二つの王宮
二年にも及ぶ終わらない冬という未曽有の大災害により、大陸屈指の強国ヴォオスは、その三百年の歴史に危うく幕を降ろすところまで追い詰められた。
当時ヴォオスの実質的支配者であった宰相クロクスが、民の救済ではなく、切り捨てを選択したため、最低でもおよそ五百万人もの死者を出しかねない状況にあった。
人は数字ではない。計算上切り捨てられても、それで即死ぬわけではない。税として日々の糧を取り上げられ、そこから飢えて死ぬまでの間、生き地獄を味合わねばならない。
だが、人としてではなく、生物としての本能が、座して死を待つことを許すわけがなく、人々は武器を手に取り反乱を起こした。
この反乱を鎮めるために王都より出立したはずのヴォオス軍軍師第一席、ライドバッハが反乱軍を吸収し、総数十万を超える大反乱軍となって矛を返したことで、ヴォオス国内の緊張と混乱は一気に拡大した。
王都ベルフィストに国内の有力貴族が集められ、貴族連合軍が結成され、ヴォオス軍の総大将である王弟ロンドウェイク総指揮の下、対ライドバッハへと動き出した。
この歴史的転換点の中で、一つの小さな動きが、最終的にすべてを引っくり返すことになる。
ヴォオス五大家筆頭クライツベルヘン家の四男カーシュナーによる王女リードリット擁立である。
この考えは当初、想定外の敵、ルオ・リシタ国のルーシの民の長、ゲラルジー王子によるヴォオス西部侵略に対処するための兵力不足を補うという名目で発案された。加えて身勝手わがまま傍若無人のリードリットによる戦局の混乱を避けるため、主戦場から切り離すという裏の目的もあった。
だが、この厄介払いが結果としてリードリットに名を成さしめ、最終的には五大家の総意と、かつての大将軍ゴドフリート、<完全なる騎士>レオフリードからの承認を得、合法的に新王リードリットの誕生にまで発展する。
荒れ狂っていた時代の流れはここに来て、強烈に横っ面を張り飛ばされるように修正され、リードリットによる民の救済へと至り、ヴォオスは切れかけていた命脈を保つことに成功した。
だがそれは、ほんの一時の安寧でしかなく、終わらない冬によって傷つけられた大陸全土が、その痛みにのたうつかのように、天災から人災へと姿を変え、再びヴォオスに襲い掛かって来たのであった――。
◆
ヴォオスは北西部で森林王国ルオ・リシタ、北東部で鋼と草原の国イェ・ソン、東部で山国エストバ、南部で灼熱の国ゾンという、合計四つの国と境を接している。
南のゾンとは奴隷制度をめぐり、きわめて険悪な関係であったが、他の三つの国とは近年比較的友好な関係を維持していた。
その中でも最も積極的に交流を深めていたのがルオ・リシタであったが、皮肉なことに交流の架け橋的存在であったゲラルジー王子の侵略により、すべてが白紙に戻るどころか、血文字による宣戦布告となってしまった。
リードリットが持ち返ったゲラルジーの首は、ルオ・リシタ大使の手により本国へと送還された。その手にはリードリットからルオ・リシタ国国王アレクザンドールに宛てた書状もあり、受け取ったアレクザンドールは禿頭を真っ赤にして破り捨てたという。
内容はゲラルジー王子によって受けた被害に対する賠償金の支払い要求と、要求に応じない場合に取られるヴォオス側の対応が明記されていただけであったが、その請求額とルオ・リシタを見下した文脈からは、和平ではなく明らかな開戦の意思が伝わったからだ。
そこには侵略を受けた事に対する怒りではなく、ある計算に基づいた挑発があった。
終わらない冬による被害はヴォオスの国力を大きく削り取った。本来どれほど業腹であろうと、隣国との間に戦争を起こしているような余裕がない以上、戦争回避を目的とした和平調停を進めるべきである。
だが、それはあくまでヴォオス側の都合であり、ヴォオス以上に終わらない冬によって大きな被害を受けたルオ・リシタとしては、もはや対外的な体面などかなぐり捨てて、生き残るための略奪を仕掛けなければならない状況にある。
ゲラルジーがヴォオスに独断で略奪に赴いたのも、終わらない冬という未曽有の災害を利用し、一気に王座を手に入れようという野心もあったが、最大の理由は奪わなければ自分たちが生き残れない程に追い詰められていたからだ。
ゲラルジーがそうしたように、ルオ・リシタとしても奪うだけの物を持っているヴォオスは略奪の対象だ。
つまり、ヴォオス側が何をどう配慮しようと、この先に予想されるルオ・リシタの侵攻は回避不可能であり、どうせ避けられないのであれば、先に言いたいことは言ってやれという子供じみた腹いせから、毒のこもった文面となったのだ。
