依頼 ~Case No.1 妃茜~
「不幸になってもらう・・・ってどういうことですか?」
「言葉通りの意味です。」
万事の返答は茜の疑問に答えを与えるものではなかった。
「言葉通りの意味が分からないから聞いてるんですけど・・・。」
茜は少しじれったく思いながらも再度問う。ここで切れるわけにはいけないが、先ほどからの万事の毒に辟易しているのも事実だ。
「人を呪わば穴二つ、という言葉をご存知ですか?」
「それは勿論、知ってますけど・・・。不幸を相手にも与える代わりに私にも不幸を与えると、そう言ってるんですか?」
茜がそう答えると、万事はわが意を得たりといわんばかりに口元を歪ませて笑みを作った。
「その通りです。私の好物は他人の不幸でしてね。他人の不幸は蜜の味なんていいますがこの慣用句を作った人間は少々味覚が偏っていたんじゃなかったのかと思う限りですよ。人の不幸には色々な味がある。苛烈なほどにスパイスの効いた激辛のものもあれば、蜜なんて及びもつかないほど甘々なものまで多種多様ですよ。依頼を持って来られる方は皆様執念に突き動かされてやってこられます。そんな方々が望む不幸はとてつもなく美味なものです。私はその他人の不幸を生きがいにしている不幸蒐集家とでも言いましょうか。お嬢さん、あなたの不幸にはどんな味がするのでしょうね?」
いきなり目を輝かせ饒舌になった万事に茜は頭が追いつかずポカンとしながら聞いていた。何かスイッチを押してしまったらしい。
「な、なんでもいいです。依頼を受けていただけるのなら。こんな話あなたみたいな人に頼るしか方法がないんですから。」
それでは、と言って奥の部屋に通された茜は、先程とはうってかわって整頓された客間とおぼしき部屋でテーブルを挟んで向かい合って座った。
万事がお茶を出し、反対に座ったのを見計らって茜から口を開いた。
「1ヶ月前に手紙が届いたんです」
茜が鞄の中から一通の黒い封筒を取り出し、万事へと手渡す。
万事は初めその黒い封筒を透かしてみたり細部まで観察していたが、茜が先を話さないので仕方なく封を開いた。
中には黒い紙が入っており、その紙には
「あなたに消えてもらう、ですか。差出人の名前も、いつと言ったことも他には何も書かれていないようですねぇ。ご家族や警察にはもう?」
「はい。届いてすぐに連絡して、一週間ぐらいはイタズラかもしれないけれど念のためと厳重な警備が敷かれました。こういった脅迫や怪文書自体はこれまでもなかったわけではありませんでしたから。」
「しかし何も起こらなかった?」
「ええ。自慢じゃありませんがこれでも日本有数の企業ですからセキュリティはしっかりしてますし、警察にもかなり協力していただいてましたから、何も起きずただのイタズラだということで話しは終わると思っていたんです。でも一週間前、また手紙が届いたんです。」
そういって茜はもう一通封筒を取り出した。その中には茜の写真が何枚も入っていた。
「私は最初の手紙が届いてから、それまでずっと妃グループ系列のホテルを転々としていました。ですがその写真はそれらのホテル全てで盗撮されたものでした。それも部屋の外からだけではなく部屋の中からもです。」
「警備会社や、ホテルの清掃業者には?」
「もちろん一番最初に疑いが向けられましたが、 監視カメラの映像や勤務状況等を照らし合わせても、怪しい人間はいませんでした。」
「ふむ、それはおかしいですねぇ。部屋の内部から撮れる隠しカメラを取り付けられるとしたら関係者、もしくはその協力を受けた者による犯行しか考えられませんが」
「ええ、グループ内部に犯人がいるとは思っています。ですがそれが誰なのかわからないから、全くの外部の人間にしか依頼することができない状況になっているんです。」
「なるほど。一度疑い初めると皆が怪しく見えてキリがないですからねぇ。ですが私は探偵ではありませんよ?何故こんな正体不明の怪しい人間に頼もうと思ったんです?」
「それは…」
一瞬目を逸らし、躊躇う様子を見せた茜だったがすぐに表情を変え
「私をこんな目に逢わせようとする奴を返り討ちにしてやりたいからです。あなたの依頼の成功率は100%だと噂されていましたから。」
この返答は予想してなかったのか、一瞬きょとんとした表情を浮かべる万事。だがすぐに可笑しそうに笑いだした。
「はっはっは、こりゃ傑作だ。ただのイタズラに怯えただけのお嬢様かと思ったら、返り討ちに、ときましたか。とんだお転婆お嬢様のようですね。」
「お転婆とはなんですか!私に喧嘩を吹っ掛けてきたんです。相応の報いを受けさせるのが当然です!」
お転婆という言葉が気にくわなかったのか、憤慨した様子で抗議する茜。
しかし、笑い続ける万事は取り合う様子もない。
万事は椅子から立ち上がると、またもや芝居がかった様子で茜へと向き直り腰を折る。
「面白い。そんなお転婆お嬢様の不幸になった様子を私も見たくなりましたよ。分かりました。あなたからの依頼、確かにこのよろず屋万事が承りました。あなたを付け狙う相手に最高の不幸をお届けいたしましょう。」
週一ペースで投稿出来たらいいなぁと思います。もうちょっと早くできるように頑張ります。




