さらばスーニャ、待ってろ王都
待ちに待った王都へ出発する日がやってきた。
朝目が覚めると横にはミレイユがいた。
「おはよう、少年。とうとう王都に行く日だね、僕もう待ちきれない!」
なんだかこうやって起きるのも慣れてきたな。
「おはよう、ミレイユ。まずは孤児院にセラとノアを迎えに行くぞ。」
宿を出る準備をする。(といっても必要なものは全てアイテムポーチに入っているから時間はほとんどかからなかったけどね。)
「今日でチェックアウトで。」
「はいよ、確か旅人さんだったな、次はどこへ行くんだい?」
「王都に行くんだ。」
「へー!王都かい、俺ぁ行ったことがねぇなぁ。死ぬまでに一度行っておきたいもんだよなぁ。寂しくなったらいつでも戻って来てくれていいんだぜ?」
「商人ギルドのギルマス、メルティンにお土産を渡さないといけないからしばらくしたら戻って来るよ。」
「そうかい、戻って来たらまたうちに泊まってくれよ?」
「わかった、期待しててくれ。」
チェックアウトを済ませて街に出る。
「セラとノアっていい子達だよね。」
「知ってるのか?」
「うん、最近はこの世界を見る時は君ばっかり見てるから自然とね。」
そういうことか、だからスライムのことを知っていて、食べに昨日やって来たのか。
「世界の管理人ってことはさ、王都のこととか知ってるの?」
「ううん、僕はまだ管理人になったばっかりだから見たことない。」
管理人になったばかりだから幼い少女の見た目をしているのかな?
そんなことを話しているうちに孤児院に着いた。
「セラ、ノア、迎えに来たぞー!」
「はーい、今行きますー!」
二つの足音が近づいてくる。
「おはようカイト!」
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
2人の視線が俺ではなく、ミレイユに注がれる。
「その子だれだ?」
「紹介するよ、ほら、ミレイユ。」
「えと…ミレイユって言います、少年の妹です…。」
2人が驚愕の声を上げる。
「カイトって妹いたのか!?」
「別に血が繋がっているわけじゃないけどな。俺の故郷は田舎でそもそも子供が少なくてミレイユが小さい時から一緒にいたんだ。だから妹みたいなもんだ。」
「でも、なんで妹さんがこの街に?」
「それは、あれだ、俺のことが心配でついて来たらしい。」
「魔物とかには会わなかったんですか?」
「会わなかったらしい、こいつ昔から運はいいんだよな。」
ポンポンとミレイユの頭を叩く。
それにしても俺、スーニャに来た最初もこんな感じの嘘を吐いたよな、なんか嘘を吐くのが上手くなっているような気がする。
嬉しいんだか嬉しくないんだか分からないな。
「あら、カイトさんいらっしゃい。」
奥からヘレナさんが出てきた。
エプロンをしていてなんだか院長の仕事も板に付いてきたって感じだ。
「おはようございます、ヘレナさん。」
「今日王都に行くのよね、2人をしっかり守ってあげてね。」
「な、あたし達カイトに守られるほど弱くないよ!」
「そうですよ、むしろ防御魔法で私が守ります!」
「あははは、ま、仲良く楽しんできなよ、せっかくの王都なんだから。」
へレナさんも敬語を崩している、きっとギルドの受付嬢という重役から少し解放されたからだろう。
今は孤児院を守る院長なんだもんな。
「それじゃあ、行ってきます、お土産話楽しみにしててください。」
「行ってらっしゃい!」
馬車を借りにレオニスの邸宅に向かう。
当然と言えば当然かもしれないがミレイユに2人が質問をする。
「ねえミレイユちゃん、好きな食べ物は何?」
「…スライム、あとコケロック。」
「スライム、やっぱり故郷の村で食べられてたんだね!」
「村でのカイトさんはどんな人だったんですか?」
「別に、変わらないと思う、優しいお兄ちゃん。」
そんな感じで質問攻めされていたらミレイユが俺の後ろに回り込んできた。
「あれ?どうしたのミレイユちゃん。」
「ああ、ミレイユは人見知りなんだ、ちょっとビックリしちゃったんだろ。」
「そうなの?ごめんねミレイユちゃん、そういえばあたしの名前言ってなかったな。あたしはセラ、これからよろしく。」
「私はノアといいます、よろしくお願いします。」
「…よろしく。」
しばらく歩くとレオニスの邸宅の前に着いた。
「馬車を借りに来ました。」
「話は聞いています。お通りください。」
門を通り邸宅に入る。
庭にはメイドさんがいた。
「領主はどこにいますか?」
「領主様でしたら今お部屋で職務に当たっているかと、お呼びしてきますね。」
「ありがとうございます。」
それにしても広くて綺麗な庭だな、花壇なんかも整えられている。
「おう、カイト、来たか。」
「ええ、今日スーニャを出ようと思います。」
「そうか、馬車の準備は出来ている。ほら。」
レオニスが指さした方を見るとそこには既に馬と馬車が用意されていた。
美しい毛並みの白馬だ。
これじゃあまるで俺たちが貴族になったみたいだな。
3人も馬車に乗ったことがないのだろう、目を輝かせている。
「この馬車を使えば王都までは3日ほどだろう。」
「そうですか、準備してくださって本当にありがとうございます。」
「それじゃあ王都、楽しんでこいよ。」
「もちろんです、楽しみでたまりませんよ。」
馬車に乗り込みスーニャの門へ行く。
それまでの間は子供たちが手を振ってきたりした。
やはりこの世界でも馬車というのは要人が乗るようなものなんだろう。
門の守衛も俺たちのことを聞いていたらしく門をすぐに開けてくれた。
「まさか、少し前に来た旅人が上級冒険者になって馬車に乗り王都に行くなんてな。」
あ、この人俺が最初に街に来た時に話した守衛だ。
俺のこと覚えててくれたんだな。
「ほんと、人生って何があるか分からないですよね。」
俺だってまさか異世界に転生するなんて思ってなかった。
守衛に挨拶をして街を出る。
王都まで3日ほどか、それまでにミレイユと2人の距離を縮めないとな。
まあ孤児院で子供たちと仲良くやってる2人だから心配はいらないか。
あーあ、はやく王都につかないかな。