とは言え、腹いせだけで挑発したわけではもちろんなく、ルオ・リシタの軍備が整わない内に戦端を開かせ、一戦でもってルオ・リシタの戦力に決定的な打撃を与え、ヴォオスへの侵攻そのものを断念させることが挑発の主要な目的であった。
もっとも、カーシュナーの影響で毒舌家が増えてしまったため、腹いせの方に積極的に力がそそがれたことも確かであった。
こうして、女性から? の侮辱を生まれて初めて受けることになったアレクザンドールとルオ・リシタ宮廷は、とうの昔にもぬけの殻になったヴォオス大使館を破壊しようと兵を出した。だが、到着した時には巨大な松明と化した大使館を囲んでただ眺めるしかなかった。
破壊衝動に駆られ、勇んでここまでやって来た兵士たちは肩透かしを食らい、さらに不満を溜めこんだだけになった。
また、大使館近くでリードリットからアレクザンドールに宛た手紙が発見された。
文面はただ一言「後片付けをよろしく」とだけ記されていた。リードリットの挑発に対し、アレクザンドールが腹いせとして大使館を破壊することを読み、その上で直前に大使館に火を放つことでアレクザンドールに腹いせすらさせなかったのだ。
完全にコケにされたアレクザンドールは、自ら兵を率いてヴォオスに攻め入らんと、六十をとうに過ぎた巨体を怒りに震わせながら立ち上がった。だが、さすがにこれは無茶というもので、廷臣たちが全員で諌めて止めた。その過程で数人の重臣が鼻や顎を折る重傷を負ったことを、アレクザンドールがいまだに健在であると捉えるべきか、宮廷を切り回す人材を欠いたことで、単にヴォオスを利しただけだと捉えるかは難しいところであった。
何とか玉座に戻ったアレクザンドールは、ルオ・リシタ軍にあって最強の呼び声高いヴォルク将軍を呼び出し、出兵を命じた。
本心を言えば、今この段階での出兵は準備不足であると止めたい廷臣たちであったが、大荒れの後にさらに諌めたりすれば、今度は骨折程度ではすまない事態になることが目に見えているため、全員暗い顔をして沈黙を選んだ。
出兵を命じられたヴォルク将軍も、表情にこそ出さなかったが、国の立て直しの見込みすらまだ立たない中での出兵に、内心不安を覚えていた。
ルオ・リシタには決定的に食糧が足りない。兵を出すのはいいが、糧食が不足するのは目に見えている。
それを奪いに行くことも役目の一つではあるが、ヴォオスは決して容易な相手ではない。
個々の兵士の実力は大陸でも一番と噂され、2メートルはある兵士たちがゴロゴロいることで巨人兵団などと謳われこそするが、ルオ・リシタがヴォオス方面へ版図を拡大出来たことは、ヴォオスが大陸にその名を印して以降ただの一度もなかった。
なまじ一人の戦士として優れているが故に、戦いの規模が大きければ大きいほど、ルオ・リシタはヴォオスに対し集団戦で後れを取ってしまうのでる。
蛮族の城などと揶揄され、ぶ厚くて野暮ったく、それでいて冬の冷気を少しも防いではくれないザシャログラードの王宮を、ヴォルクは見納めのように眺めた。
暦では夏の盛りに冬が終わり、春を飛び越して夏が訪れ、今は秋の盛りだ。
外の空気は心地良かったが、ザシャログラードの王宮は、ぶ厚い石材で囲まれているため、寒さに強いルオ・リシタ人でも肌寒く感じる。
遠からずルオ・リシタは再び冬に閉ざされることになる。再び訪れた冬がまた、去らずに居座るのではないかという恐怖が民の中にある。いや、それは民ばかりではない。大陸中にその武名を知られるヴォルクの中にもその恐怖はある。
終わらない冬が唐突に去る一ヶ月前に、ヴォルクは遅くに儲けた息子を亡くしていた。
将軍の子供ですら十分な食事にありつけないほど、ルオ・リシタの食糧事情は逼迫しており、それ以上に医薬品は絶望的に不足していたのだ。
強い腕も、大きな体も、日に日に衰弱していく我が子を救う助けにはならなかった。ヴォルクはただ中身のないむなしい言葉でなぐさめることしか出来なかった。出来たことと言えば、無力な自分を、ただ呪うことだけだった。
あの日々を思い出すと、ヴォルクは恐怖すら覚える。
自然という名の抗いようもない巨大な敵を前に、ひたすら耐え忍ぶしかなかった。
戦士であるヴォルクは、戦い勝つことで人生を切り開いてきた。それだけに、戦うことすらかなわない状況は、恐怖以外の何ものでもなかったのだ。
そして、その恐怖は形を変えて今もヴォルクの中にある。
妻が息子を亡くした日から心を病んでしまったのだ。生きることそのものを拒んでいる。
強く命じれば何とか軽いものくらいは口にさせることが出来るおかげで今も命を繋いでいるが、無気力が彼女の心だけでなく、命まで奪う日も遠くはないだろう。
ルオ・リシタでは成人まで生きられる確率は大陸全体を見渡しても驚くほど少ない。
