雷雲は涙する〜前編〜
これは3話目の前編的な扱いをしていただければありがたいです。
また、少々短いですが、今この区切りがいい状態で出さず、完璧な状態で出そうとすると確実にもう1ヶ月かかる気がしたので今出すことにしました。
これも全て私が高1から真面目に勉強をしてなかった罪でございます。
誠に申し訳ありません。
「暇ーー!!暇やーー!!なんでこんなの見てなきゃいけないのさぁぁ!!」
「仕方ないじゃないですか。イリナさんが暇だとしても僕達からすれば命かかってるんですから。貴方がいるいないとでは大違いなんですよ」
私が岩場で寝転がって愚痴っていると、少し離れたカイが返事をする。
カイの傍らには中学校入学したての少女がいて、その子はカイから色々なことを指導されている。
真っ黒で短めの髪、巷でいうショートヘアーってやつでしょ。小柄で鎧もピンク色で可愛くて…………なんだろう、リスのような可愛さ。と言ったらいいのかな?………まぁつまり、そんな感じの愛くるしさがあるわけさ。
今日も今日とて表面世界。と言っても私はもう高校1年生だし、武器も増えたし、敵も倒しまくったし、てか倒しすぎて狩り尽くした感があるほどだ。出会った直後に襲いかかってたからね。「お、みねぇ顔だな。新人?」て言って握手しようとして近づいた時にナイフで首切ってるようなもんだったよあれは…………あれ?私ちょっとやりすぎた?
まぁいいや。とにかく、私は目に入った敵を片っ端から即殺していたわけさ。そのおかげかどうかは知らないけれど、新聞みたいなやつに私の名前がよく載るようになっていた。はぁ、私は現実だけでなくこの表面世界でも目立って、そして輝いてしまうのか…………自分の才能が恐ろしいよ(学校でいじめられている奴が何を言っているのだろうか)。
んで、なぜ私は寝転がっているのだろうか、なぜカイが見知らぬ女の子相手に戦闘の手ほどきをしているのかと言うと……………まぁわかるよね。今日、4月17日が洗礼の儀式を受けるその日だからさ。まぁ、私たちは優しいからね。初めてこの世界に来たニューフェイス達を指導して、援護してあげて、そうして最初に死なないようにしてあげるというわけさ。時代の芽を摘まれるのは嫌なことさ。ほら、ジャ○プだって宝は新人漫画家だっていってるぐらいだし
「と言ってもねー。こっちは暇なんだよー。岩に寝そべってずっと君達眺めているだけってのはさ」
あらあら、剣の持ち方の指導の時に体触られた女の子が頬を赤らめちゃってるよ。うぶやねーー…………いや、剣の指導とかならそこまで触らなくてもいいんじゃない?後ろに回って腕持ってあげるとかさ、カイがわざわざサポートする必要なくない?それぐらい言えばわかると思うし、何よりセクハラの部類なんじゃ……………それに私あんなのされてないんですけど。体触られたことないんすけど。何、どういうこと?私よりもあの女の子の方が魅力的だとでも言いたいわけ?いや、それはおかしい。この私の光り輝くようなルックスとボゥディーにあの子リスが勝るなど万が一にもありえない。…………おかしい。なぜ、私はカイに体を触られないのだ。
別に少しぐらい触ってもいいのに……………
あ!なし!やっぱり今のなし!別に触られたくないよ私は!逆に触られないぶんだけ喜びが増すよ!ます、まします、おはしますですよ!
