揚げ物は心の栄養
ガチャリ
「ただいま〜。」
部屋には誰もいないしそもそも俺の家という訳では無いけど今までの週間だろうか、ただいまという言葉が俺の口をつく。
「うっし!じゃあ唐揚げ作るか!」
「うんっ!」
「そしたらまず手を洗おうか。」
「はーい。」
手を洗い料理の準備をする。
まずは鶏肉に下味をつけるところからだな。
唐揚げサイズに鶏肉を切り、ボウルを出し、塩コショウをふりかけ、醤油をかけ揉み込む。
とりあえず鶏肉はつけ置きしておこう。
次はキャベツの千切りだな。
キャベツを取り出しまな板の上に置いたところでミレイユに言われる。
「僕もお手伝いするって言ったじゃん。」
ああ、そうだった、ミレイユと一緒に作るって言ったんだった。
「じゃあキャベツの千切りを頼めるか?」
本当は1枚1枚葉を剥がして千切りした方がいいのだろうが面倒くさいので4分の1にカットして切る事にした。
「これをほそーく切ってくれ。」
「わかった!任せて!」
ザク、ザク
ミレイユがキャベツを切っていく。
なんだか手を切りそうで危なっかしいな…
左手も猫の手になっていない。
怪我をされるのも嫌だし止めようかな?
でもここで止めたら機嫌を悪くしそうだ。
しゃーなし、後ろから手伝おう。
後ろから手を回しミレイユの持つ包丁とまな板の上のキャベツに手を添える。
「こうやって切るんだ。」
少しばかりお手本を見せる。
「ありがとう!やってみる!」
ミレイユに手を添えたままキャベツを千切りさせる。
しばらくして4分の1にカットしたキャベツが全て千切りとなった。
「おっけー、千切りはこんなもんでいいでしょ。」
「少年、千切りできたよー、褒めて!」
「ああ、すごいな。」
ポンポン
不意に頭を撫でたくなった。
特に変な意味はないけど撫でた。
そうしたら米を炊こうか。
唐揚げには米だろう。
米を炊いているあいだに唐揚げをあげてしまおう、料理は効率よくだ。
油を加熱する。
菜箸を油に入れると泡が出る。
よし、そろそろいけるな。
さてさて、そしたらお待ちかねの揚げ物タイムだ。
鶏肉に小麦粉をつける。
そっと油の中に鶏肉を入れる。
ジュワワワワ
鶏肉が揚げられる音がする。
うーん、やっぱりこの音だ。
揚げ物を揚げる音にはヒーリング効果があるよな。
揚げ物を食べる時は揚げたてだと相場が決まっている。
今のうちにセラとノアを呼んでこよう。
おそらくもうノアも帰ってきてるだろう。
「ミレイユ、セラとノアを呼んできてくれ。」
「はーい!」
ミレイユが2人を呼んでいる間に鶏肉をどんどんあげていく。
「あー、お腹空いた〜。」
ミレイユが2人を連れ部屋に入ってきた。
「もうすぐできるよ、座って待ってて。」
「いい匂いがするな〜。今日の献立はなに?」
「今日はミレイユのリクエスト、唐揚げです!」
「唐揚げ?」
「詳しいことはミレイユが借りてきたコケロックのレシピ本に書いてあるぞ。」
「ミレイユちゃん、少し本を見せてくれますか?」
「いいよー、はい。」
ミレイユから受け取った本をノアが開く。
「なるほど、油で火を通すのですね。」
ノアたちが本を見ている間に全ての鶏肉が揚げ終わった。
米はもう炊けている。
唐揚げをキャベツと一緒に盛り付ける。
あ、そうそう、レモンを添えなきゃ。
レモンを切り添える。
これで完成だ。
「みんな、出来たぞ!」
「待ってました!」
出来上がった料理をテーブルに並べる。
「「「「いただきます!」」」」
「そうだ、レモンは好き好きだから個人でかけてくれな。」
では、揚げたての唐揚げをいただこう。
パクリ
まったく、どうしてこんなに揚げたての食べ物は美味いんだろうな。
咀嚼する度に鶏肉の旨味と共に幸せが口いっぱいに広がる。
米ともよく合う、箸が止まらない。
と、その時自慢げにミレイユが言う。
「このキャベツ僕が切ったんだよ!」
「そうなのかミレイユちゃん、すごいぞー!」
「エヘヘ」
褒められたミレイユはにまーっと口角を上げる。
かわいい。
そうだそうだ、これを聞きたいんだった。
「それで、宮廷建築はどうだった、ノア?」
「それはもう言葉で表せないほど美しく感動しましたよ。きっと王族様たちしか入れない区画はもっと華麗な装飾なのでしょうね、いつか行ってみたいものです。」
「そうだな、でも王族にならなきゃ行けないんじゃないか?」
「いえ、一応国王様から許可をされた時は入れたりするそうですよ、まあ、難しい話ですけど。」
国王から許可を貰う…一体どんな功績を挙げれば貰えるのか、想像もつかないな。
「それで、明日は何をしようか?」
「とりあえず本を読んで、あたしはカイトと剣術の練習をしたいな。」
「私も攻撃魔法の練習、やりたいです。」
「僕もその練習見たーい!」
「わかった、じゃあ明日は冒険者ギルドの修練場で各々やりたいことの練習をしよっか。」
俺が借りた地図以外の本もちょうど役に立ちそうな気がするしな。
明日の方針が決まった。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
「あー、お腹いっぱいだ、本当にカイトは料理が上手だな、歳をとって冒険者を引退したら料理店でも開くのはどうだ?」
料理店か、確かにいいかもしれない、けど今はとにかく冒険がしたいな、ミレイユにも色んな景色を見て欲しい。
「そうだな、老後は料理人、ありだ。」
「そしたら私たちはその料理店のファン第1号ですね!」
和やかな笑い声が部屋を包んだ。
時を同じくして王城では、静かに影が蠢いていた。
その影は大きくなりカイトたち、ひいては冒険者ギルド全体を巻き込んでいくことになる。