毎年訪れる厳しい冬と、医療技術の遅れで毎年多くの死者を出す。他の国よりも、ルオ・リシタでは冬の壁は、越えるには高く、打ち破るには厚過ぎるのだ。
それだけに、ルオ・リシタ人は子供の死に慣れている。子供は死ぬものという前提で産む。だからルオ・リシタ人女性は多産だ。
そんな中でなかなか子宝に恵まれなかったヴォルクの妻はつらい日々を送っていた。
だからこそ、ようやく生まれた念願の子供を深く愛した。
家を継ぐ嫡男の誕生に、多くの人々が喜んでくれた。
失うことなど考えることも出来ないほどの幸福が彼女を包んでいた。
極寒の中で幸せをはぎ取られた彼女の心を想うと、ヴォルクは無気力状態に陥ってしまった妻を責める気にはならなかった。
ヴォルクは妻を愛していた。生きることがそれほどまでにつらいのなら、彼女を失うことすら受け入れようと思うほどに――。
失うつらさと悲しみは、自分が全部引き受ければいい。それは父として、夫として、何もしてやれなかった自分への当然の罰だからだ。
ルオ・リシタ人男性は一様に冷徹な性格をしている。厳しい自然環境を生きるには、弱者は切り捨てなければならない。その決断を下すのは常に一家の長である男の役目だ。背負う責任の重さと厳しさが、自然と男を冷徹な性格に育てるのだ。また、環境的に閉鎖されがちなためか、加虐的な性格をした者も多い。
だが、ヴォルクは一族や自分自身のことよりも、妻が幸せかどうかを第一に考える、ルオ・リシタ人男性には珍しい、やさしく一途な男だった。
だから余計につらかった。
今の妻を見ていることが――。
無茶な出兵ではあるが、勝って多くの食料や医薬品を手に入れられれば、国に余裕が生まれる。
そうすれば、何かが変わるかもしれない。
戦士である自分には、戦うことしか出来ない。
それが、逃げに等しい言い訳とわかっていても、ヴォルクは蜘蛛の糸のように細いその可能性にすがるしかなかった。
ヴォルクはそれがお互いにとってつらいだけだとわかっていても、出兵前に妻に会うために王宮を後にした。
今も愛していることを行動で示すために――。
◆
作付けが大幅に遅れたこの年のヴォオスは、収穫祭を行おうにも肝心の実りがまだまだ先とあり、どうすべきかで平和な言い争いがそこここで持ち上がっていた。
まだまだ状況は苦しいのだから無理をしてまで開く必要はないという意見もあれば、苦しいからこそ、この状況を乗り越えるための英気を養うために開くべきだという意見もあった。
そんな議論の全てが誰にとっても嬉しいことであった。去年の収穫期は世界の終末期に等しく、刈るべき作物など一本もなく、代わりに自分たちの命が死神の手で次々と刈り取られていくという、現世の地獄であった。
日々は慌ただしく過ぎていくが、地獄を生き延びた人々は今を謳歌していた。
民衆が祭り騒ぎに浮かれている一方で、ヴォオス王宮は血の祭りに備えて動いていた。
大陸各地の情報は、どこも厳しい内容のものばかりであった。
<フールメント会戦>での因縁から、ルオ・リシタとの争いは避けられないものであったが、国内の混乱が落ち着き、各国の軍備が整い始めたことで、大陸全土に緊張の糸が張り巡らされた。
どの国が始めにこの糸を切るかで大陸情勢の流れが変わる。
そして、その流れの辿り着く先は、それがどのような流れになろうと、豊穣の地と謳われるこの大国ヴォオスであった。
「……というわけで、ザバッシュとメティルイゼットの衝突は回避不可能な状況となり、それに呼応するようにゾン国内の各地で軍備を強化する貴族が現れ始めたことで、ゾンは大きな内乱の可能性が出てまいりました」
コンラット将軍が、ゾンに関してまとめられた報告を締めくくる。
そこは王宮の一角にある会議室で、ずいぶんと様変わりしたヴォオス軍幹部たちが一つの長机を囲んでいた。
新国王であるリードリットはもちろん、宰相ゴドフリート、大将軍レオフリードがその両脇を固め、先の内乱で活躍し、ヴォオスにその勇名を轟かせることになったシヴァ、オリオンも、ヴォオス軍の将軍として会議に出席している。
リードリットの即位に対して反乱を企てた先の王宮騎士団に代わり、新たな王宮騎士団となった赤玲騎士団の新団長に就任したアナベルも、団長とリードリットの補佐という二つの立場からこの場にいる。
他の主だった出席者には、ヴォオス軍軍師として第一席に復帰したライドバッハ、新たに第二席に就くことになったミヒュール、第三席となったエルフェニウスがヴォオス軍の頭脳として会議に加わり、正式なヴォオス軍籍ではないが、片腕片脚とたったアペンドール伯爵と、西部貴族のジィズベルト、東部貴族のブレンダンも会議に加わり、ディルクメウス侯爵が会議が暴走しないようにとお目付け役として出席している。