「本当はイリナさんにこの役は任せたいんですよ。だって僕男ですからね、この様な可愛らしい女の子に手取り足取り教えてる図というのはセクハラの極みじゃないですか。どこぞの変態体育教師ですか。」
「べ、別にそんなことは…………」
小さな女の子はカイの言葉に反応して、下を向きながらモゴモゴと声を出す。
うーーん可愛らしい!だが「別にそんなことは………」はいただけないな。なによ、触られたいわけ?ルックス整っていて高身長で、優しく接してくれる男に触られたいわけ?…………触られたいわけね。察したよ私は。
「ですけど…………イリナさんは感覚で何でも出来る天才タイプなので、多分教えるのが下手だと思うんですよ。現に教えた技全部1発で出来ていたわけですし。………たくさん努力してコツを得たという実感を持った人間でないと人に教えるということはできませんから。」
カイは女の子の声が聞こえてないのだろうか?反応することもなく会話を続ける。
「なるほどねーー。つまり天才型は人に教えるのが苦手だと言いたいわけか…………分かったよ。仕方ないからのんびりと見ているよ。」
よく考えると私はここ最近高校の勉強のせいで頭が大変な状態なのだ。中学校までは何となくでいい点数を取れたのに、高校に入った途端勉強が難しくなったのだ。英単語の数が多いし、数式難しいし、国語は………まぁ、うん。特に変わりはないけれど、勉強がグレードアップしていて私を殺しにかかってきている。生物がぁぁぁあ!!科学がぁぁぁあ!!と授業中心の中で喚き散らしているほどだ。まぁしかし、私も一応猫かぶっているのでそんなことは表情には出してないけどね。背筋ピンとして和かに授業を受けているのさ。
だけれど、本当にそんなんでいいのだろうか?外見だけ取り繕って、内心血涙しているなんて状況………いずれボロが出る。いずれ定期試験で変な点数取って勉強してないことがバレて、「うわ、こいつ真面目じゃない。ただの見てくれ野郎だ」とか思われるに違いない。そう思った私は今必死こいて勉強しているというわけさ。
そして、それが今私の頭を痛めつけているというわけ。爆発しそうなレベルだ。
だから今日のこの時間は私の頭を休めるための休憩ターイムという事にしてボーッとしていようかな。
私はポケーっと大空を見る。紺色しかない大空には今は雲が全然ないけれど、遥か先の山の向こうから雲が少し顔を覗かしている。今夜はひとふりしそうだ……………
まぁ、私は雨が結構好きだから憂鬱ではないけれどね。色々なものが混じった雨は電気がよく通る。だから雨の日は私とカイの独壇場だ。それに、私が覚悟を決めた日もまた雨が降っていたから……………あれのおかげで私は強くなれた。覚悟は人を強くするとは本当のことだね。
バキバキバキ!!
私がぼーっとしていると、地面の中から巨大なモンスターが現れた。固い岩盤がまるで鎧の様になっているゴーレムだ。体長2メートルちょっとで、固い岩を削りあげた巨大な刀が目につく。
スラっとした物腰、それでいて硬そうな鎧。手には巨大な刀……………多分動きが速いんだろうね。でも防御力がない、だから鎧を着ているといった感じかな?
私からすればパンチ1発で終わるつちくれだ。が、彼女からすればそんな甘っちょろいものには見えないだろう。今まで見てきた何者よりもデカくて恐ろしい化け物に見えているはずだ。
まぁ、モンスターと初めて対峙する時なんてそんなもんだよね。私もパニクったし。
そしてモンスターから考えるに多分彼女の階級は聖騎士長ぐらいだろう。あれぐらいのモンスターならいってそれぐらいだ。
まっ、私の出番はないかな。今回は全部カイに全投げしよう。
そうして私は彼らを見るのをやめて、空を見続けることにした。と言ってももう十分に暗いので空を見ているというよりかは星を見ているのだけれど。
この世界はいいなーー。けばけばしい灯りがないから星がはっきりと見える。あれは夏の大三角形でしょ?あれが…………知らなくて、あれも…………知らなくて、これも…………知らない。正直私は夏の大三角形と冬の大三角形とオリオン座しか知らないけれど、美しさを楽しむだけならそんなものはいらない。知識は天体観測において楽しみを倍増させるというけど、どうなのだろうか。星座なんて昔の人がなんとなく決めただけのものだから神秘なんてものはなくて、神話みたいな物語だというのに…………ああ、物語でも楽しんでいるのかな。それならば納得だ
こうして私は傍で巨大な爆発音と粉砕音と衝突音を聞きながら、巨大な星空を眺めて楽しんだ。
〜1時間後〜
「ふうーー。女の子も無事勇者領に送り届けることができました。いやーーよかったよかった。」
女の子の洗礼の儀式が終わり、私とカイは4分の3ほど雲で隠れた月の明かりに照らされた夜の道を歩いていた。
「1時間もかかるとは正直思っていなかったよ。あの女の子が運動音痴だったとか?」
「いや、普通ですよ。あの子は普通です。普通はサポートあってもあれぐらいはかかるんですよ。イリナさんが異常なだけです」
「異常はやだね。特別といってほしいよ」
「異常は嫌いですか?僕は好きですけどね。非日常的な話というのは心が躍りますから」
「話じゃなくて人間性だからね。[お前ははぐれものだ!]と言われている様な気分なんだよ」
異常と特別だとやっぱり特別がいいな。特別の方がプラスな感じがする。異常だと状態異常が思いおこされて嫌な気分になる。
「うーーん、そうですか。そんなに異常は嫌いですか。僕の周りには尊敬すべき異常者がいるのでイマイチ納得しかねますね」
尊敬すべき異常者!?それちょっと危なくない!?なんか少しカルト臭いんだけど!
