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ヴォオス戦記  作者: 南波 四十一
ヴォオス戦記・序
1/152

プロローグ ~ひるがえる二つの反旗~

 <大陸>もしくは<世界>と呼ばれる広大な大地に、ヴォオスという国はあった。

 神話の時代が去るも、いまだ各所には神々の奇跡の跡が名残りを留め、<魔境>と呼ばれる人類を拒絶した土地がいくつも存在する。

 ヴォオスも建国以前は<魔境>と呼ばれ、最後の魔神<ラタトス>が支配する恐怖の世界だった。

 神々の大戦を経て、ラタトス以外の神々は互いの強大な力で脆弱な肉体を滅ぼし合い、世界に対する物理的干渉力を失ったが、ラタトスのみが、存在の卑小さゆえに誰の目にも止まらず、ゆえに神々の大戦を生き延びた。

 

 最弱の神であったラタトスも、その他すべての神々が高位精神体へと昇華した後では、並ぶ者無き絶対者であり、<神にして全世界の王>を名乗り、あらゆる生命を無慈悲に支配した。


 ラタトスの千年紀が多くの人類に絶望をもたらす一方で、途切れることなく受け継がれた怒りが一つの魂に不屈の闘志を与え、ついには<神をほふる者>を生み出した。


 ヴォオス建国の王にして、後に<英雄王>と称えられるウィレアム一世は、五人の偉大な戦士とともにラタトスを討ち、千年の恐怖を終わらせ、国内を平定してヴォオスを興した。


 ラタトスの支配下にはなかったが、その影響を強く受けていた周辺国とともに四本の隊商路を整え、ヴォオスは隊商路の発展とともに繁栄していった。

 四本の隊商路唯一の交点である王都ベルフィストは、大陸屈指の都へと成長し、多くの富をもたらすと同時にそれまでは良き隣人であった周辺国の野心を刺激する存在となった。


 歳月とともに国家間の緊張は高まり、ヴォオスは幾度となく他国の侵略を受けた。時には北の魔境から魔物の襲撃を受けることもあった。しかし、魔神ラタトスを打倒したヴォオス軍は、侵略、襲撃をことごとく退け、強国としての存在感を増していった。


 建国より約三百年。幾多のいくさに勝利を重ね、繁栄を遂げてきたヴォオスだが、永遠の栄華を約束された国が地上に存在しないように、ヴォオスの繁栄にも陰りが見え始めていた。


 誰も耳を傾けようとしない破滅の足音に、一人の若者が注意深く耳を傾けている。

 皮肉な輝きを持つ、深い緑色の瞳で世の中を見渡しながら――。 







 カーシュナーが二年ぶりに目にする王都ベルフィストは、快晴の空のもと、陽の光を拒絶するかのように重苦しい空気に包まれていた。

 その栄華に陰りは見られない。行き交う人々の流れも、手から手へと渡る金貨の流れにも滞りはない。ただ、富を持つ者と持たざる者との隔たりが、王都を囲む城壁よりも高く分厚く横たわっているのだ。

 上質な絹服をまとった貴族や商人が城門をくぐる一方で、ぼろをまとった多くの人々が、城壁外に広がる貧民街でうずくまっていた。

 その原因は不正の横行であり、それを許す国政の腐敗であった。

 

 現国王バールリウスの政治への無関心は、腐敗の温床であると同時に、玉座に座り続けるための絶対条件でもあった。バールリウスは扱いやすい王であるという一事をもって至尊の座についている。

 大陸屈指の強国ヴォオスの実質的な支配者は、宰相のクロクスであった。

 二代前までは一介いっかいの商人でしかなかった彼の家系は、先々代が膨大な借金に押し潰されそうになっていた貴族から爵位を買い取った瞬間から、尋常ならざる速度で宮廷を駆けあがることになる。

 クロクスの父は商才に富んだ先祖たちが残してくれた莫大な財産を、要所を押さえてばら撒くことでいとも容易く国庫の鍵を手に入れた。そして、鍵の管理権を引き継いだ息子のクロクスは、国王バールリウスを手なずけるとともに巧みに人事を操り、王宮内での権力拡大に務めた。

