五話 二つの剣
某月某日。塀の外には他国の兵隊が隊列していた。カルマのような若いハンターも緊急時には戦闘に参加する。カルマは探していた。太陽のような橙色の金髪の女性。実戦での戦い方、生き方を教えてくれた恩師。命を懸けて戦わないといけない。そう感じていた。両者がドン!と太鼓のような音を出した次の瞬間、戦が始まった。
カルマは先陣を切って群へ飛び込んだ。激しい戦闘だが、カルマの剣術に勝てる兵士はいない。すると、遠くからドン!と派手な砂煙が舞った。カルマはその方向へ全速力で走った。いつも近くで見ていた。派手だが、人を魅了する戦闘スタイル。男勝りで力いっぱい剣を振るう女性。その人がそこにはいる。味方の兵士は全員倒され、残ったものは怯み進めない。その間をカルマは歩いて進んだ。
「よぉ。今度こそ勝ちに来たよ。」
レイラはその声を聞くと、顔を歪めた。剣を持つ手に力が籠る。
「アタシの前に現れたってことはどうなるかわかってるよな。あんたが勝てる相手じゃないぞ。」
「あぁ。そうかもしれないな。だからついて来いよ。サシでやろうぜ。」
カルマはレイラに背を向けて歩き出した。敵国のお偉いさんに怒鳴られたレイラだが、無視してカルマについていった。
カルマが向かったのはレイラの家。開けた場所でよく二人で修行をした思い出の場所。
青々しい空の元。強い風が木々を激しく揺らす。
「なんで戻ってきた。あんたがアタシに勝てるわけないのに。今なら許してやる。さっさと尻尾巻いて逃げな。」
「弟子ってのはよ。いつか師匠を超えなきゃいけないだろ。だからここに来たんだよ。そんなにおれと戦うのが怖いか?」
カルマは真剣な眼差しを向けるが、レイラと目が合わない。スッと剣を抜いた。
「こっちからいくぞ。おれはもう負けない。」
カルマはグッと足に力を込める。そしてレイラを切りつける。
キン!と金属音が鳴り、火花が散る。レイラは瞬時に剣を抜きカルマの攻撃を防いだ。
しかし、攻撃は止まらない。
カルマの素早い連撃の雨がレイラに降り注ぐ。その攻撃を防いでいるが、いつものような躍動感がない。
「どうした!そんなもんか!落ちたもんだな。お師匠様よ!」
レイラの赤い瞳がギラっと煌めく。
ーあれが来やがる。ー
「猛り狂え。レオゼビオナ。」
レイラはチェインを発動させた。さっきまでの大人しい姿と違い、荒ぶる獣の気配。
ドン!と土煙が上がり、疾風の如く距離を詰める。レイラは大きく剣を振り下ろそうとしたその時。
カルマは両手を広げ、剣を地面に落とした。ピタッ。とレイラの剣が止まる。刃がギリギリ身体に触れないところで。レイラの身体、そして剣がカタカタと小さく震える。
「あんた何してんだ!死ぬつもりか!早く剣を取れ!そして戦え。」
激しく声を荒げた。いつもの乱暴な声とは違い、動揺と恐れが入り混じったような声。
「戦ってんだよ。おれなりに・・・。なぁ。もういいよ。本当は戦いたくねぇよ。」
「アタシは敵国の人間だぞ!敵なんだ!アンタをずっとだましてきた悪者だ!アタシを切れ!切り捨てろ!」
「俺は切らない。敵だろうが、悪者だろうが関係ない。あんたのすべてを俺は受け入れる。」
その瞬間、レイラは膝から崩れ落ちた。火の出るような赤い瞳から涙が落ち、地面を濡らす。
「はいは~い。なんて感動的な場面だろうか。儂も涙がちょちょぎれそうになってしまうわい。」
「なんだ?おっさん。」
カルマたちはすでに軍隊に囲まれていた。森の奥からぞろぞろと現れる。
「ちょうどいい。その女は目障りだったんだ。いつまでたっても連絡をよこさない。間者として失格だ。」