カーシュナーの影響を受け、毒舌家が増殖してしまった現在のヴォオス軍は、なかなかに抑えが利かない。何と言ってもその先鋒が国王であるリードリットなのだから始末が悪い。仮に暴走したとしてもその手綱を取れる唯一の男がいればまだいいのだが、いかんせんその男は現在ゾン国内で暗躍している。ディルクメウスとしてはリードリットやシヴァのような癖の強い人間を、よくあれだけ抑えられたものだと改めて感心するとともに、強引にでも引き止めるべきであったと、日々後悔している。
それ以外に正式な出席者としてではなくこの場に居合わせるのは、盗賊ギルドの新ギルドマスター、リタと、ルートルーンの二人だ。
公式には盗賊ギルドは殲滅されたことになっている。加えて盗賊ギルドには、権力に対し媚びず、へつらわずの精神が<掟>として存在する。馴れ合いと取られるような距離の取り方は許されない。
もっとも、現ギルド幹部とリードリットの間には、カーシュナーを間に挟んだ繋がりがある。
今回の件も、リタ個人の友人に対する協力という形でギルド内では処理されていた。
ルートルーンに関しては、リードリットによる教育の一環としてこの場にいる。
王弟にしてヴォオス軍の大将軍職にあった父ロンドウェイクがヴォオスでは禁止されている奴隷売買に深く関わったとして、王族からの除名処分が下された。そのロンドウェイクも<ケルクラーデン会戦>のおり、カーシュナーの手にかかって命を落としている。
この年ヴォオスの地表から多くの王族貴族が元宰相クロクスが建造した地下競売場に関わったため姿を消した。従来であればこれほどの失態が表に出ることはなく、奴隷売買に関わった王族貴族も、うやむやの内に事態が内々に処理され、表舞台から退くという最低限の形で許されたはずだ。
だが、リードリットは一切の情け容赦なく、捕らえられた者たちを処罰した。
ヴォオス国内において奴隷売買に対する処罰とは、すなわち死罪である。
国内貴族の多くが当主を失った。これほどの失態であれば、直接関わった当主だけでなく、<家>そのものが爵位を剥奪され、平民に落とされてもおかしくはなかった。
もしそうなれば、奴隷売買に関わった者の親族として迫害され、生き地獄を味わったことだろう。
だが、リードリットが罪とそれに付随する罰は、あくまで当人に帰結されるべきものと断じ、直接関わった者たちの死罪以上の厳罰を良しとしなかった。
これにより、国内の多くの貴族が当主を失う代償として現在の地位を許された。
処分を受けた者たちの中で、最も地位の高かったロンドウェイクの息子ということで、ルートルーンの立場は微妙なものであった。いかに直接関わった者以外は罪には問わないにしても、貴族と次期国王候補と目されていたロンドウェイクとでは立場が違い過ぎる。その息子であるルートルーンは父親が贖えなかった罪を父親に代わって負うべきではないかという意見もあった。
だが、そんな周囲の批判的な声をリードリットが平然と無視してルートルーンを王位継承の第一位に据えたことで、王宮内の雑音はピタリと納まった。
怒らせればその真紅の頭髪以上に真っ赤に燃え上がるリードリットの気性は、王者としての風格を備えた今でも恐れられているのだ。
王位継承権が保障されただけでなく、第一位に据えられたことで、前国王バールリウスよりも王弟であるロンドウェイク寄りだった人々は、素直にリードリットに従った。
ヴォオス王宮での権力争いは、その主だった者たちが切り落とされた首を小脇に抱えて退場したことで振出しに戻り、その動きも沈静化した。
かりそめではあるが落ち着きを取り戻した王宮で、ルートルーンは真の王族であることを求められているのだ。
「ゾンの内乱か。どう考えてもあの男が関わっているのだろうな」
コンラット将軍の報告を受け、リードリットが皮肉な笑みを浮かべる。
「いえ、陛下。この内乱の動きにあやつは関わってはいないようです」
リードリットの言葉に、宰相であり、カーシュナーのかつての師匠でもあるゴドフリートが応える。
「珍しいな。砂にさえ火を放ちそうなあの男が、今回はくすぶる火元にいないというのか?」
「はい。むしろゾン国内の緊張が無駄に高まったおかげで動きにくいと、つい先程届いた報告書の中で愚痴を言っておりました」
「あやつの愚痴は皮肉の場合もあるからな。信用ならん」
納得しつつも口はそれほど素直に動いてはくれない。
「まあ、報告を入れられるだけの余裕はあるんだから、愚痴で済む程度ってことでしょ。うちもそうっすけど、ゾンも今回の大災害では被害よりもむしろ農耕方面で例年以上の収穫を得ている以上侵略対象になることは避けられん状況なはずだ。国がバラバラになるほどことを荒らだてたりはしないんじゃないですかい?」