 最大の政敵であった大将軍ゴドフリートが王宮の腐敗に嫌気がさし、大将軍の職を辞した現在では誰も表立って逆らうことができないまでの権力者に成長していた。


 繁栄の陰に横たわる闇の深さは、ヴォオスという国の未来の前に大きく口を開ける没落への入り口に見えた。

 この二年、国内外を旅してまわり、ヴォオスと周辺諸国の実態を把握したカーシュナーは、王都の腐敗ぶりを目の当たりにして、ある・・決意をより強固にしたのだった。







 カーシュナーは吹きつける風をよけるために、身にまとっている外套をきつく身体に巻きつける。

 二年ぶりに訪れた王都を早々に後にしてから数か月。季節は初夏に移り変わっているはずだった。

 にもかかわらず、吐く息はいまだに白く、雨の代わりに雪が降る。ヴォオス建国以来最大の異常気象だ。

 作物の植え付けなどできるわけもなく、年々重くなる一方の租税をどう工面するかで人々は頭を悩ませていた。


「カーシュ。前方から何か来ます」

 遠目がきくダーンがカーシュナーに報告する。無意識に手綱を離れた手が、腰にいた剣に伸びる。

 幼馴染の従者の言葉に、カーシュナーは前方を透かし見た。季節を無視して居座り続ける雪の照り返しに翠玉すいぎょくのような瞳を焼かれ、顔をしかめる。

「兵士の一団のようです。一人だけ馬に乗っています。隊列も組まずに勝手気ままに歩いています」

 言葉の最後に露骨な非難がこもる。統制の緩い兵士は厄介事やっかいごとの種にしかならないからだ。

「避けますか?」

 ダーンが確認してくる。

「いや、向うに遠目の利く人間がいればこちらも確認されているだろう。今さら避けても下手な口実を与えるだけだ。このまま進もう」


 距離が縮まると、兵士の一団の後ろに二十人ほどの女性たちが、前後を兵士たちにはさまれて連れられていることがわかった。

 下卑た笑いを顔面に貼りつけた兵士たちを見て、ダーンの放つ気配が強張こわばる。

 カーシュナーは視線を投げるだけでダーンを抑え、自身は顔を入念に手でもみほぐす。それだけでカーシュナーの意図を察したダーンは、外套のフードを深くかぶり顔を隠した。

 寒さに強張った顔をほぐし終えたカーシュナーの顔は、原型からは全くかけ離れたものへと変貌していた。

 目じりの下がった柔和な顔が、目も眉も細く切れ上がった神経質なものへと変わっている。年齢も一気に十歳は老けこんだように見える。

 兵士の一団が近づいてくるとカーシュナーは酒瓶を取り出し、上手そうにあおった。そして寒さを思い出したように大げさに身震いする。

 兵士の一団が至近に迫ると、カーシュナーたちは馬を道の脇に寄せて止まる。


「お主ら、ここで何をしている?」

 一人だけ馬に乗った男が、横柄な態度で詰問してくる。兵士たちの隊長ではなく、どうやら収税吏しゅうぜいりのようだ。

「手前はクライツベルヘンで商いを営んでおりますプレタのフロリスと申します。お役人様」

「そのプレタのフロリスとやらが、クライツベルヘンを遠く離れたこのような田舎で何をしておる」

 詰問の調子がきつくなる。


 プレタのフロリスになりきっているカーシュナーが、芝居がかった身振りで周囲を示す。

「この異常気象にどこも物資が不足いたしております。商品の確保ができれば大きな利益を生み出せますので、このようなところにまで出向いてまいりました。はい」

「なるほどな。では、身分証を見せてもらおうか」

 収税吏の差し出す手に、カーシュナーは用意していた身分証と、金貨の入った小袋を渡す。収税吏の表情が好意的に変わる。


「確かに確認しました。しかもクライツベルヘンの領主様直々の身分証ですな。かなり大きな商いをなさっておられるのですかな?」

 ただの商人ではないと分かった途端口調まで変わる。

「いやいや、それほどではございません。ただ、家内が領主様の遠縁にあたるものですから、その伝手つてでいただいた身分証でございます」

 ただの商人のもとに、ヴォオス最大の貴族、クライツベルヘン家の縁者が嫁ぐはずがない。目の前の商人が権威をかさに着て威張り散らさないのなら、これ以上余計なことは言うまいと考えた収税吏は、丁重に身分証を返した。


「この近辺の状況にお詳しければ、お教え願えないでしょうか?」

 状況が変わっても、カーシュナーはあくまでも丁寧に接する。それでいて、その丁寧さが作り物であることが透けて見える絶妙な態度だった。

「いいお話ができなくて申し訳ないのですが、この近辺の村落はどこも物資が不足しており、確保できるような商品はない状況です。私は収税吏としてこの先の村を訪れたばかりですが、十分な税金が集まらず、不足分を奉公して支払わせるために、村の娘たちを連れて帰る途中なのですよ」

「ほう。物資が不足しておりますか。ちなみにこの近辺に豪農はおりますかな?」

 カーシュナーが小狡そうな笑みを浮かべる。

「おりますが、どこもこの異常気象です。とても手放すとは思えません」

「買うのではなく売るのです。商人にとって良い品は宝ですが、それ以上に良い買い手は富を運んでくれます」

 カーシュナーの答えに収税吏は目を見張った。そして、その欲深な態度に安心する。間者ではないかと疑っていたのだ。


「そうであれば見つかるかもしれませんな。どの豪農も、がめつく貯めこんでおりますからな」

 収税吏がにやりと笑う。

「ところで、なかなかに粒がそろっているようですな」

 カーシュナーが兵士たちに挟まれている村の娘たちに目をやりながら言う。

「ええ、まあ」

「三賢王時代以前でしたら一財産稼げたでしょうに、惜しい話です。もし、有力な奉公先が見つからなかったら、プレタのフロリスの名前を思い出してください。決して損はさせませんので」

