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ドラゴン乗りの少年

カイトは物語、「ドラゴン乗りの少年」という物語を孤児院の子供達に読み聞かせます。

「みんな!絵本を取ってきたぞ!」

「やったー、読んで読んで!」

「分かった分かった、それじゃあ読むぞ。」


           〜ドラゴン乗りの少年〜


これは遠い昔の話だ。

青い海に囲まれた小さな島、ドラヴァン島、ここはなんて事のない普通の島だ。

ただ住む人の頭はとても硬い。

さらにいえば島に住む家畜の肉も硬い。

ただ一つ、他の島と決定的に違うところがある。

それは害獣だ。

普通害獣といえばネズミなんかが浮かぶだろう。

だがこの島の害獣は、「ドラゴン」だ。

ドラヴァン島では十数世代前から人とドラゴンが争ってきた。

ドラゴンが村を襲い、それに対し人は武器を手に取りドラゴンを殺してきた。

そうしてドラゴンと人との間には深い怨嗟が刻まれていた。


「ふぁああ〜」


ドラヴァン島の村の中で1人の少年が目覚めた。

彼は他の同い年の子に比べて細く弱々しかった。

姿にそぐわず彼は臆病だった。


「起きたか、朝飯を食ったらウォーリアアカデミーへ行け、お前には数多くのドラゴンを殺す“ドラゴンキラー”になってもらわなきゃいかん。」


そう少年の父は言った。

少年はアカデミーでの授業が嫌いだった。

アカデミーでの授業内容はただ一つ、ドラゴンの殺し方だ。


ギィ…


少年は大きな木の扉を開けた。

少年を迎え入れたのは温かい空気…ではなかった。


「ギャハハ!懲りずにまた来たぜ、“臆病者のカワード”がよ!」

「「「ワハハハハ!」」」


一人の少年の声を聞き、残りの少年少女も少年、カワードを指さして嘲笑した。

いつもこうなるからカワードはウォーリアアカデミーが嫌いなのだ。

カワードは顔を伏せた。


「ガキども!授業を始めるぞ!」


今日も嫌な授業が始まる。

そんな日々を過ごしていたある日のことだった。

カワードは村からこっそり抜け出して森を散歩していた。

カワードにとって村は息苦しかったのだ。

森を歩くカワードは窪地となっている綺麗な池へと辿り着いた。

カワードはこの池が好きだ。

透き通った水とそこを泳ぐ色鮮やかな魚はカワードの荒んだ心を癒してくれた。

だが今日は何かが変だ。

黒い塊が池のほとりに横たわっていた。

カワードは黒い塊が何なのかわからなかった。

恐る恐る近づいてみるとその塊は目を開いた。

そう、黒い塊はドラゴンだった。

襲われる!

そう思ったと同時だった。

ドラゴンはカワードと真逆の方向に走り出した。


「あれ?」


カワードは拍子抜けした声を上げた。

ひょっとして僕の威圧感に気圧されたのか?とも思った。

だが実際はそうではなかった。


「怪我をしているのか…?」


ドラゴンは必死に翼をはためかせ飛び立とうとしているが左翼が動いていない。

怪我をしているのは誰の目から見ても明らかだった。

殺さなきゃ。

カワードはそう思った。

先祖たちがずっと戦ってきたドラゴンは憎い存在だ。

カワードは頭の中でその言葉を繰り返す。

本当にそうだろうか?

ドラゴンは本当に悪いやつなのか?