「いや、異常じゃなくて逸脱と言った方がいいのでしょうか。…………いや、やはり異常ですね。あれは僕達と同列とみなさない方がいい」
カイは1人、考え込む様にブツブツと言葉を繋ぐ。
「…………大丈夫?カイ。難しそうな顔してるけど」
「………ん?ああ、大丈夫ですよ。少し考え事をしていまして。イリナさんに心配かけてしまったのなら申し訳ありませんね。僕はいたって平気ですよ」
「……………………」
「ど、どうしたんですか?」
私がぶすーっと黙っていると、カイは慌てる。
「私思ったんだけどさ。[さん付け]するのやめてくれない?出会ってもう3年だよ、呼び捨てにしても良くない?」
遅すぎる様な気もするけれど、呼び捨てし合うような関係を人と持ったことがないからわからない。これは遅いの?早いの?………私にはわからない
「え、ええ…………いや、僕的には少し恥ずかしいですね。異性を呼び捨てにするというのは経験がないもので」
「だからって逃がしはしないよ。私が呼び捨てしているのにカイが呼び捨てにしないのは不公平だと思わない?」
何が不公平なんだろう。私にはさっぱり分からない
「む、むぐぅっ……………絶対に呼ばなきゃいけませんか?」
「絶対だね。何がなんでもしてもらうよ」
「嫌だと言ったら?」
「泣く。泣きわめく。泣いて泣いてカイを困らせる。」
「それでも嫌だと言い続けたら?」
「いいと言うまで泣き続ける。水分取りながらでも泣き続ける」
「………はぁーーー………………分かりました。分かりましたよイリナさ、……イリナ。これからは呼び捨てにしますからね、覚悟してくださいよ。」
なんの覚悟が必要なのさ。ほんのちょっと歯がゆいだけで、心がほんのちょっとゾワゾワってするだけじゃないか。何も覚悟なんていらないさ
「それじゃあイリナ。また新人の方々の手助けをしに行きましょう。彼らが死なないためにもね」
雲が空を完全に覆いつくした。もうそろそろ雨が降るのだろう。だけれどそれこそ私たちの独壇場だ、雨を降らし雷を降らし、無限の水を操る。雨は憂うものじゃない、心弾ませる素敵なものだ。
だから私は今上機嫌だ。別に、カイに呼び捨てにされて嬉しいとかではないんだよ。
なんで心にもないことを思っていた。
〜25分後〜
真っ暗闇のせいか、私達は反応することに遅れてしまった。何に?それはもう…………魔族の大群にさ
ザッザッザッザッ!