「覚えておきましょう」

「おい! 皆さんに寒さしのぎを差し上げろ!」

 カーシュナーはダーンに厳しい口調で命令すると、自分は鞍の片側に下げていた酒瓶を取り、収税吏に渡した。そして先程まで口にしていた自分の酒瓶をあおるとダーンを顎で指し示した。


「家内の弟なのですが、少しばかり頭が足りなくて難儀しております。文句を言わんのが取り柄と言えば取り柄なのですが、いかんせん仕事がのろい。貴族と縁を結ぶのはなかなかいいことばかりというわけにはいかんもんです」

 そういうとカーシュナーは嘆かわしげに首を振り、再び酒をあおった。

「上質の蒸留酒です。独特な香味がくせになる逸品です。冷えた手足を温めるのに最適ですぞ」

 美味そうに飲むカーシュナーを見て、収税吏は我慢できずに栓を抜き、一口あおる。

「これは美味い! ありがたく頂戴いたします」

「いろいろとご教授いただいたお礼です。ついでに奉公先の件、よろしくお願いいたします」

「おまかせください」

 上機嫌な収税吏と、ダーンからもらった酒瓶を回し飲みする兵士たちを見送ると、カーシュナーは収税吏が訪れていたという村へと足を進めた。







 粗末な身なりをした男たちが、敵意をみなぎらせた目でにらみつけてくる。

 村を目指していたカーシュナーとダーンは、その少し手前とおぼしき場所で、野盗に囲まれていた。

 男たちは全員で二十人ほどで、手には鎌や鋤、棍棒などを持っている。それらを構える手つきはいかにも素人くさかった。


「その剣をよこせ!」

 カーシュナーの腰に収まる剣を指さしながら、男たちの一人が声を荒げる。まだ幼さの残るその声には、自分でも制御しきれない激しい怒りと、自分がしていることに対する恐怖があった。カーシュナーに向けられた棍棒が激しく震えている。

「金目の物ではなく、剣が欲しいのか?」

 先程まで収税吏と相対していたプレタのフロリスの小狡そうな顔ではなく、いつもの温和な顔に戻ってカーシュナーはたずねた。

「あ、あるなら金目の物も置いていけ!」

「全部おいていけ!」

 男たちが口々の叫び出す。


「断る! 欲しければ力ずくで奪って見せろ!」

 それまでの雰囲気を一瞬で吹き飛ばして大喝する。

 あまりの大音声に枝から雪の塊が滑り落ち、直撃を受けた男が悲鳴を上げた。

「た、たった二人でこの人数に敵うと思っているのか!」

「命が惜しけりゃ素直に従え!」

 カーシュナーは無造作に馬から降りると剣を引き抜いた。


「俺は欲しければ奪えと言ったんだ。自分の命を懸けてでもこの剣が欲しいと思えないのなら、さっさと消え失せろ」

 それは戦いを経験したことのない者でもはっきりとわかる粗暴な殺気だった。

 濃厚な暴力の気配を叩きつけられた男たちが、無意識に一歩退く。

 その中で一人だけ、震える足を無理やり前に運び、カーシュナーに挑みかかった。始めに声を上げた少年だ。


 棍棒を高く振りかざして突進してくる。自分を殺そうと駆け寄る少年を前にして、カーシュナーは平然と剣を鞘に納め、少年が棍棒を振り下ろす前に一瞬で間合いを詰めてその手首をつかみ、受け止める。そして、そのまま片手で少年を宙づりにしてしまった。

 野盗たちはこの時初めてカーシュナーの大きさに気がついた。細身の身体に長い手足がカーシュナーをひ弱そうに見せていたが、その背丈は自分たちの頭三つ分は高かった。


「は、放せ!」

 宙づりにされた少年が恐怖に駆られて叫ぶ。

 カーシュナーはまるでちょっとした木の枝でもかたずけるように、無造作に少年を仲間たち目掛けて放り投げた。

 投げつけられた少年に巻き込まれた野盗たちがひっくり返っている間に、カーシュナーは鞍から鞭を外した。そして男たちが起き上がると、近くの木の幹に、鋭く一振りする。樹皮がはじけ飛び、乾いた音がこだました。