「シヴァ殿の仰る通りでしょうな。ゾンからの侵攻は当面考慮に入れなくてもよいのではないのでしょうか?」
シヴァの意見にエルフェニウスが同意し、その隣でミヒュールも大きくうなずき賛意を示す。
「では、とりあえずゾンはいいとして、国内貴族の状況はどうなっている?」
リードリットが次の報告を促す。
「地下競売場に関わったかどで王族や貴族が処刑された直後はその息子や配下の騎士たちが兵を起こすなどの反乱がありましたが、現在ではおおむね沈静化しております」
国内情報の管理を任されているエルフェニウスが報告する。
「表面に出ていないだけで、ヴォオスが隣国から侵攻を受けた際など、これに呼応して兵を挙げる様な動きはあるか?」
リードリットが重ねて尋ねる。かつては武人として名を馳せることに固執していたため、戦略的に物事を見る目がなかったが、カーシュナーの影響と、何より本人の意識が大きく変わったおかげで、今では物事の一手先を見て考えることが出来るようになっている。
「そのようなことを考えている者たちは、今も各地に潜伏しておりますが、陛下が処刑及びその罪業を公表されたおかげで、我々には民衆の目という素晴らしい監視網が出来上がりました。反乱を企てようにも、素手で戦うわけにはまいりませんし、反乱を成功させるだけの兵数を養おうと思えば当然それに見合うだけの数の糧食が必要となります。武器にしろ糧食にしろ、それだけの物量を、疑惑の目で見る民衆から隠しきるのは不可能です。実際に不審を感じた民衆からの報告により、反乱を企てた貴族を捕らえることも出来ました。あれがいい見せしめにもなったでしょうから、ヴォオスはゾンとは違い内乱を危惧する必要はないかと思われます」
「そういえば一族ごと処罰したことがあったな。上手く使ってくれたようだな。ご苦労」
リードリットは以前裁いた案件を思い出し、その処分を有効利用したエルフェニウスの労をねぎらった。
エルフェニウスはそれを誇るでもなく、静かに頭を下げる。この程度のことはこの場にいる者たちならば出来て当たり前のことなのだ。
貴族に対する処罰は神経を使わされる。対処の仕方次第で国内に大きな内乱の火種を生み出しかねない。時代によっては王族よりも貴族の勢力が優勢を占めることがしばしばある。
幸いリードリットはその功績が大きいことと、大陸全土にその名を轟かせ、国内でも未だに強い影響力を持つ二人の英雄、ゴドフリートとアペンドールからの支持に加え、ヴォオスどころか大陸屈指と言ってもいい頭脳陣、ライドバッハ、ミヒュール、エルフェニウスを麾下に加えている。さらに言えば、エルフェニウスは五大家に次ぐ国内有力貴族の一人、アルスメール侯爵が溺愛する息子でもある。
これだけでも十分過ぎるのだが、大将軍レオフリード、シヴァ、オリオン、ジィズベルト、ブレンダンという名だたる武将まで揃っている。
短期間で整えられたリードリットの勢力は、いまやヴォオス初代国王、ウィレアム一世にも劣らないほど強力なものであった。
おまけに五大家の強力な後ろ盾まである。
多少強気な処分も、配慮なく下すことが出来る。だが、リードリットは自身の優位な立場に驕らず、裁きは常に公正になるよう心掛けていた。
地下競売場に関わった者たちが当人に対する裁きだけで済んだのに対し、反乱を企てた貴族が一族ごと処分されたのは、ある意味リードリットの温情とも言える寛大な処分を、逆恨みにより王家に剣を向ける大罪へとつなげたからであった。
「ただ、一つ気になる情報が入っております。これまで反抗的な態度が目立っていた貴族たちが、手の平を返したように大人しくなったというのです」
「いいことのように聞こえるが?」
エルフェニウスの報告にレオフリードが片方の眉を上げて問いかける。言葉ほど素直に受け取っていない証拠だ。
「見せしめ以降も反抗的だった者たちなのです。見せしめの意味を理解出来ないほど頭が悪いから吠えていた犬が、急に黙り込んだということは、駄犬を躾けた者がいる可能性があります」
「尻尾はもう掴んだのか?」
リードリットがエルフェニウスの毒舌にニヤリとしながら尋ねる。
「いえ、あくまで私の推測に過ぎません」
「その割にはずいぶんと確信めいた口調に聞こえるが?」
ミヒュールが友人の内心を暴露する。
「単独ではことを起こせず息巻いて吼えることしか出来なかった連中が、時を同じくして同じような反応を見せれば、疑うなという方が無理というものだ」
エルフェニウスが友人に対し、人の悪い笑みを浮かべてみせる。
「違いない。さて、掴んだ尻尾の先にいるのが、狼なのか狐なのか、楽しみだな」
