第二話 異端の少女
魔法が全ての世界において、魔法が使えないことは忌避すべきことだった。
魔力を持つにも関わらず、魔法が一切使えない少女、フィオラ・セレナイト。人々は彼女を『異端』と呼んで、蔑んでいた。
今日もまた、町の人々は彼女に対して冷たい言葉を浴びせ、彼女を見下す。こういうことにとっくに慣れてしまったフィオラは、痛みを訴える心を無視して、平気な顔を保つことに努めた。
「おい、役立たず。こんなところで突っ立って、邪魔なんだよ」
パンを買うための硬貨を取り出そうとしていたフィオラは、後ろから突き飛ばされて地面に倒れこんだ。反射的に出した手からは血が零れ、膝も擦りむいてしまう。痛みを我慢しながら体を起こすと、三人の青年たちが道に溜まった塵を見るような目でフィオラを見下ろしていた。
「お前がいるだけで、この町の格が下がってしまう。さっさと町を出て、森で暮らしてみたらどうだ」
「おい、それは可哀想だろう。こいつは魔法を使えないんだぜ? 一瞬で獣に襲われて死んでしまう。それは面白くない」
「お前、顔だけはいいからな。そうだ、お前ならお貴族様にも気に入ってもらえるんじゃないか? 愛人として、可愛がってもらうのもいいと思うぞ」
「何なら俺たちに奉仕してみるか? それくらいしか、お前にできることはないしな」
下賤な笑みを浮かべた彼らは、フィオラに向けて手を伸ばす。その手を振り払ったフィオラは、立ち上がって男らに背を向け、全速力で逃げ出した。擦りむいた足が痛むが、気にしてはいられない。無我夢中で走り、彼女が一人になれる場所までたどり着く。
一面に広がる大地は、まるで絵の具を散らしたかのように色鮮やかな花々で埋め尽くされている。フィオラは花々の中で腰を下ろし、膝の中に顔を埋めた。
とっくに慣れてしまったことだが、痛いものは痛いし、怖いものは怖い。
どうして自分は魔法を使えないのだろう。何度も自らの運命を呪い、そのたびに自分のことが嫌になった。もしも魔法を使えたら、なんてことを考えるのは、ただ苦しいだけだ。
心を落ち着かせるために、しばらく風によって揺れる花の音を聞く。この花々だけが、フィオラにとっての癒しだった。
「……大丈夫かい?」
フィオラの耳に、別の音が入ってきた。湖の底から響いたような透き通った低い声。
今までに聞いたことがない声なので、町の人ではない。フィオラはゆっくりと顔を上げ、無理やり口角を上げて笑みを浮かべた。
「……大丈夫、です」
声の主が息を飲んだ気配が伝わってくる。フィオラはこの時初めてその人の顔を見た。
月光を映したかのような銀色の髪に、氷を思わせるアイスブルーの瞳。柔らかな曲線を描いて微笑む彼の姿は、絵画から出てきたと言われても納得してしまうように幻想的で、美しい。
——この人は、この花たちを統べる精霊だ。
フィオラはそう思った。