 男たちがびくりと身体を震わせる。


「もう一度言う。自分の命を懸けてでもこの剣が欲しいと思えないのなら、さっさと消え失せろ」

 投げつけられた少年が再び挑みかかってくる。

「姉ちゃんを助けるんだ!」

 腹の底から絞り出された声が、少年の手足から先程までの震えを拭い去る。

 必死に繰り出した一撃は、あえなく空を切り、鞭のひと振りが少年の背中を襲った。

 少年は焼けつくような痛みに転げまわりながらも再び立ち上がると、カーシュナーに挑みかかった。

 今度も攻撃は空を切ったが、鞭のひと振りは襲い掛かってこなかった。

 仲間の男たちが少年に続いてカーシュナーの挑みかかっていたからだ。


 全員が必死の形相で挑んでくる。カーシュナーはそのたびに鞭を振り下ろし、男たちの心を折ろうとした。

 やがて男たちの心が折れないと悟ると、カーシュナーは剣を鞘ごと剣帯から外し、目にも止まらぬ速度で男たちに振り下ろしていった。

 まるで糸の切れた人形のように男たちが倒れていく。

 最後に何度も挑みかかってきた少年に対してカーシュナーは鞘を払うと、大上段から振り下ろした。

 無意識に恐怖の叫びをあげながらも、目の前に落ちてくる死の刃から少年は目を離せないでいた。

 恐ろしい風圧が垢で汚れた顔を撫でる。

 最後まで目を閉じなかった少年は、皮一枚の差で止められた剣を見つめながら、へたり込んだ。


「無茶をしないでください」

 それまで黙って見ていたダーンが文句を言う。

「彼らの本気を見極めるには必要なことだったんだよ」

 カーシュナーが弁解する。

「そこは疑っていません。だからと言って当たったらどうするんですか。見極めなら俺がやります」

「いや、そこを人任せにするようなら、俺に他人を、ひいてはこの国を非難する資格はないことになる」

 真剣な翠玉の瞳を向けられ、ダーンは肩を落とした。言うだけ無駄なことは子供のころからわかっているのだが、言わずにはおれないのだ。


「少年。君は収税吏に連れていかれた姉を取り戻したいのだろう?」

 先程までの殺気に満ちた姿からは想像もできない穏やかな顔でたずねられ、少年はぽかんと口を開け、ただ首をがくがく振って答えた。

「話がある。君の仲間たちを起こしてくれ」

 少年はカーシュナーに命じられると、素直に雪の中に倒れる仲間たちを起こしていった。





「連れ去られていった女たちを取り戻すということが、どういうことになるかわかっているのか?」

 圧倒的な実力差を見せつけられた男たちは、抵抗することもなく素直にカーシュナーの話をきいていた。

「村に連れ帰ることは出来ないぞ。そんなことをすれば今度は正規の兵隊が村を焼き払いに来るだけだ」

「そんなことは知らない! 俺は姉ちゃんを助けたいだけだ!」

「助けたら村には帰れないぞ」

「村は捨てる」

 少年の代わりに別の男が答える。

「当てはあるのか?」

「ないけど、家族なんだ! 諦めることなんて出来ねえ!」

「女房を取られて黙っているくらいなら、死んだ方がましだ!」

「娘はわしの宝なんです。あの子の幸せだけを願って今日まで頑張って育ててきました。貴族の慰み者になんて絶対に出来ない……」

 それぞれが思いのたけをカーシュナーにぶつけてくる。


「だから頼むよ! その剣を俺たちに貸してくれ! ちゃんと返すからさ!」

 気持ちが高ぶったのだろう。少年は涙を流して訴えた。

「素人がたかが二本の剣を手に入れたからって、本物の兵士に敵うと思っているのか? 返り討ちにあって終わりだ」

 そんな少年の言葉を、カーシュナーは無情に切り捨てる。

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!! 俺たちに出来ることなんて他にないだろ!!」


「死ぬ覚悟が本当にあるのなら、俺を信じて従ってくれないか。そうすれば家族を取り戻させてやるし、村を捨てた後の身の振り方も世話してやろう」

「み、味方してくれるのか?」

「あんたたちが本気なのはわかったからな」

「でも、俺たちを助けてあんたたちに何の得があるってんだよ?」

「得? そんなものはない。ただ、あの収税吏と兵士たちが気に入らなかったからさ」

「そんな理由で!」

「いけないか? 本当の貴族なら、この異常気象で困っている領民から租税なんて取らない。むしろこれまで取り立てた税を使って領民の救済をするのが筋だ。それを、税金を払えないからって女たちをさらうなんて、やってることは盗賊と一緒だ。盗賊は懲らしめてやるのが世の中のためだろ?」

