ヴォオスの地を踏んだヴァールーフは、空を見上げてぽつりとこぼした。

「……活躍の機会、なかったなあ~」

 実際は歯ごたえのある敵に遭遇しなかっただけで、ヴァールーフの働きがなければフローリンゲン城塞をエストバ軍による包囲から、わずか五日で解放することは出来なかっただろう。


 ヴァールーフのどこか気の抜けた一言は、対エストバ戦が終わったことを象徴していた――。

 

  

次回は4月21日投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >イツベルヘン軍は自分が献じた策を容れてくてたはずで>あった。 れてくれたはず  だと思います。
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