数百はいるであろうその鎧をつけた大群は一糸乱れることもなく、行進を続ける。
なんだこれは………いままで沢山魔族を狩ってきたけれど、ここまで大規模で統率のある集団は見たことがない。
てかこんな大群なら普通はすぐに見えるでしょ。それか足音で気づく。こんな軍隊のような行進なら地面は揺れるし音はうるさいからだ。全然気づかなかった。
まるで、突然出現したかのようだ。
「やばいねこれ。」
「ええ、やばいですよイリナ」
私とカイは互いに顔を見合わせることなく、この大群を…………いや、この大群の先頭あたりを見ながら会話をした。
正直こんな大群ぐらいならばなんとかなる。雨雲も漂っているから雷も使い放題だ。一掃するぐらいならばわけはないのだ。
ただ、あの先頭の3人が危険すぎる。鎧のレベルもさることながら、殺気が半端じゃない。特にあの3人のうちの真ん中のやつ
ゴツゴツでガッチガチの真紅の鎧をつけているあいつだ。あれは確実に………
「魔王でしょうね。きっと勇者の新人を狩っていたんでしょう。脅威となる前に」
やっぱりか…………初めて会ったよ。私達第2類勇者が9人であるのに対して、魔王はたったの3人だ。それなのにいまこの均衡が保たれているということはつまり、魔王1人が第2類勇者3人分の力を持っているということにつながる。つながってしまう。つながらざるをえない。割り算さえ間違えなければその答えに簡単にたどり着く
「…………どうする?ちょっと戦ってみる?」
「な!何言ってるんですかイリナ!2対1でもきついのに相手には数百の兵がいるんですよ!?無茶ですって!!」
「いいじゃんいいじゃん。何事も経験だよ」
どれだけ相手が強いのか試してみたい。それに、私がどれだけ渡り合えるのかも知りたい。
いまの私は十分に強いのだから
グッグッ
私は地面で土の感触を確認すると、脚にめいいっぱいの力を加えて矢のように駆け出した!
それに合わせて魔王は巨大な炎の塊を無数に出現させて、解き放つ!
なっっっにこれ!?!?
私はそれを紙一重でかわしていくが、炎によって吹き飛ばされた地面が体にぶつかって少し痛い。
何これ爆弾!?なんでこんな規模の攻撃をここまでホイホイと使えるの!?
ボンボンボンボン!!
逃げた先に、まるで予想していたかのように次の火炎が放たれており、それをギリギリでかわしていく。
更に魔王は背後に巨大な剣を7本出現させると、私めがけてめったやたらに振り回す!
でかいでかいでかい!でかいって!何この大きさの魔法!?初めて見るんだけど!かわすので精一杯だ!
一太刀目をかわせば二太刀目が来ると見せかけて三太刀目、四太刀目と同時に斬りつけてくる。
やばい!こいつやったらめったらテキトウじゃない!考えながら攻撃してきている!こいつバカじゃないな!?
私は雷と一体になり、高速で剣戟をかわし続け、太刀と太刀の隙間を縫うように雷撃を放つ!
バチバチバチ!と雷は高速で敵へと向かうが、魔王が振りかざした左手から巨大な炎が出現し、雷を飲み干してしまった。
……………あ、これダメくさいわ。
今は一時退避だね。
私は雷を放ち、それを魔王が対処している間にカイの場所へと戻った。
「…………あれはやばいわ。さすが魔王だね」
私がカイのところに戻る頃には地面は盛大に抉れて吹き飛んでいた。クレーターができていた。てかなにこれ、ドラゴン10匹が暴れまわった後みたいになってるんだけど
「炎を操っているあたりあれは炎帝ですね。炎の膨張、拡散を得意として、その爆発を食らって生き残る生物はいないほどだといいます。」
人間じゃなくて生物ときたか。なんとまぁ集合の大きいことで
「と言っても他の形状変化攻撃も馬鹿みたいな威力ですけどね。食らったら1発で死ぬでしょうね、どんな生物も」
……………結果どの攻撃食らっても全員死ぬのか。なに?魔王ってチートでも使ってるの?
「………くそっ!どうするイリナ!?僕的には戦わずに逃げたほうがいいと思うんだけど………」
…………戦ってわかったけど、確かにこれは逃げたほうがいい。私的には不本意だけれど、命は大事にしないといけないからね。プライドよりも命だよ
「………チッ!そうだね、これはどう考えても逃げたほうがいいよね」
こうして2人とも意見が一致したところで、私達は炎帝に背を向けて逃げ出そうとした。
足の速さは私達の方が圧倒的に速いんだ。逃げることに徹すればなんとかな……………
ボウウッッ!!!
背を向けた直後、いままでの速さなど比にもならないほどの超高速の炎が飛んできた!
はっや…………!こいつここまで速い攻撃ができたの!?