「……あんたみたいな人、初めて見た」

 少年の言葉にカーシュナーがニヤリと笑い、ダーンは痛むこめかみを押さえた。







「音を立てずについてこい」

 カーシュナーの指示に男たちがうなずく。だが、遠目に連れ去られた家族を目にし、男たちの中に焦りが生まれていた。

「お前たちの失敗が、家族の死につながると思え。臆病なくらい慎重に行動しろ。死体を助け出したいわけじゃなければな」

 心の内を見透かしたカーシュナーの厳しい言葉に、男たちが生唾を飲む。

 

 作戦は単純だった。カーシュナーたちが再びプレタの商人フロリスに化けて収税吏の一団に近づき、隙をついて女たちを逃がし、後から来る男たちが守りながら逃げるというものだった。表向きは――。

 素直に信じた男たちは、危険な役目を無関係なカーシュナーたちに押しつけることを申し訳なく思い、何度も頭を下げた。

「本当はもっと危険なことをするんですけどね」

 ダーンがため息交じりにつぶやく。

「仕方ないだろ。だいたい彼らと関わりになろうがなるまいが、女性たちを助けるつもりだったんだからいいじゃないか。一緒に突撃すれば必ず死人が出る。足手まといなだけなんだ。彼らの気持ちは、これから先の人生を守るために使ってもらえばいい」

 ぼやく幼馴染をカーシュナーがなだめる。


 ダーンのぼやきは、厄介事に巻き込まれたことに対してのものではなく、主人であるカーシュナーを危険にさらすことを嫌ってのものだった。

 どうせなら自分一人で突撃させてくれればいいものをと考えているダーンだが、それを許すカーシュナーではない。やさしさと同じ量の厳しさを併せ持つ稀有なダーンの主人は、決して危険を人任せには出来ない性分なのだ。

「これだけは約束してください。前に出るのは私の役目ですからね」

「わかったからにらむなよ。その辺は当てにしてるって」

 カーシュナーは苦笑しながら答えた。ダーンの忠誠はありがたかったが、いささか過保護なところが問題だった。


 相手に警戒を持たせない速度で近づきながら、カーシュナーが最終確認をする。

「情けはいらない。皆殺しだ。一瞬もためらうな」

「ご心配なく。カーシュが始めに止めなければ、出会った時点で斬っていましたから」

「それでよく自分のことを常識人とか言えるな」

「常識で考えて、許していいことですか?」

「……よくないことです」

「でしょう? だから私は連中を躊躇なく斬るんです。だがら私は常識人なんです」

「……今一つ釈然としないものが残るけど、それで迷わないなら良しとしよう」

「カーシュこそしくじらないで下さいよ」

「私は男には結構厳しいんだよ」

「知っています。必要とあらば女性にも厳しいですからね」

「なっ! 失礼な!」

「でも子供には甘い」

「……むう」

「下手な命乞いに惑わされないで下さいよ」

「……気をつける」

 絶対の主従関係があるにもかかわらず、人間関係の立場は全く逆の二人は、声が兵士たちに届く距離まで近づくと、プレタのフロリスと、その従者になりきった。





「お役人様!」

「おおっ! これはプレタのフロリス殿ではないれすか! いかがされまひたかな!」

 酔いのまわった収税吏が、ろれつの回らない口調で陽気に答えてくる。

 カーシュナーが寒さしのぎと言って渡した蒸留酒は、口当たりがよくて飲みやすく、それでいて恐ろしく強い酒だった。別名<悪女の誘惑>とも呼ばれる最上級蒸留酒で、一般には流通していない特別なものだった。


