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学園七不思議の怪

作者: マシマ真
掲載日:2026/06/15

 私の高校には『学園七不思議』についての噂がある。


 別にどこの高校でも似たような話はあるのだが、うちの場合、これが六つしかない。これでは『学園六不思議』である。ただ、最後のひとつはあるにはあるのだが、誰も知らないということらしい。


「というわけで、今年のうちの学園祭の研究テーマを『学園七不思議』として、最後の七つ目を解明したいと思います」


私は部内の会議で発言をした。一応は美人女子副部長という立場、誰もが私に注目する。


「歴代のオカルト研究会で同じような調査をしたが、成果を得られなかったという話もありますよ」


 そう言ったのはこの研究会の冴えない部長。一応は成績が常に上位というインテリ派なのだが、特にそれを誇る訳ではなく、自分でも意識をしているようにも見えない。そんな独特の空気が周囲にこの男を過大評価させている。私とは同学年で部長の座を争った間柄である。ちなみに成績でも。私がこの提案をしたのも、彼を見返したいという対抗心からかもしれない。


「まさか、部長は恐れているのですか?オカルト研究会の部長なのに、ありふれた研究テーマでお茶を濁すつもりですか?」


 女の私に、ここまで言われたら、引き下がれないだろう。しかし、部長は呆れたようにため息をついた。


「副部長は一度口にしたら、考えを絶対に変えようとしない信念の人ですから、仕方ありませんね。いいでしょう、その件は副部長に一任します」


 あっさりと認めた部長の顔はどこか笑っていたように見えた。これって、私がわがままを言って場を混乱させたように見えないだろうか?私は他の部員の顔を見た。誰もが、私から、視線を逸らした。まるで、関わり合いたくないというように・・・・。



 私が学園七不思議を調べ始めてから、1週間が過ぎた。成果は、・・・・・芳しくない。オカルト部員ならまだしも、普通の学生がいちいちそんな噂を知っている訳がないということだろう。肝心の最後の不思議も分からないのは当然ながら、それ以外もあやふやだ。どうも他の不思議と混在しているような状態で、これは学生からの聴取だけでは七つどころか、三つすら解明不可能だろう。


 そうなると、役に立つのがかつてのオカルト研究会が調べ上げた調査資料。これは最後の七つ目が不明なモノの、他は実にしっかりと調べ上げられている。いっそ、これを学園祭で研究成果とするべきかと、思ったものだ。しかし、それはまずい。言い出した私が言うのはさらにまずい。あの嫌味な部長に「やっぱり無理でしょう」と見下されるのも屈辱的だ。


「やっぱり無理だったんですよ。うちはマイナーな部活ですから、話も聞いてくれません」


 そう言ったのは、私と共に調査を行うように指示を受けた後輩。部長派の人間なので、言ってみれば私に対するお目付け役か。だから、やる気が全く見られない。


「別にいいわよ、帰っても。部長には私からよく言っておくから」


 私がそう言うと、後輩の男子生徒は満面の笑みを浮かべて、さっさと帰っていった。本当に嫌々付き合っていたんだ・・・・。


 まあ、いい。邪魔者がいなくなったから、ゆっくりと調査が出来るだろう。私は校舎の地図を広げる。取りあえず七不思議の確認でもしながら、ぶらついてみるか。


 うちの高校の七不思議は最後が分からないことを除けば、他と大差はない。似たり寄ったりのものだから、定番の不思議を集めたのだろう。


ひとつ、夜、動く人体模型。いきなり、定番だ。


ふたつ、夜、響く音楽室のピアノ。これもありふれている。


みっつ、血の涙を流すアポロンの胸像。これもバリエーションがよくあるパターン。


よっつ、開かずの体育館倉庫。これ、古すぎて錆びついて開かないだけじゃない。


いつつ、女子トイレで泣く少女。これ、トイレの花子さんのパクリ?


むっつ、呪いの十三階段。屋上の階段が夜になると一段増えるって、これも微妙。


・・・・こういうものって、やっぱりレクリエーションに過ぎないってことなのかも。何か、ストレス発散のための噂話で、ありふれた怪談をアレンジしてキャーキャー言いながら会話のネタにしている。よくよく考えると、真面目に調べるようなことではないかもしれない。どうせ、最後の一つだって、大したネタじゃなくて、何でもいいのかもしれない。それが分からないことが隠避された神秘性を与えて独り歩きしているだけなのかもしれない。


私はそういうことにした。部長に見下されるのは我慢がならないことだが、このまま無意味な調査をしていても、らちが明かない。


しかし、そんな私に吉報がもたらされたのである。


「私、七不思議の最後のひとつ、知っています」


 諦めかけていた私にそんな声をかけたのは、顔を知らない女生徒だった。私は不意打ちを食らったように呆然とした表情で彼女を見つめていた。


「オカルト研究会の人でしょ。七不思議を調査しているって、聞きました」


「ああ、そう、そ、そうなのよ・・・・」


 私は戸惑っていた。彼女が本当に七不思議を知っているとすれば渡りに舟なのだが、どこか怪しい気がする。そう思うのは彼女自身から発せられるオーラのようなもの?のせいだろうか。と言っても、彼女が恐ろしい形相をしているわけではない。こんな子が校内にいたら、絶対話題になるくらいの美少女。知らなかった方が恥ずかしくなるくらいだ。


