まさか城に入るなんて!
王都の冒険者ギルドは宿の近くにあった。
「すいませーん、冒険者証を作りたいんですけど。」
「はい、どなたの冒険者証を作りますか?」
「この子です。」
「うーん、この方は見たところ10歳前後でしょうか、冒険者ギルドの登録は15歳以上からとなっておりまして、登録はできかねます。」
「マジすか…なら冒険者証ではなく身分証明ができるものが欲しいのですが。」
「でしたらお渡しできます。それではそちらの方に少し質問をさせていただきます。」
受付嬢がミレイユに質問を重ねる。
内容は簡単なもので年齢から出身地、性別などだった。
俺の妹って設定をミレイユと決めておいてよかった。
「ではこちらが身分証明書となります。」
「ありがとうございます。」
これでミレイユの身分証明書ができた。
「よし、それじゃあ王立資料館へ行くか。」
「りょーかい!」
「道案内なら私に任せてください。」
ノアの案内で王立資料館へと向かう。
「ノアは王立資料館でどんな本を探すつもりなんだ?」
「そうですね…やはりスーニャにはなかった魔導書を探したいですね、なんせ私はまだカイトさんと違って攻撃魔法を習得していませんから。」
「そっか、セラはどうだ?」
「あたしは剣術の本だな、今よりももっと前衛で魔物を食い止められるようにしたい。そういうカイトはどうなんだ?」
「俺は…そうだな、地図かな、この国のことはもちろん、米がある東の国のことも気になる。俺はこれからもきっと旅を続けるだろうし知っておきたい。」
「その時はあたし達ももちろんついていくぜ!」
「ミレイユちゃんは何か探したい本はあるんですか?」
「んー、僕はね〜、食べ物の本が気になるなぁ〜。」
「かわいい!」
ギュッ
ノアがミレイユを抱きしめる。
わかる、正直いってミレイユはかわいい。
「ってそんなこと言ってたら着いちゃいましたね。」
そこは王都の中心部、王城だった。
「え?ここは城じゃないのか?」
「ああ、言い忘れていましたね、王立資料館は王城の中にあるんですよ。」
「ふーん、そうなんだ。」
「入っていいのか?」
「ええ、王城の中にも入っていいところと入ってはダメなところがあるんですよ。具体的には国王陛下や王女様がお住まいの区画には基本的に入ってはいけません。」
「ふーん、そうなんだ。」
城の門へ行く。
「何の用だ?」
「資料館で本を探したくて。」
「そうか、身分証明書を掲示してくれ。」
ミレイユの身分証明書を作ってきてから来て正解だったな。
身分証明書を掲示して門を開けてもらう。
「わぁ…これが宮廷建築…間近で見れて嬉しいです!」
ノアが興奮しながら城内を眺める。
城内は荘厳な雰囲気に包まれており、城壁には優美な意匠が施されていて、今までの歴史の重みを静かに伝えていた。
素人の俺にも理解できるほどに綺麗だ。
「王立資料館はあっちみたいですね。」
ノアについて行く。
「これが王立資料館か…」
資料館の中は明らかに魔法が使われていた。
資料館の天井は見えず、代わりに暗闇に星々が散りばめられていて、本棚がその夜空に天高く伸びている。
「え、これって上の本取れなくない?」
「そうですね…司書さんに聞いてみましょうか。」
「すみません、これって上の本はどうやって取ればいいんですか?」
「それならそこに水晶があるじゃろ、水晶に触れて気になる本の種類を念じるんじゃ。そうしたら降りてくる。」
「ありがとうございます。」
「すごい、魔法で本棚が動くんですね。」
「それじゃあ本をそれぞれ探そうか。」
「そうしましょう。」
それぞれ求めている本を探しに別れた。
さて、水晶に触れて気になる本を念じるんだったな。
水晶に触れるとひんやりとした触感を感じると共に水晶が紫色に淡く輝く。
地図の本、地図の本…
念じると本棚が動き出した。
パネルを入れ替えるパズルゲームのように本棚が浮かび上がり入れ替わっていく。
どんな魔法が使われているのか想像もつかない。
しばらく待っていると本棚の移動が止まり元の位置に棚が戻った。
「これで地図の本が出てきたのかな?」
目の前に降りてきた本棚を見ると確かに地図が記載されている本が降りてきている。
今いる王国の地図と東の国の地図を手に取る。
「あ、そうだ、あの本も欲しいな。」
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「みんな、欲しい本は手に入れられたか?」
「ああ、剣術の本、見つけられたぜ!」
「私も攻撃魔法の基本書を探せました。」
「僕はコケロックの調理法の本見つけたよ〜。」
「皆見つけられたみたいだな、じゃあ借りるか。」
銀貨を支払い本をそれぞれ借りる。
ミレイユの分の銀貨は俺が出した。
「用事も終わったし帰るか?」
「私はもう少し宮廷建築を堪能してから帰りたいです。」
「僕は早く食べ物の本読みたーい!」
「でしたら私は少し遅れてから帰ります。先に戻ってていいですよ。」
「そっか、じゃあ先に帰ってるな。」
ということでノアだけ王城に居残りということになった。
俺たち3人は王城を後にする。
宿への帰り道のことだった。
「キャー!泥棒よ!捕まえて!」
町の明るい雰囲気を一変させる声が響いた。
街を歩いていた女性が泥棒にあっている。
言葉もなしに俺とセラは動いていた。
「はい!ストップーー!」
セラが両手を広げ泥棒を止める。
「どけ!」
泥棒がセラをつき飛ばそうとする。
「そんな力じゃあたしは倒せないなぁ!」
ブンッ
セラが泥棒のベルトを掴み、投げる。
泥棒は受身を取れずに地面に叩きつけられる。
相変わらずイカれたパワーだ。
その隙に俺が泥棒を押さえつける。
「誰か、縄か何かを持ってきてください!」
野次馬の中の誰かが縄を渡してくれた。
腕を背中に回し縛る。
これで泥棒は制圧出来た。
「おおーー!」
野次馬から歓声が上がる。
泥棒から盗んだアイテムポーチを没収し女性に返す。
「ありがとうございます!」
「いえ、当然のことをしたまでです。ところで、こういう泥棒ってどこへ連れていけばいいんですか?」
「こういう場合は冒険者ギルドが対応してくれるはずですよ。」
「そうですか、なら冒険者ギルドに行ってみます。」
「ということだから2人とも、今から冒険者ギルド行くぞ。」
「おっけー。」
ミレイユが目を輝かせながら言う。
「少年たちすごいね!かっこよかった!」
予想外の出来事で泥棒を連れ、冒険者ギルドへ再び足を運ぶこととなった。