「おう! にいちゃん! さっきの酒、まだ余分にあるなら分けてくれよ!」

 赤ら顔の兵士がダーンに声をかける。

 ダーンは無言でうなずくと、鞍の後ろに積んだ荷袋から酒瓶を取り出し、兵士に放り投げてやった。

「いっやほ~い! すまねえな、にいちゃ……」

 陽気な歓声を上げた兵士の手が酒瓶を受け止めるのと同時に、兵士の首が宙に舞う。

 冗談のように高く飛んだ首が落ちるまでの間にダーンの剣がさらに二度閃き、二つの死体が出来上がる。

 酒に濁った頭が事態を理解する間もなく、カーシュナーの剣により、さらに二人の兵士が倒れた。


「逃げるんだ!」

 ダーンの言葉に、それまで凍りついたように無言で固まっていた村の女たちが、我に返って悲鳴を上げる。

 おりよく駆けつけた男たちの声と姿に、女たちが一斉に駆け出す。

 兵士たちが慌てて後を追おうとするが、何をするにも反応が鈍い。中には混乱して逃げ出そうとする者もおり、仲間にぶつかり共に倒れこむ愚か者もいた。


 兵士の数は約三十人。たった二人では本来まともに立ち合えるような相手ではないのだが、ダーンは一人で逃げた女たちを追おうとする兵士たちを押さえていた。

 カーシュナーも、取り囲もうとする兵士たちを長い腕を利用して、槍の間合いよりも遠い間合いで剣を振り回し、次々と倒していく。

 生かして返せば追手がかかる。弱者をいたぶることに慣れきった者と、必殺の意志を持って剣を振るう者の差が、数の不利を覆す。


「貴様、やはり間者だったか!」

 酔いの勢いとは恐ろしいもので、収税吏が馬をぶつけてカーシュナーにつかみかかる。

 意表を突かれたとはいえ、カーシュナーもただの剣士ではない。収税吏の無謀な攻撃を許さず、巧みに乗馬を操り身をかわす。

 執念で伸ばされた収税吏の指が、わずかにカーシュナーの黒髪にかかる。

 わずかな手がかりを頼りにカーシュナーを鞍から引きずり落とそうと、収税吏は全体重を指先にかけ、カーシュナーの黒髪と一緒に頭から落馬した。

 下が雪で覆われていなかったら首の骨を折っていたかもしれないが、悪運が味方した収税吏は痛覚が酒で麻痺していたおかげもあり、よろよろと立ち上がった。


 手の中の黒髪の塊を見つめ、自分を見下ろすカーシュナーを見上げる。

 そこにプレタのフロリスはどこにもおらず、代わりに黄金色の髪を陽の光に輝かせた男が、自分の視線を深い緑色をした瞳ではじき返していた。冷たさを帯びたその瞳は硬質に輝き、本物の翠玉をはめ込んだかのように見える。


 ヴォオスが存在する大陸は、黒髪黒目の人種で占められている。骨格や肌の色など、人種ごとにさまざまな違いはあるが、共通して黒い髪に黒い瞳を持って生まれてくる。

 目の前のあり得ない存在に、収税吏の思考が停止する。

「バ、バケ……」

 思考が回復しないまま口走った言葉は、意味を持つことなく、永遠に停止させられた。





 カーシュナーが剣先から滴る収税吏の血を振り払うと、ダーンが歩み寄り、雪の中に落ちた黒髪のかつらを差し出した。

「ほとんどダーンに任せてしまったな」

 雪の中で真紅の花を咲かせて横たわる死体を見まわしながら、カーシュナーは言った。

「よく言いますよ。十人以上斬っているじゃないですか。まあ、おかげで助かりましたけど」

「後始末の方が大変そうだな」

「そこは彼らに頑張ってもらいましょう」


 ダーンの言葉に視線を向けると、そこには家族を取り戻した男たちが集まってきていた。

「二人だけでやっちまったのかい!!」

 驚きのあまり、まばたきも忘れて少年がたずねてくる。大きな瞳がこぼれ落ちそうなくらいに見開かれている。

「これで終わりじゃない」

「どういうこと? 姉ちゃんたちはもう取り戻したぜ?」

「ここからが肝心なんだ。まず、この死体を処分する」

 カーシュナーは少年だけではなく、集まってきた他の男たちも含めて説明を始めた。


「装備を剥いで身に着けてくれ。兵士に化けてほしいんだ。俺は収税吏に化ける」

「このまま逃げちゃだめなのか?」

 死んだ兵士を恐々(こわごわ)眺めながら男がたずねる。死人の衣服を身に着けることに抵抗があるのだろう。

「領主の目をごまかす必要がある。このまま死体を埋めて逃げてもいいが、そうすると収税吏と兵士たちが戻らないことを不審に思った領主が、村にもう一度役人を寄越すだろう。そうなれば、何が起きたか知れるのは時間の問題だ。捜索の兵がすぐに出され、俺たちは追い回されることになる。ついでに言えば、村の人たちもどんな目に合わせられるかわかったもんじゃない」

 男たちから女たちを取り戻した高揚感が消え、代わりに不安が満ちていく。


「そこで俺たちは収税吏とお付きの兵士に化け、集めた租税と女たちを持ち逃げしたようにみせかける」

「俺たちにそんなことが出来るのか?」

「簡単だ。俺が収税吏に化けて威張り散らしていれば、みんながどんな顔をしていても、見る方で勝手に解釈してくれる。ただし、口は利くな。しゃべればすぐにばれるからな」

 カーシュナーの言葉に、互いの不安そうな顔を眺め合う。

「話しかけられたらどうすりゃいいんです?」

「無駄口を叩くな!!」

 大きくはないが、腹の底から押し出された怒声に、全員硬直して口を閉ざす。

「こんな感じでダーンが一喝して、みんなも、話しかけた相手も黙るようにするから心配はいらない。それに、変装はそんなに長く続けるわけじゃない。租税と女たちを持ち逃げしたように一芝居打ったらそれで終わりだ」