汚い声を発する小太りの男。蛇の刺繍が入ったジャケット。どこかで見たことがある気がする。その時カルマは思い出した。貴族から没落した何日か前の日。屋敷にやってきた男グリゴニア・ダドリーだ。
「おい。お前グランヒル家って知ってるか?」
「グランヒル家?・・・あぁ思い出した。あのぼろ屋敷のざこ貴族か。懐かしいが思い出すと腹が立つな。党首の男は儂に説教を垂れてきて・・・。確か儂が毒殺の殺人犯に仕立て上げてやったのだ!」
カルマの頭の中が真っ白に、徐々に真っ赤に染まっていく。
「いやぁ。いいことをした。あんなやつが貴族であるなんて汚らわしい。そのグランヒル家とお前は何か関係があるのか?」
カルマは血管が切れそうなほど怒り狂っていた。剣を持ち、ダドリーに切りかかった。しかし剣は届かず、兵士たちに受け止められた。
「なんじゃ。野蛮な小僧だ。気に入らん。まずはその小僧から始末しろ。いけ。」
軍隊が一斉に襲い掛かる。カルマはかろうじて戦えているが、軍隊は隊列を取り、戦術的にカルマに切りかかる。その時、ドン!という爆音と共に砂煙が舞った。
「ダドリー。いい気になるなよ。カルマそっちに行くから耐えろ!」
レイラはすでにチェインを発動していた。目の前の敵を薙ぎ払い、ついに二人は背中を合わせた。
「なかなか強くなったじゃないか。でも頭に血が上ったのは減点だな。」
「うるせぇ。あっ。そうだ。これって背中を任せてくれるってことでいいの?」
「あぁ?こんだけ敵がいるんだからそりゃそうだろ。」
「ふーん。いつだか言ったこと忘れんなよ!」
「・・・」
レイラは過去に自分が言ったことを思い出して赤面した。
「バカ!今はそんな冗談言ってる場合か。死ぬなよ。絶対に。」
「当たり前だ。約束は守ってもらわねぇと!」
そこから二人は共闘。言葉を交わさなくても互いに次何をするのかわかっているように動きがあっていた。激しい金属音が晴天の空に響き渡った。
カルマは激しく息切れしているが、まだ戦える自分の底力に驚いた。辛そうなのはレイナの方だ。チェインと解くと、ガクッと膝を地面につける。見たこともないぐらい体力を消耗している。カルマはすかさず駆け寄った。
「大丈夫・・・。あんたの師匠様だからな。余裕だよ。余裕。」
ニカッと太陽のような笑みを浮かべた。
「あぁ。さすがだ。俺も早く強くなって・・・。」
自慢げに胸を張っていると、背後にギラリと光る怪しい影。
「カルマ!」
レイラはカルマの身体を引き寄せると彼の身体を覆った。そして、レイラの背中に矢が突き刺さる。
「おい!大丈夫か!」
「こんな矢ぐらい大したことない・・・。次が来るぞ。構えろ。」
満身創痍なレイラに追い打ちをかけるように森から兵士が現れる。そして二人に向かって進撃した。
どうもレイラの動きが鈍い。疲れ以上に身体に異変が起きている。
ーまずい・・・。矢に毒を塗ってやがった。身体がうまく動かん。カルマだけでも逃がさないと・・・。ー
「おい!あんまり無理すんな。あとは俺がやる!」
その時、敵が一斉に攻撃してきた。空から大量の矢を振らせ、正面からは槍や剣の嵐が二人を襲う。
カルマはレイラの目の前に立ちはだかり、身を犠牲にしようとした。
ー来るなら来やがれ。全部受け止めてやる。
カルマが強く心でそう唱えた時、身体が目の前の攻撃から反れる。レイラがカルマを横に投げた。彼女に命をおびやかす攻撃が降り注いでしまう。
「レイラ!」
カルマは必死に手を伸ばした。失いたくない。おれはこの人を守りたい。心からそう思った。