いささか状況を楽しみ過ぎているエルフェニウスに苦笑を返しながらも、ミヒュールの意見もエルフェニウスと同様だった。
「お主らがそう読むのであれば、油断しない方がいいだろうな。引き続き監視を頼む。緊急時の判断はお主に任せる。必要な措置を講じてくれ」
リードリットからの全幅の信頼に、エルフェニウスは姿勢を正して頭を下げた。
だが、、深く下げた頭を上げた時には、エルフェニウスにはあまりにも不似合いな思案顔がそこにあった。そして報告を続ける。
「国内問題で言えば、いや、問題ではないのですが、陛下に一つご報告と言いますか、その、ご相談と言いますか……」
エルフェニウスとは思えないほど歯切れの悪い発言に、リードリットだけでなく、その場にいる全員がいぶかしげに視線を向ける。
助けを求めて向けられたエルフェニウスの視線を受けたアナベルが、言いたいことを察し、言葉を添える。
「陛下。実は赤玲騎士団に入団したいという者たちが殺到しておりまして、現在団員の募集はしていないと言っているのですが、これがなかなか聞き入れなくて難儀している状況なのです。中には王宮に忍び込み、陛下に直訴しようとする者まで現れる始末で……」
そこまで言ってアナベルも言葉を濁した。
女性の地位向上のために私財を投じて王都に女性専門の私塾まで開いたアナベルではあるが、理屈を容れず感情を先走らせてしまう志願者たちの行動に、女性の悪い面が見えてしまい、どうにも擁護出来ずにいるのだ。
「兵士に志願して来るだけあり気も強く、諌める役人や止める兵士たちに戦いを挑み、実力を示そうとする者もおります。兵士たちも素人の女性が相手では手荒な真似も出来ず、一部の職務に支障が出る事態となっております。このようなことをこの場に持ち込み誠に申し訳ないのですが、その志に曇りがない以上無下にも扱いたくはございません。どうか皆様のお知恵を拝借出来ればと思う次第であります」
アナベルの後を引きとり、エルフェニウスが話を締めくくる。
ヴォオスの周辺国を含めた大きな議題を扱うこの場には確かにふさわしくないだろうが、リードリット自身が女性の身で戦功を立て、ヴォオス史上初の女王としてヴォオスに君臨している。その辺りを配慮してのことであった。
「意外だな。お主なら容赦なく追い返しそうなものだろうに、存外甘いのだな」
ミヒュールが同期をからかう。
「私も冬が去る前であればそうしただろう。だがな、ミヒュール。女だからという言葉で物事が切り捨てられてきた時代は、もう終わろうとしているのだと私は思っている。そして、一度前へ進んだ時代はけして戻ることはない。力でねじ伏せ、一時的にそう見える状態に巻き戻したとしても、前進することによって開かれた道が消えてなくなるわけではない。無駄な時代のせめぎ合いなどに時間を割くよりも、さっさと新たな開かれた時代に人類という名の駒を進め、今までにない世界を私は見てみたいのだ」
何気ないからかいに対して返ってきた思いもよらない言葉に、ミヒュールは真顔に戻って考え込む。その言葉が示した未来に、ミヒュールもおおいに惹かれたからだ。
「意外だな」
赤玲騎士団への入団希望がそのような事態に発展しているとは知らなかったリードリットが眉をしかめる。ほんの少し前までのリードリットであれば小躍りして喜んだだろうが、<フールメント会戦>と<ケルクラーデン会戦>という二つの戦いで多くの仲間を失ったリードリットは、以前のように戦いを安易なものとして捉えられなくなっていた。
カーシュナーと出会うまでは武名を高めるために戦っていた。そのために死ぬのならば、それは名誉であり、恐れたり、悔やんだりするようなことではないと思っていた。だが、王族としての使命に目覚め、力なき人々を死なせないための戦いに身を投じて以降、死というものに美学を見い出せなくなっている。
リードリットは内乱で揺れたヴォオス平定後、人々の救済に奔走したが、それでも多くの命が失われてしまった。ヴォオス国民の大多数が、身近な人間の死と関わり、失う痛みを共有したと考えている。
民衆の暮らし向きもようやく落ち着きを見せた今になって、何を好き好んで兵士になどなろうと考えるのかリードリットにはわからなかった。
「そうでしょうか? 私はむしろ当然と感じます」
ポツリとこぼしたリードリットの言葉に、意外なことにレオフリードが考えを口にする。
リードリットが目顔で続きを促すと、レオフリードは続く言葉を口にした。
「これまで女性には多くの制限がありました。それは今も変わらず常識として人々の中に根を張っていますが、その多くが女性とはこうあるべきものという決めつけでしかなく、能力や才能から制限することが有効だと証明されたからではありません」
