Side:アークス(3)
「ねえ、どうして今日は僕と一緒に寝てくれないの?」
「……一人が、いいのです」
「僕は理由を聞いているんだ」
このまま苛立つのはよくない。フィオラを怯えさせるだけだ。そうわかっているけど、どうしても理由を聞きださないと気が済まない。
フィオラが僕以外のことを考えられない状態にして強引に話を聞くと、数日は口をきいてもらえなくなる。だから、できるだけ穏便に話を終わらせたい。
「……わたしは、アークスさまのこういうところが苦手です!」
フィオラは震える声でそう言った。体を微かに震わせて、琥珀の瞳には涙が少し滲んでいる。こんなに怯えてしまうくらい、今の僕は怖かったのだろうか。
僕はフィオラから離れて、大きく息を吐いた。びくりと彼女が体を揺らすのが見える。冷静になるために深呼吸をしただけなのに、また怯えさせてしまった。
「……ごめんね。なおそうと思っているのに、どうしても君を相手にすると理性が追い付かなくなる。怖がらせてしまったね」
フィオラの頭を撫でてゆっくりと言い聞かせたかったが、今ではかえって逆効果だろう。僕は自分の頭を冷やすためにも、彼女の前から立ち去るべきだと判断した。
僕は彼女に背を向けて、部屋から出ていこうとした。すると、か弱い力で腕を掴まれる。
「違う、違います! わたしは、わたしは……」
驚いて後ろを向くと、フィオラが涙を流しながら僕の腕を掴んでいた。両手で縋りつくように掴まれていて、思わず体の奥が熱くなる。
「違う……。アークスさま、わたしは……」
フィオラは何度も首を振りながら、何かを言おうとしている。でもうまく言葉が出てこないのか、途切れ途切れだ。僕はもう片方の手を彼女の頭に乗せる。そして、ゆっくりと撫でた。
「……落ち着いて。一旦、座ろうか」
しゃくりを上げながら泣いているフィオラも可愛いと思いながら、僕は彼女をソファーに座らせた。
しばらく彼女の背中を撫でていると、落ち着いてきたようだ。フィオラは顔を俯かせている。
「また僕が、君を傷つけてしまったのだね。本当にごめんね」
フィオラが泣いたのは、全て僕のせいだろう。僕が強引に話を聞き出そうとするから、こんなことになってしまった。僕以外が原因で泣いていたら、僕はその相手を今すぐ刺しにいくかもしれない。
彼女は俯いたまま、左手に力を込めた。僕が握っている方の手だ。
「……わたしは、アークスさまに、避けられていると思っていたのです」
頑張って話してくれただろうに、僕は思わず「は?」と漏らしてしまった。またフィオラが体をびくりと揺らしたので、失敗したとすぐに言葉を重ねる。どうして僕はいつもこうなんだ。自分を殴ってやりたい。
「びっくりして! 僕って、驚いたことがあるとつい声に出ちゃうんだよね」
誤魔化すように笑みを浮かべ、話の続きを促す。
「わたしは、その、魅力がないから……だからアークスさまも……」
話ずらいことなのだろうか。フィオラは何とか口ごもる。僕は首を傾げて、真っ先に否定した。
「フィオラに魅力がないなんて、あり得ない。君には誰よりも魅力があるし、誰よりも可愛い」
そう言って微笑むと、フィオラは少し顔を赤らめた。おかしいな、普段から伝え続けているはずなのに。どうしてこんな変な勘違いをしたのだろう。