 長く黒い髪は艶があり、肌は血管が浮き出るくらい白く、大きな瞳は見ていたら吸い込まれそうだ。高校生にしては妖艶さが感じられる。恐ろしいくらいに・・・・。


「よかったら、私が教えてあげてもいいです」


 誇るというよりも、誰かに聞かせたくてたまらないというように思えた。私はそれに黙って頷いた。本来なら、誰も知り得ない有力情報を掴んだことを喜ぶべきなのだろう。しかし、その時の私はそれを知ることが恐ろしく思えた。



「副部長が学園七不思議の七番目をついに突き止めたそうです」


 翌日のオカルト研究会の集まりは、まずは称賛の拍手で迎えられた。やはりこれは快挙だったらしい。


「でも、信頼性があるのかな?歴代のオカルト研究会が何度も挑戦して調べ上げられなかったんだろ」


 部長派の部員が言った。確かに信憑性はないのかもしれない。ただ、私は彼女が教えてくれた七つ目が嘘とは思えなかった。それはあのときの彼女の妖しげな空気が思わせているのかもしれない。私は一呼吸すると、口を開いた。少し喉の渇きを覚える。何故かカラカラになっている。


「七不思議の最後は・・・・・」


「ちょっと、待った!」


 私の発言はすんでのところで止められた。止めたのは部長だ。眉間にしわを寄せて彼らしからぬ厳しい表情を浮かべている。


「副部長が何か突き止めたというのはよく分かった。ただ、それを聞く前に僕が集めた情報から得られた推測を聞いてもらいたいんだけど」


 部長は真剣な表情だ。他の部員たちも押し黙り、部長の言葉に耳を傾ける。私は息を呑んだ。何かとんでもない事実が語られそうな気がした。


「実は七つ目はある」部長は言った。


「・・・・あの、それを探すのが今回の目的で・・・・」


 私がそう言うと、部長は手を前に出して私の発言を制した。


「七つ目があるのは間違いないのだが、それを知る者がいないというのが事実だ。いや、知る者は、いなくなった・・・というのが正しいかな」


 何だ、この微妙なニュアンスは?知る者がいなくなるって?だが、私の顔から血の気が失せていった。私は何か恐ろしい事実に直面しているのかもしれない。


「歴代の部員の中で、七つ目を突き止めた生徒がいるそうだ。しかし、それを誰かに伝える前に失踪した」


「失踪・・・・・」私はそう呟いて凍りついた。


「同様の失踪はそれ以前にもあったようだ。だから、七つ目はあっても誰も知らないんだ。知った人間が謎の失踪をしてしまうから・・・・」


「イヤー!」


 私は耳を押さえて、目を閉じて叫んだ。これが事実なら、私は謎の失踪をすることになる。私は七不思議の怪現象の真っただ中にいるのだ。


「副部長、可能なら、それは誰にも言わない方がいい。それが身のためだ」


 部長はそう言って、私の肩に手を置いた。いつの間にか、部室から誰もいなくなっていた。私と部長以外。みんな、薄情だ。失踪するのが恐くて逃げていったな。それにしても、いつの間にか部長との距離が近い。


「大丈夫、その話、僕に聞かせてもらえるかな」


 何を言っているんだ?聞いてしまったら、あんたも消えてしまうかもしれないのに・・・・。


「僕が聞けば、七不思議を知っているのは二人になる。一人よりも気は楽になるだろう」


 部長のその言葉に私の頭が急に熱くなった。それに近い。部長の顔がやたらに近い。近すぎて初めて分かったけど、意外にいい男だった。普段は素っ気ない理屈屋としか思わなかったが、意外と頼りにもなるのかも。秘密を共有し合う仲もいいかもしれない。もしかして、私が部長に感じていたのは対抗心ではなかったのかもしれない。私は舞い上がって、部長の目を見ることが出来なくなっていた。


「それで、七つ目は?」


部長が尋ねる。私は近すぎる彼の顔を再度見て、顔を紅潮させ、思い出そうとする。


「え、えーと・・・・・、あれ・・・・・?」


「どうかした?」


「あの、・・・・・忘れてしまいました・・・・・・」


 私は急に恥ずかしさがこみ上げてきた。そして、部長を押しのけるようにして離れた。それが肝心な話を忘れたことなのか、部長に密接していたからなのかは分からない。


「そうか、それは残念。でも、逆に良かったんじゃないか。内容を忘れてしまえば、怖がる理由はなくなる」


 部長は言った。その表情は本当に残念そうでもあり、そうでないようでもあり、よく分からない。私を動揺させて七不思議を忘れさせたというのは考えすぎのようでもあるが、とにかく私は人生最大のピンチを切り抜けたようだ。そう思うのは忘れたのが、七不思議の内容だけだからでない。七不思議を教えてくれた美少女の顔もそれ以来、思い出せずにいる。もしかするとあの少女自身が七番目の不思議に絡んでいるのかもしれない。私にはそう思えた。


 それ以来、私は失踪することもなく、高校生活を愉しく送っている。まるで、あの恐怖がなかったかのように。ちなみに私と部長の関係がどうなったかであるが、それは・・・・。









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