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後日談(1)


 「フィオラ」


 心地の良い低音の声に名を呼ばれて、顔を上げる。柔らかな笑みを浮かべたアークスを見て、フィオラは口元を緩めた。


「アークスさま」


 特に言葉はなくとも、フィオラは立ち上がってアークスの傍による。そして、彼の大きな体に包み込まれて、笑みを零した。


「疲れてはいないかい?」

「大丈夫です。アークスさまこと、無理をなさってはいませんか?」

「大丈夫だよ。フィオラがいてくれたら、疲れも全部吹き飛んでいくさ」


 そう言って微笑んだアークスは、フィオラに口づけた。彼女は目を瞑ってそれを受け入れたが、なかなか彼が離れないので思わず目を開けて彼の体を押した。


「……ねえ、フィオラ」

「だめです」

「まだ何も言ってないじゃん」


 アークスは不貞腐れたように口をへの形にしている。最近の彼はずっと、君の全てを得たい、君と繋がりたいと言ってくるのだ。


 教会の改革が終わって久しく、彼はとても忙しくしている。フィオラもまた、人々の混乱を収めるために、様々な地域に赴いているのだ。そんな時期なのに、彼は懲りずにこうやって尋ねてくる。


「僕と君は婚約者という関係になったのに……。お願い、フィオラ。僕はそろそろ、僕の中の男を抑えられなくなりそうなんだ。君に襲いかかって強引に事を成す前に、君が望んで僕を受け入れてほしい」


 アークスは行動力があり、しかも実力もある。貴族と平民という関係でも問題なく婚約できるように制度を変えてしまったのだ。それからは早く、あれよあれよとアークスとフィオラは婚約者という関係に。侯爵家に嫁ぐのはとても荷が重いが、フィオラが嫁がなかったら彼が平民になると言い張っていたので、渋々了承したのだ。


「そんなことされたら、アークスさまのこと嫌いになります」

「やめてくれ……君に嫌われたら、僕はまた過ちを犯してしまいそうだ」


 悲しそうな表情を浮かべる彼に流されそうになるが、これは彼の作戦だ。フィオラはツンと顔を背けて、わざとらしく彼から離れてみる。すると、彼は焦ったように距離を詰めてきた。


「ごめんね、フィオラ。怒らないで。僕はちゃんと我慢できるから。今までもずっと我慢してきたんだし、ちょっとくらいなら我慢できるよ……多分」


 なんとも信ぴょう性の薄い言葉だ。それがとても愛おしく感じて、フィオラは思わず笑ってしまう。


「あ、フィオラ。怒ってなかったんだ。僕を騙してたんだね? 悪い子にはお仕置きが必要だと思わない?」

「思いません! やめてください!」


 何度も首を横に振ると、アークスは伸ばしかけていた手を引っ込めて落ち込む。あまりの落ち込みようだから、フィオラはつい了承してしまいそうになってしまう。

 それはだめだ。ちゃんと、今ではだめな理由があるのだから。

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