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プロローグ


「…こんにちは~」



おそるおそるドアを開けながら入っていく女性。服装は紺のサマースーツに膝丈のスカートという、いかにもキャリアウーマンといった出で立ち。但しここが古ぼけた洋館といった佇まいの店であることを考えると、かなりのミスマッチ感がある。



「…だれもいませんかー?」



見回してみても店員らしき姿はなく、あるのは埃の被った陶磁器や暗く光をともしたランタン等が雑然と置いてあるばかりである。



「こんな店で雰囲気ばっかり立派だけど、商売になってるのかしら」



まるでお化け屋敷みたい、と呟くとガタガタッと部屋の隅で物音が立った。

女性が声にならない悲鳴を飲み込みながらそちらを向くが、置いてあるのは大きな衣装箪笥や宝石箱といった類いのものばかりで何かが動いたような形跡はない。



「本当に不気味なところ」



「そんな不気味なところに何かご用でしょうか?」



「えっ?」



半ば帰りたくなっていたところに掛けられた言葉に不意をつかれ、頭が真っ白になっていた。

驚きながら振り向くと店員らしき男が口元に笑みを浮かべながら立っていた。目は全く笑っていなかったが。



「あっ、す、すいません。不気味といったのはちょっと言葉の綾で…」



「いいえ、結構ですよ。このお店は多少陰気な雰囲気にはなっていますから」



多少、というには語弊があるがそこに突っ込むだけの余裕は彼女にはなかった。



「こんな陰気な場所に女性一人でくるというのは似合わないのではないですか?この店は私の趣味でやっている店ですし、何もめぼしいものがないのならお帰りになって頂いてけっこうですよ?」



そうとうお冠らしい。

丁寧な口調ではあるが要は"用がないなら帰れ"ということだ。この店の内観は男の趣味で、置いてあるものは商品だったようだ。そうとういい趣味をしているらしい。だが女性もこのまま帰るわけにはいかない理由があった。



「この店のご主人ですか?」



女性からそう問われると先ほどまでの怒った様子から一転、佇まいを正すと



「いかにもこの店の主の万事真実(ばんじ まこと)と申します。一万二万の万に、事実の事、真実と書いて万事真実です。」



万事は芝居がかったような口調でそう自己紹介してみせた。



(・・・すごく胡散臭い)



彼女がそう思うのも無理はない。口調もさることながら万事の風体が、髪は手入れされておらずぼさぼさで伸び放題、分厚いメガネをかけ無精ひげをはやし、服装は紺の作務衣姿という、この店の雰囲気とはまたかけ離れたものであったからだ。



「お嬢さん、何かこの店に探し物でも?」



品定めをするような目でこちらを見る万時に彼女は意を決するように口を開いた。



「探し物ではありません。この店の噂を聞いてきました。この店に頼めば相手に不幸を届けることができる、と。」



「不幸を届けることができる、ですか…。どこでその噂を?」



「ネットで、です。馬鹿馬鹿しい都市伝説の類かとは思いました。ですが都市伝説でもなんでも私にはそれに縋るしか方法がなかったので・・・。」



「ほう・・・。かの有名な妃グループのご令嬢、妃 茜(きさき あかね)様がそこまで追い詰められているようなことがある、と?」



(なんでこの男、私の名前を・・・!?)



驚愕の表情の茜を前に、ニヤニヤと笑いながら万事は続ける。



「なんで名前を知っているのか、驚きのようですねぇ。でも驚かれては困りますよ、お嬢様。ウチはよろず屋ですから、あらゆるものを取り扱っています。もちろん”情報”も、ね?ここにある骨董品なんかよりもよっぽど高価で価値のある”商品”ですよ?そんなことよりお嬢様、ご用件を伺っても?」



さも当たり前のように言い放つ万事に、茜は驚きつつも思考を追いつかせ考える。



(この男、思った以上に危険かもしれない・・・。でも他に頼るところがないことも事実。どうする・・・?)



「ふーむ、警戒をさせてしまいましたかねぇ?まぁ私はどちらでも構わないのですが、ただこの国の一、二を争う大手産業グループの社長令嬢がお困りの案件となるととても興味深いですしねぇ。妃グループ専属の密偵だっていないわけもないだろうにそれに頼ることもできない、または密偵でも手も足も出ない案件ということですかね?」



ニヤニヤ笑いながら推論を続けている万事に茜も覚悟を決めたように口を開いた。



「用件を言う前に、お願いがあります。今から話すことは他言無用でお願いします。またこの依頼は妃グループには関係のない、私個人からのものです。なので報酬に関しては私が負える範囲のものしか差し上げる事はできません。それでも依頼を受けてくださいますか?」



茜の言葉に対し、万事は一層目の色を変えてニヤリと笑みを浮かべる。



「言うまでもなく、守秘義務はきちんと守らせていただきますよ。こんなおいしそうな案件、誰にも渡したくはありませんしねぇ。それに報酬でしたか?まぁもちろん問題の程度に応じて相応のものは頂くことにはなるでしょうが。お嬢様、ネットで私の報酬のことは何も情報を得ていないのですか?」



「いえ・・・。噂には後悔するほど莫大な報酬を要求されると言うようなものしか・・・。」



はぁ~とため息をつき呆れた声を出しながらもニヤニヤした顔は崩さない万事。これが素の表情なのだろうか。



「全く、情報収集も碌にできないのですねぇ。そんなことではさぞや情報化社会で生き難いことでしょう。それにしても”後悔するほど莫大な報酬”ですか。半分正解で半分はずれ、と言ったところでしょうか。仕方ありません。そんな出来の悪いお嬢様に教えて差し上げましょう。」



ニヤニヤしながら平然と毒を吐き、万事は茜に向き直りながらこう続けた。



「私が要求する報酬は”不幸になっていただくこと”です」



初投稿作品になります。不定期ですが徐々に更新していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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