逡巡しても答えは出ない。

カワードは村へと向かって走り出した。


「おお、帰ってきたかカワード、お前には立派な“後継ぎ”になってもらわにゃいかん。しっかり鍛錬を積め。」

「うん、分かってるよ父さん、今急いでるからまた後でね。」

「父さんではなく(おさ)と呼べと言って…もういないな。」


カワードは再び窪地へと走っていた。

その肩に担がれているのは普段家畜が怪我した時に使う用の大きな包帯だった。

窪地に辿り着くとそこにはまだ黒いドラゴンがいた。

翼を怪我しているから窪地を抜け出せないのだ。

近づくとドラゴンは歯を剥き出して威嚇してきた。

カワードは手を挙げて敵意がないことをアピールした。

そうするとドラゴンは威嚇をやめ地面に丸まった。

カワードはドラゴンに静かに近づき包帯を翼に巻き始めた。

包帯を巻いている間ドラゴンは終始カワードを見つめていた。

それからというものカワードは窪地へと入り浸った。

ドラゴンと一緒にサンドイッチを食べたりドラゴンの姿をスケッチしてみたりもした。


カワードとドラゴンの間には確かに絆が芽生えていた。

数日かけてわかったことだがドラゴンは非常に好奇心が強く人間の道具に興味を持つことがわかった。

ドラゴンが村を襲いにくるのは何も人間を滅ぼしたいのではなくただ遊びたかったのだとカワードは直感的に理解した。

長い間ドラゴンと過ごしたカワードはドラゴンに名前をつけようと思い立った。


「そうだな、黒い体だからお前の名前は“ノクス”だ!」 


そうカワードが言うと、ドラゴン、いや、ノクスはまるで小型犬のようにその場で一周回って吠えた。

しかしカワードには課題が残されていた。

そう、村の人にノクスのことをどう説明するかだ。

ノクスをそのまま連れて行ったら当然殺されてしまうだろう。

そもそもドラヴァン島ではドラゴンと仲良くするのは掟破りだ。

でもこのまま何もしないといつか必ずノクスは殺されてしまうだろう。

仕方ない、この場でノクスと触れ合うところをみんなに見てもらおう。

カワードは村の長老や自らの父である長を連れ窪地へとやってきた。

長たちの反応は芳しいものではなかった。


「ドラゴンじゃないか、しかも怪我をしているのか?よく見つけたなカワード、また一匹憎いドラゴンを殺せる。」

「待って父さん、ノクス、あのドラゴンには包帯が巻いてあるでしょ?あれは僕が巻いたんだ。」

「なに?どう言うことだ?」

「ドラゴンは憎い敵なんかじゃないってこと。今からそれを見せるからここで父さんたちは見てて。」

「いや、しかし、危険だ。それは容認しかねる。」

「たまには僕の言うことを聞いて、僕が臆病者じゃない、村の後継だって示してみせるよ。」


そうカワードが言うと長はカワードを認めた。


「わかった、だが危険だと判断したらすぐにあのドラゴンを殺す。」


カワードは窪地へと降りて行った。


「見てて父さん、ドラゴンは敵じゃないんだ!」


カワードはそう宣言し、ノクスを撫で始めた。

顎の下を撫で出した時、ノクスは気持ちよさそうに仰向けに腹を出して寝た。

その姿に人間への憎しみなどあろうはずもなかった。


「わかった、カワード、そのドラゴンに敵意はない!だが他のドラゴンはどうなんだ?」

「ドラゴンは僕たちと遊びたいだけなんだ!だから次村にドラゴンが来た時は武器じゃなくてたくさんのおやつとおもちゃで迎えよう!」


その時ブチブチと大きな音が響く。

何事かと後ろを振り向くとノクスが翼を広げていた。

包帯がちぎれている。


「おぉ!治ったのかノクス!」


ノクスは嬉しそうに吠えると治った左翼を地面につけカワードの方を見た。


「乗れって言ってるのか?」


ノクスは尻尾で地面を一度叩いた。

カワードは翼をつたいノクスの背中に跨った。

ノクスは地面を強く蹴り飛び上がった。

空を飛ぶ、それはカワードにとって、いや、ドラヴァン島の人間にとって初めてのことだった。

そうしてしばしフライトを楽しんだ一人と一匹はゆっくりと長老たちのいる場所へ着地した。


「どう?これでドラゴンは敵じゃないってわかったでしょ?」


長老が優しくカワードに話しかけた。


「うむ、少年の勇気、そして主張、受け止めた。ドラゴンは憎むべき敵ではなく心を通わせる友なのだな。」


その時カワードの父である長が声を張り上げた。


「よし!うちの“誇りの息子”が示してくれた!早く帰ってドラゴン用のおもちゃを作るぞ!」


長の号令と共に見物していた村人たちが叫んだ。


「「「了解です!長!」」」


それからしばらく経った頃だった。

ドラヴァン島では人とドラゴンが共存共栄し活気に満ち溢れた祭りが行われていた。

村人1人1人に一匹ずつ多種多様なドラゴンがついている。

もちろんそこにはカワードとノクスもいた。

もう誰もカワードのことを臆病者だなんて言わない。

むしろドラゴンと共存していく道を切り拓いた功績者として“ドラゴンマスターカワード”と呼ばれるようになった。

さらにいえばカワードとノクスの石像も彫られている。

では最後に今一度ドラヴァン島の紹介をしよう。


青い海に囲まれた小さな島、ドラヴァン島、ここはなんて事のない普通の島だ。

ただ住む人の頭はとても硬い。

さらにいえば島に住む家畜の肉も硬い。

ただ一つ、他の島と決定的に違うところがある。

それは心を通わせるペットだ。

普通ペットといえばカラフルなインコや小さな子犬なんかが浮かぶだろう。

だがこの島のペットは、「ドラゴン」だ。



                   おわり




小さな頃からずっと好きな作品をオマージュさせて頂きました!

オマージュ元がわかった人はぜひ感想にてお答えください!

気に入っていただけたら⭐︎、ブクマのほどよろしくお願いします!

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