少女
聖域から出ると、クルマのライトが右往左往するのが見えた。
「ほら、出た」
「あ‥‥‥ありがとうございます! さっきのって‥‥‥」
「ごめん、教えていけんのよ。危ないところだっていうのは本当だから、次はないと思うけれど、次また同じような世界に入っちゃったらさ、剣を持った人を探すんだ。いいね?」
少女が頷くのがわかると、真介はサムズアップをして剣を鞘に納めた。
「にしたって此方も治安が悪いからな。タクシー出すよ。家の近くまで送ってもらうと良い」
「あ、家この近くです」
「そうかい? じゃ、お気をつけてね」
「あの、お名前は?」
少女はドギマギとしながらも、少し声を張り上げて、訊ねる。少しうわずっている。なんだか心が落ち着かない。
「名前、俺のかい?」
「はい」
「はは。さてね」
ぽん、と。聖域に戻る。
瞬きをする間もなく消えた真介に、少女は「不思議な人」と声を漏らした。不思議な世界と、不思議な男。剣を持ったハンサム。
少女・清里由紀は真介のことを考えるばかりになっていた。そうして駅通りの商店街を抜けて自宅に帰る。
是非とももう一度会いたいと思ってはしまうけれど、どうすればいいのだろう。何とも言えないこの退屈感のある日常に現れた異常の中の光。
自室に戻り、ポツリとひと言。
「また会えるかな」
あえるさ、と声がしたような気がした。
振り返ってみれば、鞘に収まった剣がそこに落ちている。
何かと思い、思わず引き抜いてみると、青い剣身がある。
この日から由紀は真介を探し始めた。その青い剣の正体をなんとなく理解したのは、ジ感があったからだろう。
そのジ感があったからこそ、探すことができた。
夏休み手前の七月十八日、真介が友人たちと校門を抜けたところで、由紀と真介はようやく再会した。
「あの!」
「おや」
真介は少し驚きながら、自分の額を撫でた。
「いつぞやの」
「ずっと会いたかったんです、命助けられたのに、お礼も何もしないんじゃあそれはいけんでしょって、ずっと思ってて」
「構わんのに」
「でも」
「そうかい。じゃあどうしようかね」
友人たちにからかわれながら、真介は考える。
どうすれば正解なのかが分からなかった。こういう人間とはあまり関わりがなかったから。自分は割とこういう人間の側だと思うけれど、まさか自分が対象になるとは思わなかった。
ぐぐぐ、と細目になると、真介はようやく由紀が剣を持っていることをジ感で感知する。
「じゃあ‥‥‥俺もすぐに追いつくから、先に今から教える住所に向かってくれないかな。そこにいる女性と話をしていてほしい」
「わかりました、えっと、ありがとうございます!」
由紀は頭を下げて駆けていった。
「困ったお嬢さんだ‥‥‥」
「どんなご関係?」
「前にちょっとね。暴漢に襲われてたので手を貸したんだ。まさかあんなに思われるとは思わなんだ。ウウウム。‥‥‥晴斗、先に行っても?」
「俺は構わんよ」
「というか行ってやれよ、はやく」
八姫はてこてこと去っていく背中を見つめてから、光明に小さな声で訊ねてみる。
「もしかして、滝くんって女の子にもてる?」
「とてもね。顔いいし、勉強もできるし‥‥‥なにより性格があんなんだろ。ほら。もてないわけないって」
「ンン‥‥‥前途多難だ‥‥‥」
「がんばれ」




