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Side:アークス(2)


 僕は、少しずつ自制するようになっていった。


 護衛を付けていたら、フィオラが一人で屋敷を出ることも許可したし、ちゃんとした理由があるなら他の男と近距離でも話すことを許可した。


 視察で教会を訪れた時、フィオラは沢山の子供たちに囲まれていた。その中の一人の少年が、フィオラに小さな花を差し出す。


「おねえちゃん。おれがおおきくなったら、けっこんして!」


 ふざけるな、と言ってやりたかったが、相手は子供だ。戯れのような言葉に本気で返したくなるなんて、本当に大人げない。


 フィオラは優しく微笑んで、その花を受け取っていた。君には僕という夫がいるのに……と黒い気持ちが僕を支配しようとするが、相手は子供だ。子供の言葉を相手に真剣に返したくなるなんて、本当に大人げなくて子供っぽい。


 僕は気分が落ち込んで、フィオラに話しかけることなく教会を後にした。いつもなら絶対に彼女に話しかけるのだけど、今はちゃんと笑える気がしなかった。




「救世主様!」


 街に出ると、多くの人々に話しかけられる。僕は救世主だなんて大層なものではないのだが、人々の安心のためにもこういった象徴が必要なのだろう。僕は空っぽの笑みを浮かべて、適当に手を振っておく。


「救世主様、あの……握手してくださいませんか!」


 一人の若い娘が僕の前に立った。顔を赤らめていて、緊張しているのだろう。周囲の目もあるので、僕はそれっぽい笑みを浮かべて彼女の手を取った。それだけで彼女は歓喜したように目を潤ませる。


「ありがとうございます! ありがとうございます! もう一生、この手は洗いません!!」

「ちゃんと、手は洗ってくださいね」


 にこりと微笑んでおくと、彼女は熱が出ていると思えるほど顔を赤くした。フィオラも、こんな風に反応してくれたらいいのに。フィオラはちっとも喜んではくれない。


 どこからか視線を感じて、僕は顔を上げて周囲を見た。一瞬だけ視界の端に、僕が愛する赤みがかった髪が見えた気がするが、気のせいだろう。彼女を求めすぎて、幻覚を見てしまったのかもしれない。




 夜になると、僕はフィオラの部屋を訪れる。夜は彼女と一緒に寝ているのだ。


「フィオラ、僕だよ。開けてくれる?」


 いつもなら扉を叩くとすぐに開けてくれるのに、今日は開けてくれない。どうしたのだろうと首を傾げていると、部屋の中から小さな声が聞こえてきた。


「……申し訳ありません。今日は、一人で寝たいのです」


 そう言われて、僕は反射的に理由を問いかけた。


「どうして?」

「……申し訳ありません」


 僕が聞きたいのは謝罪じゃないのに。納得できなかった僕は、魔法で軽く扉を開けて部屋の中に入った。嫌がられると分かっていても、僕にはこのまま引くことはできない。


 大股で部屋の中に入ると、フィオラは慌てた様子で隠れようとする。こんな場所に隠れられる場所はない。僕はすぐに彼女を壁まで追い詰めて、腕で動きを封じた。


「理由を教えてくれないと僕は帰らないよ」

「勝手に部屋に入らないでください!」


 フィオラは可愛らしく目を鋭くさせて僕を睨んだ。勝手に淑女の部屋に入る行為は邪推だとされるが、他人の評価などどうでもいい。フィオラは僕のものなんだ。この部屋も僕のものだから、中に入るのは自由なんだ。


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