 言い終えるとカーシュナーはさっさと収税吏の身ぐるみを剥がしだす。ダーンも隊長とおぼしき死体から剥ぎ取りを始める。

「もう引き返せないんだ。万が一捕まれば、ただ殺されるだけではすまないんだぞ。腹をくくれ」

 先程の怒声の影響もあったのだろう。事態の推移についていけずにいた男たちも、ダーンの言葉に表情を変え、行動を開始した。

「それと、自分たちが着ている服を死体に着せるんだ。みんなはここで兵士たちに返り討ちにあって死んだことになるんだからな」

 この言葉に男たちがギョッとした。

「いくら俺たちのぼろをを着せたって、さすがにわかるんじゃないですか?」

「着せた後で滅多切りにするから大丈夫」

 腹をくくったはずの男たちが青ざめる。


「いちいち手を止めるんじゃあないよ! 情けないねえ!」

 その男たちを助け出した女たちがどやしつける。

「もたもたしてないでさっさとひん剥いちまいな! 日が暮れちまうだろ!」

 なかには手際の悪さに頭をはたかれている男もいる。

 善良な農夫であり、これまで地道に暮らしてきた彼らに、要領良く追いはぎの真似事をしろという方が無理な話なのだ。


 そんな男たちを押しやり、女たちが憎しみを込めて兵士の死体から装備をひん剥いていく。

 そんな女房や娘たちを若干引き気味に見つめる男たちに、女たちは言った。

「こいつらがあたしたちに何をしたか、どうするつもりだったか、あんたたちは知らないからね。滅多切りはあたしたちでやる。あんたたちはさっさとそのぼろ脱いで、着替えちまいな」

 よく見ると女たちは一様に衣服に破れやほつれ、汚れが目立ち、あざや怪我が見られる。

 村を後にしてから兵士たちがどう振る舞ったかがうかがい知れる。


「そういうことなら、ご婦人方に指示を出すけど、村人役の兵士は剣で滅多切りにして、兵士の方が多いから、村人に化けさせる必要がない兵士は棍棒と鎌や鋤で潰しといてね。その上で適当に隠すから」

 カーシュナーがおぞましいことをさらりと言ってのける。

「任せといてくださいな! 騎士様の命令なら、あたしらはなんでもやりますからね! なんでも言いつけてくださいまし!」

 兵士たちをたった二人で全滅させたカーシュナーとダーンは、女たちにとってはヴォオス建国物語に出てくる英雄たちに等しい存在だった。二人を見つめる瞳の輝きが違う。

「とりあえずはそれだけで十分です。後は我々がご婦人方をお護りします」

 プレタのフロリスに化けていた時とは打って変わって、柔和な笑顔を向けてくるカーシュナーに、女たちは頬を赤らめた。





 その後すべての偽装工作を施し、あえて見つかりやすいように死体を雪の中に隠した。

「ちゃんと隠さなくていいの?」

 少年が不安そうにたずねる。

「見つけてもらうために隠しているのさ」

「なら隠さなくていいんじゃないの?」

「悪いことをたくらむ連中は、隠し事が好きなんだ。だから隠しておけば、死体を見つけた領主は、隠した奴が悪さを企んでいるって考える。俺たちが収税吏に化けて領主をだますためには、見つけてもらうことが肝心なのさ」

 カーシュナーの答えに少年は複雑そうに表情を歪めた。


「貴族って偉いんじゃないの? それなのにみんな悪いことばっかり考えてるみたいに聞こえるよ……」

「義務を果たさない貴族はコソ泥以下だ。ヴォオスはコソ泥以下のクズが増えすぎたんだ」

「これからもっと世の中が悪くなるの?」

「おそらく」

「ずっと?」

「……さあ、どうかな」

 遠くを見つめながら答えたカーシュナーには、この異常気象で急速に悪化するヴォオスの未来図が見えていた。この村人たちを襲った不幸など、不幸の内にも入らないだろう。

 何事かに思いを馳せる主の背中を、ダーンは不安げに見つめていた。

(とんでもないこと考えているんだろうなあ)

 口には出さず、ため息だけをつく。


 このわずか二年後、ダーンの不安は国家規模で的中することになった――。


 


◆ 


 

 

 分厚い雲が幾重にも空を覆い、暦では春を迎えた大地に冷え切った影を落とす。

 吹き渡る風には雪のかけらが混じり、季節を終わらない冬に留めていた。


≪マウラガンの野≫


 肥沃な土地を多く持つ大陸屈指の強国ヴォオスにおいて、幾度となく戦場となったいわくつきの荒地だ。

 多くの死者の魂が招いたのか、寒風が吹き渡るマウラガンの野に、かつてのいくさに劣らない量の怒りが満ちている。


 ぼろ布のような有り様の衣服をまとい、刃のかけた鎌や鋤を手にした男たちが集まっている。中にはただの木切れを棍棒代わりにぶら下げている者もいる。

 まともな武器とも呼べない代物は、どれも血に汚れて赤黒く染まっていた。

 彼らの瞳には絶望を土台とした狂気が、鬼火のごとくゆれている。

 やせた手足に落ち窪んだ眼窩、骸骨かと思わせるほどに顔の肉は削げ落ちており、彼らが極度の栄養失調に陥っていることがみてとれた。

 まるで屍食鬼グールのような人々は数万人を超え、マウラガンの野を埋め尽くしている。その周囲には人々を無用に刺激しない絶妙な間隔で、分厚い外套に身をくるんだ兵士たちが配置されていた。