レオフリードの言葉にアナベルが大きくうなずく。
「ことに戦いに関して女性が関わることは今までありませんでした。男児が生まれなかった、あるいは生まれても全員成人出来なかった等の理由により、女性が家督を継ぎ、戦に出陣する際軍装を身に纏うことはありましたが、それはあくまで当主として戦地に身を置くということでしかなく、純然たる騎士として戦場に立つということではありませんでした。ですが、陛下が赤玲騎士団を立ち上げ、陛下と共に国の命運を左右するような戦に赤玲騎士団が参戦し、見事な戦果を挙げたことにより、これまで女性には閉ざされていた扉が開け放たれました。開かれた扉の先に行きたいと思うのは、人としてごく自然なことなのではないかと私は思います」
「アナベル。ヴォオスはいつからこんなに女性擁護者が増えたのだ?」
リードリットがどこか皮肉な思いを秘めた顔で問いかける。
「つい最近ではないでしょうか? 赤玲騎士団の存在自体、陛下の御即位前までは、ごっこ遊びとみなされておりました。ミデンブルク城塞に押しかけ、ゾンとの小競り合いを続けていたころも、陛下のわがままとしか認識されていなかったはずです」
アナベルも男性陣の中から女性の社会進出を認めるような発言が出たことに、喜ぶよりもどこか疑わしげな様子で言葉を返した。
「女性擁護とかじゃなくて、実力を性別に関係なく、正しく評価出来るようになってきたってことじゃないっすか? 普通に考えたら、俺やオリオンがヴォオス軍の将軍としてこの場にいること自体異例なことであって、一年前には考えられないような変化ですからねえ。まあ、本来文句を言いそうな連中がみんな、陛下の大粛清であの世行きになったことで、ヴォオスの風通しが良くなったってことじゃないですか?」
シヴァが相変わらず修行の一環として片目を覆っているベルトをいじりながら、なかなかに鋭いことを言う。ちなみに、以前は何の変哲もない布で目を覆っていたが、なんとなく格好良くね? という理由から、最近はベルトを眼帯代わりに使用している。
「そうだな。国の風通しが良くなったことが原因の一つと言えるだろうな。これまでは何でも反対すれば頭の良いことを言っているような気になっている貴族どもが幅を利かせていたからな」
シヴァの意見にかなり強烈な毒舌を添えて同意したのはライドバッハであった。
これまでは常に眉間に深い縦じわを刻み、言葉数の少なかったライドバッハであったが、本人が言ったように国の風通しが良くなり、王宮が正常化されたことでその本性を現したため、カーシュナー不在のヴォオスは変わらず毒舌の嵐が吹き荒れている。
「まあ、それ自体は良いことではあるのだろうが、それが問題に発展しては意味がない。なんとか良い方向に導いてやらねばいかんな」
ライドバッハの言葉に苦笑しながら、ゴドフリートが会話の方向を修正する。
「赤玲騎士団を増員出来ない訳ってなんなんですか? 金っすか?」
シヴァが露骨に尋ねる。
「金なのか?」
それを受けてリードリットもアナベルとエルフェニウスに尋ねる。
「金です」
二人の答えはもっとも短い説明で一致した。
「そんなにないのか?」
リードリットがお目付け役としてこの場に出席していたディルクメウス侯爵に尋ねる。
「いえ、そこまで我が国の財政状況は逼迫してはおりません。クロクスから没収した私財だけで今回の大災害の被害はまかなうことが出来ました。以前のように連日饗宴が開かれるようなこともなく、無駄な浪費が減少したおかげで、むしろ回復傾向にあります」
クロクスの支配下にあった当時の王宮で、クロクスになびくことなく己を貫いていたディルクメウスが、一言チクリと刺しつつ説明する。
こやつもカーシュナーやシヴァと付き合ったせいでだいぶ毒されたな。と思いつつ、リードリットはエルフェニウスに視線を向けた。
「ディルクメウス侯爵の仰られたように、国庫に余裕はあります。ですが、その余裕をまったくの素人の育成に注ぎ、時間と資金を浪費出来るほど、我が国に余裕はないのです」
「主に情勢的な余裕ですな」
エルフェニウスの言わんとするところを理解したミヒュールが言葉を添える。
ゾンに対する備えは現状急を要しない。だが、ルオ・リシタとの戦は決定事項であり、イェ・ソン、エストバの両国がいつどう動くかは予測し難い。クロクスにより解雇された兵士たちの多くを復帰させたが、全盛期のヴォオス軍の規模にはまだ足りない。それでいて隣国との緊張状態はいつ崩壊するかわからない状況にある。兵士を増員し、鍛え上げることは急務であり、短期間で最低限の練度は得なければならない。
