危うく出自バレするとこだった…
馬車の中では俺とミレイユ、セラとノアが隣になり向き合うように座った。
「王都、楽しみだな。王都ってどんなところなんだろうな。」
「もしかして何も知らないんですか?王都といえばやはりシンボルとも言える城でしょう。美しい宮廷建築が施され、城の中では国王様や王女様が暮らしているのですよ。もっとも、私も本で読んだだけで実物を見たことはないのですけどね。」
ノアが自慢げに王都のことを紹介する。
王都というくらいなんだからそりゃあ城もあるし国王だっているよな。
でもただの冒険者の俺たちは外から眺めるだけで実際に中に入るようなことはないだろうな。
そもそも王都に行く理由は米が食べたいからだし、別に王都でも有名になりに行くわけじゃない。
「なあカイト、コメってどんな食べ物なんだ?」
「米はな、甘味があってどんなおかずにも合う食べ物なんだ。人を魅了させる力があるんだ。」
「へー、そりゃすごい!そんなものをカイトとミレイユは村で食べてたってことだろ?羨ましいなぁ〜」
「そんなこと言ってるけど実際はただの田舎だぞ。」
「いつかカイト達の生まれた村にも行ってみたいなぁ!」
「ああ、そうだな。」
やばいやばい、俺が育った村なんて存在しないよ。
誤魔化そう。
「でも俺も適当に旅して来ちゃったからもうどこに村があるかいまいちわからないかも。」
「え〜そうなの?じゃあしょうがないかぁ。」
なんとか適当な嘘をつらつらと並べて誤魔化すことに成功した。
気づいたけど、今俺は美少女3人と密室にいるのか…いやいや、変なことを考えるんじゃないよ、俺。
少しばかり悶々としていたらノアがミレイユに質問を投げかけた。
「ところでどうしてミレイユちゃんはカイトさんについてきたんですか?」
その質問はまずい!ミレイユ、なんとか納得させる理由を考えてくれ…!
「うーんと、少年は僕がいないとこの世界を生きていけないから、かな。」
な…!確かにこの世界に連れてきたのはミレイユだけど…
当然2人から突っ込まれる。
「それってどういうことだカイト!?」
「あいや、村にいた時はとにかく退屈でな、ミレイユくらいしか歳の近い子もいなかったんだ。だからミレイユがいないと退屈で死んでしまうぞ〜ってことが言いたいんだよな、ミレイユ?」
ミレイユに無言の圧をかける。
「う、うん。そういうことが言いたかった。」
「なるほど、それでミレイユちゃんも退屈しないためについてきたってことですね。」
ノアが1人で勝手に納得している。
「まあ今は旅を始めたしこうやって2人にも会えたんだ、退屈なんかしてないしむしろ充実した日々だけどな。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないかカイトー!」
「僕もいつもは退屈だけど少年といる時は楽しいんだ、だから王都に行くって言ってたから無理言ってついてきちゃった。」
あ、無理言ってる自覚はあったのね。
それにしてもなんだかハラハラする旅だな。
もし俺が別の世界から来たことが知られたらどうなるだろうか、2人は受け入れてくれるのだろうか?
でも自分から言い出さなければバレるわけがないか。
と、その時馬車が止まった。
何事だろうか?
騎手さんに話を聞いてみよう。
「どうしました?」
「いやね、あれを見てくれよ。」
騎手さんが指さした方を見るとそこにはコケロックの群れがいた。
「このままこの群れを突っ切るのは少し危険だな。」
セラとノアも心配そうに馬車から降りてきた。
「どうしたんですか?」
「コケロックがいるんだ。」
うーん、どうしたものか…
いや、別に今の俺たちにとってはコケロックなんか取るに足らない敵だな。
「騎手さん、俺とセラでコケロックを倒します。少し待っててください。ノアは一応ミレイユのとこにいてやってくれ。」
「了解!」
「わかりました。」
コケロックを次々に倒していく。
あ、そうだ、この剣を通して魔法を使えるって鍛冶屋のおっちゃんが言ってたっけ?
試してみよう。
ここは剣に炎を纏わせるイメージでやってみよう。
ブオッ
剣に炎がついた。
すごい熱量だな、扱いには気をつけないと。
とりあえずこれでコケロックを斬ってみよう。
ズバッ ジュー
切れると同時に焼ける音が鳴る。
よく見ると断面はこんがり焼けている。
剣を媒介にして魔法を使うと手から魔法を出す時より威力が上がっているようだな。
「すごいなカイト!魔法も1級品になってきたな!」
「ありがとう、嬉しいよ。」
全てのコケロックを倒し終わったところでミレイユが出てきた。
好奇心には勝てなかったらしい。
「すごいよ少年!あんな風に魔法を剣に纏わせるなんて!」
「こら、ミレイユちゃん!かってに出てはダメですよ!」
「ちゃんと少年が倒し終わったの見てから出たも〜ん」
なんだかミレイユがノアと打ち解けている。
いいことじゃないか。
「コケロック、焼けてるね、美味しそう。」
「そういえばミレイユちゃんはコケロックが好きと言っていましたね、そろそろお昼ですし食事にしましょうか。」
「そうだな、俺も今動いて腹が減ったところだ。」
ノアが素早く食事の準備をする。
メニューはコケロックの肉にパンだ。
この環境では皿を洗うことは出来ないのでコケロックは串焼きとなった。
新鮮な食材があって旅の最中のメニューとしては上々だろう。
なんとなく旅の食事って保存食を食べるイメージがある。
干し肉とかね。
「「「「いただきまーーす!」」」」
パクリ
「美味しーい!やっぱり僕、コケロック大好き!」
本当にこの世界を管理しているのか疑うほどにミレイユが無邪気に笑っている。
2人と打ち解けてくれてよかった。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
そうだ、このパンに焼肉を挟んで……
ガブリ
はい、優勝です。
美味しすぎます。
「あ、いいなその食べ方、あたしもやってみよっと。」
「私もやってみます。」
「僕もする〜。」
3人の口角がつり上がっていく。
「「「美味しすぎーー!」」」
「ほんとにカイトって美味しく食事するのが上手いよな。」
「そう?ありがとう。」
さて、食事も済んだし、そろそろ馬車に乗って旅を再開しよう。