「みんな! 聞いてくれ!」

 人々と同様粗末な身なりの男が、割れ鐘のような大声を上げる。身なりこそみすぼらしいが、むき出しの手足は鋼のように引き締まっており、他の人々とは明らかに別の人種だということがうかがえる。

 男の呼びかけに応え、人々は怒りのくすぶった視線を向ける。中には全く反応しない者もいるが、そういった人々は反抗心から無視しているのではなく、精神が完全にすり減ってしまい、思考そのものが停止してしまっている人々だった。おそらく自らの意志でこの場に集まっているのではなく、周囲の人の流れに乗ってこの場にたどり着いてしまったのだろう。それでいてその手に握られている粗末な武器は、より多くの乾いた血で汚れていた。


 人々の視線の先に、一人の将校が進み出る。

 威圧感のようなものはないのだが、男には奇妙に人を惹きつける存在感があった。それはぼろをまとった人々の中で一人だけ立派な軍装をまとっているからだけではなく、男が内包する突出した力が、男の姿勢に、挙動に、そして何よりも鋭いその眼差しに力を与えていたからだ。

 人並みの身長に細く引き締まった体格。老齢ではないが、すでに真っ白になっている白髪を後ろになでつけ、真っ白だが豊かな口髭をたくわえており、白髭しろひげはよく手入れされ、美しく整えられていた。眉間には常に深いしわが刻まれており、薄い眉毛が厳しく寄せられている。乾いた瞳に感情の揺らぎはなく、深い知性と強靭な精神力を映していた。顔に刻まれた深い幾本かのしわは、加齢ではなく威厳の証として男を引き立てている。


「もはや耐える必要はない!」

 細身の身体からは想像もつかないほどの声量で男は語り始めた。

「この二年の異常気象で、わずかな蓄えを税として奪われ、飢えと寒さから病に陥り、多くの者が家族を奪われた!」

 男の言葉に、人々の瞳の中でくすぶっていた怒りが、再び熱をおびる。

「これ以上、諸君たちから何も奪わせないと約束しよう!」

 男の言葉に応えるように、各所で再燃した怒りの声があがる。

「我が名はライドバッハ! 諸君らを苦境から救い出すためにここに来た!」

 男が名をつげると、人々の間にどよめきが走った。


「ヴォオス最高の知将がお味方くださるぞ!」

「これで家族の恨みが晴らせる!」

「俺たちから食い物を奪った貴族どもに、目にもの見せてやれ!」

 人々の怒りをあおり立てるような声がいくつも上がる。

 もしこの中に冷静な者がいたとしたら、その声のほとんどが、粗末な身なりをした屈強な男たちが上げていることに気がついただろう。

 周囲を固めていた兵士たちが人々の興奮に合わせて歓声を上げ、人々の怒りに方向性をもたらしていく。


「王都ベルフィストを陥落させ、諸悪の根源である宰相クロクスを討ち、諸君らを困窮から救済することを約束しよう!」

 精神がすり減ってしまた人々が、狂ったように声を上げる。

 それは決して、ライドバッハの言葉が届いたからではない。言葉に乗って運ばれたライドバッハの魂が、人々の心を揺さぶったのだ。

 極限状態の精神が、突出した強さを持つ魂に触れた結果だろう。


 マウラガンの野には多くの人々が無秩序に集まっていた。それは統制を欠いた暴徒の群れであり、数が多いだけの烏合の衆であった。

 ライドバッハは飢えと怒りを原動力に、無軌道に拡散していた人々に、わずかな言葉だけで行くべき先を示し、まとめ上げたのだ。

 ライドバッハに従う多くの兵士たちの目には魔法のように映ったかもしれない。その実は緻密に計算された人心誘導と、それを可能にするライドバッハの正確な洞察力がもたらした結果だった。

 

 兵士たちの高揚と、人々の怒りが混じり合って渦巻くマウラガンの野にあって、巨大な人心の渦を作り上げた当人は、吹きつける寒風に凍りついたかのように厳しくしかめられた表情を崩さなかった――。



 建国三百年を前に、歴史上最大規模の反乱が、マウラガンの野において幕を開けた。

 それはヴォオス歴二百九十九年の春。

 いまだ芽吹かぬ花の代わりに、地表を覆う純白の雪に、血の大輪を咲かせるための幕開けであった――。

 

 

4/28 誤字脱字等一部修正。

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