そうなれば必然的に肉体的に優れる男の兵士を優先せざるを得ない状況になる。
「なるほど。最悪の場合、ヴォオスはルオ・リシタ、イェ・ソン、エストバの三国を同時に相手取らなければならない可能性がある。おそらくそうなれば、欲の深いゾンは、国内情勢がどうであろうと、これ幸いと強引に兵を動かす可能性も出てくる。そうなればヴォオスは建国以来最大の窮地に立つことになる。ようやく終わらない冬を乗り越えたというのに、ここで滅ぼされたのでは笑い話にもならん」
状況を理解したリードリットが、それまでのアナベルやエルフェニウスと同じような表情になる。
「ちょっといいかい?」
それまで一切口を開くことのなかったリタが手を上げる。原則尋ねられない限り意見を挟んでくることのないギルドマスターとしてはかなり珍しい。
「妙案でもあるのか?」
非公式の唯一の女性の友人に、リードリットが尋ねる。国王と部外者という立場上、普段の親しさは表に出さない。
うなずくリタも、その態度は実に事務的であった。一般人が聞いたらつまらない冗談としか受け取らないことなのだが、新生盗賊ギルドの本部はここヴォオス王宮内にある。盗賊たちの実質的な根城は今も王都の地下ではあるが、リタの執務室はかつて王族の一人が使用していた私室に構えられている。
リードリットは暇を見つけては通い、不向きな政務による脳の疲れを癒していた。
「そのことで、カーシュから伝言がある」
「あいつの耳はどこまで聞こえるのだ」
リタの言葉にリードリットが呆れる。
「いや、今回はいつもの地獄耳じゃないよ。あいつが王都経ってしばらくしてから届いた報告の中にあったんだ」
「ほう?」
「どうもあいつは陛下の人気の沸騰に合わせて、女性の入隊志願者が殺到することを予見していたようで、入隊者の受け入れ及びその活動資金を、クライツベルヘン家経由で受け持つと言ってました」
「表立ってはクライツベルヘン家の支援とし、王家と五大家の変わらぬ協力体制を世に示すというわけか。まったくあやつの頭の中はどこまで先の未来を予見しておるのやら」
リードリットは内心では感謝しつつも、両手を放り上げて大袈裟に呆れ返ってみせた。
「まったく、どこまでも目端の利く男だ」
同じく呆れ返ったエルフェニウスがため息をつく。
「彼が成そうとしていることを考えれば、ヴォオスを支援するゆとりなどなかろう。ありがたい話ではあるが、また一人で無理をしておらねばいいのだがな」
エルフェニウスとは違い、ミヒュールは素直に感謝と心配を口にする。
「気に病む必要はない。奴にも奴なりの目算があっての出資のようだ」
リタの言葉にライドバッハが目を光らせる。
「あれのことだ、大方女性の戦闘訓練方法を実験したいのではないか?」
「当たり! さすが鋭いねえ」
天下のライドバッハ相手に飲み屋の常連同士のような軽さでリタが言葉を返す。
そのあまりの気安さに、当人ではなくミヒュールとエルフェニウスがギョッとする。
「それだけじゃなくて、女の新兵を男の新兵と競わせれば、男共の徴兵や訓練の効率化を図れるって言ってたよ」
「相変わらずえげつないことを考えるな……」
ミヒュールが心配して損したと言わんばかりにため息をつく。
「だが悪くない。やらさせる訓練と、自ら進んで取り組む訓練とでは、その成果には雲泥の差が出る」
「それだけではない。あやつのことだ。女性の新兵と合同訓練をさせ、その上で男共を打ち負かすようなことを考えているはずだ」
「間違いなく考えているでしょうね」
ライドバッハが意地の悪い笑みを浮かべるのに対し、応えたシヴァは悪意すら感じられるような悪い顔で笑った。
「まったく、ここにいなくても余計なことを仕出かす男だ。だが、強い兵士が手に入るのなら文句はない。奴の思惑に乗ってやろう」
リードリットも無意識の悪い顔で笑うと話を締めくくった。そして、後の処理をエルフェニウスとアナベルに一任する。
その後、イェ・ソン、エストバの現状報告が行われ、問題と思われる点に対して意見交換が行われ、対応が決定されていった。
一通りの報告が終わり、会議の終了が告げられた時、シヴァがいたずらを思いついたかのような顔でリードリットに近づいた。
「なんだ。鬱陶しい」
「ご挨拶っすねえ。ちょいと面白いことを思いつきましてねえ」
シヴァはそう言うとニヤリと笑いリードリットに耳打ちする。
始めは嫌そうに顔をしかめていたリードリットであったが、最後にはシヴァ同様ニヤリと笑う。
「許可する。人選はお主に任せる。私も日程を調整して連絡を入れよう」
二人の様子を少し離れた位置から眺めていたディルクメウス侯爵が、悪い予感を振り払うために小さく首を振ったのであった――。
次回は12月9日投稿予定です。