パリッ
私が雷と一体化し、逃げる準備が完了したその瞬間
…………なんで?
カイが私と火球の間に飛び込んできた。
え?ちょっ、どうして?なんでそこにカイがいるの?おかしくない?いや、だってほらその体勢だと火球に当たっちゃうじゃん。ねぇ?ほら、後1秒もしないうちにぶつかるよね確実に。おかしいなぁ………さっきまで隣にいたのにどうして私の背後にいるんだろう……………なんでぇぇぇえええ!?!?ちょっと待ってよ!え?え!?ちょっ、意味がわからない!!えーーっと、えーーーっと、つまりあれでしょ?つまりあれってことでしょ?カイが私をかばうために身をていして守ってくれようとしているってことだよね?
うん……うん……………うん………………くっそぉぉお!!手届けぇぇぇええ!!
私の手がカイの姿を目視してから0コンマ何秒か遅れて私は手を伸ばす。しかし、全てがゆっくりとなって見えているからといって私の動きが速いわけじゃない。走馬灯みたいに物事がスローになっている。
体を腰からひねり、その反動を利用して肩から腕にかけて力が加わる。
上腕三頭筋が収縮し上腕二頭筋が弛緩する。それに伴い関節部分である肘が伸びきり、前腕部分が伸び、手に当たる指伸筋肉が最大まで伸びきる!
ああくそ!!感覚が鋭敏になりすぎて、筋肉の動きすらもゆっくりと感じてしまうほどだ!遅すぎてもどかしい!もぞったい!腕と指を伸ばしきるのをここまでゆっくり感じるなんて!
それでも私の手が伸びきっても、カイの元には届かない。そりゃそうだ。2メートルぐらい離れているのだから。
くっ!!あと一歩か、あと一歩踏み出せば届くのか!!
私は脚に力を入れて、一歩を踏み出そうとした時
ニッ
とカイが一瞬笑みを見せた。なんの笑みだったのだろう。励まし?カッコつけ?………私にはさっぱりとわからなかった。
そして、その瞬間私の時間は加速し始め、私の眼の前で巨大な爆発が起こった。
何か赤い物が燃えたように見えた………気のせいだったかもしれない。気のせいでなかったかもしれない。
ポツポツポツポツ………………
その炎を消すかのように雨が降り始めた。だが炎帝の炎はそれを笑うかのように、触れる前に雨を蒸発させる。私とクレーターの周りを熱が覆い、私に触れる前に雨は炎に焼かれる。
何秒かして炎は消えた。そしてカイも消えていた。鎧だけを残して
「………ふっふっふっ……………………」
笑みが零れた。
心の中から何かが抜けきったような空々しい感情で一杯になった。
私はそのいまだ熱を持つクレーターにそっと歩み寄った。
雨は熱のせいで蒸発している。だから私の元までは落ちてこない。
「あっはっはっはっはっはっはっ!!」
私はガックリと地面に膝をつき、触れた水滴を蒸発させる鎧を掴み上げた。青色で、所々が黒く焦げた鎧は私を温めてくれる。雷に慣れている私でも暖かいと感じられるこの鎧は一体どれだけ加熱されているのだろうか。分からない。なにがなんだか分からない。
シュッ
鎧に落ちた雨は気化し、私の顔をほんの少し撫でた。
ボタッ、シュッ。ボタッ、シュッ。
雨脚が強くなったのだろう。鎧に沢山の大粒の水滴が降り注ぎ、その度に蒸発する。その度に蒸気は私の頬にピッタリと寄り付く。
「くっくっくっくっ………………ぐっ……ぐっ………ぐうっ………うぅぅぅうううっっ」
私はずっと笑っていた。
……笑っていたかった。
………笑いたくなかった。
でも…………笑わずにはいられなかった。
それでも………笑えなかった。
私の頬を撫でる水蒸気は妙に甘く、それでいて私の心を止めてくれる、麻酔のようだった。甘美な媚薬のようだった。
だから私は、何も考えずに笑い続けれた。無我夢中で笑い続けた。
それでも、この空のように、私の心はなにも晴れることもなく、渇いた心に何かが溜まっていくだけだった。
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