カイトとミレイユ、2人の夜
…寝れないな。
隣に少女が寝ているって、なんだか変な感じだ。
俺に兄弟はいなかったから今のミレイユとの距離が普通なのかも分からない。
仲のいい兄妹なら俺とミレイユみたいな感じなんだろうか。
それはそうと異世界の管理人なんてどう考えても上位存在だよな、そんな人を妹扱いしているというのはなんだか背徳感に近いものを感じる。
寝れずにそんなことを考えていたらミレイユが話しかけてきた。
いや、独り言のように呟いたと言った方が正しいかもしれない。
声の響き方からしておそらく俺に背中を向けて言っている。
「ねえ、少年、もう寝た?」
「いや、なかなか寝付けないな。」
「だよね、僕もなんだか寝れそうにないや。」
まさかミレイユも同じだったのか。
普段何も考えてなさそうな振る舞いをしているから少し意外だ。
「そこでさ、ひとつ提案なんだけど、聞いてくれる?」
「提案?なに?」
「そっち、行っていいかな?」
え?今そっちに行っていいかっていったか?
「ごめん、聞こえなかった、もう一回言って。」
今度は少し大きな声でミレイユが言った。
「だから、そっち行っていい?」
えーやばい、どうしよう?
「な、なんでこっちにくる必要があるの?」
「なんでってそりゃあ、寝れないからだよ。それにさ、僕誰かと一緒に寝るのなんて初めてなんだぁ。」
「初めてなの?お母さんとかお父さんはいなかったの?」
「うーん、一応いたけど一緒に寝たことはないし2人とも僕と同じで世界を管理してたからきっと僕に構っている暇なんてなかったんだと思う。」
「そう…なのか。」
異世界の管理人として生まれて、ずっと1人で白い空間にいた…だからミレイユは退屈を嫌って俺たちの旅についてきた…
なんだか複雑というか少し可哀想な生活を送ってきたんだな…
「なぁ、ミレイユは1人でいるのは嫌い?」
「1人?そうだね、僕は1人が嫌いかもしれない。」
そう…だよな、何もない白い空間に1人でずっといたら誰でも孤独が嫌になる。
少しのわがままは聞いてやるか。
「わかった、こっち来ていいよミレイユ。」
「いいの?やったー。」
ミレイユがこちらに擦り寄ってくる。
心臓が外に音が漏れているのではと思うほどに早鐘を鳴らしている。
手を伸ばせば届く距離、なんてものではない。
抱き寄せることが可能なほどに近い。
「なんだか少年の近く、安心するなぁ。」
「そう、ありがとう、っていえばいいのかな?」
ミレイユの方を見るとミレイユは天井を見つめていた。
それにしてもお転婆な性格とは思えないほどに綺麗な顔をしている。
黙ってればモテるタイプ?ってやつなのかな?
さわり
手の甲と手の甲が触れる。
ギュ
ミレイユが手を握ってくる。
「少年の手、硬いね。」
「ああ、俺は剣道やってたからな。」
「ふーん、だからロングソードを選んだの?」
「そうだな。」
「そっかぁ。」
しばしの静寂に部屋が包まれる。
この沈黙は俺には耐えられない。
「ミレイユは一体俺のこと…ん?」
ミレイユが俺の手を握ったまま小さな寝息を立てている。
まったくこの少女に俺は振り回されてばかりだな。
…寝よう。
「おやすみ、ミレイユ。」
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チュンチュン
小鳥が鳴いている。
目を開くと朝日が部屋に射し込んでいた。
俺のことを隣で見つめながらミレイユが言う。
「おはよう、少年。」
「おはよう。」
伸びをすると背中がパキパキと音を立てる。
えーと、今日の朝は目玉焼きを作る予定だったかな?
顔を洗い髪を整える。
「ミレイユも顔を洗いな。」
「はーい。」
ミレイユが髪を整え終わったところで隣の部屋、セラとノアがいる部屋にノックをしに行く。
コンコン
「おーい、起きたか?目玉焼き作るぞー!」
「今行きますー!」
ガチャリ
「おはよう、カイト。」
「おはようございます。」
「珍しくセラがちゃんと起きてるんだな。」
「うん、目玉焼きが楽しみで起きちゃったよ。」
「そうか、今準備するな。」
俺の部屋に入り朝食の準備をする。
米を炊き、味噌汁を作る。
「それじゃあ目玉焼き作るな。」
「めっだまやき、めっだまやき〜!」
セラが興味津々で覗きに来る。
コケロックの卵をフライパンに割り入れる。
「へー!卵を使うのか。」
「うん、卵の黄身と白身が目玉に見えるから目玉焼きって言われてるんだ。」
「なるほどねぇ。」
そうだなあ、今日は半熟な気分だ。
ぼちぼち目玉焼きに火が入ったところでフライパンからあげる。
よし、完成だ!
「みんな!朝食出来たぞ。」
「待ってました!」
「これが目玉焼きですか…」
忘れずに醤油差しを机に置く。
「目玉焼きには醤油をかけて食べてくれな。」
「それじゃ、食べようか。」
「「「「いただきます。」」」」
もぐもぐ
「目玉焼き、トロッとしてて美味しい!それにこの醤油も美味しい!」
「そうだろう、これも俺の故郷の自慢の料理だ。さらに黄身が固まるまで焼く固焼きもあるんだ。」
「へー、同じ料理でも色んな食べ方があるんだね。」
「俺の故郷は他の地域と比べて食への探究心が強かったからな。」
「そうなのか、まだまだあたしたちが知らない料理も出てくるってことかなあ?楽しみにしてるなカイト。」
「任せときな。」
「「「「ごちそうさまでした!!」」」」
「朝食も食べ終わったしそろそろミレイユの身分証明書を作ってから王立資料館に行くか。」
「ええ、そうしましょう、まだ見ぬ未知の本達、楽しみです。」
「それじゃあしゅっぱーつ!」
宿を出て冒険者ギルドへと向かいだした。